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商業ギルド
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結局、商業ギルドに行くことにした。そこで、おすすめの家具屋さんとかの情報もらえれば一石二鳥だし。もしコス茶が売り物になるなら定期的な収入源として重宝しそうだし。
目的地には迷わずに着いた。プテュエラが事前に探してくれたからね。
「はー、おっきいなー」
白亜のそびえる建物だ。冒険者ギルドとは全然違う。
入っていくとすぐに係員の人が寄ってきて用件を訊かれた。
「本日はどのようなご用件ですか?」
きちっとした服装のお兄さんだ。冒険者ギルドとの落差がすごい。
「とある商人の情報が欲しいのですが可能ですか?」
「可能ですよ。何という商人ですか?」
やべっ、ベステルタに訊いてなかった。
「少々お待ちください」『ベステルタ、例の昔会った商人の名前って分かる?』
契約者チャンネルを繋ぐと、何やらベステルタはカリンたちと戯れているみたいだった。
『あはは、カリン、そんなに抱きしめなくても大丈夫よ。ちょっと待ってね。ケイから連絡きたから。
えーっと、確かリディア・ブラスって言っていたわね。言葉は分からなかったけど、何度もそう言ってたから名前だと思うわ。大丈夫かしら?』
うわぁ、何だか楽しそうだ。いいな。会話はできないんだろうけど、とりあえず話しているんだろうな。そしたらボディランゲージも伝わりやすいかもしれないし。
『ありがとう。問い合わせてみるよ』
『よろしくね。あと、子供たちがケイともっと話したいみたいだから夜にでも来てあげて?』
追加の使徒絡みの用件だと嫌だな……。
『使徒絡みの話かな?』
『うーん、そんな感じじゃなさそうよ。純粋に子供たちがケイとお話ししたいって言っているわ。何か泊まってほしそうね。カリンは遠慮しているけど』
そういうことならお邪魔しようかな。子供は好きだし。なら今日は泊まることになるかもな。
『了解、またあとでね』「お待たせしました。リディア・ブラスという方なのですが分かりますか?」
「リディア・ブラス……。ああ、ブラス商会ですね。お調べ致します。そちらのソファで今しばらくお待ちください」
係員は一礼するとギルドの奥に足早に去っていった。
じゃ、待たせてもらおうかな。おっ、このソファーいいな。どこで作ってるんだろ。後で教えてもらおう。
…………
「お待たせしました」
三十分くらい経ったろうか。少しうとうとし始めた頃に係員が話しかけてきた。
「いえいえ、何か分かりましたか?」
「はい。ブラス商会自体は十年ほど前に破産しているようですね」
ええー、マジか。こりゃ振り出しに戻っちゃったかな。
「しかしそのご息女が中央市場で露店商を営んでいるようです」
おっ! それならいくらか話はできそうだな。よかった。市場かあ。楽しそうでいいね。
「ちなみに破産の理由は?」
「そちらに関しては守秘義務ですのでお話しできかねます」
きっぱりと断られた。カマかけてみたけど他人の情報をホイホイ教える組織じゃなくてよかった。
「ありがとうございます」
「いえ。では調査料銀貨二枚になります」
金取るんかい。いや、サービスに対する対価として普通か。いかんね、日本いた頃の癖が抜けてないな。でもちょっと高い気もする。二万ソルンでしょ? まあ情報を管理する費用は馬鹿にならないのかもな。
ああ、そうだ。
フレイムベアの毛皮も売れないか確認しておこう。ゴドーさんの言い振りだと大きなところじゃなきゃ売れないらしいからね。
「すみません、こちらでは素材の買い取りしてますか?」
「ええ、していますよ。お時間は頂きますが、その分丁寧に鑑定致します」
おお、気弱受付嬢シャールちゃんの言った通りだった。彼女に対する好感度がグッと上がってしまったよ。
「それでどのような素材でしょうか?」
「はい、フレイムベアの毛皮です」
そう言うと係員はあからさまに顔をしかめた。
「……はぁ。申し訳ありません。上の者を呼んで参りますので少々お待ちください」
若い係員さんは溜め息を吐いた後、無表情になってそそくさと奥へ引っ込んでしまった。あれ、冷やかしと思われてしまったのかな。仕方ない、ソファで待たせてもらおう。んん、やっぱ座り心地いいなこれ。
…………
「君がフレイムベアの毛皮を持ち込んだと吹聴している冒険者かい?
