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先輩狩り
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「オォ゙オ゙愚ォォォォォゥ武ウゥオ゙ッ!!!」
ブチチチィッ!
とうとうフレイムベアがその腕の一本を半ばまで引きちぎって、拘束から抜け出した。目が散眼して血走って完全にイッチャってる。さらにシュレアの脳クチュのせいで耳から灰色っぽい白子みたいなぷにぷにがまろび出ちゃってる。
対する僕は。
『『『『『『…………ィィィィィィィッ!』』』』』』
ドギャーーーーンッ!
決めポーズ&決め立ちで、身体をくねらせる枝くんたち。なんでこの子たちこんなテンション高いんだ。
しかしみんなの士気は高くやる気だ。
(とりあえず戦力は揃ったか)
ぐるぐる出汁巻き種巣な僕は、数十体の枝くんたちに作戦を伝える。
『みんな! 力を貸してくれてありがとう!』
『ィィィィィィィッ!!!』
ッキーンッ! 枝くんアーミーの大合唱が脳内に直接響いて頭が痛い。
『うん、テンション高いのはいいけどもうちょっと声抑えてね』
『……ィィッ!』
『いくぞ! 先輩狩りの時間だぁっ!』
『いぃぃぃーっ!』
シュタッと無数の枝くんたちが一斉に敬礼するのはなかなか怖い。
「牙ァァァァッ!」
「うおおおっ、かわしてくれぇ!」
ブォンッ!
フレイムベアの一撃が、エグい風鳴り音を上げながら僕のすぐ横を掠める。
ヒョイッ。
しかし枝くんたちはびっくりするくらいの機敏さで僕を担ぎながら避けた。そのままとんでもないスピードで追いかけてくるフレイムベアから、こちらもとんでもないスピードで逃げる。
揺れがやばいっ、目が回るっ、おえええっ。
「と、とりあえず僕を抱えて高速で退避! あとのみんなは攻撃に巻き込まれないようについてきて!」
『ィィィヤッッ!』
『ヤーーーッ!』
『……イィッ!』
シュバッ、
シュババババッ!
枝くんアーミーは頼もしい返事と共に僕に追従する。
そうして、拘束種巣&愉快な枝くんアーミーVS脳クチュまろび系フレイムベアによる死の追いかけっこが始まった。
ーー
──ドグゥゥッ!!!
大地がめくれた。爆ぜた火焔とともに、フレイムベアの四本腕が宙を薙ぐ。
おおおっ、当たったら潰れる潰れる潰れるぅぅっ!
「やっべ、来てる来てる来てる! 絶対殺すベアだよあれ!」
無理だ、無傷確保とか絶対無理!
まずは身を守らないと!
『枝くん! フレイムベアを……なんかいい感じに攻撃して!』
僕を担いだまま、枝くんたちがジグザグに、螺旋状に、木登りムーブまで交えて爆走する。
猛追するフレイムベアの背後に、数体の枝くんが──
『イィィィィ……ギギギィッ!!』
滑空するように飛び出して、幹のごとき腕をムチのようにしならせ、フレイムベアに横薙ぎの一撃。
ビシィッ! ビシビシビシシィッ!
岩くらいなら粉砕しそうな強烈すぎる枝ビンタ。
フレイムベアの一瞬の動きが鈍ったが、即座に怒号のような咆哮を上げ、枝くんたちを蹴散らし、そのまま突進してくる!
「うわぁぁぁぁ、退避退避ぃぃっ!」
『ヤーッ!』
『イーッ!』
『イギーッ!』
すると僕を担いでる枝くんズAが、僕を投げるようにして次の枝くんズBにパス。
さらにそのまま枝くんズCが空中でキャッチし、また走る。
木から木へ、地面から空へ。
まさに高速種巣リレー状態だ。
「ちょ、おま、目回るって! やばい、酔う……吐く……おぇっぷ」
でもおかげでフレイムベアの猛追をなんとか振り切れている。
『『『ギィイ……ヤァアァアア!!』』』
と、枝くん部隊の数体が急停止して地面にズボォッ触手を突っ込んだ。
バシュッ! バシュシュシュシュッ!
