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エンテラシア・アーミー
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シュレアのボタニカルおっぱいを堪能していると、不意に右手の甲がムズムズしてきた。なんだ?
「……ん?」
かゆい。なんか……中からこそばゆい感覚が、じわじわと広がっていく。
「え、なんか変な……あ、ちょ、ちょっと待っ」
ボコッ。
右手の甲が、ふくらんだ。
まるで中に何かが詰まって膨らんでくるような、植物の芽が皮膚の裏から押し上がってくるような感触。
でも、痛くはない。ただ、めちゃくちゃかゆい!
「かゆっ、ちょ、な、ああっ!?」
ポフンッ!
何かが、手の甲から“生えた”。
緑色の葉に包まれた、ちいさな“芽”のような膨らみ――
……いや、違う。これは……
「リンカ?」
芽が、もぞもぞと揺れる。
そして、葉の隙間から、リンカがにゅっと生えてきた。
にゅっ。
「あどっ」
「出たああ!?」
僕の手の甲に、完全にちっちゃいリンカが生えてる!
まるで土から双葉が芽吹くように、ちいさな頭が、僕の右腕から“生まれ出た”。
ちょうどお腹のところまでだけ、登場したリンカは、すりすりと僕の腕にその女神フェイスを擦り付けている。
「ま、まじかよ……僕の身体どうなっちゃってんだ……」
その顔は、間違いなくリンカだった。
淡い緑の髪がふわふわと揺れ、そこに絡む蔦が軽く光をまとっている。
瞳は森の奥を映すような深い翠。
そして、額にはちいさな樹芽の痕跡がきらきらと輝いていた。
彼女は、ちょこん、と僕の腕に座るような体勢で、にこっと笑った。
「……お……と……」
声はふわふわしていて、どこか途切れがちだった。
けれど、次の言葉は、しっかりと届いた。
「……樹父さま……おとーさま」
「え……お……おとーさま……?」
たどたどしくも、はっきりした言葉。
あどけなくも、成熟した声色。
リンカが、しゃべった……!
しかも、おとうさまって、どういうことだ?
「ケイと融合したことにより、位階が上がり知性も高まったようですね。樹父というのは、ケイの魔力で育ったようなものなので父のように感じるのでしょう」
まじか……まさか突然お父さんになるとはな。
「でもそれでいったら、シュレアの魔力も貰ってるんだよね? そしたら君は樹母ということにならない?」
「……シュレアの魔力は最低限でしたから」
「シュレアの魔力と僕の魔力で育ったんだから、つまり僕とシュレアはぐぼぉっ」
最後まで言わせてもらえず、樹木ビンタでインターセプトされた。枝角がぴかぴかと赤く点滅している。
「リンカ……でてきた……おとーさま、のなか、あったかくて……きもち、よかった……」
思ったよりリンカ喋ってくれるな。
でもその内容だと僕が受けっぽくて複雑な気持ちだ。
「うけ……?」
あ、やばい。思考までリンクしてるのか。下手なこと考えられないぞ。
「リンカ、おとーさまと、いっしょ」
神々しい女神系お姉様が、上目遣いでロリっぽく見てくる。
くうぅっ。このギャップと背徳感はやばい。
「……なで、して……? リンカ、うまれた、ごほうび……」
「う、うん……」
言われるがまま、僕は右腕からにゅっと生えているリンカの頭を、そっと撫でた。
蔦がさらりと揺れ、彼女は目を細めてうっとりする。
「……樹父さま……だいすき……やっと……会えた……」
樹木の霊性を宿したドライアドのリンカ。
その存在は、僕の中の魔力と自然の力が融合した結果、こうして形になった……ということなのだろうか。
「リンカと融合した気分はどうですか?」
「なんか……うまく言えないな。初めての感覚だから」
自分の中に別の存在が生まれ、同居している感覚なんて慣れようもない。
「いっしょ……いや?」
がーん、とショックを受けた顔をするリンカ。
「ち、ちがうちがう!」
「最低ですね。いたいけなリンカの心を弄んだ挙句捨てるなんて」
軽蔑した視線のシュレア。
「おとーさま、リンカすてる……」
リンカがしゅるしゅると腕の中に戻ろうとするのを慌てて引き止める。
「ちがうちがう! そんなつもりはなかったんだ。嬉しいよ、リンカと一緒で。ただ、僕はふつーの人間だからさ。いきなりリンカと一緒になって、びっくりしちゃったんだ」
「リンカといっしょ、きらい?」
あかん、目元を拭っている。泣かせてしまったのだろうか。
「きらいじゃない、好きだよ。リンカといっしょで嬉しいなあ!」
「じゃあ、ずっと、リンカといっしょ?」
「うん、いっしょだ。ずっといっしょ」
「ふへへ」
すると、リンカはまたボフンっと出てきて腕に頬ずりし始めた。あれ、涙が止まってる……。
「ケイ、リンカは泣いてなんていませんよ」
「え、そうなの?」
「あれは嘘泣きです。ケイの注意を引きたくてやったんです」
……マジ?
