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鑑定結果
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「うおおおぉい! ケイ! 家の計画はどうするんじゃああああっ!」
今度こそ出かけるぞ! と意気込んでいたところに、ドルガンさんが目を血走らせながら怒鳴り込んできた。
「おはようドルガンさん。計画ね、もちろんこれから伺おうと思ってたところだよ」
「なんでもいいから早くせんかい! あのラクール樹をいじくり倒せないまま、毎日を過ごすのはもう気が狂いそうじゃ!」
唾を吐き散らしながら熱い思いを語るおっちゃん。うーん、汚い。ササッとルーナがよって顔を拭いてくれた。
「すんません、じゃあちょっと中で話しましょう」
「うむ。手短にな」
ソワソワしているドルガンさんをカリンに許可を取って、半ば応接室となっている部屋に連れて行く。
んで、手短に要件を再度伝えていった。
・一般的な人の家をベースに、とにかく大きめに作ってほしい。
・シンプルでいいので個室をとりあえず十個ほど設計して欲しい。
・寝室(繁り部屋)を大きめに。
これは亜人たちの部屋へのこだわりが強すぎるので、複雑な内装はリンカと森の木々たちに頼んで『根付いてもらう』ことになったからだ。それで別途、各亜人たちにはゆっくり自分たちの部屋を樹木たちに頼んで改造してもらうと。
外装に関してはリンカたちは専門外だし、僕としてもまんま木の洞みたいなお家よりかは住み慣れた、まっとうな形のお家の方がいいので、ドルガンさんにお願いすることになった。
ただ、内装に関してはリンカたちに魔力を渡す必要があるので僕はめっちゃレベルを上げていく必要があるんだよね。ダンジョンに潜ってコツコツ魔獣を倒していけば徐々に上がっていくはず。森に戻って先輩に挑めばすぐだろうけど、それはもうちょっと実力がついてからにしたい。
「ということなんですが、いいですか? 僕が言うのもあれだけど、けっこうざっくりした依頼なんですが……」
「とにかくデカく、外装を立派にじゃろ? 内装は自分たち好みにしたいからシンプルでいいってのも、まあ分かる。コンセプトが分かればなんてこと無いわい。わしらはプロじゃ。客にソリューションを提供し、結果にコミットするのが仕事じゃい」
自信満々に言い放つドルガンさん。これ翻訳元、なんて言ってるのかすげえ気になる。言葉だけ聞くとダメなベンチャー企業っぽくてちょっと不安になってきた。
「ふん。不安そうな顔じゃな。ドゴンの仕事ぶりも見ておるじゃろ? 安心せい。わしらはデイライトで一番の大工じゃ。必ず満足させてみせる」
と、言い切る大工の親方。はあ、自信がある人っていいなあ……。僕なんかは、責任を被るのがこわいから、いっつも迂遠な言い逃れしてばっかなんだよね。
「分かりました。お任せします。概算、いくらくらいになりそうですか?」
「ふーむ。そうじゃな。ま、デカいが内装に手間をかけなくていいぶん安くできる。今回は材料費もかからんし、三億ソルンってところじゃろ」
さ、さんおく……。
とんでもない、数字だ。しかし払えてしまうのがもっとこわい。
「分かりました。お支払いします」
ドン! と机の上に朱金貨を置くと呆れた顔をされた。
「こんな大金持って帰れるか! ギルドの口座に振り込んでおけ!」
そ、そりゃそうッスよね……。
その足でドルガンさんの仕事場に直行し、大量のラクール樹たちを放出してきた。「うおおおお!」とドルガンさんがなかなか気持ちわるい笑みを浮かべて、頬ずりしていたので、とってもイヤな顔をしていたら、ツカツカと事務の女性がやってきてレンチのようなもので彼の頭をぶん殴った。
ガチン!
