とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ

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連載

パイルバンカー製作完了

 それから数日かけて……パイルバンカーは予定より少し早いペースで希望されていた数を完成させる事が出来た。出来上がったパイルバンカーは全てマッスル、ヴァルキュリアス、ブルーカラーに渡している。明日からは自分も塔の援軍としての活動を始める。もちろん塔の中に入って活動してもいいか? と質問を行い、そろそろいいよという許可も下りた。そして再び四ギルドが集まっての話し合いの場が出来上がっているわけだが。

「ついにパイルバンカーがすべて完成したわけだが。実際俺達に期待をしているプレイヤーはかなり多い。掲示板などでもそうだが、援軍に俺達が入るとえらく歓迎される」「わかる、パイルバンカーを持っているってだけで歓迎の度合いが跳ね上がっているからな……援軍の誰だかわかりにくくしていたようだが消えたからますますその雰囲気が広まる一方だ」

 この会話が交わされるのも無理はない。自分も掲示板などを通してという間接的な形ではあるが、硬くて敏捷性のあるゴーレム、とにかく硬いアーマードオーガ、下手な攻撃は跳ね返してくるリフレクタータートルという連中が新しく試練を乗り越えようとするプレイヤーの前に立ちはだかっている。

 そして、こいつらに対してパイルバンカーは一定のメタ効果を発揮している。ゴーレムは一瞬動きを止めて貰えれば、オーガは攻撃をかいくぐって間合いに入れれば、タートルは正しい撃ち込むべき場所に撃ち込めればという条件こそ付くが、条件さえ満たせばパイルの杭がこいつらの厄介な装甲をぶち抜くのだ。

 当然そんな情報は動画系サイトや攻略サイトで津波の様に広がっていった。故に先日自分の所に欲しいとプレイヤーが押しかけて来たのだ。まあ、無理なんだが……実際今日まで自分がパイルバンカーを作っている時には護衛が付いており、その後にやってきたプレイヤーからの申し出はシャットアウトされた。なのでこちらは製作に集中する事が出来て助かった。

「こちらに対して独り占めするな、こちらに回せという意見もまあ、とんでくるな」「メールやウィスパーでも飛んでくるが、無理な物は無理だからなぁ」「この時期にグローでの取引なんて何の魅力もありませんし。資産トップを狙っているわけでもありませんからね」「俺達にもお前たちに話をしてパイルバンカーを回すように言ってくれというメールが後を絶たない。まあこれも有名税の一種か?」

 なんて会話が目の前で行われている。パイルバンカーを一切持っていないウィザードナイツも有名ギルドだからな……そしてこういった他のギルドと綿密に話し合いをしている事も知られている以上、そういったメールがウィザードナイツのギルマスや副ギルマスに飛んでしまうのも仕方がない事なのかもしれないが……

「とは言っても、こちらも独り占めしているわけではなくて素材と作成の手間を考えると無理だからどうしようもないって話なんですけどね。でも、欲しい側からすればそんなのただの言い訳でしかないととらえるのかもしれませんね。向こうの気持ちも分からないわけではないんですが」

 と、自分も発言。気持ちは分かるのよ、自分だって他の人が使っているところを見たらそりゃあ欲しくなるし使ってみたくなる。でも、意地悪をしているわけではなくどうしようもないから提供できないというのが現実。どう逆さに振ってもない物はないんだよ。なんて理屈、欲しい側からすれば知ったこっちゃないよね……そういう気持ちも分かる。でもなぁ。

「しかし、中途半端な素材で作れば、彼らが求めるレベルのパイルバンカーは生み出せない。実際作り上げた七基のパイルバンカーの素材はどれも一級品の素材を使ったうえで、手間がかかる合金を作り上げたうえで制作する以上どうしても時間がかかってしまう。素材を提供してくれた皆さんからしても相当な苦労や出費があったはずです。それを売ってくれと言われても……」

 自分の表情が苦いものになっていくのを感じる。正直、あのパイルバンカーを売るとなったら値段がつけようがないのでオークション形式にするしかないだろう。そうなった場合は一基にどれだけの値段が付くのか──まあ、欲しい人の手にはほぼ渡らないだろうな。

「打診された中には値段をつけているやつらもいたんだがな。二〇〇〇万で売ってくれとかもあったぜ? 正直怒りを通り越して笑っちまった。材料費の半分にも満たねえぜって返答してやった。嘘はついてねえしな」