次の瞬間、地面から無数の棘が茂り、火焔の獣の脚元を薙ぎ払う。
そのすべては分厚く燃え盛る体毛に阻まれダメージを与えることはできないが、足止めをすることに成功した。
『よし今だ!』
枝くんたちに技のイメージを伝える。
『樹木……枝……草タイプ……つまり、葉っ◯カッター……いや、葉っぱガトリングだっ!!!』
『イーッ!』
パァンッ! パラパパパァンッ!
一斉に枝くんたちの背から、無数の葉状の刃が扇状に展開。
輝く葉の刃が空中に浮かぶ。
次の瞬間まるで森が爆ぜるかのような連携ガトリング攻撃が、フレイムベアの全身を削り始めた。
『よしっ、そのままたたみかけるように樹睡香だ!』
僕の合図で数体の枝くんたちが濃密なガスを散布する。
正直、見ているだけでも強烈な眠気を誘う超危険な魔法だ。
フレイムベアを包み、死の眠りへと誘う。
しかし。
「……愚羅ララァァァァ牙ァッ!」
大地を揺るがす咆哮。
空気が変わった。
耳が痛くなるほどの圧倒的な熱圧。
まるで大気そのものが、燃え始めたかのようだった。
フレイムベアの全身から、黒焔混じりの紅蓮が逆巻く。
「……なにこれ……」
気づけば、周囲一帯の草木が炎に包まれてた。
フィールドが書き換えられた。
にも関わらず“燃えていない”。
しかし炎は燃え続けている。
一体何を燃やしているんだ……?
この炎は一体……
ブヅッ。
「いづっ!?」
すると数体の枝くんとのパスが切れた。同時に数体の枝くんたちがしおしおと力を失って元の枝に戻った。
いや違う、この感覚は、焼き切れた?
『フレイムベアの纏う炎は魔力的作用を大幅に減衰させるからな』
その時、脳裏にプテュエラの言葉がよぎる。ニステルがフレイムベアを倒した、と言った時に笑って告げた事実。
つまり。
「……これがフレイムベアの魔法減衰領域!? 魔法そのものを燃やしてる……ってコト!?」
紅蓮の獣が展開したのは、“魔法そのものを燃やす”灼熱の領域だった。
ヒュンッ……。
枝くんたちの放った葉刃が、炎に届く前に一枚、また一枚と、空中で炭化していく。
そのすべてが、魔力を燃やされ剥がれ落ちている。
『……ギィィ……!?』
『ヤァァッ……! ヤ……アア……!』
混乱する枝くんたち。
背から展開していた葉刃が、展開したそばから発火し、弾け、燃え尽きて消える。
樹睡香ガスもあっという間に発火して、無害な気体へと変えられてしまった。
「まずいっ、完全に無効化されてる!」
目の前のフレイムベアが、ゆっくりとした足取りでこちらに迫ってくる。
その足元では、大地がジュウゥ、と音を立てて焦げ付いていた。
だけど、延焼はしていない。その灼熱は自分の住処である森を害さない。
(フレイムベアの炎は指向性。燃やす対象を自分の意志で選べる……)
まさに炎の覇者。
やつが一歩近づけば、僕は三歩後退する。とてもじゃないけどまともにやり合うなんてできない。
「……呼ォォォォオオオオ!」
燃え盛る胸部をパンパンになるまで空気を吸い込む。
──咆哮が来る!
四本腕が大きく開き、背中から異様な発光が走る。
ブン、ブン、ブゥン、ゥン、ヴゥゥン…………
フレイムベアを中心に魔力が渦を巻いて集まっていく。
本能が全力で警笛を鳴らした。
「いいいいいっ!? なんか溜めてる、ヤバいヤバいヤバいッ!!!」
熱が、光が、空気が、悲鳴を上げる。
灼熱が凝縮されていく。
そして――
「ッッ極牙アアアアァァァアアアア!!!!!」
炸裂した。
キュオオオオオオオォォンッ!