困るんだよね、嘘で業務邪魔されるのは。こちらとしても対応しなきゃいけないんだからさ」
奥から出てきたのは仕立ての良い服を着た、軽薄そうな……中性的お兄さん? 何か人を見下した感じする。ちょっと年齢が読めない。係員さんよりは歳上に見えるけど若く見えるな。
にしても、名乗りもせずに組織の上長がいきなり嘘つき呼ばわりか。これは認識を改めなきゃいけないかな。
「嘘ではないですよ。撤回を要求します」
人前で嘘つき呼ばわりは駄目だよ。ほんとに。国によっては流血沙汰に発展するからね。即時撤回を要求する。
「ほぉー、よほど自信があると見えるね。良いだろう。副ギルドマスターのボクが直々に鑑定してあげるよ。嘘だったら鑑定料と迷惑料を貰うからね」
すげえ鑑定魔法使えるんだ。
じゃなくて、ふんだくる気満々だな。これは僕もレイズさせてもらおう。強気に出るぞ。
「それなら、本物だった場合、商業ギルド公式の謝罪と迷惑料、あと何かと便宜図ってもらいますね。まさかフレイムベアをただの熊の毛皮と偽ったりしませんよね?」
「……言うじゃないか。商業ギルドの誇りにかけて、そんな嘘はつかないと神に誓おう。もう謝っても遅いからな」
副ギルマスのこめかみに青筋が浮かんでいる。おお怖い。
どの神か気になるところだけど、まあ良しとしよう。一応誇りはあるみたいだし。
「そうですか。ではいつでもどうぞ」
「まったく、引き際が分からない愚者はこれだから困るよ。『鑑定』!」
さて、どうなるかな。ちょっとドキドキしてきた。
…………
「「大変申し訳ございませんでした」」
目の前には副ギルマスとギルドマスターがいる。立派な応接室で、ものすごく高そうなお茶やお菓子もある。二人を待つ間遠慮無く食べたけど旨かった。こっそりもらっちゃった。
そして今、副ギルマスは右目に大きなアザを作り、震えながら頭を下げている。やったのは僕じゃないぞ。ギルドマスターだ。さっき無言で一発ぶん殴ったんだよ。副ギルマスが吹き飛んで床に倒れたのを無理やり起こして、頬数回はたいたところで別の係員が血相を変えて止めた。いやー、えらいことになったな。
「重ね重ね申し訳ございません」
ギルマスがずっと頭を下げている。
「デイライトの商業ギルド、それもトップが人前で利用者を嘘つき呼ばわりするとは思いませんでしたよ。ろくに調べもせずに」
頭を下げ続ける二人。少しくらいは嫌みを言わせてくれ。
「誠に申し訳ございません。既に公式の撤回文を表に貼り出してあります。副ギルドマスターについては即刻処罰致します」
ちなみにギルマスは立派な髭をかっちり整えたダンディなおじさまだ。いや、おじいさまか? 老人と言うには元気が迸っている。体つきもがっしりしていて頼り甲斐がありそうだし、とても理性的な印象を受ける。行動もめちゃくちゃ早く、迷惑料も即払ってくれた。
だからこそ、あの冷静な目で、副ギルマスをボコボコにしたというのが怖すぎる。
「処罰の内容は?」
「即時解雇、としたいのですが彼女も一応副ギルドマスターです。引き継ぎ含めもう少々お時間頂ければと」
「そこはおまかせします」
冷静に返事したけど、内心の驚きを顔に出さないでいるのが大変だった。
彼女って、ええ……。嘘だろ。男だと思ってた。マジかよ拳骨顔に喰らわせたのか。容赦ないな。でも、正直それくらいしなきゃいけない事態だったのかもしれない。
「タネズ様。この度は無礼を働き大変申し訳ございませんでした」
深々と頭を下げる副ギルマス。あの見下した感じが消え失せている。う、うーん。こっちまで辛くなってきた。もういいよ、フレイムベアの話に移りたい。
「謝罪も迷惑料も頂いたから結構ですよ。それでフレイムベアですが、いくらになりますか?」
「タネズ様が持ち込まれたフレイムベアですが、少々傷がございましたので、その分価値は下がります。しかし、そもそもが希少素材です。金貨百枚、つまり黒金貨一枚は下回らないでしょう」
黒金貨……って。えっ、金貨百枚って、えっ。いっせんまんそるん?
