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第4章*想いの糸は絡まり合う
53・俺は諦めが悪い卑怯者だから
しおりを挟む「俺と、結婚しよう」
(やばい、どうしよう。なんでアステロッドルートのイベントまで発生してるの!?)
王子ルートを回避して、ようやくマクシミリアンのルートに入れたかと思えばこれだ。
目の前で恭しく膝をつくアステロッドに、ルーナはくらりとめまいがする。
「わ、悪いけど、断るわ。あんた、自分が好かれてると思ってるの?」
内心の怯えを隠して、ルーナは呆れたように言った。
断ったら殺されるかもしれないと、分かっている。
だけれども、ここで「はい、結婚しましょう」と言えるほど、意思は弱くないつもりだ。
「いいや」
アステロッドはゆるりと首を横に振った。
「好かれてるなんて、思ってないよ」
それはそうだろう。
これでもルーナは、ことある事にアステロッドに対して意思表示をしてきたつもりだ。
さすがにそこは伝わっていたようでほっとする。
「ルーナが好きなのは侍従長殿だろ?」
「知ってるなら……」
なんでこんなことをするの、と言おうとした言葉は、アステロッドの動きによって封じられた。
ルーナの両手から伸びる鎖を、2本まとめてぐいと下へ引っ張られたから。
「わ……っ」
体勢を崩したルーナは、アステロッドの前に両膝をつく形になる。
同じように跪いているアステロッドに至近距離で顔をのぞき込まれて、ルーナはびくりと体を震わせた。
アステロッドの目が、諦めと狂気に染まっているのを感じる。
(怖い……)
「俺は、諦めが悪くて卑怯者だから。君が逃げられないようにしないと好意を伝えられもしないんだよ」
「……っ」
言葉が、出ない。
ルーナはアステロッドに、何も言えなかった。
彼の紫の瞳に囚われて、身動ぎさえ出来ない。
「ねぇ、ルーナ。今世で君に好かれないなら、来世で」
アステロッドが、パチンと指を鳴らす。
たったそれだけで、あれほどルーナを悩ませていたはずの檻が、いとも簡単に消えてなくなった。
「生まれ変わって一緒になろう……?」
檻が無くなった代わり、とでも言うように。
アステロッドの手元に、小さな短剣が現れた。
いわゆるダガーというやつだろう。諸刃の刃が、部屋に差し込む夕日を反射して妖しく光る。
鋭い刃の切っ先を喉元に突きつけられて、ルーナはふるふると首を左右に振った。
「やめて……。やめてよアステロッド」
刃から距離をとろうと、じりじりと後退しようとするが、鎖をアステロッドに掴まれているせいで中々上手くいかない。
(誰か……助けて)
気持ちが焦る中、ルーナの心の中に浮かんでいたのは、たった1人の姿だった。
専属メイドになってそうそう、王子に手を出されそうになった時も。
アステロッドに媚薬を飲まされた時も。
ハイリ王子の専属メイドになってからずっと、ルーナが困った時に助けに来てくれたのは、いつも決まって彼だった。
(マクシミリアン……!)
「大丈夫。すぐに俺も行くよ」
アステロッドの妙に優しい声にルーナがぎゅっと目を瞑ったその時。
『……ナ……さん! ルーナさん!』
どこかから、声が聞こえた。
ルーナが待ち望んだ、大切な人の声が。
『どこですか! いたら返事をしてください!』
「マクシミリアン……!?」
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