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樹魔法
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窪みの前に座り込んで考える。
それにしてもどう浄化したもんかな。
この前は何となくでやってしまったけど、特に魔素溜まりがあるって知っていた訳じゃないからね。うーん、困った。
「何か問題が?」
平坦な声で訊いてくる。冷たい目で見下ろされるとぶるっちまうぜ。
「よく考えてみたら魔素溜まりをどう見つければいいか分からないんだ」
「ああ、そういうことですか。では、少し早いですが樹魔法の使い方を教えましょう。力の感じ方は分かりますね?」
目を閉じて契約した亜人を選んで力をセットする……何かゲームっぽいな。いや、なまじゲームという概念を知っているからそう感じるんだろうね。
シュレアの力をセットした。
途端に身体を、涼しくて心地よい、けれども力に満ち溢れた波動が駆け抜ける。うわ、すごいな。なんだろう、生命の脈動っていうのかな。うまく言えないんだけどすごく清らかだ。小川の側とか、滝の近く、苔むした倒木。マイナスイオンかな? そういう自然で包み込む力を感じる。
シュレアって一見して冷たそうだけど、この力を感じればそうじゃないって分かる。こんなに生命を慈しんで包み込む気配を持っている存在が、冷たい心の持ち主な訳がないよ。
「もういいですか?」
早くしろよ、と言っているような声色。へいへい。
「大丈夫だよ」
「そうですか。では、その力を植物に流すイメージを。最初は樹が良いかもしれません。そのまま力を全体に張り巡らして、樹木の気配を感じてあげて。やり方はお任せしますが具体的な方が良いです」
樹に流し込むイメージ……。
草だとちょっと小さいのかもね。上級者向けだ。
僕は周りを見渡して、窪みの近くに生えている小さな木に手を当てた。
樹魔法の力を流し込む。
気配を感じて、張り巡らす……。
ああ、気配ってこれか。この暖かいようなひんやりしているような、僕を拒まない、柔らかな気配。
すごいな、これが樹木の気配。樹魔法か。こんな尊い気配が僕の回りにはたくさんあったのか。自然って偉大だな。
(……)
あれ、何かこっちを見ている? 気がする。
挨拶してみるか。
よっ。
(……)
あ、なんか返事してくれた気がする。でも何か元気がない? ような。シュレアに訊いてみよう。
「シュレア、もしかしてここら辺の樹って元気ない?」
「もうそこまで分かるんですか?
はい、確かにこの辺りの草木たちは元気がないです。魔素溜まりの影響ですね」
シュレアは驚いたように言った。ふふ、ちょっとは良いところ見せられたかな。
「少しだけね。彼らの清浄な気配が分かるんだ。樹魔法ってすごいね」
「……ええ。樹魔法は素晴らしいです」
シュレアがぎこちなく、にこりと笑った。
………はっ!
いかん、唐突過ぎて気絶してた。
僕の可愛さキャパシティをぶっちぎってきた。
それは反則だよ。普段無愛想な子が向けるいきなりの笑顔はリーサルウェポンだよ。世界平和だ。種の繁栄だ。
「何しているんですか。早くしてください」
次の瞬間には不機嫌そうになっているシュレア。ああ……もう終わってしまった。しかし、その儚さが、いとおかし。
込めた力を張り巡らす。
そうだ、この樹にも手伝ってくれるか訊いてみよう。
(魔素溜まりを浄化したいんだ。手伝ってくれるかい?)