いっせんまんえんんんん?
マジかよ。あの毛皮も一枚で? ヤバイな……。これあっという間に金持ちになっちゃうぞ。
「そうですか。いつ頃換金されそうですか?」
「すぐさま王都でオークションにかけますが、かなり白熱するはずです。軍やあらゆるギルドが欲しがる代物です。需要に対して圧倒的に供給が足りていませんから」
「……であれば、量があれば早くお金になりますね?」
そういうことだよね? ここが攻め時だ。
「……左様でございます、が」
まさか、とギルマスが小さな声を出す。
僕は魔法の鞄からフレイムベアの毛皮をとりあえず、五枚ほど取り出し机に並べた。
終始冷静だったギルマスの動きが止まり、副ギルマスの震えが大きくなる。
「定期的にこちらへ卸したいと思っていますが、可能ですか?」
「可能でございます。承知致しました。前払いで金貨百枚分を用意致します。ロイ、持ってこい」
ギルマスが最初に対応した若い係員に強い口調で命令すると、彼は凄まじい速度で走り重そうな袋を別の係員二人がかりで持ってきた。この人も震えている。ギルマスよっぽど怖いみたいだな。しかも彼は僕に最初に対応して、あからさまに溜め息を吐いた人だしね。可哀想ではあるけど。
「お納め下さい」
ギルマスが恭しく袋を差し出してくる。なんか領主になった感じで嫌なんだが。
中を見ると、うっわ、金ぴかだよ。欲に目が眩みそうだ。
『ケイ、良く分からんがだらしない顔しているぞ』
プテュエラにたしなめられて我に返る。いかんいかん。魔法の鞄にしまっておこう。
「タネズ様、今後フレイムベア関連、いえ、それ以外でもご用がありましたら私が直接対応致しますので、何なりとお申し付け下さい」
深々と頭を下げるダンディなおじさま。マジか、ギルマスが直々に対応とか大事になっちゃったな。ちょっと怖い。
それにしてもこの人、全てが様になっている。かっけぇー。こんな風に歳を取りたいよ。
僕なんてたまたま後ろ楯のある若造に過ぎないからね。ギルマスは実力と積み重ねた実績に裏打ちされた迫力がある。今後も慢心しないようにしないとな。
「そうですか。それなら話が早そうですね。そうさせて頂きます。では、失礼します」
「お待ちを。タネズ様に取り次ぎたい場合、どちらにご連絡すれば宜しいですか?」
あーそっか。そうだな……。流石にシャールちゃんだと可哀想か。
「暫くは遠吠え亭という宿屋でお世話になる予定です」
「遠吠え亭ですね。畏まりました」
「いえいえ、それでは」
「タネズ様、この度は誠に申し訳ございませんでした。従業員にもこの件は周知し以降徹底させます。どうか今後とも宜しくお願い致します」
「「「宜しくお願い致します!!!」」」
ギルマスに続いて副ギルマス、若い係員、状況が分からない係員が一斉に頭を下げた。
「い、いえ。こちらこそ。それでは」
僕が出るまで彼らはずーっと頭を下げていたよ。ふぅー、終わった。すごい疲れた……。でも、お金たくさんもらえたし結果オーライだ。経済回すぜ。
ほくほく顔で商業ギルドを後にして、教えてもらった露店商のいる中央市場まで移動する。あとソファ売っている店も教えてもらったから後で寄ろう。
・応接室にて
「ギルマス、申し訳ございませんでした」