「ぐおおおおっ」
「不快な思いをさせてしまい、大変申し訳ございません」
「い、いえいえ。大丈夫ですか? いい音しましたけど」
「問題ありません。あと百回は殴らないと死にません。お客様が住まわれる家に、変なシミでもついたらご先祖様が守ってきた評判が落ちてしまいます。ご安心ください。また同じようなことをしたら、気絶するまで殴っておきます」
「ほ、ほどほどで」
にこりと笑う事務員産の手に握られるレンチが鈍い色を放っていてめっちゃ怖い……。
『じゃあ、僕は行くからあとはよろしくね』
『……』
『たまに見に来るからね』
ラクール樹たちにもお別れを言って、教会に戻る。ドルガンさんの頬汗が染みた家にならないか心配だけど、まああのお姉さんに任せておけば大丈夫だろう。レンチさばきに一切躊躇いがなかった。殴り慣れてるんだろうな。
教会に戻るとスーツのような服をビシッと着込んだシルビアと司祭服に着替えたカリンが待っていた。
「ケイ、もう用件は終わった?」
「うん。今度こそいけるよ」
「よし。じゃあ行こうか。はー、緊張するなあ。なんか、五年くらい待っていた気がする」
「シルビア、使徒様はお忙しいのです。無理を言ってはいけません」
少し疲れた顔でシルビアは言った。すんません。僕の段取りが悪くて……。
「でも、ワクワクするよ。このコスモディアはすべてを変える可能性を秘めてるからね」
シルビアは得意げな顔で重厚な鞄を叩いた。中には完成品のコスモディアが四本入っている。等級ごとに分かれていて、銅、銀、金、朱だ。
「しかしシルビア、相手はあのアーサー・オルスフィンだと聞いています。策はあるのですか?」
カリンが友人に心配げそうに声をかける。
「ふっふっふ。わたしだって、馬鹿じゃない。ちゃんと対策は立ててきたよ。ずっと引きこもってたわけじゃないんだからね」
ドヤ顔で胸を張るシルビア。
「ここまで長かった……。リディアお婆ちゃんがすべてを始めて、すべてを失って。お父さんとお母さんが命をかけて底から這い上がり、私に託した。だから、絶対に成功させなくちゃいけないんだ」
シルビアは精悍な顔つきで空を仰ぐ。思わず肩を抱いて『できるさ、僕たちなら』とか言いたくなったけどヘタレなのでできません。
「大丈夫。成功するさ。物はできてるんだ。効果も実証済み。気楽にいこう。うまくいくよ」
「えへへ……。そうだよね。うん、うまくいく。大丈夫。ブラス商会……いやブラタネリ商会はここから再出発するんだ」
彼女はすーはーすーはーと深呼吸を何回かして、よし、と気合を入れる。その商会名でやっぱいくのね。
『プテュエラ、護衛お願いね』
『心得た』
セキュリティもばっちりだ。万事憂いなく交渉に臨める。
「あっ、と。そうだ。ケイ、カリン。今のうちに打ち合わせしておきたいんだけど……」
小声で僕の耳に口を寄せるシルビア。さらにカリンも顔を寄せてくる。ふぉっ、不意のASMRといい匂いのサンドイッチでぞわぞわするぜ。
そうして僕らは商業ギルドへと向かった。
………………
…………
……
「こ、これは……っ!」
グレードごとに分けられた、四つのコスモディアポーションを鑑定し終えた商業ギルドの新副ギルドマスターである……だれだっけ。
苗字だけは覚えてるジャックナイフさんだ。見た目はくたびれたおっちゃんなんだけど、かなりやり手らしい。鑑定魔法も使える。前副ギルドマスターのアルフィンさんに代わって、就任したんだよね。
そんな彼が顔をぷるぷるさせて驚愕に打ち震えている。……後退した髪の毛が数本はらりと落ちているように見えるんだけど、大丈夫かな。
「ラーク、黙っていては何も分からん。鑑定結果を言え。簡潔にな」
ギルドマスターのアーサー氏が促す。そうだ、ラークさんだ。タバコの銘柄みたいな名前の人だね。
「ギルドマスター……。これは、たいへん、たいへんに、素晴らしいものです」
ラークさんは一言一言区切りながら、噛みしめるように言った。
「落ち着け。何が素晴らしいのか言え」
「ま、まずこの最低グレードである『銅』のポーションですが、高品質のアセンブラポーションと同等の効能があります」
「……続けろ」
顔面蒼白のラークさん。アーサー氏は無表情のまま頷く。めっちゃこわい。その顔で詰められたら漏らして泣く自信がある。
ただちょっと疑問に思ったことがあったのでシルビアに小声で尋ねた。
(アセンブラポーションにもグレードってあるの?)
