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拾壱
しおりを挟む「いやああああ!いや!たす…わ、わたくし、を!わたくしを助けなさい!いいえ!助けて!フェリーチェ!お慈悲を…!お慈悲を!!女神様…!!」
「フェリーチェ!待ってくれ!私は知らなかったし、私はお前にまだ何もしていない!何も……フェリーチェ!フェリーチェ!!」
『ああ、うるさいわ。静かにして』
ビシャリ、と稲妻が走った。光の後は黒い大きな炭がふたつ。死ねない骸は真っ黒になりながらも芋虫のように蠢き、時折小さく呻く。
おや?私の乙女は存外ご立腹か。何という可愛らしさだろう、私の乙女。私は少しだけ良い気分になった。
「さて、他には?」
「フェ…フェ……フェリーチェ…!竜よ!私は女神の忠実な使徒である!私が女神のお心に沿わぬことなどするはずがない!!私こそが女神のお傍に侍るに相応しい!!」
「フェリーチェの両親を殺したでしょう?」
神官長を見遣る。これは、『フェリーチェ』の両親を殺した男だ。あの両親は、愚鈍ながらもフェリーチェを愛していた。貧しくとも、フェリーチェに鬱憤をぶつけることはしなかったし、自分たちが痩せ細っているのにフェリーチェには食事を十分に与え、飢えることはさせなかった。薄汚れた体で、疲れ切った体で、笑顔を浮かべながらフェリーチェを抱きしめた。女神のことさえ知らぬ戯者であったが、ただしき心を持つ善き人間だった。
あの二人が生きていれば、竜は乙女に「せめて仮初の両親が天寿を全うするまで待ってくれ」とお願いしただろう。
「私の仮親を、神殿に誘き寄せて殺したでしょう?父の前で母を犯し、母の前で父を殺した。穢らわしい罪人め」
「……っ違う!!」
神官長は土気色の顔色をして天を仰いだ。
「女神よ!竜は何かの誤解をされている!あれは……そう、あれは、穢れを払ってやったのです!か、体の中から穢れを浄化し……ざ、残念ながらも男の方は手遅れでございましたが…」
「珍しい払い方をするのだな、苔は」
私は知っている。人間というものの世界を。私の乙女が召喚されたような、理不尽で残酷な世界を。
「フェリーチェの母は亡国の王族の庶子であったが、きちんとした慎み深い教育をされた高貴なる姫であった。父は筆頭公爵家出身の、誇り高き忠誠心のある護衛騎士であった。祖国が滅び農奴に身を落としてもなお美しい魂の人間たちであった。泣き叫ぶその姫を犯し、慟哭する騎士を嬲らせ、何が女神の使徒か!穢らわしい!」
絶対に私の乙女には近付けたくない性質だ。
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