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兎狩り
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「ギャッギャッギャッ!」
ゴブリンたちが獲物を見つけて醜悪な笑い声をダンジョンに反響させて、なんの警戒もせず近付いてくる。
「はぁ……」
ベステルタが面白く無さそうに、溜息を吐いた。
拳が翻る。
シュンッ。
「ッグギャ!」「ぐぎょっ!」「ギャッ」「ギャギャギャァ!」「ンギョエ!」「ギャブッ!」「ギャアアア!」「アギャグ!」「グゴエッ!」
ぼたぼたぼたぼた。どちゃどちゃっ。
ゴブリンの醜い悲鳴と肉塊がダンジョンに舞う。もう何回これを繰り返したか。ゴブリン、コボルト、ダンジョンウルフ(ただの狼だけど)しか出てこない。その肉塊が光の粒子になって消えていくのは綺麗なんだけどね。魔石やドロップ素材も拾うのめんどくさくなってもう拾ってない。ぼろぼろの武器と毛皮、牙とか。魔石も最初は珍しかったけどもう嫌ってほど見たし。放置した後どうなるのか分からないけど、どうでもいいや。
「ケイ、さすがに飽きたわ」
ふわあ、と欠伸。その間も肉片が生成されていく。
そりゃそうだよね。ベステルタの拳ではオーバーキルだ。その証拠にゴブリンが少ない時は小石を指で飛ばして頭を吹き飛ばしている。わぁー、省エネ。
ちなみにベステルタが初めてゴブリン見た時はマジでやばかった。
「ギャッギャッ!」
「ゴブリンよ!」
テンションめっちゃ上がるやん。
迫り来る醜悪な緑の小鬼。
「成敗!」
ジュッ。
嬉々として放った一撃で、ダンジョンの一部が消し飛んだ。
もちろんゴブリンは骨どころか、そこに存在事実さえ無かったかのように木っ端微塵。ていうかダンジョンの地面とか壁面が溶解しているんだが? パンチで地面が一瞬で溶けるってどういうことなの。摩擦ってこと? それとも魔力的な何か? いずれにしろ僕の理解を超えてるよ。もう二度と模擬戦なんかやるもんか。ちなみに、辺りはドロドロに溶けてシュウシュウ湯気を立てていたけど、あっという間に元に戻った。ダンジョンは自己再生機能があるみたいだ。
まあ、そんなことがあったけど、すぐに彼女は飽きちゃった。そして今は省エネモードってわけだ。
「ゴブリンって話には聞いていたけど、こんなに弱いの?」
「うーん、まあ……弱い部類だとは思うけど」
実際、新人冒険者たちは苦戦していたからね。彼らも舐めてかかっていた訳だが、まあこっぴどくやられていた。彼らは一応Jランク冒険者だけど、その実、「冒険者の肩書きを持つ素人」に過ぎない。魔獣と戦った経験なんてほとんどない。だから、相手がどんなに弱いゴブリンやコボルトでも、どんなにボロい武器を持っていても臆してしまう訳だ。
「こんな弱い生き物、どうやって生きてきたのかしら……」
マジで不思議そうにしている。見つめる拳には血肉一つ付いていない。あれかな、拳圧ってやつかな。まだ居合い拳スタイルだ。これは気に入っているみたい。
ちなみに他の冒険者は、そういう理由で早々に引き上げてしまった。初めての敵意を持つ相手だ。怖がったり軽い怪我をしたり、酷いもんだった。ラーズさんは基本的に手出しせず、危ない時だけ助けていた。すごいスピードのナイフ投擲してたよ。ダンジョンウルフ二匹の頭貫通して、地面穿ってたもん。
思わず「やばすぎない? その威力」と言ったら、
「……いや、まだまだだな。上には上がいるんだぜ」
と遠い目をして呟いていた。慢心してなくてすごいよなあ。冒険者ってやばいな。
その冒険者たちだけど。