「リンカ、そうなの?」
「えへへ」
彼女は悪びれもせず無邪気に笑った。しかし、その笑みはさっきとは打って変わって妙に蠱惑的で、瞳にはゾクゾクする妖艶な色が灯っていた。
小さいけど、真っ赤な舌がちろりと覗いて緑色の唇を濡らす。
「精霊というのは気に入った生物に尽くす特性があります。中でもドライアドは、もっとも愛情深く、容赦の無い性格です。対象の気を引くためには手段を選びません」
そんな激重地雷精霊だったのかよ……。
「えへへ……おとーさまと、ずっと、いっしょ……えへへ……ふふ……」
ぐるん。
一瞬、リンカの目が真っ黒に裏返ったあと元に戻った。
こ、こわぁ……。
「だからケイはリンカの気持ちを裏切ってはいけませんよ」
「はい……あれ、さっきシュレア『リンカの気持ちを弄ぶなんて最低』って、焚き付けてなかった?」
「あれはちょっとした冗談です。ケイはユーモアセンスは壊滅的なので通じなかったのでしょう」
おいおい、僕ほどのユーモア持つ奴はデイライト見渡してもいないぞ。
「ちなみに融合とは言いましたが、完全に融合した訳ではありません。ケイが必要な時に力を貸せるように、場を整えただけです。仮住まいですね」
「あ、そうなんだ」
少しだけホッとする。亜人や他のみんなと繁ってる時に、ニュって出てきたらびっくりしちゃうからね。
「おとーさまの繁殖、みたい」
突然爆弾発言するリンカ。
「こ、こらこら。君は何を言ってるのかね」
「リンカ、おとーさまと、繁殖したい」
うるうる上目遣い、口を半開きにして、何かをなぞるように舌が蠢く。
この子……もう男の扱い方を心得てやがる……っ。
ここは毅然とした態度を取らなくては。
「リンカにはまだ早いよ、また今度ね」
「……ちっ」
「今舌打ちした?」
「してない」
ぷいっとそっぽを向いて“ずももぉ”っと腕の中に潜っていってしまった。
年頃のドライアドの扱い難しすぎる。
「くすくす」
振り返ると仏頂面のシュレア。
「ねえ、今笑った?」
「は? そんな訳無いでしょう。冗談は顔だけにしてください」
ひ、ひでぇ。
ーー
というわけで色々あったけどフレイムベア先輩の素材確保作戦開始だ。なるべく無傷で。
「話の途中になっちゃったけど、つまりリンカの力を借りて力ずくで確保するってことだよね?」
「そういうことです。リンカ自身が直接樹木を動かすことはできませんが、彼女の存在はより強いエンテラシアを動かすことに役立つでしょう。
枝くんたちは言わばドライアドは樹木系種族にとって、尊敬に値する存在なのです」
ふーむ、つまり“箔が付いた”ってことなのかな?
