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今日はツイてない日

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 ツイてない、ツイてない、……本当にツイてない‼︎
 なんでよりにもよってデビュタントの日に変化してしまったの⁈

 土曜日の朝、なんだか天井が高く感じ、起きてみると、猫の姿になっていた。
 そして、現在涙目になって布団の上でゴロゴロしている。


 昔々、私のご先祖さまはいたずら妖精との約束を破り、いたずら妖精にある条件を達した時、別の生き物に変化する魔法をかけられたのだ。
 その魔法は相当強かったらしく、昔は、血族なら全員変化していたらしい。
 今はだんだん血は薄くなってきているらしく、それでも身内の1人か2人は変化の体質を持って生まれるという。

 すると、物が落ちる音が聞こえ、そちらを振り向くと、同じくデビュタントに参加する妹、ルルが自分のドレスと靴を落としたところだった。

 「お、おおおおお、お姉さま…その姿、まさか…」
 「ああ、ルル。ちょうどよかった、お母さまに今日は行けないって伝えてくれる?」
 「いいけれど、お姉さま、デビュタントを欠席するの、3回目よ」

 そうなのだ。なぜかデビュタント当日は決まって変化してしまって、これまで2度欠席した。
 
 「しょうがないわ。こんな姿では行くに行けないもの」
 「わかったわ。お母さまに伝えてくるわね」

 バタバタと廊下を駆けていく妹を見送り、再び布団の上で丸まる。
 妹は賢い子だし、お母さまに伝えた後は、執事長や侍女頭たちにも緘口令を引いてくれるはず。
 変化した姿は、身内以外には見られてはいけないという言い伝えがあるため、誰とも会わず、部屋に引きこもっているのが通例であった。

 「はぁ、今年こそは行けると思ってたのに…」

 期待が大きかった分、行けないとなると、ショックは大きい。それが三度目ともなれば。
 …三度目も欠席するとなると、私には社交会デビューはもう難しいかもしれないと考える自分もいて、領地に引きこもろうか、なんて考えもないことはない。

 すると、お母さまや執事長、侍女頭に事情を伝えてきたのか、妹が再び部屋にやって来た。
 妹は、何かを決意したような表情で私に言った。

 「お姉さま、私と一緒にデビュタントに行きましょう?」
 「………え?なに言ってるの?」
 「お姉さまの言いたいことはわかるわ。だけど、今回で三度目の欠席よ?来年のデビュタントでも、もし変化してしまったら?お姉さま、ますます社交界から遠ざかってしまうわ」

 だから、ね。と声をひそめて話す妹は、とても健気で可愛い。
 うちの妹、なんて可愛いのかしら…。とまじまじ見つめていたら、「お姉さま、私の話、ちゃんと聞いてる?」と怒られてしまったが、その仕草でさえも可愛い。
 そんなこんなで、私は妹の考えた計画を聞いたのである。
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