「紅蓮隊」は装備が良かったので初めこそ順調だったが、調子に乗って進み過ぎて、いつの間にかにゴブリンに囲まれて袋叩きにされていた。「濃霧」でゴブリンたちの目を潰して適当にフランチェスカで叩き斬って、彼らを助けた。血で汚れて不快。でもフランチェスカを見て度肝を抜かしていたから嬉しい。後で拭き拭きしてあげなきゃな。
「羽衣」は終始逃げ回っていた。戦意が無い訳じゃ無いけど、魔獣に怯えて身体がすくんでしまうようだった。彼らを襲うダンジョンウルフをベステルタの指弾が貫き絶命させる。その中にドロップ素材があったようで、羽衣の一人がそれを拾って大事そうに抱えていた。被っていたフードが外れて顔を見たら痩せた女の子だった。ごはん食べられてないのかな。
「デイライトウルフ」が寡黙なイメージだったけど、そんなことなかった。迫り来るコボルトに対して雄叫びを上げて無茶苦茶に武器を振り回し、バテて動けなくなったところをぼこぼこにされていた。フランチェスカを使いたくないのでベステルタみたいに石を投げて助けた。
「ドラゴンソード」のターク君たちは初心者組の中では頑張っていたけど、限界が来てへたっていた。でも一番連携ができていて、自分たちの力でどうにか倒せていた。結局僕たちが助けることは無かったし。この結果を見れば、確かに将来有望なのかも。
「ま、こんなもんだろ。ドラゴンソードは良く動けていたな。慢心せずに地道にやっていけばすぐにランク上がるだろ。慢心しなければな」
「……ありがとうございます」
ターク君が複雑な表情を浮かべお礼を言った。でも、君がラーズさんの弾丸ナイフ投げ見て目をキラキラさせてたの知っているからね? 今だってちょっとにやけそうなの我慢しているし。一度持った憧れって捨てるのむずいよね。ターク君、この短期間でいろいろ経験してるなぁ。
「おう。あ、ちゃんと金は払えよな。ギルドに言って、お前たちの報酬から天引きして所定額まで俺の口座に振り込んでもらうように言っておくわ」
「……はい」
今度は苦々しげ。うーん、大人って怖い。ていうかラーズさん、ギルド内部まで顔が利くの? どんだけ貢献したんだろう。それとも何か弱みでも握っているのかな。到底昼から飲んだくれていたおっさんには見えないんだけど。
「じゃあ、俺たちはこれで引き上げるからよ。ケイはそのまま攻略して来いよ。問題ないだろ」
さも当然かのように言うラーズさん。初心者組の中から「嘘だろ?」「まだ動けるのかよ」「さすが斧舐めの変態……」という声が聞こえる。最後のは一刻も早く忘れて欲しい。その異名? 流したやつに懸賞金出そうかな。風評被害だよ。
「あ、五層まで攻略するならちゃんと階層突破認定官に報告しておけよ? ランクに反映されるの遅くなるからな」
そういう人たちがいるのか。なんかこう、ギルドカードにぱぱっと記入されるのかと思っていたけど違うんだね。そこは人力なんだ。こんなところに来てお仕事するなんて大変だな。
そう言ってラーズさんは疲労困憊の冒険者たちを引き連れ、帰っていった。
……とまぁ、一層に転移してほんのちょっと進んだだけなのに同期はみんなリタイアしてしまった。悲しい。前の世界では、あんまり同期とかいたことないから少し嬉しかったんだけどな。誰かと何かを一緒に同じスタートラインから始める機会って、大人になると少なくなるんだよね。仕方ないので進むことにした。この時はベステルタがまだやる気あったのでサクサク進んだ。
で、今だけど。
「ケイ、石」
「うい」