「貴様がここまで愚かだとは思わなかった。失望したぞ。即座に引き継ぎをしろ。その後即解雇する」
「……はい。申し訳ありません」
「タネズ様は正真正銘フレイムベアの毛皮を持っていらした。あの一体で都市が滅び、Sランク冒険者でも手に余る災害級の化け物の毛皮を、五枚だぞ。しかも定期的に卸して下さるとのこと。どう考えても国家レベルで有益な人物。貴様の首など何百飛んでも釣り合わん」
「おっしゃる通りです。格別のご配慮を頂きありがとうございます」
「……ふぅ。お前は優秀だが人を侮る癖があったからな。いつかはこうなるのではないかと危惧していた。残念だ。ロイが最初に私を呼んでいればな……仕方あるまい。
顔は痛むだろうが暫くそのままにしておけ。すぐ治さないようにしろ。いくらか内外にも示しはつくだろう。タネズ様も同情されていたし、一定の効果はあったように見える」
「……はい」
「泣くな。手塩にかけて育てた貴様がこのようなところで終わるとは考えていない。この失敗と挫折に学べ。一から出直し再起を図れ」
「……うぅ、お義父様の顔に泥を、ボクは……申し訳ございません……」
「私のことは気にするな。アルフィン。さあ、早く行きなさい。もたもたするな」
「はい、失礼致します」
「ふう……。まったく。『龍と宝は同時に見つかる』というがまさしくその通りだな。ロイ、調査班に今の情報を渡して徹底的に調べるよう言え。貴様も次は無いからな。よく覚えておけ」
「は、はいぃ! 失礼します!」
「はあ、何だというのだあの男は……まったく」
目的地には迷わずに着いた。プテュエラが事前に探してくれたからね。
「はー、おっきいなー」
白亜のそびえる建物だ。冒険者ギルドとは全然違う。
入っていくとすぐに係員の人が寄ってきて用件を訊かれた。
「本日はどのようなご用件ですか?」
きちっとした服装のお兄さんだ。冒険者ギルドとの落差がすごい。
「とある商人の情報が欲しいのですが可能ですか?」
「可能ですよ。何という商人ですか?」
やべっ、ベステルタに訊いてなかった。
「少々お待ちください」『ベステルタ、例の昔会った商人の名前って分かる?』
契約者チャンネルを繋ぐと、何やらベステルタはカリンたちと戯れているみたいだった。
『あはは、カリン、そんなに抱きしめなくても大丈夫よ。ちょっと待ってね。ケイから連絡きたから。
えーっと、確かリディア・ブラスって言っていたわね。言葉は分からなかったけど、何度もそう言ってたから名前だと思うわ。大丈夫かしら?』
うわぁ、何だか楽しそうだ。いいな。会話はできないんだろうけど、とりあえず話しているんだろうな。そしたらボディランゲージも伝わりやすいかもしれないし。
『ありがとう。問い合わせてみるよ』
『よろしくね。あと、子供たちがケイともっと話したいみたいだから夜にでも来てあげて?』
追加の使徒絡みの用件だと嫌だな……。
『使徒絡みの話かな?』
『うーん、そんな感じじゃなさそうよ。純粋に子供たちがケイとお話ししたいって言っているわ。何か泊まってほしそうね。カリンは遠慮しているけど』
そういうことならお邪魔しようかな。子供は好きだし。なら今日は泊まることになるかもな。