『えー、ケイとかいう人間の言う事聞くの業腹って感じ~』
『ねー、人間の言うことなんて聞いたら枯れちゃうよねー』
『キャハハー!』
『まてい! このリンカちゃんが目に入らぬか!』
『そ、それはぁっ!?』
『控えおろう! 控えおろう!』
『は、ははぁーっ!』
って感じか? そこまで権威的ではないか。
リンカと融合した僕はエンテラシアくんたちにとって、ずいぶんと話を聞きやすい存在になるんだろう。
「それでは実際にやってみましょう。ケイ、もう一度エンテラシアたちに語りかけてください。その時、リンカの存在を意識することを忘れずに」
「わかった、やってみるよ」
僕は深呼吸し、右手の甲にちょこんと乗っているリンカに目をやる。
彼女はこくんと頷いた。瞳が、そっと光を帯びる。僕も真面目にやらなければ。
(……あ、感じる)
性感帯の話じゃない。
僕の中に根を張る、彼女の存在。
芽吹いた命の鼓動と、無数の葉が囁きあう音。
それはもう、僕ひとりの魔法じゃない。
森そのものが、僕の腕を通して息をしている。
(これなら、いける。何をすればいいのか分かる!)
手を地に向け、魔力を流し込む。
「応えろ……エンテラシアッ!」
ズズズ……ッ!
地面が、揺れた。
これまでの“枝くん”たちとは段違いの重厚な脈動が、大地を伝って僕の身体に返ってくる。
バキバキバキッ!!!
大地が裂け、盛り上がり、
ズゥウゥン……!!
──巨木が、立ち上がった。
根をうねらせ、幹を軋ませながら、
一本の“生きた樹木”が、僕の呼びかけに応じて現れた。
「こ、これが……エンテラシア……」
高さは三階建ての建物ほど。フレイムベアよりもずっと大きい。
全身が節だらけの幹で構成されており、腕のような太枝が左右に伸びている。
幹の正面には、顔にも見える節穴が並び、そこに翠の光が灯っていた。
『……ギュゥ……ウオオ……オ……』
低く、地鳴りのような声。
枝くんたちのような軽やかさはない。
代わりにこの存在は、森の守護者のような神威を放っていた。
そして頭の中に彼の種族名が流れ込んでくる。
『エンテラシア・ドレイデン《騎士樹》』
う、うおおおっ。騎士階級の樹木くんだ。やべえ、かっけぇ。指◯物語に出てくるやつじゃん。
「あどあっ。おとーさま、まだ、みんな協力してくれるって」
リンカがぽすぽすと腕を叩いて教えてくれる。
まじか、リンカパワーすごい。僕だけの時と全然違うじゃん。
「わかった、ありがとうリンカ。さすがだね」
「えへへ、あどあどぉ」
照れるリンカをなでなでしてさらにエンテラシアを呼ぶ。
「よぉし、じゃあ応えてくれるエンテラシア、みんな来てくれっ!」
叫んだその瞬間、森が鳴動した。
地鳴りが広がる。
大地が震え、木々がざわめき、風が唸る。
ズズズズ……ッ!!!
まず、幹のような巨躯が土中からせり上がる。
「うおっ……でっか……!」
エンテラシア・トルンクス《幹兵》、五体が、顕現した。
ドレイデン型よりは二回りほど小さいがそれでも巨大で、全員が太く重い体躯を持ち、両腕を合わせるとタワーシールドのように変形できる。
足元には根を這わせて地面といつでも一体化できそうだ。
無言のまま、彼らはドレイデンの両脇に整列し、前衛を固めた。
続いて。
パサッ、パサパサパサパサパサ……!!
森のあちこちから、小さな足音と枝の音。
木の幹の陰、地の裂け目、草の間から、次々と人影のようなものが飛び出してくる。
(枝くん! いや、違う。彼らの本当の名前は……)
ブランチャー《枝兵》、三十体、集結。
軽快に跳ね回りながらも、一斉に隊列を取り、トランクスの背後で膝をついて構えを取る。
彼らの枝の腕には、既に“魔力を帯びた葉刃”が握られていた。
そして最後に。
ひゅるるるるるっ……!!