(……)
うーん、たぶん肯定してくれたと思う。
あっ、力の流れがスムーズになった。すごい、地面の形とか周囲の地形が手に取るように分かる。なるほど、限定的に探知ができるのか。これはすごい。
「どうやらできたようですね。
樹魔法は草木の力を借り、大地に張り巡らすことで、あらゆる存在を精密に知覚できるのです」
すげえ。樹魔法便利だな。
と言うことは、この深くにある粘っこい嫌な存在が魔素溜まりか。うえー、こんなのが自分の下にあったらそりゃ元気無くすわ。早く浄化してあげよう。
「よし、浄化」
一瞬、樹魔法したまま浄化できるか不安がよぎったけど問題なく発動した。
シュワァー……。
おお、土と根っ子を通して魔素溜まりが無くなっていく感触が伝わる。気持ち悪さも減っていくなぁ。よかった。この前みたいな頭痛は無い。やっぱり魔素の程度にもよるんだな。この前の頑固だったもん。
(……、……)
何かこの子も言ってくれている気がする。喜んでくれているといいな。
「魔素溜まりが消え去りましたね。見事です」
シュレアが褒めてくれた。うーん、嬉しい。繁りたい。弟になりたい。
「周りを見てください。樹魔法が使えるようになったなら分かるでしょう?」
「あっ、本当だ」
見渡すと植物たちの様子が変わっていた。なんというか、気持ち良さそうにしている。どんよりした雰囲気が無い。心なしか色ツヤも良くなり、明るくなった気がする。
こういう目に見えて結果が得られるのは嬉しいな。
会社じゃ目的なんて分からずに働いていた。もちろん、そうじゃない人もいるだろうけどね。
(……、……)
ん? さっきの木が何か言っている。でも聞き取れない。シュレアに訊いてみよう。
「シュレア、この子何て言っているか分かる?」
「……普通、あまり樹木から話しかけることはないのですが。まあ、聞いてみましょう。ふむ」
シュレアは対面に座り込み手を当て目をつむる。
ちょ、スカートで対面に座るのはよくないです。いろいろと見えてます。けっこう無防備だな。あー、かわいい。
「なるほど。どうやらこの子はケイに連れ帰って欲しいようです。この子くらいの大きさで、ここまで意志があるのは珍しいですね」
やっぱり珍しかったんだ。そうだよね。少し個性みたいの感じたもん。
うーん、それにしても連れ帰って欲しいか。つまり植林ってこと? 大丈夫なのかなそれって。ノウハウとか分からないけど。分かりそうな人に訊いてしまえっ。
「シュレア、連れ帰ってもいいんだけど植え替えるってことだよね? お願いしてもいいかな?」
「もちろんです。樹木、植物たちの意志を汲むのも『賢樹』として当然の勤めなので」
相変わらず冷淡な口振りだけど、優しげな印象がある。やっぱりシュレアの樹魔法に触れたからかな。ベステルタの時もパスみたいのが通って、気持ちが伝わってきたし、個人差はあるけど意思疏通が図りやすくなるのかもね。
「ふむ、となると家周辺を広範囲に浄化する必要がありますね。いいですか?」
「問題無いよ」
どのみちこの先も開拓や整地をするつもりだしね。そこまで労力もかからない。シュレアの契約にも合致する。樹魔法覚えたから捗りそうだしね。
ん、捗る……?
ピコーン!
あっ、思い出した。ていうか閃いた。めちゃくちゃ重要なことだ。
「ねえ、シュレアって野菜育てられる?」
ていうか野菜って言って分かるかな。いや。それは侮りすぎか。
「野菜を育てるのですか!?」
うおっ、思った以上の反応だ。ああっ、ふわふわの小山がっ。いい匂いがっ。甘い蜜はありませんかっ。うおォン、僕はまるで変態人間カブトムシだ。
「う、うん。僕は肉も好きだけど野菜が「作りましょう、育てましょう!」好きなんだうわっ」
ぎゆっ。ぎゅっ。
両手を力強く握られる。何か体温が高いぞ。目も爛々している。そんなに嬉しかったのか。
あー、ボサボサの髪の毛が乱れてる。櫛でとかしてあげたい。枝角はぴかぴか点滅を通り越してぺかーっ、と常時光っている。
「シュレアは野菜が好きなの?」
「だいすこ、大好きです」
すごい可愛い噛み方したな。僕もシュレアに大好きって言われたい。
見ると不健康クールな表情が少し気色ばんでいる。
「昔母が亡くなる前に、魔素に侵されていない丸々膨れたトマトという野菜を食べました。あの味が忘れられません。それから綺麗なトマトや野菜を探しましたが、どれも魔素まみれ。それでもシュレアは食べました。苦く渋く、食べると気分が悪くなりましたが、それでも少しだけ、穢れる前の味がしました。今までろくな野菜を食べられなかったのです」
早口だ。喋り慣れていないのか、めっちゃ唾が飛んでくる。ここで顔を拭くような愚行は犯さない。貴重な森の恵みだ。後で全身に塗りたくろう。
「トマトなら浄化したやつがあるよ、ほら」
「こ、これは」
以前プテュエラと採りに行って未だに使ってないやつだ。もちろん、ほぼ時間停止の鞄だから新鮮。
「く、くださ「料理に使おうと思ってたんだよね」えっ?」
トマトを凝視していたシュレアが、戸惑いの声を上げる。
「あっ今食べるなら「いえ、料理に使って下さい」えっ?」
戸惑いの声を上げる僕。
ふぅー、とシュレアは大きく息を吐いた。あれ、いいのかな。
「失礼、取り乱しました。貴重なトマトは是非とも料理に使って下さい」
「貴重も何もたくさんあるんだけど……」
「くっ」
何かお預け食らったプテュエラみたいな反応だ。料理と言っても器具が無いからサラダぐらいしかできなさそうだし。
「それならやっぱり育てようよ、野菜。いつでもたくさん食べられるよ。シュレアは植物に詳しいだろうし、手伝ってよ。僕も食べたいんだ」
ベステルタたちはそれほどでもないかもしれないけど、僕としては野菜を食べたい。やっぱり肉と野菜のバランスだよ。
「……分かりました。ではそれも契約に追加しましょう」
まーた、契約か。いやいいんだけどさ。何か面白い契約付け足しちゃおうかな。
「ならシュレアは野菜部部長ね」
異世界で部活動。僕が初めてなんじゃない?
