とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ

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22巻

22-1

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 1


(何ともまあ……掲示板のほうはずいぶんとやり取りが激しいな)

 お世話になったドワーフの皆さんに挨拶あいさつをした後、ちびアクアを頭に乗せたアースこと自分は、次の街を目指して蒸気トロッコに揺られている。
 そしてその時間を利用し、魔王様の遺体の在り処が分かるきっかけでも見つかればいいなと思って『ワンモア・フリーライフ・オンライン』のプレイヤーが集うネット掲示板を覗いたのだが……そうか、ゲームの情報がまとめられているWikiが落ちるほどの混雑状態なのかー。
 地底世界が開放されて、契約妖精に更なる活躍の場が与えられたというのはかなり大きな変化だったな。だから万が一にも契約妖精にフラれるわけにはいかないと、より仲良くなるための情報を求めてサイトに閲覧者が殺到したといったところだろう。
 しかし、改めて掲示板を読み返してみても、これと言って魔王様の遺体に関する情報はヒットしない。他に何か情報は……おや、鍛冶関連の掲示板がちょっとめてるような?
 新しく手に入るようになった鉱石関連の話か。『ミスリル、ついに見つかる』という見出しから始まって、ただの鉄鉱石でも今までとは品質が桁違いに良すぎるとお祭り状態になり……そしてその後、精製ができない、どうやるんだよこれ!? って流れに突入している。
 自分がドワーフの皆さんから教わった鍛冶のコツの中には、この地底世界で手に入る鉱石の精製方法もあった。やり方が分からないって人は多分、あまりドワーフの皆さんと交流を図ってないんだろうな。
 しかもその精製方法もドワーフから受けられる訓練をしてからじゃないと、ミスリルですらただのゴミクズになり果ててしまう。ドワーフ達との交流を経て教えてもらった人はそのやり方を掲示板では明かさず、密かに修練しているんだろうな。だから大騒ぎになっていると思われる。
 鍛冶をメインにやっていて呑み込みが早い人なら、もう精製できるようになっている可能性はあるが、そんな貴重な情報をこんな早期に漏らすはずがない。人より一歩先を行けるって事は、それだけお金を稼げるチャンスに繋がるからな。
 それ以外はこれと言って目を引く話がなかったので、掲示板のウィンドウを閉じて、蒸気トロッコの窓から周囲を見渡す。
 掲示板では野菜が作られていたって話も出ていたが、ここら辺は小麦がメインのようだ。土壌によって生産物を変えているんだろう。
 どういう理屈かは分からないが、蒸気トロッコが走るエリアには天井に取り付けられたいくつもの石のような物が発光しており、地上の昼間のような明るさだ。だから作物が日照不足で育たないなんて事はないようだ。
 で、収穫された作物はこの蒸気トロッコの貨物車両で運ばれる、と。
 蒸気トロッコのすぐそばで生産している理由は、運搬距離をできるだけ短くする事に加えて、地底世界特有のモンスター『命を収穫する者』に蹂躙じゅうりんされないようにするためでもあるのだろうな。

『あーあー、そろそろ次の駅に着く。降りる奴は準備をしておけよー』

 そんな声が、客車につけられている伝声管から聞こえてきた。
 一駅の間は三〇分ぐらいか? 障害物が一切なくまっすぐに進み、それなりのスピードが出ているから、かなりの距離を移動できている。この蒸気トロッコは、地底世界においてかなりありがたい移動手段だな。しかしそうなると、掲示板でちらほら見る、ドワーフの村に入れない人って今後長距離の移動手段の確保をどうするんだろ? そこら辺のサポートを運営は何もしないのかね?
 やがて蒸気トロッコは徐々に速度を落とし始め、徐行運転でゆっくりと駅の中に入っていく。現実世界リアルでひと昔前の地方にあったような、最低限の施設しかない小さな駅だが、掃除はこまめにされているようで汚くはない。
 完全にトロッコが止まると同時に客車のドアが開き、乗り降りが可能になる――まあ、今回は自分以外に降りる人も乗る人もいない。
 その一方で、後方の貨物車両のほうは大忙しだ。農作物や各種鉱石の積み下ろしのために、複数のドワーフさんが駆けずり回っている光景が目に入った。
 自分はそのまま駅を後にした。何せ切符なんかないからだ。というのも、蒸気トロッコの存在理由は農作物や鉱石の運送がメインであり、人を乗せて移動するのはおまけなので、馬鹿な事をしでかさない限り運賃は無料となっている。
 そしてそのまま街の中へと入ると、どうやらこの街には他のプレイヤーがちらほらいるようで、一〇人ほどが固まって行動していた。

「お? もしかしなくてもプレイヤーじゃん。まさかこんな辺鄙へんぴな街で俺達以外のプレイヤーに会うとは思わなかったぜ」

 そのうちの一人である男性プレイヤーが手を挙げながら近づいてきてそんな事を言ったので、こちらも手を挙げて「まあ、偶然でしょ」と返答しておいた。

「ところで、ほかのPTパーティメンバーは? この地底世界で単独ソロって事はないでしょ? もしかして、全滅しかかったんで街まで逃げてきたところ?」

 女性プレイヤーからはそんな事を聞かれてしまった。少し悩んだが、自分はソロ活動をしていると正直に伝える。

「地下に入るときにはPTを組まないといけないと知らなかったクチか? だったら俺達と行動するか? この地底世界、ソロじゃ厳しすぎるだろ? もちろん無理にとは言わないけどよ」