空から、光の粒が舞い降りる。
それはまるで綿毛のように小さく、ふわふわとしていたが。
地に落ちた瞬間、一斉に形を変えた。
リーフェン《葉兵》、百体、展開。
(枝くんよりも小さいエンテラシアがいたのか……でも、すごい数だ)
ちいさな芽のような姿。
葉っぱの羽根を揺らして、空中に浮かんだまま全方位への索敵陣形を取る。
その一体一体が、小さくも明確な意思を持って飛んでいるのがわかる。
声なき“自然の軍勢”──エンテラシア・アーミーが、陣形を成したのだ。
「うわっ……うわっ……これ、ほんとに……僕が、呼んだのか……」
足元から背中まで、ゾクッと総毛立つ。
この森の命が、今──
僕とリンカの声に応え、戦いの構えを取っている。
「おとーさま、みんな、やるき」
リンカがむんっと力こぶを作るポーズを取る。
これなら勝てる。この荘厳にして偉大な自然の軍団なら。
「……うおおおおっ、フレイムベアがなんぼのもんじゃーーーーい!」
僕が吠えると、
『ギュ、オオオオッ!』
『ギオオオオオッン!』
『ギギギギィィィッ!』
『………ッ!』
ドレイデンの幹がうなるように唸り、トランクスたちが枝の盾を構えた。
枝くんたちは低く跳ねて戦列を整え、リーフレットたちが風に舞う。
「ガッ!? ……愚雄オオオオオッ!」
僕らの存在に気付いたフレイムベアが驚きつつも、すぐに臨戦態勢に入り突進してくる。
やば、作戦とか考えてないぞ。
『まずはドレイデンくんがぶつかって……うーん、あとは流れで!』
めっちゃ適当な指示にもギュオオッと頼もしい声。
『いくぞおおおおっ! やる樹、げん樹、勝ちど樹ィィィィイイイイッ!』
『『『ギュオオオオオオオッ!』』』
いくぞっ! 今度は負けない!
《絶死の森の炎の覇者フレイムベア》
VS
《タネズ大明神と愉快なエンテラシア・アーミー》
ファイッ!
「……ん?」
かゆい。なんか……中からこそばゆい感覚が、じわじわと広がっていく。
「え、なんか変な……あ、ちょ、ちょっと待っ」
ボコッ。
右手の甲が、ふくらんだ。
まるで中に何かが詰まって膨らんでくるような、植物の芽が皮膚の裏から押し上がってくるような感触。
でも、痛くはない。ただ、めちゃくちゃかゆい!
「かゆっ、ちょ、な、ああっ!?」
ポフンッ!
何かが、手の甲から“生えた”。
緑色の葉に包まれた、ちいさな“芽”のような膨らみ――
……いや、違う。これは……
「リンカ?」
芽が、もぞもぞと揺れる。
そして、葉の隙間から、リンカがにゅっと生えてきた。
にゅっ。
「あどっ」
「出たああ!?」
僕の手の甲に、完全にちっちゃいリンカが生えてる!
まるで土から双葉が芽吹くように、ちいさな頭が、僕の右腕から“生まれ出た”。
ちょうどお腹のところまでだけ、登場したリンカは、すりすりと僕の腕にその女神フェイスを擦り付けている。
「ま、まじかよ……僕の身体どうなっちゃってんだ……」
その顔は、間違いなくリンカだった。
淡い緑の髪がふわふわと揺れ、そこに絡む蔦が軽く光をまとっている。
瞳は森の奥を映すような深い翠。
そして、額にはちいさな樹芽の痕跡がきらきらと輝いていた。
彼女は、ちょこん、と僕の腕に座るような体勢で、にこっと笑った。
「……お……と……」
声はふわふわしていて、どこか途切れがちだった。
けれど、次の言葉は、しっかりと届いた。
「……樹父さま……おとーさま」
「え……お……おとーさま……?」
たどたどしくも、はっきりした言葉。
あどけなくも、成熟した声色。
リンカが、しゃべった……!
しかも、おとうさまって、どういうことだ?
