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終わり【リラ視点】
しおりを挟むここは ーーー どこだろう。
意識が浮上してもすぐに目を開けてはいけない。状況を確認して、それから薄目で確認。そう教わった。ハル父様から。
「ふふ……帰ってきたね、リラ。おかえり」
「…………」
紫苑父様の声。
ああ、どうしたのかしら。頭が重い。私はゆっくりと起き上がった。
「私……」
どうしたの?そう、たしか…たしか、わたし……
「生き返った気分はどう?まあ気分が悪かろうがお前の処遇は変わらないよ、リラ」
「しょ…ぐう……?」
ああ……
ああ、そうか。思い出した。私、私…は……。
「お前の情夫は魂を砕いて灰にし亜空に捨てた。二度と転生などさせないよ」
私は、紫苑父様たちを裏切った。
この世界を愛してると言ったあのひとに、エルドラドの情報を渡して愛を強請った。共に魔王を殺して平和になった世界で一緒になろうと言われて有頂天になった。
そんなはずないのに。そんな未来は来ないのに。嘘だと知っていたのに、嘘に縋った。君しか世界を救えないなんて囁かれて、エルドラド内部まで手引きして ーーー
ハル父様に首を刎ねられた。
ああ、そうか……私…一度、死んだんだ…。
「……どう、して…」
どうして、あのまま……
「死なせてくれなかった、って?馬鹿だなあ、お前は。顔も血筋もハルにそっくりに生まれて、頭も少し悪いのかな?それともニンゲンの住む場所に降りて頭の中にお花畑でも作っちゃった?僕のハルを裏切って、悲しませて、死んで終わり、の筈ないだろう?」
「………っ…」
ぞわりと全身を切り裂かれるような痛み。ビリビリと空気が震えて、息が苦しい。ああ、怒っている。紫苑父様が怒っている。私が愚かな真似をしたからじゃない。紫苑父様を、エルドラドを、《ふるきものども》を裏切ったからじゃない。
ハル父様を裏切った。悲しませた。私の首を刎ねさせた。
だから、怒っている。
「お前はハルの心に傷を付けた。実の娘を殺させるなんていう、深い深い、何千年かけても消えないような傷を。ねえリラ?本当はどう思っていた?ハルが、僕が許すと思ってた?「仕方ないね」って言って、この世界を捨てないで《神》に譲歩でもすると思ってたのかな?自分が盾になれば、勇者が殺されずにいると思った?ねえリラ、聞かせてよ?お前の思い描いていたハッピーエンドは、ハルにどれだけの苦痛を強いるものだったのかな?誰かが傷を負って、死んで、優しいハルが傷付かないと思っていた?愛してるからなんでも許されるって?…… ーーー ああ、ほんっとうにお前の頭の中は花の匂いのするクソが詰まってるんだね」
「とう…さま……」
ふう、と息をひとつ。父様の威圧が消える。
「もういい。お前は二度とハルの目に映る事はない。魂まで砕こうかと思ったけど、ハルが悲しそうにしたからね?僕はハルの悲しそうな顔に弱いんだ。だからね、リラ」
「おはなしは終わったかい?」
音もなく、尊き御方が現れる。『私』様?……ああ、そんな…そんな………
「お前は父さんのコレクションになってもらうよ?もう300年も欲しい欲しいってねばってるんだもん。ハルやアルはあげられないけど、お前なら良いよ」
「そんな…とう、さま…!!しおん、とうさま…!!いや!コレクションだけは嫌!!やめて!!殺して!いっそ殺して!!紫苑父様ッ!!!」
「だってさあ、お前 」
「………!!」
紫苑父様が囁いた。ああ、どうして…どうして、知っているの…!?どう、して……
「さあ、感動の別れは終わりかな?ではでは頂いていくよ紫苑くん♪ああ、本当はねえ、《始祖》の嫁くんが良かったんだけど……まあ、我慢するよ!これはこれで趣深いからねえ!」
「いやあああああああ!!!」
ガラス板がシャラシャラと舞う。嫌よ!いや!!ハル父様!!助けて、ハル父様!!
ああ、笑っている。『私』様が。………紫苑父様が……笑っている。
そうか。紫苑父様が怒っていたのは
私が、ハル父様を、愛してしまったから。
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