僕たちは襲い掛かる魔獣に石を投げ続ける作業を淡々とこなしていた。ベステルタの投石フォームが洗練されていってるのが何とも切ない。やや目が死んでいる。僕は石運びスキルを取得しそうなくらい石運んだよ。手ごろな石を見つけ、彼女の手にセット。それを砲弾のように打ち出す紫姉ちゃん。うーん、むしろ戦車の運用に近いかもしれない。装填手だな。必殺のベステルカノン搭載、ベステル・ティーガー、パンツァー・フォー! ……無理やり気持ちを高めないとやってられない。お腹も空いてきた。やってることが単調だから空腹も感じやすいんだろうなあ。
ほとんど作業だったからあまり覚えていないけど、かなりのスピードで進んでいたと思う。方向とかベステルタ・イヤー頼りで駆け抜けたし、素材はもうやけになって魔法の鞄に片っ端から収納した。ポーターもマッパーもいないから進み放題だ。
ちなみにダンジョン内は洞窟だった。足場が凸凹していて通路の大きさはまちまち。微妙に狭い横道があったり、いかにもな小部屋があって宝箱を期待したけど何もなかった。浅い階層では取りつくされているって言ってたしな……。五層クリアしたらさっさと戻ろう。
「あっ、兎を仕留めたわ!」
ベステルタの久しぶりに嬉しそうな声。
兎? そんなの今まで見たことなかったな。もしかしてEX魔獣ってやつかな。強いって聞いていたけど、ベステル砲の前ではただの兎も同然だったみたいだ。
兎が光になって消えていく。ん? 何か残っている。ドロップ素材かな……。
「肉だ!」
思わず雄たけびを上げた。兎の生肉が洞窟に突然現れたシュールな光景なのに、ものすごく嬉しい。なんか神々しく見える。お腹がグーグーと歓喜の音を鳴らす。食っちまうか。
「ふふ……。やったわ」
ベステルタも生肉を爪でつんつんして嬉しそうだ。む、そう言えばパーティー組んでこういう場面は初めてだな。
「ベステルタ、いぇーい」
手を挙げると、彼女はきょとんと僕を見つめる。
「ケイ? 何しているの?」
ちょっと困惑気味。そうか、知らないか。
「ハイタッチだよ。仲間の活躍……冒険をこうやって称えるんだ」
「そ、そうなの!? えっと、こう?」
ぱちん、と僕と彼女の手が打ち鳴らされる。僕が少し背伸びする形。本当に背が高いよな。でもそういうとこも好き。
「いぇーい。おつかれー」
「別に疲れてはいないけど……でもなんだか楽しいわね。退屈な作業も、こうやれば楽しいわ」
にこにこ機嫌よさげなベス。そうそう。退屈な仕事なんて意味も無くハイタッチでもしないとやってられないよ。退屈しのぎにスレイされたゴブリン以下魔獣たちには同情の念を禁じ得ないけどね。
「後で兎肉、焼いて食べよ?」
「そうね。それがいいわ。い、いぇーい」
気に入ったのか、ぱちんぱちん、と何度もハイタッチしてくるベステルタ。まだ若干恥ずかしそうになのが可愛い。あー、繁りたい。誰もいない教室で秘密の繁りっこしたい。JK制服が欲しい。セーラー、ブレザー、何でもいい。みんなに着せたい。そりゃ人間用だから似合わないかもしれないけど、それがいいんだよ。セーラー服から紫の生足がちらり、嫌そうな視線と三白眼に睨まれ、凶悪な鉤爪と香ばしいもふもふに包まれ、立派な蛇さんソードがモッコリしていたら最高じゃないか。縫製部門まじで前向きに考えよう。亜人ランジェリーも作りたいし。わくわく。
その後、兎は四匹ほど獲ることができた。合計五匹だ。あんまり獲れなかったな。三匹は僕とベステルタ、あと肉部部長のプテュエラ先輩に渡しておこう。すねていたからな。残り二匹は……そうだシャールちゃんに上げよう。喜ぶかな? いや、女の子のプレゼントに生肉ってどうなんだ? 普通に頭おかしいよね。素材鑑定する時にそれとなく価値を聞いておこう。それで良さそうなら渡すことにする。あと一匹は……。カリンたちに渡したいところだけど、少ないしな。ラーズさんに渡しておくか。お世話になったし。