地獄のような轟音とともに、フレイムベアの顎から超高密度・超高温の火炎放射が放たれた。
直線上すべてを焼き尽くす、超火力の紅蓮光線が森を抉る。
“ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴオオオオッ!!!”
「うわああああああああああああ!!!???」
音だけで耳が破れそうになる。視界が白赤に染まる。
あれを直撃すれば、枝くんどころか僕も即蒸発だ!
「枝くんたち逃げてッ! 全員バラけ……ッ!」
……言い切る前に、ほとんどすべての枝くんが僕の前に飛び出した。
『ギィィ……ッ!!!』
『ヤァァァァア……!!』
全身を広げて、枝くんたちは自らを壁に変えた。
その表皮が、幹が、葉が、凄まじい熱波に焼かれて黒く、赤く、割れていく。
ボロッ……ボロボロッ……!
それでも、倒れない。
次の枝くんが飛び出す。さらにその次も。
僕を、守るために。
「だめだって!! そんな、そんなのできる体じゃ!」
『ギィ……ギ……ギッ……!』
片腕を焼かれた枝くんが、笑うような軋み音を残して、崩れ落ちる。
キュッ、ガォンッ!
決死の枝くんたちが壁になってくれたおかげで、紅蓮光線はその軌道変え、遠く彼方の茂みに着弾した。
地鳴りと衝撃音。超エネルギーが弾ける波動。
“ォォ……ォ……”
押しのけられた空気が風となってここまで吹いてきた。
(なんてこった、こっからでも見えるキノコ雲ができてるぞ……)
そんな最中。
燃える森、焼け落ちる仲間、その中で。
ひとつの道が、できていた。
『ギッ!』
僕を担いだ枝くん最後の二体が、振り返らず、猛ダッシュ。
炭化した仲間たちの上を必死に進む。
「うぅぅ……くそおおああああっ……ッ!!」
目の奥が焼ける。心が千切れそうだ。
でも、進まなきゃ。
彼らの命の上にできた道を、踏みしめて……。
ーー
「ケイ、枝くんたちは土に還っただけで死んでないですよ」
「え、えっ。そうなの?」
「はい。数日で土から元の木に戻っていき、吸収されるでしょう」
そのあとおっとり刀でやってきたシュレア。
暴れ狂うフレイムベアの顔を巨大化した樹木腕で無造作に掴むと、中から出てきた花柄ファンシーな触手が、熊さんの耳から侵入し、
「グチュグチュグチュ!」
っとブレインミキサーして呆気なく決着が着いた。
『イイーッ』
『ギーッ』
残った枝くんたちも、“心配すんなよ”と言わんばかりに枝を振った。
「うっ、うっ、よかった……僕のために犠牲になった枝くんはいなかったんだね……ううっ、うぐぐぅ……」
安心したら泣いてしまった。ふつーにガチ泣きだ。 そりゃまあ枝だけど、命を持って短い間でも戦った、戦友だ。
「な、泣かないでください」
シュレアは物凄く嫌な顔をして、とても嫌そうに僕の涙を拭いてくれた。
「うぅーっ、よかったあ」
「賢樹魔法を介して顕現した樹木たちがフレイムベアごときに、滅ぼされるわけがありません。あまり彼らを舐めないでください」
「うぅっ、ぺろぺろ」
「シュレアを舐めていい訳ではありません」
シュレアのウッディでアーシーなかほりのするうなじに顔をうずめぺろぺろする。ぶん殴られるかと思ったけど、樹木腕を柔らかい苔に変えて頭と背中を撫でてくれた。ううっ、苔の匂いってなんていうんだろ。モッシー? シュレアと繁ってる時もモスモスしい匂いがするんだよな……。
「でも、これでケイも分かったでしょう?」
「うん……フレイムベアに魔法は効かない」
身を持って思い知った。なんだよあれ、反則じゃん。
魔法攻撃無効で、極大火炎ブレス打ち放題で、恵まれたフィジカルから繰り出される四本腕の手数。
こりゃあS級でも倒せるかどうかって言われるはずだ。
ニステル……いつかこっちに来て、ガチモンのフレイムベアと戦ってみてほしいな。