(いや、ないよ。アセンブラポーションは品質の『ブレ』がひどいの。全部同じ価格なんだけど、ものによっては全然回復しなかったり、かといえばすごく効き目があったり)
(なるほどね。じゃあ高品質のポーションの効き目ってどんなもん?)
(お昼ご飯食べてる間に外傷はほぼ癒えるって感じかな。内臓の損傷や骨折も八割くらいは治るよ。ま、そんなのは全体の一割にも満たないんだけどね)
お昼ご飯っていうと、一時間くらいか? それでほぼ全部治るのはヤバいな。
「その前に一つ。ブラス殿。このポーションは安定的に供給可能なのでしょうか」
「可能です。作り方自体は既に完成しています。品質も既存ポーションと比べて極めて安定的に生産できます。ただし、大量生産する場合はそれに見合った設備と人員が必要です」
「ううむ、道理ですな」
いきなり話を振られてもしっかり答えるシルビア。僕だったらあたふたしたあとにプツンと思考が止まって愛想笑いして誤魔化すと思う。
ラークさんはというと頭を掻きむしりそうな素振りをして思いとどまっていた。懸命な判断だ。
「……ギルドマスター。銀、金のポーションもとんでもない代物ですが、基本的には銅ポーションを順当に強化したものです。しかし、この、朱ランクポーションは訳が違う」
ラークさんは一呼吸おいて、まるで口に出すのを恐れるに小声で言った。
「朱ポーションは、外傷の即完治、欠損や先天的疾患の快癒、病魔の根本治療に加え、呪いの解呪効果。……そして、若返りの効能があります」
「若返り、だと?」
そこで初めてアーサー氏の声色に動揺が滲んだ。極僅かだけど、鋼のような表情筋がぴくりと揺らいだ。
「はい。厳密に言うと寿命が延びるわけではありません。しかし、使用したものの肉体や肌、内臓の年齢を若返らせる効果があると、鑑定結果に出ています。」
「つまり死期は変えられないが、現時点より比較的若い肉体を手に入れられるということか」
「さようでございます。もちろん、何十歳も若返る訳ではなく個人差はあるはずですが……。少なくとも肌艶や視力がよくなり、胃腸や肝臓も活性化するでしょう」
「十分すぎる。美肌効果があるなんぞ貴族の御婦人が知れたら恐ろしいことになるぞ。外傷や病魔は癒やせても、普通は老化による内臓や肌の劣化はポーションで止めることはできん」
アーサー氏は低く唸る。猛獣のような迫力だ。
「ラーク。お前はアルフィンや私よりも『鑑定』という分野に秀でている。私はお前のその技能を高く評価している。が、あえて訊くぞ。それは確かなのか?」
「確かです。ギルドマスター。ラーク・ジャックナイフの名に誓って、嘘偽りはありません」
「……分かった」
アーサー氏は重々しく頷いて、シルビアと僕に向き直る。
ヤバい、威圧感がさっきより増している。急に彼がとんでもなく大きく感じられた。
フレイムベアの殺意に慣れた僕でさえちょっとビビるくらいだ。シルビアは顔面蒼白で、足も小刻みに震えていた。
(……!)
その手をそっと握ると、一瞬ピクリとしたあと弛緩していった。そして躊躇いがちに握り返してくれた。ちょっと汗ばんでいたので、あとでペロペロしておこう。
「見事だ、シルビア嬢」
アーサー氏は深く、湖の底にまで届きそうな低い声で称賛を口にした。
「よもや私を戸惑わせるような、圧倒的な結果を持ってくるとはな」
「……恐縮です」
シルビアは無理やり笑顔を作ってそれに応える。
「これならば、例の件一考するに値する」
アセンブラ教会の縄張りを荒らしてまでポーション事業に参入するかって話だね。アーサーさんも覚悟困ったのだろうか。
「それでは商談に入ろうか」
ニヤリ、と笑う顔は恐ろしくも魅力的で引き込まれるような壮絶さがあった。
(使徒様、どうやら手持ち無沙汰のご様子。わたくしの臀部でよければお揉みになりますか?)
