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陸
しおりを挟む(ダラス国王女視点)
この世界は終焉に向かっている。女神のせいで。
私にこの世界の理を説いた教師はそう言った。
私はこの世界で二つしかない国の、ダラス王国で生まれた。公妾の産んだ、継承権の無い第七王女。それが私だ。
いつ滅びるかわからない世界の、誰にも顧みられない子供。
母親は父親以外の男の上に跨るのに忙しく、父親は私のことを認識しているかもあやしい。私が姉姫たちに囲まれて虐められても、兄王子たちに寄ってたかって犯されても知らんぷり。
だから私は考えた。どうせ滅びる世界なら。どうせ汚れた体なら。私は誰よりも残酷に、贅沢に、楽しく生きていこうと。我慢なんて糞食らえだわ!
虐めてくる相手にはやり返した。それが姉姫でも王妃でも。体を求めてくる相手には対価を要求した。それが気に入らないものなら突っぱねた。ああ、なるほど。ママはこうやって生きてきたのね。こうやって社交界を泳いで、泳いで、泳ぎ続けないと溺れてしまうのね。
けれど、私はやりすぎた。
一番上の兄に体を与えているのを見られてしまった。兄の婚約者に。大公家の姫君に。
途端に私の自衛は広がり知られて大騒ぎになった。
みんなが私を悪きしざまに罵った。守ってくれなかった父親も。手本にした母親も。
「穢らわしい」と叫んだ兄の婚約者に、「でも私の処女を無理矢理奪ったのはお兄様ですのよ?私、まだ8つだったのに…」と耳打ちすると、次の日には首を吊った。まあ、幸せなお姫様ね。私が耐えた地獄に耐えきれないほど、大切に愛されて育ったのね。妬ましいほど羨ましいわ。
私は半年ほど、罪を犯した王族が幽閉される『塔』に閉じ込められた。
『塔』から出ると、王太子は私を犯さなかったすぐ下の弟になっていたし、姉姫たちはあちこちに嫁に行ってしまっていて、ママは死んでいた。愛人に刺されたらしいわよ?怖いわね?
半年で、十も二十も歳を取ってしまったような父親が言った。
「隣国に留学しなさい」
って。
『女神の愛し子』がフィアンマの学園に入学したから、仲良くなってきなさい、って…。
はあ?
なんで?どうして?私を殺してくれるんじゃないの!?愛し子って、確か女の子でしょ?男が大丈夫だったからって ── 女の子を誑し込んでこいっていうの?馬鹿なの糞親父!?ああ…
ああ、そうか。馬鹿だったわ。
私は視線で殺せるほど父王を睨めつけたけれど。ふと、どうせ死ぬなら『女神の愛し子』とやらを見てみたいと思った。それから……そうね。全部めちゃくちゃにしてあげる。
私をここで殺さなかったのを後悔すると良いわ。
私は隣国渡り、フィアンマの王立学園に編入した。
新たな発見だった。腐っているのはダラスの貴族だけじゃなかったこと。
『女神の愛し子』は生徒から、教師から、学園全体から虐げられていた。
どう言ういう状態なの?フィアンマでは『女神の愛し子』の教育はされないのかしら?……ああ、そうか。フィアンマの王族は、貴族は、平民は。
死にたいのね。私みたいに。
だったらもう放っておこう。きっと私も地獄に落ちる。だって見て見ぬ振りだもの。直接手を下すのと同罪ね。
私は愛し子 ── フェリーチェとかいった女の子が虐められていても横を素通りした。ダラスでの生活と同じように、視線が合った男を片っ端から籠絡し、洗脳して、この学園を、フィアンマをぐちゃぐちゃにしていく。
物珍しさに見物に来たフィアンマの王太子を誘惑し、童貞を奪って、脳味噌を性的快楽一色に塗りつぶした。下位貴族の令嬢たちを「ここだけの話…」と言って、王子を交えた乱行パーティーに誘う。びっくりしたのは高位貴族の令嬢も加わってきたことね。あわよくば王太子のお胤を貰えると親を説き伏せてきたのだろうけど……。まったく、私のことを阿婆擦れとか言って蔑むくせに、とんだ淫乱ちゃんだわ。
ああ、楽しい。みんな一緒に地獄に落ちましょう?
避妊の仕方も知らないくせに。貴女たちは誰の子供を孕むのかしら。婚約者に何て言うの?必ずしも王太子の子を孕めるとは限らないのに。……私?私は大丈夫よ。だってまだ体ができていない子供の頃に兄王子たちに何度も堕胎させられてるの。子供なんかできないの。幸か不幸か、ね。
王太子が閨で囁く。
「フェリーチェとは婚約を破棄するから、結婚しよう」と。
あはっ。
馬鹿なの?馬鹿なんだね。
「本当に?ううん、嘘でも嬉しい…!」
私は涙を浮かべながら王太子に脂肪を押し付ける。
そんなの……
そんなの。世界滅亡のお知らせじゃない。
知らないのね。
知っていても、都合が良いことしか知りたくないのね、お馬鹿さん。
世界は終焉に向かっている。女神の嘆きで。
私にはわかる。きっと、これで終わりなの。フェリーチェ以降の『愛し子』は生まれない。フェリーチェを虐げれば世界は終わる。素敵!なんて素敵…!この汚れた世界が終わる!!
死ねる…!私は、やっと死ねる ── !!
それなのに。
ああ、それなのに。
笑ったのだ、フェリーチェが。
「よろしい。では片付けましょうか」
……と。
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