……うーん、やっぱりカリンたちにもお土産として持って帰りたいな。頑張って狩るか。
ゴブリンたちが獲物を見つけて醜悪な笑い声をダンジョンに反響させて、なんの警戒もせず近付いてくる。
「はぁ……」
ベステルタが面白く無さそうに、溜息を吐いた。
拳が翻る。
シュンッ。
「ッグギャ!」「ぐぎょっ!」「ギャッ」「ギャギャギャァ!」「ンギョエ!」「ギャブッ!」「ギャアアア!」「アギャグ!」「グゴエッ!」
ぼたぼたぼたぼた。どちゃどちゃっ。
ゴブリンの醜い悲鳴と肉塊がダンジョンに舞う。もう何回これを繰り返したか。ゴブリン、コボルト、ダンジョンウルフ(ただの狼だけど)しか出てこない。その肉塊が光の粒子になって消えていくのは綺麗なんだけどね。魔石やドロップ素材も拾うのめんどくさくなってもう拾ってない。ぼろぼろの武器と毛皮、牙とか。魔石も最初は珍しかったけどもう嫌ってほど見たし。放置した後どうなるのか分からないけど、どうでもいいや。
「ケイ、さすがに飽きたわ」
ふわあ、と欠伸。その間も肉片が生成されていく。
そりゃそうだよね。ベステルタの拳ではオーバーキルだ。その証拠にゴブリンが少ない時は小石を指で飛ばして頭を吹き飛ばしている。わぁー、省エネ。
ちなみにベステルタが初めてゴブリン見た時はマジでやばかった。
「ギャッギャッ!」
「ゴブリンよ!」
テンションめっちゃ上がるやん。
迫り来る醜悪な緑の小鬼。
「成敗!」
ジュッ。
嬉々として放った一撃で、ダンジョンの一部が消し飛んだ。
もちろんゴブリンは骨どころか、そこに存在事実さえ無かったかのように木っ端微塵。ていうかダンジョンの地面とか壁面が溶解しているんだが? パンチで地面が一瞬で溶けるってどういうことなの。摩擦ってこと? それとも魔力的な何か? いずれにしろ僕の理解を超えてるよ。もう二度と模擬戦なんかやるもんか。ちなみに、辺りはドロドロに溶けてシュウシュウ湯気を立てていたけど、あっという間に元に戻った。ダンジョンは自己再生機能があるみたいだ。
まあ、そんなことがあったけど、すぐに彼女は飽きちゃった。そして今は省エネモードってわけだ。
「ゴブリンって話には聞いていたけど、こんなに弱いの?」
「うーん、まあ……弱い部類だとは思うけど」
実際、新人冒険者たちは苦戦していたからね。彼らも舐めてかかっていた訳だが、まあこっぴどくやられていた。彼らは一応Jランク冒険者だけど、その実、「冒険者の肩書きを持つ素人」に過ぎない。魔獣と戦った経験なんてほとんどない。だから、相手がどんなに弱いゴブリンやコボルトでも、どんなにボロい武器を持っていても臆してしまう訳だ。
「こんな弱い生き物、どうやって生きてきたのかしら……」
マジで不思議そうにしている。見つめる拳には血肉一つ付いていない。あれかな、拳圧ってやつかな。まだ居合い拳スタイルだ。これは気に入っているみたい。
ちなみに他の冒険者は、そういう理由で早々に引き上げてしまった。初めての敵意を持つ相手だ。怖がったり軽い怪我をしたり、酷いもんだった。ラーズさんは基本的に手出しせず、危ない時だけ助けていた。すごいスピードのナイフ投擲してたよ。ダンジョンウルフ二匹の頭貫通して、地面穿ってたもん。
思わず「やばすぎない? その威力」と言ったら、
「……いや、まだまだだな。上には上がいるんだぜ」
と遠い目をして呟いていた。慢心してなくてすごいよなあ。冒険者ってやばいな。
その冒険者たちだけど。
「紅蓮隊」は装備が良かったので初めこそ順調だったが、調子に乗って進み過ぎて、いつの間にかにゴブリンに囲まれて袋叩きにされていた。「濃霧」でゴブリンたちの目を潰して適当にフランチェスカで叩き斬って、彼らを助けた。血で汚れて不快。でもフランチェスカを見て度肝を抜かしていたから嬉しい。後で拭き拭きしてあげなきゃな。