「なんですかそれは」
不審げな眼差しだ。目付き悪っ。
「野菜の育成、収穫、料理関係を取り仕切る責任者だよ。部員は僕で」
ま、部長だしもっと楽しいことに重きを置いて欲しいんだけどね。ベステルタたちもそうだけど、シュレアは特に働き詰めだったみたいだし。もっと楽しんで欲しい。もちろん僕が楽しむためでもあるけどね。
「責任者……なんて甘美な響きなのでしょうか」
ええ……シュレアそれは社畜の考えだよ。もっと楽しんでくれよ。
「分かりました。部長の称号、慎んで拝命しましょう」
「うん、まあ、よろしくね」
という訳で絶死の森野菜部が発足したのだった。すごい字面だな。
その後、対価を払うと言ってきたので、繁っている時に森の恵みを吐き掛けて欲しい、と言おうと思ったが、本当に嫌われそうなので止めた。その代わり繁り時の口内ケアをたくさんお願いした。めちゃくちゃ嫌そうな顔してた。満足。
「野菜を育てるためにも、もっと力に慣れないといけませんね。ダークエイプで訓練しますよ」
ああっ! 墓穴掘った!
それにしてもどう浄化したもんかな。
この前は何となくでやってしまったけど、特に魔素溜まりがあるって知っていた訳じゃないからね。うーん、困った。
「何か問題が?」
平坦な声で訊いてくる。冷たい目で見下ろされるとぶるっちまうぜ。
「よく考えてみたら魔素溜まりをどう見つければいいか分からないんだ」
「ああ、そういうことですか。では、少し早いですが樹魔法の使い方を教えましょう。力の感じ方は分かりますね?」
目を閉じて契約した亜人を選んで力をセットする……何かゲームっぽいな。いや、なまじゲームという概念を知っているからそう感じるんだろうね。
シュレアの力をセットした。
途端に身体を、涼しくて心地よい、けれども力に満ち溢れた波動が駆け抜ける。うわ、すごいな。なんだろう、生命の脈動っていうのかな。うまく言えないんだけどすごく清らかだ。小川の側とか、滝の近く、苔むした倒木。マイナスイオンかな? そういう自然で包み込む力を感じる。
シュレアって一見して冷たそうだけど、この力を感じればそうじゃないって分かる。こんなに生命を慈しんで包み込む気配を持っている存在が、冷たい心の持ち主な訳がないよ。
「もういいですか?」
早くしろよ、と言っているような声色。へいへい。
「大丈夫だよ」
「そうですか。では、その力を植物に流すイメージを。最初は樹が良いかもしれません。そのまま力を全体に張り巡らして、樹木の気配を感じてあげて。やり方はお任せしますが具体的な方が良いです」
樹に流し込むイメージ……。
草だとちょっと小さいのかもね。上級者向けだ。
僕は周りを見渡して、窪みの近くに生えている小さな木に手を当てた。
樹魔法の力を流し込む。
気配を感じて、張り巡らす……。
ああ、気配ってこれか。この暖かいようなひんやりしているような、僕を拒まない、柔らかな気配。
すごいな、これが樹木の気配。樹魔法か。こんな尊い気配が僕の回りにはたくさんあったのか。自然って偉大だな。
(……)
あれ、何かこっちを見ている? 気がする。
挨拶してみるか。
よっ。
(……)
あ、なんか返事してくれた気がする。でも何か元気がない? ような。シュレアに訊いてみよう。
「シュレア、もしかしてここら辺の樹って元気ない?」
「もうそこまで分かるんですか?
