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しおりを挟むあのあと…。
私は1ヶ月の謹慎を食らった。騎士団長である父には稽古と称して半殺しにされたが、神聖なる学舎で不純な行為を…しかも同性と行い、発覚したにはあまりにも軽い罰だった。
謹慎中……いや、謹慎が解けた今でも、彼のことが頭を離れない。
私の謹慎がこんなに早く解けたのは、こちらに過失がなかったか ーーー もしくはこのくらいのことに構っていられないなにかが起こったか。
彼に誘われた時……
手酷く扱って懲らしめてやろうと思ったのだ。王家が秘密裏に保護するコトハに度を超えた嫌がらせをする彼を。泣かせて、見えない傷を作って。コトハに謝らせて、二度と近付かないと誓わせようと思った。
それがどうだ。
溺れたのは私の方だった。抜け出せない甘い毒に嵌って、中毒患者のように何度も彼の体を貪った。物陰で。空き教室で。
彼が笑う。勝ち誇った表情で。私に精液を強請る時も、彼は常に優位だった ーーー のに。
突然、彼は怯えて泣き喚き始めたのだ。
いつも無表情で護衛に当たる従者が駆け付けると、彼は悍ましいなにかを吐いた。のちにそれが彼を10年以上支配した呪いだったのだと知らされた。
あの彼の泣き顔が、頭から離れない。
男を誘うあの甘い顔ではなく、紫色の大きな瞳を潤ませた、あの泣き顔が。
気の迷いだ。コトハと居るのに、彼のことばかり考えているなんて…!
私は彼の実家に足を運ぶ。
気の迷いだ。そうだ。そうに決まっている。彼がまた良からぬことを企まぬよう……そう、コトハに被害が及ばぬよう……。
こっそりと鉄柵越しに見た辺境伯邸の裏庭に。
天使が、いた ーーー 。
「ゼフ爺ちゃん…もういいって。持てないよ。あんまり切ったらバラが可哀想だろ?」
「なにをおっしゃる。今切らんと次の花の付きが悪いんですよ。持てんのならそっちのメイドと護衛に持って頂きなせえ」
「まあ素敵!クリス坊っちゃま、今日は薔薇風呂に致しましょう。今日こそ天辺から爪先まで磨き上げて差し上げますわ」
「誰に見せるの!?いいよしなくて。俺、男だし…」
「旦那様がお喜びになります!」
「ええ~…兄上はちょっとアレだよねえ…」
裏庭の薔薇園で、天使が笑う。
誰だ…?アレ、は……だれ、なんだ……!?
蜂蜜色の髪と、鮮やかなアメジストの瞳。『彼』と同じ顔。それなのに……
「クリス、籠を持ってきた。花だけこれに入れて貰って砂糖菓子にしてもらおう。花の砂糖菓子、好きだっただろう?」
「砂糖菓子…!」
彼は子供のように従者に駆け寄った。あの日の ーーー 彼を抱いて帰った従者だ。従者はちらりとこちらを見た。
この角度は死角になっている筈…。
私の背に冷たい汗が伝う。
「アンナ、籠を頼む。さあクリス、屋敷に入ろう。ここは空気が悪い」
「わっ…!」
従者が彼を抱き上げる。
「待ってエル兄!姫抱っこはダメ!ビジュアル的にキツイ!」
「早くしないと料理長渾身の海老のスフレが冷めてしまうぞ?」
「それはいけない冷めたスフレは罪!全速力でオナシャア!!」
ギュッと従者の首に腕を回すと、彼は従者に抱えられて見えなくなってしまう。
「もし、そこのどなたか?」
籠に薔薇の花を集めながら、メイドがこちらを見ずに言った。
「やっと帰っていらっしゃったクリス坊っちゃまを悍ましい目で見るんじゃねえ、この薄汚えチンカスが。……次は、ございませんよ?」
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