(……ものすごく魅力的だけど、やめておくよ)
今度こそ出かけるぞ! と意気込んでいたところに、ドルガンさんが目を血走らせながら怒鳴り込んできた。
「おはようドルガンさん。計画ね、もちろんこれから伺おうと思ってたところだよ」
「なんでもいいから早くせんかい! あのラクール樹をいじくり倒せないまま、毎日を過ごすのはもう気が狂いそうじゃ!」
唾を吐き散らしながら熱い思いを語るおっちゃん。うーん、汚い。ササッとルーナがよって顔を拭いてくれた。
「すんません、じゃあちょっと中で話しましょう」
「うむ。手短にな」
ソワソワしているドルガンさんをカリンに許可を取って、半ば応接室となっている部屋に連れて行く。
んで、手短に要件を再度伝えていった。
・一般的な人の家をベースに、とにかく大きめに作ってほしい。
・シンプルでいいので個室をとりあえず十個ほど設計して欲しい。
・寝室(繁り部屋)を大きめに。
これは亜人たちの部屋へのこだわりが強すぎるので、複雑な内装はリンカと森の木々たちに頼んで『根付いてもらう』ことになったからだ。それで別途、各亜人たちにはゆっくり自分たちの部屋を樹木たちに頼んで改造してもらうと。
外装に関してはリンカたちは専門外だし、僕としてもまんま木の洞みたいなお家よりかは住み慣れた、まっとうな形のお家の方がいいので、ドルガンさんにお願いすることになった。
ただ、内装に関してはリンカたちに魔力を渡す必要があるので僕はめっちゃレベルを上げていく必要があるんだよね。ダンジョンに潜ってコツコツ魔獣を倒していけば徐々に上がっていくはず。森に戻って先輩に挑めばすぐだろうけど、それはもうちょっと実力がついてからにしたい。
「ということなんですが、いいですか? 僕が言うのもあれだけど、けっこうざっくりした依頼なんですが……」
「とにかくデカく、外装を立派にじゃろ? 内装は自分たち好みにしたいからシンプルでいいってのも、まあ分かる。コンセプトが分かればなんてこと無いわい。わしらはプロじゃ。客にソリューションを提供し、結果にコミットするのが仕事じゃい」
自信満々に言い放つドルガンさん。これ翻訳元、なんて言ってるのかすげえ気になる。言葉だけ聞くとダメなベンチャー企業っぽくてちょっと不安になってきた。
「ふん。不安そうな顔じゃな。ドゴンの仕事ぶりも見ておるじゃろ? 安心せい。わしらはデイライトで一番の大工じゃ。必ず満足させてみせる」
と、言い切る大工の親方。はあ、自信がある人っていいなあ……。僕なんかは、責任を被るのがこわいから、いっつも迂遠な言い逃れしてばっかなんだよね。
「分かりました。お任せします。概算、いくらくらいになりそうですか?」
「ふーむ。そうじゃな。ま、デカいが内装に手間をかけなくていいぶん安くできる。今回は材料費もかからんし、三億ソルンってところじゃろ」
さ、さんおく……。
とんでもない、数字だ。しかし払えてしまうのがもっとこわい。
「分かりました。お支払いします」
ドン! と机の上に朱金貨を置くと呆れた顔をされた。
「こんな大金持って帰れるか! ギルドの口座に振り込んでおけ!」
そ、そりゃそうッスよね……。
その足でドルガンさんの仕事場に直行し、大量のラクール樹たちを放出してきた。「うおおおお!」とドルガンさんがなかなか気持ちわるい笑みを浮かべて、頬ずりしていたので、とってもイヤな顔をしていたら、ツカツカと事務の女性がやってきてレンチのようなもので彼の頭をぶん殴った。
ガチン!