 と、苦笑しながらマッスルの副ギルマスが話をしてくれた。彼の発言に嘘はない。パイルの杭に使っている高級なミスリルの材料費だけで三〇〇〇万は堅いだろう。この時点で二〇〇〇万の申し出なんか何の意味もないのだ。むしろこのパイルを二〇〇〇万で材料費、技術料込みで売れるという人がいるなら、そちらに全て任せたいよ。

「二〇〇〇万で買えると思ったのかよそいつは……今の武器の相場を知らねえのか?」「知らないんだろうな……そこそこの物なら確かに一〇〇〇万も出せば買える。だが、このパイルバンカーの様に一点ものに近い装備なら億からスタートするのが当たり前だ。俺達が複数持ってたから勘違いしたか?」「いや、それを考慮しても二〇〇〇万はないわ。パイルの杭だけでいいミスリルを使っていると見抜けない時点で話になってないな」

 とまあ散々な言い方をされてしまうが、流石にこれはみんなの意見が正しい。先ほども言ったが、このパイルを二〇〇〇万で提供できるというならその人に全ての作業をぶん投げるよ。少なくとも自分には絶対に不可能な話だ。

「まあ、億でも売らねえが」「値段なんかつけようがないだろ」「無理やりつけるならオークションだろうな、それ以外の方法はないだろ」「材料費だけでも公開するか? それを見れば納得するかもな」「良いかもしれない、こうもメールが飛んでくるのはさすがに鬱陶しい」

 とのことで、パイルバンカーを製作するために使った各材料を公開する事になった。自分も材料の必要量などの情報を公開してもらうために伝えておく。

「良し、これらの情報はこの後俺が責任をもっていくつかの情報サイトや掲示板に載せておく。これで少しは静かになればいいんだがな」

 という事で、マッスルにギルマスに情報を公開してもらう役を果たしてもらう事になった。彼ならば色々な意味で名前が売れているし、一定の信頼もある筈だ。むろん嘘を言っていると疑う層は必ずいるだろうが、それでも信じる層もいる筈だ。

「所でアースは今後どうするんだ?」「自分も明日からは援軍として動く形になるね。塔の主からも許可が下りたから」

 ツヴァイの質問に返答。他の人も自分の今後は気になっていただろうし、ツヴァイが質問を振ってくれたのはちょうどよかった。自分も塔に入る事になれば、各ギルドから出してもらっていたガード役も必要なくなると伝わるだろう。

「そうか、ついにアースも参戦か! お前が加われば援軍の登頂援護の成功率はさらに上がるだろうからな、期待しているぞ!」「そうね、対応力は私達よりもはるかにあるし……頼むわよ」

 と、マッスルの副ギルマスとヴァルキュリアスの副ギルマスから声をかけられる。期待されるのは悪い気分ではないが、ちょっと重く感じるなぁ。自分にはできる事をやる事しかできないよ。世界を回って経験を積んだから、そこから得た情報などで立ちまわり方を変える事はできるけど、それぐらいだ。

「なんにせよ、残り時間はわずかだ。そのわずかな時間にどれだけの人数を一〇〇〇階まで持っていけるかだな。大変だとは思うが頑張ってくれ。もちろん俺達も全力を尽くす」

 マッスルのギルマスの言葉に自分を含めた全員がゆっくりとうなずいた。出来る事が残っているなら、それらをできる限りやる事はとても大事だ。人事を尽くして天命を待つ、なんて言葉だってある。逆に言えばやるべき事があるのにそれをやらず、後は運任せなんて事では何も成せないという戒めでもある。

「正直、今の到達人数では──最後の戦いが戦いにならずに終わってしまうと俺達は危惧している。何せワンモアが一年という時間を延長してまで用意してきた舞台だ。待っているボスは並の感覚で立ち向かえば瞬殺されかねないだろうな。そんな相手に二〇〇〇名弱では……正直に言えば最低でも五〇〇〇は欲しい。もちろんそこまで届くことはないだろうが……それでも一回でも多く救援を成功させて登頂を達成したプレイヤーを増やすのは大きな価値があるはずだ。頼んだぞ!」

 このマッスルのギルマスからの要望に、この場にいる誰もが右手を大きく上げて応えた。さて、明日からは別の形で頑張らないと。期待を裏切る事だけは無い様に最善を尽くそう。
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