『了解、またあとでね』「お待たせしました。リディア・ブラスという方なのですが分かりますか?」
「リディア・ブラス……。ああ、ブラス商会ですね。お調べ致します。そちらのソファで今しばらくお待ちください」
係員は一礼するとギルドの奥に足早に去っていった。
じゃ、待たせてもらおうかな。おっ、このソファーいいな。どこで作ってるんだろ。後で教えてもらおう。
…………
「お待たせしました」
三十分くらい経ったろうか。少しうとうとし始めた頃に係員が話しかけてきた。
「いえいえ、何か分かりましたか?」
「はい。ブラス商会自体は十年ほど前に破産しているようですね」
ええー、マジか。こりゃ振り出しに戻っちゃったかな。
「しかしそのご息女が中央市場で露店商を営んでいるようです」
おっ! それならいくらか話はできそうだな。よかった。市場かあ。楽しそうでいいね。
「ちなみに破産の理由は?」
「そちらに関しては守秘義務ですのでお話しできかねます」
きっぱりと断られた。カマかけてみたけど他人の情報をホイホイ教える組織じゃなくてよかった。
「ありがとうございます」
「いえ。では調査料銀貨二枚になります」
金取るんかい。いや、サービスに対する対価として普通か。いかんね、日本いた頃の癖が抜けてないな。でもちょっと高い気もする。二万ソルンでしょ? まあ情報を管理する費用は馬鹿にならないのかもな。
ああ、そうだ。
フレイムベアの毛皮も売れないか確認しておこう。ゴドーさんの言い振りだと大きなところじゃなきゃ売れないらしいからね。
「すみません、こちらでは素材の買い取りしてますか?」
「ええ、していますよ。お時間は頂きますが、その分丁寧に鑑定致します」
おお、気弱受付嬢シャールちゃんの言った通りだった。彼女に対する好感度がグッと上がってしまったよ。
「それでどのような素材でしょうか?」
「はい、フレイムベアの毛皮です」
そう言うと係員はあからさまに顔をしかめた。
「……はぁ。申し訳ありません。上の者を呼んで参りますので少々お待ちください」
若い係員さんは溜め息を吐いた後、無表情になってそそくさと奥へ引っ込んでしまった。あれ、冷やかしと思われてしまったのかな。仕方ない、ソファで待たせてもらおう。んん、やっぱ座り心地いいなこれ。
…………
「君がフレイムベアの毛皮を持ち込んだと吹聴している冒険者かい?
困るんだよね、嘘で業務邪魔されるのは。こちらとしても対応しなきゃいけないんだからさ」
奥から出てきたのは仕立ての良い服を着た、軽薄そうな……中性的お兄さん? 何か人を見下した感じする。ちょっと年齢が読めない。係員さんよりは歳上に見えるけど若く見えるな。
にしても、名乗りもせずに組織の上長がいきなり嘘つき呼ばわりか。これは認識を改めなきゃいけないかな。
「嘘ではないですよ。撤回を要求します」
人前で嘘つき呼ばわりは駄目だよ。ほんとに。国によっては流血沙汰に発展するからね。即時撤回を要求する。
「ほぉー、よほど自信があると見えるね。良いだろう。副ギルドマスターのボクが直々に鑑定してあげるよ。嘘だったら鑑定料と迷惑料を貰うからね」
すげえ鑑定魔法使えるんだ。