「ケイと融合したことにより、位階が上がり知性も高まったようですね。樹父というのは、ケイの魔力で育ったようなものなので父のように感じるのでしょう」
まじか……まさか突然お父さんになるとはな。
「でもそれでいったら、シュレアの魔力も貰ってるんだよね? そしたら君は樹母ということにならない?」
「……シュレアの魔力は最低限でしたから」
「シュレアの魔力と僕の魔力で育ったんだから、つまり僕とシュレアはぐぼぉっ」
最後まで言わせてもらえず、樹木ビンタでインターセプトされた。枝角がぴかぴかと赤く点滅している。
「リンカ……でてきた……おとーさま、のなか、あったかくて……きもち、よかった……」
思ったよりリンカ喋ってくれるな。
でもその内容だと僕が受けっぽくて複雑な気持ちだ。
「うけ……?」
あ、やばい。思考までリンクしてるのか。下手なこと考えられないぞ。
「リンカ、おとーさまと、いっしょ」
神々しい女神系お姉様が、上目遣いでロリっぽく見てくる。
くうぅっ。このギャップと背徳感はやばい。
「……なで、して……? リンカ、うまれた、ごほうび……」
「う、うん……」
言われるがまま、僕は右腕からにゅっと生えているリンカの頭を、そっと撫でた。
蔦がさらりと揺れ、彼女は目を細めてうっとりする。
「……樹父さま……だいすき……やっと……会えた……」
樹木の霊性を宿したドライアドのリンカ。
その存在は、僕の中の魔力と自然の力が融合した結果、こうして形になった……ということなのだろうか。
「リンカと融合した気分はどうですか?」
「なんか……うまく言えないな。初めての感覚だから」
自分の中に別の存在が生まれ、同居している感覚なんて慣れようもない。
「いっしょ……いや?」
がーん、とショックを受けた顔をするリンカ。
「ち、ちがうちがう!」
「最低ですね。いたいけなリンカの心を弄んだ挙句捨てるなんて」
軽蔑した視線のシュレア。
「おとーさま、リンカすてる……」
リンカがしゅるしゅると腕の中に戻ろうとするのを慌てて引き止める。
「ちがうちがう! そんなつもりはなかったんだ。嬉しいよ、リンカと一緒で。ただ、僕はふつーの人間だからさ。いきなりリンカと一緒になって、びっくりしちゃったんだ」
「リンカといっしょ、きらい?」
あかん、目元を拭っている。泣かせてしまったのだろうか。
「きらいじゃない、好きだよ。リンカといっしょで嬉しいなあ!」
「じゃあ、ずっと、リンカといっしょ?」
「うん、いっしょだ。ずっといっしょ」
「ふへへ」
すると、リンカはまたボフンっと出てきて腕に頬ずりし始めた。あれ、涙が止まってる……。
「ケイ、リンカは泣いてなんていませんよ」
「え、そうなの?」
「あれは嘘泣きです。ケイの注意を引きたくてやったんです」
……マジ?