「羽衣」は終始逃げ回っていた。戦意が無い訳じゃ無いけど、魔獣に怯えて身体がすくんでしまうようだった。彼らを襲うダンジョンウルフをベステルタの指弾が貫き絶命させる。その中にドロップ素材があったようで、羽衣の一人がそれを拾って大事そうに抱えていた。被っていたフードが外れて顔を見たら痩せた女の子だった。ごはん食べられてないのかな。
「デイライトウルフ」が寡黙なイメージだったけど、そんなことなかった。迫り来るコボルトに対して雄叫びを上げて無茶苦茶に武器を振り回し、バテて動けなくなったところをぼこぼこにされていた。フランチェスカを使いたくないのでベステルタみたいに石を投げて助けた。
「ドラゴンソード」のターク君たちは初心者組の中では頑張っていたけど、限界が来てへたっていた。でも一番連携ができていて、自分たちの力でどうにか倒せていた。結局僕たちが助けることは無かったし。この結果を見れば、確かに将来有望なのかも。
「ま、こんなもんだろ。ドラゴンソードは良く動けていたな。慢心せずに地道にやっていけばすぐにランク上がるだろ。慢心しなければな」
「……ありがとうございます」
ターク君が複雑な表情を浮かべお礼を言った。でも、君がラーズさんの弾丸ナイフ投げ見て目をキラキラさせてたの知っているからね? 今だってちょっとにやけそうなの我慢しているし。一度持った憧れって捨てるのむずいよね。ターク君、この短期間でいろいろ経験してるなぁ。
「おう。あ、ちゃんと金は払えよな。ギルドに言って、お前たちの報酬から天引きして所定額まで俺の口座に振り込んでもらうように言っておくわ」
「……はい」
今度は苦々しげ。うーん、大人って怖い。ていうかラーズさん、ギルド内部まで顔が利くの? どんだけ貢献したんだろう。それとも何か弱みでも握っているのかな。到底昼から飲んだくれていたおっさんには見えないんだけど。
「じゃあ、俺たちはこれで引き上げるからよ。ケイはそのまま攻略して来いよ。問題ないだろ」
さも当然かのように言うラーズさん。初心者組の中から「嘘だろ?」「まだ動けるのかよ」「さすが斧舐めの変態……」という声が聞こえる。最後のは一刻も早く忘れて欲しい。その異名? 流したやつに懸賞金出そうかな。風評被害だよ。
「あ、五層まで攻略するならちゃんと階層突破認定官に報告しておけよ? ランクに反映されるの遅くなるからな」
そういう人たちがいるのか。なんかこう、ギルドカードにぱぱっと記入されるのかと思っていたけど違うんだね。そこは人力なんだ。こんなところに来てお仕事するなんて大変だな。
そう言ってラーズさんは疲労困憊の冒険者たちを引き連れ、帰っていった。
……とまぁ、一層に転移してほんのちょっと進んだだけなのに同期はみんなリタイアしてしまった。悲しい。前の世界では、あんまり同期とかいたことないから少し嬉しかったんだけどな。誰かと何かを一緒に同じスタートラインから始める機会って、大人になると少なくなるんだよね。仕方ないので進むことにした。この時はベステルタがまだやる気あったのでサクサク進んだ。
で、今だけど。
「ケイ、石」
「うい」
僕たちは襲い掛かる魔獣に石を投げ続ける作業を淡々とこなしていた。ベステルタの投石フォームが洗練されていってるのが何とも切ない。やや目が死んでいる。僕は石運びスキルを取得しそうなくらい石運んだよ。手ごろな石を見つけ、彼女の手にセット。それを砲弾のように打ち出す紫姉ちゃん。うーん、むしろ戦車の運用に近いかもしれない。装填手だな。必殺のベステルカノン搭載、ベステル・ティーガー、パンツァー・フォー! ……無理やり気持ちを高めないとやってられない。お腹も空いてきた。やってることが単調だから空腹も感じやすいんだろうなあ。