じゃなくて、ふんだくる気満々だな。これは僕もレイズさせてもらおう。強気に出るぞ。
「それなら、本物だった場合、商業ギルド公式の謝罪と迷惑料、あと何かと便宜図ってもらいますね。まさかフレイムベアをただの熊の毛皮と偽ったりしませんよね?」
「……言うじゃないか。商業ギルドの誇りにかけて、そんな嘘はつかないと神に誓おう。もう謝っても遅いからな」
副ギルマスのこめかみに青筋が浮かんでいる。おお怖い。
どの神か気になるところだけど、まあ良しとしよう。一応誇りはあるみたいだし。
「そうですか。ではいつでもどうぞ」
「まったく、引き際が分からない愚者はこれだから困るよ。『鑑定』!」
さて、どうなるかな。ちょっとドキドキしてきた。
…………
「「大変申し訳ございませんでした」」
目の前には副ギルマスとギルドマスターがいる。立派な応接室で、ものすごく高そうなお茶やお菓子もある。二人を待つ間遠慮無く食べたけど旨かった。こっそりもらっちゃった。
そして今、副ギルマスは右目に大きなアザを作り、震えながら頭を下げている。やったのは僕じゃないぞ。ギルドマスターだ。さっき無言で一発ぶん殴ったんだよ。副ギルマスが吹き飛んで床に倒れたのを無理やり起こして、頬数回はたいたところで別の係員が血相を変えて止めた。いやー、えらいことになったな。
「重ね重ね申し訳ございません」
ギルマスがずっと頭を下げている。
「デイライトの商業ギルド、それもトップが人前で利用者を嘘つき呼ばわりするとは思いませんでしたよ。ろくに調べもせずに」
頭を下げ続ける二人。少しくらいは嫌みを言わせてくれ。
「誠に申し訳ございません。既に公式の撤回文を表に貼り出してあります。副ギルドマスターについては即刻処罰致します」
ちなみにギルマスは立派な髭をかっちり整えたダンディなおじさまだ。いや、おじいさまか? 老人と言うには元気が迸っている。体つきもがっしりしていて頼り甲斐がありそうだし、とても理性的な印象を受ける。行動もめちゃくちゃ早く、迷惑料も即払ってくれた。
だからこそ、あの冷静な目で、副ギルマスをボコボコにしたというのが怖すぎる。
「処罰の内容は?」
「即時解雇、としたいのですが彼女も一応副ギルドマスターです。引き継ぎ含めもう少々お時間頂ければと」
「そこはおまかせします」
冷静に返事したけど、内心の驚きを顔に出さないでいるのが大変だった。
彼女って、ええ……。嘘だろ。男だと思ってた。マジかよ拳骨顔に喰らわせたのか。容赦ないな。でも、正直それくらいしなきゃいけない事態だったのかもしれない。
「タネズ様。この度は無礼を働き大変申し訳ございませんでした」
深々と頭を下げる副ギルマス。あの見下した感じが消え失せている。う、うーん。こっちまで辛くなってきた。もういいよ、フレイムベアの話に移りたい。
「謝罪も迷惑料も頂いたから結構ですよ。それでフレイムベアですが、いくらになりますか?」
「タネズ様が持ち込まれたフレイムベアですが、少々傷がございましたので、その分価値は下がります。しかし、そもそもが希少素材です。金貨百枚、つまり黒金貨一枚は下回らないでしょう」
黒金貨……って。えっ、金貨百枚って、えっ。いっせんまんそるん?
いっせんまんえんんんん?