「ぐおおおおっ」
「不快な思いをさせてしまい、大変申し訳ございません」
「い、いえいえ。大丈夫ですか? いい音しましたけど」
「問題ありません。あと百回は殴らないと死にません。お客様が住まわれる家に、変なシミでもついたらご先祖様が守ってきた評判が落ちてしまいます。ご安心ください。また同じようなことをしたら、気絶するまで殴っておきます」
「ほ、ほどほどで」
にこりと笑う事務員産の手に握られるレンチが鈍い色を放っていてめっちゃ怖い……。
『じゃあ、僕は行くからあとはよろしくね』
『……』
『たまに見に来るからね』
ラクール樹たちにもお別れを言って、教会に戻る。ドルガンさんの頬汗が染みた家にならないか心配だけど、まああのお姉さんに任せておけば大丈夫だろう。レンチさばきに一切躊躇いがなかった。殴り慣れてるんだろうな。
教会に戻るとスーツのような服をビシッと着込んだシルビアと司祭服に着替えたカリンが待っていた。
「ケイ、もう用件は終わった?」
「うん。今度こそいけるよ」
「よし。じゃあ行こうか。はー、緊張するなあ。なんか、五年くらい待っていた気がする」
「シルビア、使徒様はお忙しいのです。無理を言ってはいけません」
少し疲れた顔でシルビアは言った。すんません。僕の段取りが悪くて……。
「でも、ワクワクするよ。このコスモディアはすべてを変える可能性を秘めてるからね」
シルビアは得意げな顔で重厚な鞄を叩いた。中には完成品のコスモディアが四本入っている。等級ごとに分かれていて、銅、銀、金、朱だ。
「しかしシルビア、相手はあのアーサー・オルスフィンだと聞いています。策はあるのですか?」
カリンが友人に心配げそうに声をかける。
「ふっふっふ。わたしだって、馬鹿じゃない。ちゃんと対策は立ててきたよ。ずっと引きこもってたわけじゃないんだからね」
ドヤ顔で胸を張るシルビア。
「ここまで長かった……。リディアお婆ちゃんがすべてを始めて、すべてを失って。お父さんとお母さんが命をかけて底から這い上がり、私に託した。だから、絶対に成功させなくちゃいけないんだ」
シルビアは精悍な顔つきで空を仰ぐ。思わず肩を抱いて『できるさ、僕たちなら』とか言いたくなったけどヘタレなのでできません。
「大丈夫。成功するさ。物はできてるんだ。効果も実証済み。気楽にいこう。うまくいくよ」
「えへへ……。そうだよね。うん、うまくいく。大丈夫。ブラス商会……いやブラタネリ商会はここから再出発するんだ」
彼女はすーはーすーはーと深呼吸を何回かして、よし、と気合を入れる。その商会名でやっぱいくのね。
『プテュエラ、護衛お願いね』
『心得た』
セキュリティもばっちりだ。万事憂いなく交渉に臨める。
「あっ、と。そうだ。ケイ、カリン。今のうちに打ち合わせしておきたいんだけど……」
小声で僕の耳に口を寄せるシルビア。さらにカリンも顔を寄せてくる。ふぉっ、不意のASMRといい匂いのサンドイッチでぞわぞわするぜ。
そうして僕らは商業ギルドへと向かった。
………………
…………
……
「こ、これは……っ!」
グレードごとに分けられた、四つのコスモディアポーションを鑑定し終えた商業ギルドの新副ギルドマスターである……だれだっけ。
苗字だけは覚えてるジャックナイフさんだ。見た目はくたびれたおっちゃんなんだけど、かなりやり手らしい。鑑定魔法も使える。前副ギルドマスターのアルフィンさんに代わって、就任したんだよね。
そんな彼が顔をぷるぷるさせて驚愕に打ち震えている。……後退した髪の毛が数本はらりと落ちているように見えるんだけど、大丈夫かな。
「ラーク、黙っていては何も分からん。鑑定結果を言え。簡潔にな」
ギルドマスターのアーサー氏が促す。そうだ、ラークさんだ。タバコの銘柄みたいな名前の人だね。
「ギルドマスター……。これは、たいへん、たいへんに、素晴らしいものです」
ラークさんは一言一言区切りながら、噛みしめるように言った。
「落ち着け。何が素晴らしいのか言え」
「ま、まずこの最低グレードである『銅』のポーションですが、高品質のアセンブラポーションと同等の効能があります」
「……続けろ」
顔面蒼白のラークさん。アーサー氏は無表情のまま頷く。めっちゃこわい。その顔で詰められたら漏らして泣く自信がある。
ただちょっと疑問に思ったことがあったのでシルビアに小声で尋ねた。
(アセンブラポーションにもグレードってあるの?)