「リンカ、そうなの?」
「えへへ」
彼女は悪びれもせず無邪気に笑った。しかし、その笑みはさっきとは打って変わって妙に蠱惑的で、瞳にはゾクゾクする妖艶な色が灯っていた。
小さいけど、真っ赤な舌がちろりと覗いて緑色の唇を濡らす。
「精霊というのは気に入った生物に尽くす特性があります。中でもドライアドは、もっとも愛情深く、容赦の無い性格です。対象の気を引くためには手段を選びません」
そんな激重地雷精霊だったのかよ……。
「えへへ……おとーさまと、ずっと、いっしょ……えへへ……ふふ……」
ぐるん。
一瞬、リンカの目が真っ黒に裏返ったあと元に戻った。
こ、こわぁ……。
「だからケイはリンカの気持ちを裏切ってはいけませんよ」
「はい……あれ、さっきシュレア『リンカの気持ちを弄ぶなんて最低』って、焚き付けてなかった?」
「あれはちょっとした冗談です。ケイはユーモアセンスは壊滅的なので通じなかったのでしょう」
おいおい、僕ほどのユーモア持つ奴はデイライト見渡してもいないぞ。
「ちなみに融合とは言いましたが、完全に融合した訳ではありません。ケイが必要な時に力を貸せるように、場を整えただけです。仮住まいですね」
「あ、そうなんだ」
少しだけホッとする。亜人や他のみんなと繁ってる時に、ニュって出てきたらびっくりしちゃうからね。
「おとーさまの繁殖、みたい」
突然爆弾発言するリンカ。
「こ、こらこら。君は何を言ってるのかね」
「リンカ、おとーさまと、繁殖したい」
うるうる上目遣い、口を半開きにして、何かをなぞるように舌が蠢く。
この子……もう男の扱い方を心得てやがる……っ。
ここは毅然とした態度を取らなくては。
「リンカにはまだ早いよ、また今度ね」
「……ちっ」
「今舌打ちした?」
「してない」
ぷいっとそっぽを向いて“ずももぉ”っと腕の中に潜っていってしまった。
年頃のドライアドの扱い難しすぎる。
「くすくす」
振り返ると仏頂面のシュレア。
「ねえ、今笑った?」
「は? そんな訳無いでしょう。冗談は顔だけにしてください」
ひ、ひでぇ。
ーー
というわけで色々あったけどフレイムベア先輩の素材確保作戦開始だ。なるべく無傷で。
「話の途中になっちゃったけど、つまりリンカの力を借りて力ずくで確保するってことだよね?」
「そういうことです。リンカ自身が直接樹木を動かすことはできませんが、彼女の存在はより強いエンテラシアを動かすことに役立つでしょう。
枝くんたちは言わばドライアドは樹木系種族にとって、尊敬に値する存在なのです」
ふーむ、つまり“箔が付いた”ってことなのかな?
『えー、ケイとかいう人間の言う事聞くの業腹って感じ~』
『ねー、人間の言うことなんて聞いたら枯れちゃうよねー』
『キャハハー!』
『まてい! このリンカちゃんが目に入らぬか!』
『そ、それはぁっ!?』
『控えおろう! 控えおろう!』
『は、ははぁーっ!』
って感じか? そこまで権威的ではないか。
リンカと融合した僕はエンテラシアくんたちにとって、ずいぶんと話を聞きやすい存在になるんだろう。
「それでは実際にやってみましょう。ケイ、もう一度エンテラシアたちに語りかけてください。その時、リンカの存在を意識することを忘れずに」
「わかった、やってみるよ」
僕は深呼吸し、右手の甲にちょこんと乗っているリンカに目をやる。
彼女はこくんと頷いた。瞳が、そっと光を帯びる。僕も真面目にやらなければ。
(……あ、感じる)
性感帯の話じゃない。
僕の中に根を張る、彼女の存在。
芽吹いた命の鼓動と、無数の葉が囁きあう音。
それはもう、僕ひとりの魔法じゃない。
森そのものが、僕の腕を通して息をしている。
(これなら、いける。何をすればいいのか分かる!)
手を地に向け、魔力を流し込む。
「応えろ……エンテラシアッ!」
ズズズ……ッ!
地面が、揺れた。
これまでの“枝くん”たちとは段違いの重厚な脈動が、大地を伝って僕の身体に返ってくる。
バキバキバキッ!!!
大地が裂け、盛り上がり、
ズゥウゥン……!!
