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3話

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「え?」

 ジークハルトは目をまん丸にして聞き返すレイチェルが可愛く見えて微笑む。

 曲が終わり、スッとテラスへと足を進ませるとレイチェルは眉を少し寄せつつ付いてきた。

「君には婚約者がいないと聞いた。私ではダメだろうか?」
「・・・」
 ジークハルトは自分から女性に声を掛けたことはなかった。身分や顔で選ばれて放って置いてもぐいぐい迫ってくる女性が多かったので、レイチェルの反応がとにかく新鮮で面白いと感じた。

「私は辺境で騎士として骨を埋めたいと思っておりますので王都に住む侯爵家の嫡男様には嫁げません」
 あっさりとフラれて逆に好感を持ってしまい絶対に口説き落としたいと決意する。

「うちの妹を口説くなんて命知らずだな?私たち兄姉と父から一本取れないと許可出来ないよ?」

 オルガを連れたアンジェリカが面白いオモチャを見つけたかのように笑っている。オルガも楽しそうに目を細めている。

 辺境の騎士一族から一本取れとは随分な難題であるがジークハルトとてそれなりに調べてから声を掛けている。

「武勇誉高い方達から一本はとても自信はありませんが手合わせはお願いしたいです。あと私を迎え入れてくだされば内務を滞りなく行いますよ」

 剣は使いますと言うことと実務関係を手伝えること、婿入りも辞さない事を織り交ぜて伝えれば、アンジェリカの目つきが変わった。

「家は継がないのか?」
「うちには出来の良い弟も居ますので」

 レイチェルもオルガも唖然とジークハルトを見つめるがアンジェリカに話す方が早めに結論が出そうだと判断して売り込む。

「書類仕事を全部やってくれるって?」
 
 辺境の一族は武には長けているが政治や駆け引き、内務が苦手で親族の優秀なものに任せたり、外部から雇い入れたりをしている所から、使える腹黒い自分が入れば役に立つと言うアピールはいい線をいくだろうと思う。

「領主本人の確認が必要な部分以外ならほぼ」
「へぇ、自信家なのかな?」

 一応後継として侯爵家の当主、領主教育も受けている身、かなり優良物件だと自負しているジークハルトはニヤリと笑う。

「《伝心鳥》疾く行け」
 アンジェリカは数羽の伝心鳥を喚び出し言付けを託して飛ばす。
 レイチェルの意見を聞かずに進めたことで帰宅後、かなり詰められることはまだ知らずに笑顔でジークハルトと話し続ける。

「自信家、明日の昼うちに来なよ」
「父も入りますか?」
「いや、あんたの覚悟を見せて貰うだけ」

 アンジェリカは普段の言葉遣いになっているが誰も気にしない。

「では明日伺いますね」

 勝手に話をまとめた姉はオルガを連れてホールに戻っていった。

「・・・私はお断りしましたが?」
「私が辺境に婿入りして君が騎士を続けることに問題は無いのに?」
「お父上が納得されますか?」
「うちはね、恋愛至上主義なんだ。それにアーガード辺境伯家なら繋がりが出来たら喜ぶよ」

 レイチェルは変なことになってしまったと頭を抱えたい気持ちになった。
「いつ恋愛・・・」
「あの日君が声をかけてくれたとき、とても冷静で凛とした姿にこう・・・心が鷲掴みにね・・・」
 手を胸に当て少し頬を染めて笑う姿を見て、レイチェルはあの時放って置けば良かったのかと少し後悔した。

 式典の終わりを告げる鐘が鳴り、侍女が迎えに来てジークハルトも被害者の一人なので共に付いて行った。







 
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