はい、確かにこの辺りの草木たちは元気がないです。魔素溜まりの影響ですね」
シュレアは驚いたように言った。ふふ、ちょっとは良いところ見せられたかな。
「少しだけね。彼らの清浄な気配が分かるんだ。樹魔法ってすごいね」
「……ええ。樹魔法は素晴らしいです」
シュレアがぎこちなく、にこりと笑った。
………はっ!
いかん、唐突過ぎて気絶してた。
僕の可愛さキャパシティをぶっちぎってきた。
それは反則だよ。普段無愛想な子が向けるいきなりの笑顔はリーサルウェポンだよ。世界平和だ。種の繁栄だ。
「何しているんですか。早くしてください」
次の瞬間には不機嫌そうになっているシュレア。ああ……もう終わってしまった。しかし、その儚さが、いとおかし。
込めた力を張り巡らす。
そうだ、この樹にも手伝ってくれるか訊いてみよう。
(魔素溜まりを浄化したいんだ。手伝ってくれるかい?)
(……)
うーん、たぶん肯定してくれたと思う。
あっ、力の流れがスムーズになった。すごい、地面の形とか周囲の地形が手に取るように分かる。なるほど、限定的に探知ができるのか。これはすごい。
「どうやらできたようですね。
樹魔法は草木の力を借り、大地に張り巡らすことで、あらゆる存在を精密に知覚できるのです」
すげえ。樹魔法便利だな。
と言うことは、この深くにある粘っこい嫌な存在が魔素溜まりか。うえー、こんなのが自分の下にあったらそりゃ元気無くすわ。早く浄化してあげよう。
「よし、浄化」
一瞬、樹魔法したまま浄化できるか不安がよぎったけど問題なく発動した。
シュワァー……。
おお、土と根っ子を通して魔素溜まりが無くなっていく感触が伝わる。気持ち悪さも減っていくなぁ。よかった。この前みたいな頭痛は無い。やっぱり魔素の程度にもよるんだな。この前の頑固だったもん。
(……、……)
何かこの子も言ってくれている気がする。喜んでくれているといいな。
「魔素溜まりが消え去りましたね。見事です」
シュレアが褒めてくれた。うーん、嬉しい。繁りたい。弟になりたい。
「周りを見てください。樹魔法が使えるようになったなら分かるでしょう?」
「あっ、本当だ」
見渡すと植物たちの様子が変わっていた。なんというか、気持ち良さそうにしている。どんよりした雰囲気が無い。心なしか色ツヤも良くなり、明るくなった気がする。
こういう目に見えて結果が得られるのは嬉しいな。
会社じゃ目的なんて分からずに働いていた。もちろん、そうじゃない人もいるだろうけどね。
(……、……)
ん? さっきの木が何か言っている。でも聞き取れない。シュレアに訊いてみよう。
「シュレア、この子何て言っているか分かる?」
「……普通、あまり樹木から話しかけることはないのですが。まあ、聞いてみましょう。ふむ」
シュレアは対面に座り込み手を当て目をつむる。
ちょ、スカートで対面に座るのはよくないです。いろいろと見えてます。けっこう無防備だな。あー、かわいい。
「なるほど。どうやらこの子はケイに連れ帰って欲しいようです。この子くらいの大きさで、ここまで意志があるのは珍しいですね」
やっぱり珍しかったんだ。そうだよね。少し個性みたいの感じたもん。
うーん、それにしても連れ帰って欲しいか。つまり植林ってこと? 大丈夫なのかなそれって。ノウハウとか分からないけど。分かりそうな人に訊いてしまえっ。
「シュレア、連れ帰ってもいいんだけど植え替えるってことだよね? お願いしてもいいかな?」
「もちろんです。樹木、植物たちの意志を汲むのも『賢樹』として当然の勤めなので」
相変わらず冷淡な口振りだけど、優しげな印象がある。やっぱりシュレアの樹魔法に触れたからかな。ベステルタの時もパスみたいのが通って、気持ちが伝わってきたし、個人差はあるけど意思疏通が図りやすくなるのかもね。
「ふむ、となると家周辺を広範囲に浄化する必要がありますね。いいですか?」
「問題無いよ」
どのみちこの先も開拓や整地をするつもりだしね。そこまで労力もかからない。シュレアの契約にも合致する。樹魔法覚えたから捗りそうだしね。
ん、捗る……?
