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拾肆
しおりを挟む「さて…」
あらかた聞き終わったか。どいつもこいつも言い訳ばかり。面白みのない理由ばかりを並べて叩いて大売り出し。
つい、と壇上の恋人たちを見る。
抱き合って震える王太子と ──
『なぁにぃ?浮気!?浮気は許さないよ!』
「いやいや、微笑ましいじゃないか」
『どこが?』
「毛を逆立てた子猫のようで」
乙女の世界では『可哀想は可愛い』というのか。
「私は君に甘いんだよ」
『んもぉ!ばか!』
「さて、王太子殿下、王女殿下」
私は笑う。怖がらせないように。優しく、優しく、猫撫で声で。
ああ、私が声をかけただけで身を強張らせる、その仕草さえも私の乙女に似て愛らしい。
「釈明を聞きとうございます。さあ。さあ。さあ!」
囀るといい。番の小鳥。私の乙女は他人の色恋話も大好きなのだから。
「た…助けてくれ、フェリーチェ…!」
元婚約者がか細い声で何かモゴモゴ言っています。ええと、コレの名前はなんだったったか…。あれ?さっきはちゃんと思い出せたんだが、えー…えーと、その、うん、確か、そう……
「ヴェスパジアーノ?」
「許してくれフェリーチェ!わ、私は……私は騙されたんだ!誰も言わなかった!お前が…いや、貴女がそんなに重要だなんて、高貴だなんて、聞いてない!知らなかったんだ!!」
「ほう?なるほどなるほど?知らなかった?だから婚約者である愛し子を見下し、軽んじ、虐げた、と?」
「ち、違っ…!」
「そんなことよりもっと楽しい言い訳をお願いしたい。真実の愛だとか、運命だとかを感じたのだろう?だから婚約者はどうでも良くなった。邪魔になった。違うのかい?」
「ち…違う!私は…私は、貴女が私を愛してくれないから!だから魔が差したんだ!!貴女に触れることすらできないから!だからミシュリーヌに溺れて……でも!貴女が泣いて縋ってくれれば側妃として、いや、正妃として迎えてあげようと思っていた!あ、あ、ぁ、愛しているんだ!フェリーチェ!!」
「………」
ふむ?思ったより面白くない答えだな。もう少し揺さぶるか。それにしてもしまだ見下すのだなぁ、苔に住む虫如きが。
「愛…?愛ねぇ?ではヴェスパジアーノ、元婚約者殿よ。おかしいとは思わなかったのか?」
「は…?え……」
「何故乙女の愛し子が何故流行を10年も20年も遅れた野暮ったいドレスを纏っているのか。ただの一人の侍女も護衛も居ないのか。疑問に思い、自宅である公爵家に足を運んだか?学園では一人の学友もなく、囲まれ、罵られ、時には暴行を受けていた。襤褸布のようになった愛し子を何度も見ただろう?婚約者が姦淫を犯したと噂されて。自尊心を傷付けられて罵ったがついぞ申し開きも許されず。なあ?本当に何も思わなかったのか?お前がそこの女と獣の様に王家の花園で絡み合っていても物申さずにいただろう?お前に気まぐれに、感情のままに打たれても、有る事無い事罵られても、それを是としただろう?お前は不思議に思わなかったか?おかしいと気付いていたはずだ。異変に気付きながらも何もしなかった。愛している?お前の言語の『愛』とはその程度のものか?」
「違う…!それは、みんな、が……」
「それがお前の『底』よ。与えられた役しか演じることができない愚鈍な三流。与えられた環境でしか生きていけない矮小な河蝦。かつて見下し捨て置いた女に恥も知らずに縋る蛆虫が」
「………ッ、こ、の…!!」
激情のままに振り上げた手を、私は敢えて受ける。いつもは柔らかくして打たせてやっているが、もうその必要はない。
がつり、と音がして。それからぐしゃり、と。
元婚約者の腕が拉げ、消失した。絶叫が響く。
当たり前だ。私は乙女の竜だぞ?受けた衝撃を何千倍にも上乗せして反射する。神に呪われた竜だ。
「さて、ミシュリーヌ?君の声も聞きたい。囀りたまえ」
「………あはっ…!」
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