ほとんど作業だったからあまり覚えていないけど、かなりのスピードで進んでいたと思う。方向とかベステルタ・イヤー頼りで駆け抜けたし、素材はもうやけになって魔法の鞄に片っ端から収納した。ポーターもマッパーもいないから進み放題だ。
ちなみにダンジョン内は洞窟だった。足場が凸凹していて通路の大きさはまちまち。微妙に狭い横道があったり、いかにもな小部屋があって宝箱を期待したけど何もなかった。浅い階層では取りつくされているって言ってたしな……。五層クリアしたらさっさと戻ろう。
「あっ、兎を仕留めたわ!」
ベステルタの久しぶりに嬉しそうな声。
兎? そんなの今まで見たことなかったな。もしかしてEX魔獣ってやつかな。強いって聞いていたけど、ベステル砲の前ではただの兎も同然だったみたいだ。
兎が光になって消えていく。ん? 何か残っている。ドロップ素材かな……。
「肉だ!」
思わず雄たけびを上げた。兎の生肉が洞窟に突然現れたシュールな光景なのに、ものすごく嬉しい。なんか神々しく見える。お腹がグーグーと歓喜の音を鳴らす。食っちまうか。
「ふふ……。やったわ」
ベステルタも生肉を爪でつんつんして嬉しそうだ。む、そう言えばパーティー組んでこういう場面は初めてだな。
「ベステルタ、いぇーい」
手を挙げると、彼女はきょとんと僕を見つめる。
「ケイ? 何しているの?」
ちょっと困惑気味。そうか、知らないか。
「ハイタッチだよ。仲間の活躍……冒険をこうやって称えるんだ」
「そ、そうなの!? えっと、こう?」
ぱちん、と僕と彼女の手が打ち鳴らされる。僕が少し背伸びする形。本当に背が高いよな。でもそういうとこも好き。
「いぇーい。おつかれー」
「別に疲れてはいないけど……でもなんだか楽しいわね。退屈な作業も、こうやれば楽しいわ」
にこにこ機嫌よさげなベス。そうそう。退屈な仕事なんて意味も無くハイタッチでもしないとやってられないよ。退屈しのぎにスレイされたゴブリン以下魔獣たちには同情の念を禁じ得ないけどね。
「後で兎肉、焼いて食べよ?」
「そうね。それがいいわ。い、いぇーい」
気に入ったのか、ぱちんぱちん、と何度もハイタッチしてくるベステルタ。まだ若干恥ずかしそうになのが可愛い。あー、繁りたい。誰もいない教室で秘密の繁りっこしたい。JK制服が欲しい。セーラー、ブレザー、何でもいい。みんなに着せたい。そりゃ人間用だから似合わないかもしれないけど、それがいいんだよ。セーラー服から紫の生足がちらり、嫌そうな視線と三白眼に睨まれ、凶悪な鉤爪と香ばしいもふもふに包まれ、立派な蛇さんソードがモッコリしていたら最高じゃないか。縫製部門まじで前向きに考えよう。亜人ランジェリーも作りたいし。わくわく。
その後、兎は四匹ほど獲ることができた。合計五匹だ。あんまり獲れなかったな。三匹は僕とベステルタ、あと肉部部長のプテュエラ先輩に渡しておこう。すねていたからな。残り二匹は……そうだシャールちゃんに上げよう。喜ぶかな? いや、女の子のプレゼントに生肉ってどうなんだ? 普通に頭おかしいよね。素材鑑定する時にそれとなく価値を聞いておこう。それで良さそうなら渡すことにする。あと一匹は……。カリンたちに渡したいところだけど、少ないしな。ラーズさんに渡しておくか。お世話になったし。
……うーん、やっぱりカリンたちにもお土産として持って帰りたいな。頑張って狩るか。
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