絶死の森で絶滅寸前の人外お姉さんと自由な異世界繁殖生活 転移後は自分のために生きるよ~【R18版】

萩原繁殖

文字の大きさ
170 / 287

ニールおばちゃん

しおりを挟む
 青春とは青い春。

 はるはあけぼの。

 ぼくはばかもの。

 でも、ばかものでもいいじゃない。こんな可愛い子とデートできるんだもの。

「そ、それで、その冒険者さんは」

「うんうん」

「今までうまくいってなくて、自暴自棄になっちゃってたんですけど」

「うんうん」

「最近、調子が上向いてきて、とうとう依頼人さんからも指名受けるようになって」

「うんうん」

「そしたら人が変わったかのように真面目になったんです。髭も剃って、お酒もやめて。契約書をちゃんと読めるように、読み書きの練習も毎日やって」

「うんうん」

「わたし、その人はやればできるって信じてたからうれしいんです。こんなにうれしいこと、受付嬢になってから、初めてだったかもしれません」

「うんうん」

「……わたしも、だめな自分を信じてくれた人がいるから、分かるんです」

「うんうん」

「……ケイさん、聞いてますか?」

「うんうん……えっ?」

「……もう」

 いつの間にかシャールがちょいおこだ。むすっとした口元が出来上がっている。でも、それすら彼女の可愛さを引き立てるだけなのである。

 いやー、お手々の熱さが心地よくてニギニギするのと、ちょこちょこ変わる表情が可愛くて、そっちに夢中になってた。初めて会ったときは、どんより無表情だったのに、こんなに表情豊かな子だったんだね。

 ここは素直になって謝ろう。

「ごめんよ。ちゃんと聞いてたんだけど、シャールちゃんの顔が可愛くて夢中になってた」

「かかかかか顔ですか? そ、そんな見ないでください。恥ずかしいです……」

 しゅううぅ……と煙が出そうなくらい顔を赤らめて俯くシャールちゃん。前髪が垂れて表情が見えない。それでも、さらに強く手をギュッと握ってくれる。彼女の体温がダイレクトに伝わってくる。

 可憐だ……。

『なあ、ケイ』

 うわぁ! びっくりしたぁ!

『プテュエラか。どうしたの?』

『とりあえず付近には怪しいやつもいないし、ケイでも対処可能なやつしかいなさそうだぞ。腹減ったんだが帰ってもいいか?』

 あ、ああー……。そっか、うっかりしてたよ。プテュエラにずっと護衛頼みっぱなしだったね。

『そうだね。大丈夫だよ。いつもありがとうプテュエラ。助かったよ』

『なに、この程度訳もないことだ』

『迷宮でキョンっていう魔獣の肉が穫れたんだけど食べる?』

『なに! たべる、食べるぞ!』

 向こうで羽がばっさばっさと鳴る音が聞こえる。さすが肉部部長。食いつきがすごい。

『生肉なんだけど大丈夫?』

『大丈夫だ! はやくはやく!』

『あ、でもこの状態じゃ渡せないか』

『上に投げろ! そしたらキャッチする!』

 天下の往来で生肉を空に放り投げるのは躊躇われたが、他にいい案も思いつかなかったので実行する。

『ほい!』

『うおおお!』

 左手に持ったキョン生肉を思い切り放り投げると、猛スピードでそれは空中を駆け上がり、パッと消えた。

『ケイ、ありがとう! これは肉部部長として、責任を持って食べておくぞ!』

『はーい、よろしくね~』

 ばっさばっさと大きな羽音を立ててプっさんは帰っていった。もしできたら、これから行くお店で、余分にお肉焼いてもらおうかな。

「おい、あいつ、いま生肉を空に投げなかったか……?」

「アイツってもしかして、最近噂になってる斧舐めの変態じゃねえか? J級の」

「いや、I級だって聞いたぞ」

「えっ、さっきH級認定受けたって聞いたけど」

「そんなすぐにH級になれるわけねえだろ」

「つーか、女と手をデート中生肉放り投げるとかどんな思考回路してんだよ……イカれてやがる」

 全部聞こえてるよ。

 仕方ないだろ、やむにやまれずだ。

 幸いシャールちゃんは気づいてないから問題なかろうなのだァ。

「あ、このお店です」

「『羚羊亭』だっけ?」

「はい。女将さんにはよくお世話になっていて、ご飯もすっごく美味しいんですよ!」

 にこにこのシャールちゃん。

 羚羊亭は一言で言うとややボロ目の一軒家だった。大通りから外れているちょっとさびれた路地の一角にある。シャールちゃん、うら若き乙女がこんなところ歩いていたら危ないと思うんだが……。あ、でも仕事うまくいかなくて、ここらへんをとぼとぼ歩いている姿は容易に想像できる。可哀想。抱き締めたい。

 扉はなかなかに重厚で、うすーく擦り切れそうな筆跡で『羚羊亭』と書いてあった。

 大きめのドアノッカーをゴンゴンと鳴らす。もしかして一見さんお断りなのかな?

「おばちゃん、ニールおばちゃん、予約していたシャールです」

 そう言うと、ドタドタと騒がしい足音と共に扉がバターン! と開いた。

「あんれまぁ~~! シャール、よく来たねえ~~待ってたよぉ!」

 お、オーク?