「でも、となると……打つ手が無いよ」
「そんなことはありませんよ。よく思い出してください。フレイムベアに通じていた攻撃があったはずです」
えぇ、そんなのあったかな……。
腕を組んで悩むポーズをすると、枝くんたちが真似して、“考える枝”のポーズをとった。
「あっ、もしかして……最初の方でやった枝ビンタ?」
そう言えば、あれをやったあとフレイムベアは確かに足を止めていた。
「正解です。よく見ていましたね」
「え、で、でも。別にダメージは通っていなかったよ? ただ足止めしただけっていうか」
『『イィーッ!?』』
“足止めだけとはなんだ! だけとは!”と言わんばかりに抗議する枝くんズ。
「ろくに攻撃も通せない嫌な力しか持っていないのに、枝くんたちを軽んじないでください」
『『……ギィッ!』』
「謝ってください」
「ご、ごめん。雑魚人間の分際で、調子乗ってごめん」
『『ギッ!』』
“いいってことよ”と鷹揚に頷く。
なんか納得いかないけど話を戻す。
「ええっと、じゃあ物理的なダメージを与えていけばいいの?」
魔法が無理なら物理で殴る。自然の摂理だ。
「はい。亜人たちはみんな、基本的にそうしています。
ベステルタは拳で。
ラミアルカは土で。
サンドリアはよく知りませんが……。
シュレアも樹木で押しつぶしたり、薙ぎ払ったりしていますよ。まあ、シュレアは器用なのでもっといろんな倒し方ができますが」
ドヤシュレアだ。
「えっと、プテュエラは魔法でゴリ押すって言ってたよ?」
「……プテュエラは面倒くさがりのアホだから真似してはいけません」
ラミアルカに続きプテュエラもアホだったか……。
「いやまあ理屈は分かるよ。でも亜人にはできるだろうけど、僕は人間なんだよ。生まれながらの性能が違うっていうか」
「やはりケイは嫌な思考力しか持ち合わせていないようですね。誰かを忘れているようです」
シュレアは“嫌れやれ”とジト目でため息を吐いた。
そしておもむろに懐に樹木腕を突っ込んでまさぐったあと「んっ」と色っぽい声を出して、何やら取り出して僕に見せた。
それは小さな……精霊?
「……あどあど?」
清浄な翠緑オーラを放つ、あどけなくも圧倒的お姉さん感を醸し出している存在。
リトル女神といった雰囲気だ。
「……あどーっ!」
「わっぷ、な、なに?」
小さな翠緑女神は、これまた小さな四本の羽をばたつかせ、僕に飛び込んできた。
「ケイ、ちゃんと褒めてあげなきゃだめですよ」
「え、えっと、何を?」
「嫌な返事ですね。もちろん、ドライアドとして覚醒したリンカを、です」
え、り、リンカ? 君、リンカなの?
ブチチチィッ!
とうとうフレイムベアがその腕の一本を半ばまで引きちぎって、拘束から抜け出した。目が散眼して血走って完全にイッチャってる。さらにシュレアの脳クチュのせいで耳から灰色っぽい白子みたいなぷにぷにがまろび出ちゃってる。
対する僕は。
『『『『『『…………ィィィィィィィッ!』』』』』』
ドギャーーーーンッ!
決めポーズ&決め立ちで、身体をくねらせる枝くんたち。なんでこの子たちこんなテンション高いんだ。
しかしみんなの士気は高くやる気だ。
(とりあえず戦力は揃ったか)
ぐるぐる出汁巻き種巣な僕は、数十体の枝くんたちに作戦を伝える。
『みんな! 力を貸してくれてありがとう!』
『ィィィィィィィッ!!!』
ッキーンッ! 枝くんアーミーの大合唱が脳内に直接響いて頭が痛い。
『うん、テンション高いのはいいけどもうちょっと声抑えてね』
『……ィィッ!』
『いくぞ! 先輩狩りの時間だぁっ!』
『いぃぃぃーっ!』
シュタッと無数の枝くんたちが一斉に敬礼するのはなかなか怖い。
「牙ァァァァッ!」
「うおおおっ、かわしてくれぇ!」
ブォンッ!