(いや、ないよ。アセンブラポーションは品質の『ブレ』がひどいの。全部同じ価格なんだけど、ものによっては全然回復しなかったり、かといえばすごく効き目があったり)
(なるほどね。じゃあ高品質のポーションの効き目ってどんなもん?)
(お昼ご飯食べてる間に外傷はほぼ癒えるって感じかな。内臓の損傷や骨折も八割くらいは治るよ。ま、そんなのは全体の一割にも満たないんだけどね)
お昼ご飯っていうと、一時間くらいか? それでほぼ全部治るのはヤバいな。
「その前に一つ。ブラス殿。このポーションは安定的に供給可能なのでしょうか」
「可能です。作り方自体は既に完成しています。品質も既存ポーションと比べて極めて安定的に生産できます。ただし、大量生産する場合はそれに見合った設備と人員が必要です」
「ううむ、道理ですな」
いきなり話を振られてもしっかり答えるシルビア。僕だったらあたふたしたあとにプツンと思考が止まって愛想笑いして誤魔化すと思う。
ラークさんはというと頭を掻きむしりそうな素振りをして思いとどまっていた。懸命な判断だ。
「……ギルドマスター。銀、金のポーションもとんでもない代物ですが、基本的には銅ポーションを順当に強化したものです。しかし、この、朱ランクポーションは訳が違う」
ラークさんは一呼吸おいて、まるで口に出すのを恐れるに小声で言った。
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「若返り、だと?」
そこで初めてアーサー氏の声色に動揺が滲んだ。極僅かだけど、鋼のような表情筋がぴくりと揺らいだ。
「はい。厳密に言うと寿命が延びるわけではありません。しかし、使用したものの肉体や肌、内臓の年齢を若返らせる効果があると、鑑定結果に出ています。」
「つまり死期は変えられないが、現時点より比較的若い肉体を手に入れられるということか」
「さようでございます。もちろん、何十歳も若返る訳ではなく個人差はあるはずですが……。少なくとも肌艶や視力がよくなり、胃腸や肝臓も活性化するでしょう」
「十分すぎる。美肌効果があるなんぞ貴族の御婦人が知れたら恐ろしいことになるぞ。外傷や病魔は癒やせても、普通は老化による内臓や肌の劣化はポーションで止めることはできん」
アーサー氏は低く唸る。猛獣のような迫力だ。
「ラーク。お前はアルフィンや私よりも『鑑定』という分野に秀でている。私はお前のその技能を高く評価している。が、あえて訊くぞ。それは確かなのか?」
「確かです。ギルドマスター。ラーク・ジャックナイフの名に誓って、嘘偽りはありません」
「……分かった」
アーサー氏は重々しく頷いて、シルビアと僕に向き直る。
ヤバい、威圧感がさっきより増している。急に彼がとんでもなく大きく感じられた。
フレイムベアの殺意に慣れた僕でさえちょっとビビるくらいだ。シルビアは顔面蒼白で、足も小刻みに震えていた。
(……!)
その手をそっと握ると、一瞬ピクリとしたあと弛緩していった。そして躊躇いがちに握り返してくれた。ちょっと汗ばんでいたので、あとでペロペロしておこう。
「見事だ、シルビア嬢」
アーサー氏は深く、湖の底にまで届きそうな低い声で称賛を口にした。
「よもや私を戸惑わせるような、圧倒的な結果を持ってくるとはな」
「……恐縮です」
シルビアは無理やり笑顔を作ってそれに応える。
「これならば、例の件一考するに値する」
アセンブラ教会の縄張りを荒らしてまでポーション事業に参入するかって話だね。アーサーさんも覚悟困ったのだろうか。
「それでは商談に入ろうか」
ニヤリ、と笑う顔は恐ろしくも魅力的で引き込まれるような壮絶さがあった。
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