──巨木が、立ち上がった。
根をうねらせ、幹を軋ませながら、
一本の“生きた樹木”が、僕の呼びかけに応じて現れた。
「こ、これが……エンテラシア……」
高さは三階建ての建物ほど。フレイムベアよりもずっと大きい。
全身が節だらけの幹で構成されており、腕のような太枝が左右に伸びている。
幹の正面には、顔にも見える節穴が並び、そこに翠の光が灯っていた。
『……ギュゥ……ウオオ……オ……』
低く、地鳴りのような声。
枝くんたちのような軽やかさはない。
代わりにこの存在は、森の守護者のような神威を放っていた。
そして頭の中に彼の種族名が流れ込んでくる。
『エンテラシア・ドレイデン《騎士樹》』
う、うおおおっ。騎士階級の樹木くんだ。やべえ、かっけぇ。指◯物語に出てくるやつじゃん。
「あどあっ。おとーさま、まだ、みんな協力してくれるって」
リンカがぽすぽすと腕を叩いて教えてくれる。
まじか、リンカパワーすごい。僕だけの時と全然違うじゃん。
「わかった、ありがとうリンカ。さすがだね」
「えへへ、あどあどぉ」
照れるリンカをなでなでしてさらにエンテラシアを呼ぶ。
「よぉし、じゃあ応えてくれるエンテラシア、みんな来てくれっ!」
叫んだその瞬間、森が鳴動した。
地鳴りが広がる。
大地が震え、木々がざわめき、風が唸る。
ズズズズ……ッ!!!
まず、幹のような巨躯が土中からせり上がる。
「うおっ……でっか……!」
エンテラシア・トルンクス《幹兵》、五体が、顕現した。
ドレイデン型よりは二回りほど小さいがそれでも巨大で、全員が太く重い体躯を持ち、両腕を合わせるとタワーシールドのように変形できる。
足元には根を這わせて地面といつでも一体化できそうだ。
無言のまま、彼らはドレイデンの両脇に整列し、前衛を固めた。
続いて。
パサッ、パサパサパサパサパサ……!!
森のあちこちから、小さな足音と枝の音。
木の幹の陰、地の裂け目、草の間から、次々と人影のようなものが飛び出してくる。
(枝くん! いや、違う。彼らの本当の名前は……)
ブランチャー《枝兵》、三十体、集結。
軽快に跳ね回りながらも、一斉に隊列を取り、トランクスの背後で膝をついて構えを取る。
彼らの枝の腕には、既に“魔力を帯びた葉刃”が握られていた。
そして最後に。
ひゅるるるるるっ……!!
空から、光の粒が舞い降りる。
それはまるで綿毛のように小さく、ふわふわとしていたが。
地に落ちた瞬間、一斉に形を変えた。
リーフェン《葉兵》、百体、展開。
(枝くんよりも小さいエンテラシアがいたのか……でも、すごい数だ)
ちいさな芽のような姿。
葉っぱの羽根を揺らして、空中に浮かんだまま全方位への索敵陣形を取る。
その一体一体が、小さくも明確な意思を持って飛んでいるのがわかる。
声なき“自然の軍勢”──エンテラシア・アーミーが、陣形を成したのだ。
「うわっ……うわっ……これ、ほんとに……僕が、呼んだのか……」
足元から背中まで、ゾクッと総毛立つ。
この森の命が、今──
僕とリンカの声に応え、戦いの構えを取っている。
「おとーさま、みんな、やるき」
リンカがむんっと力こぶを作るポーズを取る。
これなら勝てる。この荘厳にして偉大な自然の軍団なら。
「……うおおおおっ、フレイムベアがなんぼのもんじゃーーーーい!」
僕が吠えると、
『ギュ、オオオオッ!』
『ギオオオオオッン!』
『ギギギギィィィッ!』
『………ッ!』
ドレイデンの幹がうなるように唸り、トランクスたちが枝の盾を構えた。
枝くんたちは低く跳ねて戦列を整え、リーフレットたちが風に舞う。
「ガッ!? ……愚雄オオオオオッ!」
僕らの存在に気付いたフレイムベアが驚きつつも、すぐに臨戦態勢に入り突進してくる。
やば、作戦とか考えてないぞ。
『まずはドレイデンくんがぶつかって……うーん、あとは流れで!』
めっちゃ適当な指示にもギュオオッと頼もしい声。
『いくぞおおおおっ! やる樹、げん樹、勝ちど樹ィィィィイイイイッ!』
『『『ギュオオオオオオオッ!』』』
いくぞっ! 今度は負けない!
《絶死の森の炎の覇者フレイムベア》
VS
《タネズ大明神と愉快なエンテラシア・アーミー》
ファイッ!
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何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
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