フレイムベアの一撃が、エグい風鳴り音を上げながら僕のすぐ横を掠める。
ヒョイッ。
しかし枝くんたちはびっくりするくらいの機敏さで僕を担ぎながら避けた。そのままとんでもないスピードで追いかけてくるフレイムベアから、こちらもとんでもないスピードで逃げる。
揺れがやばいっ、目が回るっ、おえええっ。
「と、とりあえず僕を抱えて高速で退避! あとのみんなは攻撃に巻き込まれないようについてきて!」
『ィィィヤッッ!』
『ヤーーーッ!』
『……イィッ!』
シュバッ、
シュババババッ!
枝くんアーミーは頼もしい返事と共に僕に追従する。
そうして、拘束種巣&愉快な枝くんアーミーVS脳クチュまろび系フレイムベアによる死の追いかけっこが始まった。
ーー
──ドグゥゥッ!!!
大地がめくれた。爆ぜた火焔とともに、フレイムベアの四本腕が宙を薙ぐ。
おおおっ、当たったら潰れる潰れる潰れるぅぅっ!
「やっべ、来てる来てる来てる! 絶対殺すベアだよあれ!」
無理だ、無傷確保とか絶対無理!
まずは身を守らないと!
『枝くん! フレイムベアを……なんかいい感じに攻撃して!』
僕を担いだまま、枝くんたちがジグザグに、螺旋状に、木登りムーブまで交えて爆走する。
猛追するフレイムベアの背後に、数体の枝くんが──
『イィィィィ……ギギギィッ!!』
滑空するように飛び出して、幹のごとき腕をムチのようにしならせ、フレイムベアに横薙ぎの一撃。
ビシィッ! ビシビシビシシィッ!
岩くらいなら粉砕しそうな強烈すぎる枝ビンタ。
フレイムベアの一瞬の動きが鈍ったが、即座に怒号のような咆哮を上げ、枝くんたちを蹴散らし、そのまま突進してくる!
「うわぁぁぁぁ、退避退避ぃぃっ!」
『ヤーッ!』
『イーッ!』
『イギーッ!』
すると僕を担いでる枝くんズAが、僕を投げるようにして次の枝くんズBにパス。
さらにそのまま枝くんズCが空中でキャッチし、また走る。
木から木へ、地面から空へ。
まさに高速種巣リレー状態だ。
「ちょ、おま、目回るって! やばい、酔う……吐く……おぇっぷ」
でもおかげでフレイムベアの猛追をなんとか振り切れている。
『『『ギィイ……ヤァアァアア!!』』』
と、枝くん部隊の数体が急停止して地面にズボォッ触手を突っ込んだ。
バシュッ! バシュシュシュシュッ!
次の瞬間、地面から無数の棘が茂り、火焔の獣の脚元を薙ぎ払う。
そのすべては分厚く燃え盛る体毛に阻まれダメージを与えることはできないが、足止めをすることに成功した。
『よし今だ!』
枝くんたちに技のイメージを伝える。
『樹木……枝……草タイプ……つまり、葉っ◯カッター……いや、葉っぱガトリングだっ!!!』
『イーッ!』
パァンッ! パラパパパァンッ!
一斉に枝くんたちの背から、無数の葉状の刃が扇状に展開。
輝く葉の刃が空中に浮かぶ。
次の瞬間まるで森が爆ぜるかのような連携ガトリング攻撃が、フレイムベアの全身を削り始めた。
『よしっ、そのままたたみかけるように樹睡香だ!』
僕の合図で数体の枝くんたちが濃密なガスを散布する。
正直、見ているだけでも強烈な眠気を誘う超危険な魔法だ。
フレイムベアを包み、死の眠りへと誘う。
しかし。
「……愚羅ララァァァァ牙ァッ!」
大地を揺るがす咆哮。
空気が変わった。
耳が痛くなるほどの圧倒的な熱圧。
まるで大気そのものが、燃え始めたかのようだった。
フレイムベアの全身から、黒焔混じりの紅蓮が逆巻く。
「……なにこれ……」
気づけば、周囲一帯の草木が炎に包まれてた。
フィールドが書き換えられた。
にも関わらず“燃えていない”。
しかし炎は燃え続けている。
一体何を燃やしているんだ……?