ピコーン!
あっ、思い出した。ていうか閃いた。めちゃくちゃ重要なことだ。
「ねえ、シュレアって野菜育てられる?」
ていうか野菜って言って分かるかな。いや。それは侮りすぎか。
「野菜を育てるのですか!?」
うおっ、思った以上の反応だ。ああっ、ふわふわの小山がっ。いい匂いがっ。甘い蜜はありませんかっ。うおォン、僕はまるで変態人間カブトムシだ。
「う、うん。僕は肉も好きだけど野菜が「作りましょう、育てましょう!」好きなんだうわっ」
ぎゆっ。ぎゅっ。
両手を力強く握られる。何か体温が高いぞ。目も爛々している。そんなに嬉しかったのか。
あー、ボサボサの髪の毛が乱れてる。櫛でとかしてあげたい。枝角はぴかぴか点滅を通り越してぺかーっ、と常時光っている。
「シュレアは野菜が好きなの?」
「だいすこ、大好きです」
すごい可愛い噛み方したな。僕もシュレアに大好きって言われたい。
見ると不健康クールな表情が少し気色ばんでいる。
「昔母が亡くなる前に、魔素に侵されていない丸々膨れたトマトという野菜を食べました。あの味が忘れられません。それから綺麗なトマトや野菜を探しましたが、どれも魔素まみれ。それでもシュレアは食べました。苦く渋く、食べると気分が悪くなりましたが、それでも少しだけ、穢れる前の味がしました。今までろくな野菜を食べられなかったのです」
早口だ。喋り慣れていないのか、めっちゃ唾が飛んでくる。ここで顔を拭くような愚行は犯さない。貴重な森の恵みだ。後で全身に塗りたくろう。
「トマトなら浄化したやつがあるよ、ほら」
「こ、これは」
以前プテュエラと採りに行って未だに使ってないやつだ。もちろん、ほぼ時間停止の鞄だから新鮮。
「く、くださ「料理に使おうと思ってたんだよね」えっ?」
トマトを凝視していたシュレアが、戸惑いの声を上げる。
「あっ今食べるなら「いえ、料理に使って下さい」えっ?」
戸惑いの声を上げる僕。
ふぅー、とシュレアは大きく息を吐いた。あれ、いいのかな。
「失礼、取り乱しました。貴重なトマトは是非とも料理に使って下さい」
「貴重も何もたくさんあるんだけど……」
「くっ」
何かお預け食らったプテュエラみたいな反応だ。料理と言っても器具が無いからサラダぐらいしかできなさそうだし。
「それならやっぱり育てようよ、野菜。いつでもたくさん食べられるよ。シュレアは植物に詳しいだろうし、手伝ってよ。僕も食べたいんだ」
ベステルタたちはそれほどでもないかもしれないけど、僕としては野菜を食べたい。やっぱり肉と野菜のバランスだよ。
「……分かりました。ではそれも契約に追加しましょう」
まーた、契約か。いやいいんだけどさ。何か面白い契約付け足しちゃおうかな。
「ならシュレアは野菜部部長ね」
異世界で部活動。僕が初めてなんじゃない?
「なんですかそれは」
不審げな眼差しだ。目付き悪っ。
「野菜の育成、収穫、料理関係を取り仕切る責任者だよ。部員は僕で」
ま、部長だしもっと楽しいことに重きを置いて欲しいんだけどね。ベステルタたちもそうだけど、シュレアは特に働き詰めだったみたいだし。もっと楽しんで欲しい。もちろん僕が楽しむためでもあるけどね。
「責任者……なんて甘美な響きなのでしょうか」
ええ……シュレアそれは社畜の考えだよ。もっと楽しんでくれよ。
「分かりました。部長の称号、慎んで拝命しましょう」
「うん、まあ、よろしくね」
という訳で絶死の森野菜部が発足したのだった。すごい字面だな。
その後、対価を払うと言ってきたので、繁っている時に森の恵みを吐き掛けて欲しい、と言おうと思ったが、本当に嫌われそうなので止めた。その代わり繁り時の口内ケアをたくさんお願いした。めちゃくちゃ嫌そうな顔してた。満足。
「野菜を育てるためにも、もっと力に慣れないといけませんね。ダークエイプで訓練しますよ」
ああっ! 墓穴掘った!
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