悪役令嬢の末路

ラプラス

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燃えて、なくなれ【1】

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 私が仕事から帰って来た日から、数日が過ぎた。
 最近、婆様は考え事していることが多い。
 今だってそう。

 「アイシアナ。もう手の届かぬ人に会うためには、どうすればいいと思う」

 急に、婆様は私に聞いた。

 「うーん。過去に飛んで会いに行く…とかですか?」
 「ははははは。やはりおまえは彼女の子孫だな」
 「婆様、そんなに笑わないでください…。ところで、彼女って誰です?」

 「この森の本当の主であり時の魔女。リィナさ」

 ーーすこし、昔話をしてやろう。

 もう何百年、何千年も昔の話になる。人間の胎から、は生まれた。時の縛りを受けぬ者。彼女の産声が山を作り、泣き声が雨を呼んだ。彼女が笑えば日照りが続く。
 その能力は怪奇として人々に畏れられ、彼女は山に捨てられた。それ以来、彼女は山に育てられる。山の植動物、精霊、時には山の神、その全部が、彼女の親であり、師であった。


 『リィナ』

 それは、初めて森が彼女に与えたもの
 野に咲く小菊からとった名前。
 リィナを産んだ母の代わりに、森に住む全ての生き物が、彼女を愛し、慈しんだ。

 ーーけれど、ただ一つだけ、彼らにも与えられないものがあった。
 それは、人間の感情こころ
 彼らは悩んだ。人の子は人の集団の中で育つ。かと言って、森の外に出すわけにはいかない。
 外には、彼女を恐れ、傷つけようとする人間がいることを森は知っていた。

 そうして、森は決めた。

 森が、彼女が一人でも生きられると判断したら選んでもらおう、と。



 しかし、その前に森は死んでしまった。


 リィナが生まれて、10年以上が経っていた。
 その間に、森の外は大きく変化していた。村は大きくなって町となり、技術も進み、木を欲するようになり。そして、森の土地を狙っていた辺境の領主が、兵を引き連れ森に火を放った。

 あかかった。
 視界に入るものすべてが、朱く染まり、まるで血のようで…。
 その中で、リィナは走って逃げていた。
 何に追われているのかもわからないまま、この恐怖から逃げようとしていた。

 しかし、燃える家を目の当たりにした瞬間。
 何かがぶつりとちぎれてしまった。

 「あああああああああああああああああ!!」

 私の家。私の居場所。私の、家族。
 ぜんぶ、ぜんぶ、燃えてしまった。
 残ったのは私だけ。

 私は、ひとり。



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