この炎は一体……
ブヅッ。
「いづっ!?」
すると数体の枝くんとのパスが切れた。同時に数体の枝くんたちがしおしおと力を失って元の枝に戻った。
いや違う、この感覚は、焼き切れた?
『フレイムベアの纏う炎は魔力的作用を大幅に減衰させるからな』
その時、脳裏にプテュエラの言葉がよぎる。ニステルがフレイムベアを倒した、と言った時に笑って告げた事実。
つまり。
「……これがフレイムベアの魔法減衰領域!? 魔法そのものを燃やしてる……ってコト!?」
紅蓮の獣が展開したのは、“魔法そのものを燃やす”灼熱の領域だった。
ヒュンッ……。
枝くんたちの放った葉刃が、炎に届く前に一枚、また一枚と、空中で炭化していく。
そのすべてが、魔力を燃やされ剥がれ落ちている。
『……ギィィ……!?』
『ヤァァッ……! ヤ……アア……!』
混乱する枝くんたち。
背から展開していた葉刃が、展開したそばから発火し、弾け、燃え尽きて消える。
樹睡香ガスもあっという間に発火して、無害な気体へと変えられてしまった。
「まずいっ、完全に無効化されてる!」
目の前のフレイムベアが、ゆっくりとした足取りでこちらに迫ってくる。
その足元では、大地がジュウゥ、と音を立てて焦げ付いていた。
だけど、延焼はしていない。その灼熱は自分の住処である森を害さない。
(フレイムベアの炎は指向性。燃やす対象を自分の意志で選べる……)
まさに炎の覇者。
やつが一歩近づけば、僕は三歩後退する。とてもじゃないけどまともにやり合うなんてできない。
「……呼ォォォォオオオオ!」
燃え盛る胸部をパンパンになるまで空気を吸い込む。
──咆哮が来る!
四本腕が大きく開き、背中から異様な発光が走る。
ブン、ブン、ブゥン、ゥン、ヴゥゥン…………
フレイムベアを中心に魔力が渦を巻いて集まっていく。
本能が全力で警笛を鳴らした。
「いいいいいっ!? なんか溜めてる、ヤバいヤバいヤバいッ!!!」
熱が、光が、空気が、悲鳴を上げる。
灼熱が凝縮されていく。
そして――
「ッッ極牙アアアアァァァアアアア!!!!!」
炸裂した。
キュオオオオオオオォォンッ!
地獄のような轟音とともに、フレイムベアの顎から超高密度・超高温の火炎放射が放たれた。
直線上すべてを焼き尽くす、超火力の紅蓮光線が森を抉る。
“ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴオオオオッ!!!”
「うわああああああああああああ!!!???」
音だけで耳が破れそうになる。視界が白赤に染まる。
あれを直撃すれば、枝くんどころか僕も即蒸発だ!
「枝くんたち逃げてッ! 全員バラけ……ッ!」
……言い切る前に、ほとんどすべての枝くんが僕の前に飛び出した。
『ギィィ……ッ!!!』
『ヤァァァァア……!!』
全身を広げて、枝くんたちは自らを壁に変えた。
その表皮が、幹が、葉が、凄まじい熱波に焼かれて黒く、赤く、割れていく。
ボロッ……ボロボロッ……!
それでも、倒れない。
次の枝くんが飛び出す。さらにその次も。
僕を、守るために。
「だめだって!! そんな、そんなのできる体じゃ!」
『ギィ……ギ……ギッ……!』
片腕を焼かれた枝くんが、笑うような軋み音を残して、崩れ落ちる。
キュッ、ガォンッ!