マジかよ。あの毛皮も一枚で? ヤバイな……。これあっという間に金持ちになっちゃうぞ。
「そうですか。いつ頃換金されそうですか?」
「すぐさま王都でオークションにかけますが、かなり白熱するはずです。軍やあらゆるギルドが欲しがる代物です。需要に対して圧倒的に供給が足りていませんから」
「……であれば、量があれば早くお金になりますね?」
そういうことだよね? ここが攻め時だ。
「……左様でございます、が」
まさか、とギルマスが小さな声を出す。
僕は魔法の鞄からフレイムベアの毛皮をとりあえず、五枚ほど取り出し机に並べた。
終始冷静だったギルマスの動きが止まり、副ギルマスの震えが大きくなる。
「定期的にこちらへ卸したいと思っていますが、可能ですか?」
「可能でございます。承知致しました。前払いで金貨百枚分を用意致します。ロイ、持ってこい」
ギルマスが最初に対応した若い係員に強い口調で命令すると、彼は凄まじい速度で走り重そうな袋を別の係員二人がかりで持ってきた。この人も震えている。ギルマスよっぽど怖いみたいだな。しかも彼は僕に最初に対応して、あからさまに溜め息を吐いた人だしね。可哀想ではあるけど。
「お納め下さい」
ギルマスが恭しく袋を差し出してくる。なんか領主になった感じで嫌なんだが。
中を見ると、うっわ、金ぴかだよ。欲に目が眩みそうだ。
『ケイ、良く分からんがだらしない顔しているぞ』
プテュエラにたしなめられて我に返る。いかんいかん。魔法の鞄にしまっておこう。
「タネズ様、今後フレイムベア関連、いえ、それ以外でもご用がありましたら私が直接対応致しますので、何なりとお申し付け下さい」
深々と頭を下げるダンディなおじさま。マジか、ギルマスが直々に対応とか大事になっちゃったな。ちょっと怖い。
それにしてもこの人、全てが様になっている。かっけぇー。こんな風に歳を取りたいよ。
僕なんてたまたま後ろ楯のある若造に過ぎないからね。ギルマスは実力と積み重ねた実績に裏打ちされた迫力がある。今後も慢心しないようにしないとな。
「そうですか。それなら話が早そうですね。そうさせて頂きます。では、失礼します」
「お待ちを。タネズ様に取り次ぎたい場合、どちらにご連絡すれば宜しいですか?」
あーそっか。そうだな……。流石にシャールちゃんだと可哀想か。
「暫くは遠吠え亭という宿屋でお世話になる予定です」
「遠吠え亭ですね。畏まりました」
「いえいえ、それでは」
「タネズ様、この度は誠に申し訳ございませんでした。従業員にもこの件は周知し以降徹底させます。どうか今後とも宜しくお願い致します」
「「「宜しくお願い致します!!!」」」
ギルマスに続いて副ギルマス、若い係員、状況が分からない係員が一斉に頭を下げた。
「い、いえ。こちらこそ。それでは」
僕が出るまで彼らはずーっと頭を下げていたよ。ふぅー、終わった。すごい疲れた……。でも、お金たくさんもらえたし結果オーライだ。経済回すぜ。
ほくほく顔で商業ギルドを後にして、教えてもらった露店商のいる中央市場まで移動する。あとソファ売っている店も教えてもらったから後で寄ろう。
・応接室にて
「ギルマス、申し訳ございませんでした」
「貴様がここまで愚かだとは思わなかった。失望したぞ。即座に引き継ぎをしろ。その後即解雇する」
「……はい。申し訳ありません」
「タネズ様は正真正銘フレイムベアの毛皮を持っていらした。あの一体で都市が滅び、Sランク冒険者でも手に余る災害級の化け物の毛皮を、五枚だぞ。しかも定期的に卸して下さるとのこと。どう考えても国家レベルで有益な人物。貴様の首など何百飛んでも釣り合わん」
「おっしゃる通りです。格別のご配慮を頂きありがとうございます」
「……ふぅ。お前は優秀だが人を侮る癖があったからな。いつかはこうなるのではないかと危惧していた。残念だ。ロイが最初に私を呼んでいればな……仕方あるまい。
顔は痛むだろうが暫くそのままにしておけ。すぐ治さないようにしろ。いくらか内外にも示しはつくだろう。タネズ様も同情されていたし、一定の効果はあったように見える」
「……はい」
「泣くな。手塩にかけて育てた貴様がこのようなところで終わるとは考えていない。この失敗と挫折に学べ。一から出直し再起を図れ」
「……うぅ、お義父様の顔に泥を、ボクは……申し訳ございません……」
「私のことは気にするな。アルフィン。さあ、早く行きなさい。もたもたするな」
「はい、失礼致します」
「ふう……。まったく。『龍と宝は同時に見つかる』というがまさしくその通りだな。ロイ、調査班に今の情報を渡して徹底的に調べるよう言え。貴様も次は無いからな。よく覚えておけ」
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