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伍
しおりを挟む(王弟視点)
突然始まった断罪劇。ああ、甥は本当に馬鹿なのだと頭を抱えた。
本当に、兄上そっくりだ。
頭に血がのぼりやすいところも。色欲に弱いところも。
だから『女神の愛し子』を神殿が保護したとの知らせを受けた時、私の愛人にしようと言ったのに。
それなのに、兄上は欲をかいた。愛し子を我がものにしようと、まずは自分の子供と婚約させようと言った。それに追随したのは筆頭公爵家だった。
その結果がこれだ。
兄上は『女神の愛し子』というものをわかっていない。
あれはただのお伽話でも政治の駒でも、ましてや美しい玩具などではなく、生きた伝説だというのに。
神殿関係者と王族ならば生まれた時から『女神の愛し子』のことを叩き込まれる。愛し子とは豊穣の象徴である、と。
愛し子が幸せであれば大地は潤う。花は咲き乱れ、鳥は歌い獣は穏やかに。火山は眠り、大地は寝返りを打たず、雷は久しくなりを潜める。
兄上は『幸せ』といえば『王妃になること』だと思い込んでいるが、頭に蛆でも湧いているのだろうか。王妃である義姉は幸せそうにしているだろうか。美しいというだけで愛し合う婚約者と引き裂かれ、家族を人質に取られて王妃となった義姉は。
私ならば『女神の愛し子』を。フェリーチェを幸せにしてやれた。大公家の邸の中だけで囲い、思いつく限りの贅沢をさせ、一生を幸せに飼ってやれたものを。
『女神の愛し子』の寿命は20年。短い花の季節を、蝶よ花よと大切にするだけで100年の豊穣が約束される。記録によるとこの600年、『豊穣の時代』が訪れていないのは『女神の愛し子』を寿命まで生かしておくことができなかったせいだ。愚か者の集まりだ。
この世界は滅びの向かっている。大小数百はあった国家が、瘴気や砂漠化で人の住める土地ではなくなり、今となってはこのフィアンマとダラスのみ。それでも愛し子が生まれてくるこの二国は生きながらえてきた。
私が『豊穣の時代』を甦らせる。
そして私が王となる。フィアンマの王ではない。世界の王に。
愚かな兄上。愚かな甥。愚かな貴族たち。何もできぬ者たち。何も為せぬ能無しども。愚か者の集まりではないか!
見ているだろうか、女神よ!
私が貴女の『愛し子』を幸せにしよう!
窮地から救い出し、蜜のように蕩けさせ、甘やかそう。
女神よ。貴女の愛し子は美しく育った。世界の王となる私の妻にしても良いほど。農奴から生まれた下賤の血では愛人が精々だと思っていたが、フェリーチェはそれを差し引いても美しく成長した。「世界のためだ」といえば、私の妻も嫉妬などすまい。どうせもう2年程度しか生きないのだ。あと2年で贅沢と愛と快楽を注ぎ込み、最高の時代を作り上げよう。子供を産ませてやっても良い。女神の愛し子の子供だ。もしかすると母親と同じ『恩恵』を授かるかもしれない。
さあ、黄金を手にしよう。
打ちひしがれているだろうフェリーチェに目をやる。
ヒュッと鳴ったのは……私の喉だった。
なん…だ?あの、瞳は……?
紫色だった瞳が、黄金色に烟っている。無機質だった表情には嘲りが浮かんでいた。
「よろしい。では片付けましょうか」
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