決死の枝くんたちが壁になってくれたおかげで、紅蓮光線はその軌道変え、遠く彼方の茂みに着弾した。
地鳴りと衝撃音。超エネルギーが弾ける波動。
“ォォ……ォ……”
押しのけられた空気が風となってここまで吹いてきた。
(なんてこった、こっからでも見えるキノコ雲ができてるぞ……)
そんな最中。
燃える森、焼け落ちる仲間、その中で。
ひとつの道が、できていた。
『ギッ!』
僕を担いだ枝くん最後の二体が、振り返らず、猛ダッシュ。
炭化した仲間たちの上を必死に進む。
「うぅぅ……くそおおああああっ……ッ!!」
目の奥が焼ける。心が千切れそうだ。
でも、進まなきゃ。
彼らの命の上にできた道を、踏みしめて……。
ーー
「ケイ、枝くんたちは土に還っただけで死んでないですよ」
「え、えっ。そうなの?」
「はい。数日で土から元の木に戻っていき、吸収されるでしょう」
そのあとおっとり刀でやってきたシュレア。
暴れ狂うフレイムベアの顔を巨大化した樹木腕で無造作に掴むと、中から出てきた花柄ファンシーな触手が、熊さんの耳から侵入し、
「グチュグチュグチュ!」
っとブレインミキサーして呆気なく決着が着いた。
『イイーッ』
『ギーッ』
残った枝くんたちも、“心配すんなよ”と言わんばかりに枝を振った。
「うっ、うっ、よかった……僕のために犠牲になった枝くんはいなかったんだね……ううっ、うぐぐぅ……」
安心したら泣いてしまった。ふつーにガチ泣きだ。 そりゃまあ枝だけど、命を持って短い間でも戦った、戦友だ。
「な、泣かないでください」
シュレアは物凄く嫌な顔をして、とても嫌そうに僕の涙を拭いてくれた。
「うぅーっ、よかったあ」
「賢樹魔法を介して顕現した樹木たちがフレイムベアごときに、滅ぼされるわけがありません。あまり彼らを舐めないでください」
「うぅっ、ぺろぺろ」
「シュレアを舐めていい訳ではありません」
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ニステル……いつかこっちに来て、ガチモンのフレイムベアと戦ってみてほしいな。
「でも、となると……打つ手が無いよ」
「そんなことはありませんよ。よく思い出してください。フレイムベアに通じていた攻撃があったはずです」
えぇ、そんなのあったかな……。
腕を組んで悩むポーズをすると、枝くんたちが真似して、“考える枝”のポーズをとった。
「あっ、もしかして……最初の方でやった枝ビンタ?」
そう言えば、あれをやったあとフレイムベアは確かに足を止めていた。
「正解です。よく見ていましたね」
「え、で、でも。別にダメージは通っていなかったよ? ただ足止めしただけっていうか」
『『イィーッ!?』』
“足止めだけとはなんだ! だけとは!”と言わんばかりに抗議する枝くんズ。
「ろくに攻撃も通せない嫌な力しか持っていないのに、枝くんたちを軽んじないでください」
『『……ギィッ!』』
「謝ってください」
「ご、ごめん。雑魚人間の分際で、調子乗ってごめん」
『『ギッ!』』
“いいってことよ”と鷹揚に頷く。
なんか納得いかないけど話を戻す。
「ええっと、じゃあ物理的なダメージを与えていけばいいの?」
魔法が無理なら物理で殴る。自然の摂理だ。
「はい。亜人たちはみんな、基本的にそうしています。
ベステルタは拳で。
ラミアルカは土で。
サンドリアはよく知りませんが……。
シュレアも樹木で押しつぶしたり、薙ぎ払ったりしていますよ。まあ、シュレアは器用なのでもっといろんな倒し方ができますが」
ドヤシュレアだ。
「えっと、プテュエラは魔法でゴリ押すって言ってたよ?」
「……プテュエラは面倒くさがりのアホだから真似してはいけません」
ラミアルカに続きプテュエラもアホだったか……。
「いやまあ理屈は分かるよ。でも亜人にはできるだろうけど、僕は人間なんだよ。生まれながらの性能が違うっていうか」
「やはりケイは嫌な思考力しか持ち合わせていないようですね。誰かを忘れているようです」
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