 一瞬物凄く失礼な事を考えてしまったが、そんな僕を責めることは出来ないと思う……。
 
 並の冒険者よりもでかい。前も横も縦も厚さも。

 分厚い唇に、どんぐり眼、海苔みたいに太い眉毛に、ニンニクみたいな鼻。

 ぶっとく固太りしたお腹と丸太みたいな腕はゴブリンくらいなら撲殺できそうだ。

 そんなおばちゃんが花柄の可愛らしいエプロンをつけて、美味しそうな匂いを漂わせながら、シャールのことを優しく抱き締めた。

「よく来たねぇ! ちゃんと食べてるかい?」

「わぷぷ、おばちゃん、苦しいです」

 ニールと呼ばれたおばちゃんはシャールちゃんを姪か娘のように愛情いっぱいに抱きしめ、シャールちゃんは苦しそうだがその顔は笑って幸せそうだ。

「んで、こっちが例の……?」

「あ、そうです。冒険者のケイさんで、その、いろいろとお世話になったんです」

「あらーーーーー! もう、お手々まで繋いじゃってえさあ! もう、おばちゃん、嬉しいよぉ! あのシャールに彼氏ができるなんてねえ!」

「おおおおばちゃん! か、彼氏さんじゃないです!」

「そんなわけあるかい! お手々繋いで、そんなに顔赤らめてたら、それはもう彼氏だよぉ!」

 すげえ、こっちに来て本格的なおばちゃんだ。しかも異世界スケーリングされており、かなり強力なおばちゃんだな。

「初めまして、冒険者のタネズ・ケイと申します。シャールさんの紹介ということで、ご招待に預かりました。美味しいご飯を出してくれると聞いています。今日という日を楽しみにしていました」

「あ~ららぁ! これはご丁寧にどうもねえ。ほんとに冒険者なの? 礼儀正しいわねえ。あたしゃニールだよ。ニール・アーヴィング」

 ニールおばちゃんは丸っこい顔をくしゃくしゃにして笑う。もう、愛想レベル100の笑顔だ。

「シャールのいい人なら娘婿みたいなもんだよ。ただのおばちゃんだから、気を楽にしてゆっくりしていってねえ」

 おばちゃんはなんの躊躇いもなく僕を抱きしめる。なんて無防備な抱擁なんだろう。自分をさらけ出して、相手を受け入れる。なんか、懐かしい匂いがする。台所のおいしい匂いと、母の香り。ずっと昔に、僕の子ども時代を包んでいた香り。もう二度と包まれることはない。僕は遠くに来てしまったんだと、実感した。

「あんれま、どうしたの? おばちゃんに抱きしめられて嫌だったかい?」

「ケ、ケイさん、どうしたんですか? どこか痛いんですか?」

「いえ、違うんです。故郷のことを思い出してしまって。すみません。おばちゃんの香りがなんだか懐かしくて」

 目をゴシゴシと拭う。だめだ、ウルッと来てしまった。

「……よしよし、辛かったねえ。あたしゃ、あんたのお母さんにはなれないけど、ここは自分ん家だと思って寛いでいいからねえ」

「ありがとう、おばちゃん」

 背中をポンポンとされ優しく擦られる。

「ケイさん、泣かないでください……」

 シャールちゃんまで泣きそうな顔になって袖を引っ張ってくる。シャールちゃんは泣き顔まで可愛いなあ。

「ごめんごめん、心配させちゃったね。もう大丈夫だよ」

 せっかくの日に泣いちゃったら台無しだ。不意打ち気味に涙出ちゃったけど、楽しまなきゃ。

「とにかくお入んなさいな。シャールの大好きな料理作ってあるよ。あとケイ、でいいかね? お肉は持ち込みってことだけど、物は用意してあんのかい?」

「もちろんですよ、ほら」

 僕は鞄からキョン肉とランラビット肉を取り出す。

「こんバカ!」

「いてっ」

 ぽかり、と頭を叩かれる。

「こんなところでお肉出したら汚れるでしょ! シャールも食べるんだから、少しは気を遣いんさい!」

「は、はい」

 仰る通りだ。何も言い返せない。

「だ、大丈夫ですよ。別に私は泥がついてたって、ケイさんがとってきてくれたのなら、た、食べれます!」
 
「シャール! そんなふうに言って、甘やかしたらあかんよ! ちゃんと、今から手綱握っておかんと! ついでに夜の手綱も握っておきな!」

「よよよよよ夜ってななな何言ってるんですかぁ!」

 恥ずかしくて頭がフットーしそうなシャールに猛抗議されるも、おばちゃんは笑って受け流し、僕たちをお店の中に案内してくれた。
しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞 ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。 そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。

アポカリプスな時代はマイペースな俺に合っていたらしい

黒城白爵
ファンタジー
 ーーある日、平穏な世界は終わった。  そうとしか表現できないほどに世界にモンスターという異物が溢れ返り、平穏かつ醜い世界は崩壊した。  そんな世界を自称凡人な男がマイペースに生きる、これはそんな話である。

処理中です...