 最初に声をかけてきた男性プレイヤーからそんな提案を受けたが、今の自分の状況ではソロでいざるを得ないんだよねえ。魔王様の遺体を見つけたときに、PTで均等割りなんてされてしまったら困った事になるから。
 PTに入っておいて、自分のクエストアイテムだから全部欲しい、なんて意見は通らないだろう。揉め事を起こさないためにも、ここは提案を断るしかない。

「ああ、ありがたい話なんだがちょっと理由があってね。捜し物が終わるまではソロでいなきゃいけないってクエストを受けているんだ」

 自分の言葉を聞いたプレイヤー達は「この地底世界でソロ強要って、鬼畜クエストだな」とか「さすがワンモア、容赦ねえ」とか「ひっでえクエストだなそれ、運営はやっぱ鬼畜だわ」などと言いながら、同情するような視線を向けてくる。ただ、「どこで受けるクエストなんだ?」とか「報酬って何?」といった質問はされなかった。

「なるほど、クエストかよ。相変わらずこの世界は容赦ねえな……それじゃPT組みたくても組めねえよな。頑張れよ」

 と、苦笑を浮かべながらの男性プレイヤーの言葉に「ありがとう、そっちも探索頑張ってくれ」と返答して別れる。
 さてと、まずは寝床の確保だ。テントを張るなりするにしても、許可を得ないとドワーフの皆さんに迷惑をかけてしまう。まずはこの街のまとめ役のドワーフを見つけないとな。とにかく、街の人に話しかけてみるか。

「ああ、そういう事ならあそこの……一軒だけ緑色の屋根の家があるだろ? あの家にいる奴がこの街のまとめ役だ。街の近くで休みたいならアイツから許可を取ってくれ。許可さえ下りれば、俺達も文句はねえ」

 なんか、あっさりと教えてもらえたんだけど……まあいいか、面倒がなくて済むのはありがたい。
 教えてくれたドワーフにお礼を言って歩き出し、まとめ役ドワーフが住んでいるという家のドアを叩く。

「おう、いるぞ。入ってくれ!」

 ――警戒心が全くないような気がするんだが、いいのかなぁ? とりあえず入っていいと言われたんだから失礼するか。ここでずっと立っているわけにもいかないし。

「失礼いたします」

 ドアを開け、ひと言断ってから家の中に入る。そこは最初の街でお世話になった家と似たような間取りで、一人のドワーフが安楽椅子に腰かけていた。

「今日は来客が多いな。で、兄ちゃんは何の用事だい? 困り事かな?」

 友好的に話を聞いてもらえる様子でありがたい。率直に、街の傍でしばらくの間テントを張ってもいいかどうかを尋ねてみる。

「ああ、それは構わんよ。兄ちゃんはコログウと争った形跡もないようだからな。匂いで分かる」

 すると、許可はあっさりと下りた。やはりあの虎に似たモンスター、コログウと事を構えたか否かで判断されるようで、それさえ大丈夫ならドワーフの皆は基本的に友好的なんだろう。
 しかし、匂いで分かるというのもすごい話だな、どういう嗅覚してるんだか……血の匂いとかなのかね?

「というか、兄ちゃんなんだろ? 青い鳥を相棒にしているっていう噂の冒険者は。そんな外套を着ているのは兄ちゃんぐらいだからな。で、兄ちゃんさえよければ、前の街でやってたようにこの街でも、作業場の連中を水で冷やしていやしてやっちゃあくれないか? やってくれるっていうなら、街の外と言わずに空いている家で寝泊まりしていいし、もちろん報酬も渡すが、どうだい?」

 この街でもその話になるか……しかし、なんでそんな事が必要になるまで仕事をするんだ?
 いくら鍛冶に優れているドワーフでも、熱い作業場での長時間作業は体にこたえるだろう。だったら、無理のない範囲でやればいいだろうに。それとも、そういうわけにはいかない理由でもあるのか?

「その依頼を受けるかどうかはこの子次第ですが……先に一つ質問をさせてください。なぜそうまでして仕事をなさるのですか? 休みを取りながら、徐々に作業を進めれば宜しいのでは。無理をして倒れてしまっては元も子もないでしょうに」

 そんな自分の質問に対し、まとめ役ドワーフは「ああ、まあ兄ちゃんの言う事はもっともなんだけどよ」と前置きをしてから、その訳を話し始めた。

「俺達も過剰労働だってのは分かってるんだがよ……何でか知らねえが、いきなり三大都からミスリルをはじめとする各種金属のインゴットを大量に要求されるようになっちまってな。その要請にできる限り応えねえと、命を収穫する者の侵攻が激しいときの救援要請に応えてもらえなくなっちまう可能性があって、断り切れねえんだ。頭の痛い話だが、街を守るためには仕方がなくてな。もっとも、大都のほうだってこんな要請をしてしまって申し訳ないって先に頭を下げてきてるから、無下にするわけにもいかなくてな」

 む、三大都からの要請が原因なのか。そしていきなり需要が上がった理由は、おそらくプレイヤーにあるな。
 掲示板をちょくちょくチェックしているが、かなりのプレイヤーが三大都のどれかに到着したようで、そこを拠点とした探検や鍛冶プレイヤーの訓練と装備製作で活況らしい。と言っても、現時点ではさすがに長年の経験があるドワーフに軍配が上がるから、多くのプレイヤーがドワーフの鍛冶屋から新しい装備を購入しているそうだ。そのため、ミスリルをはじめ各鉱石の需要が急激に上がったのだろう。

「そういった理由でしたか……アクア、いけるか?」

 自分の言葉に、ちび状態のアクアは翼を動かして敬礼のようなポーズを見せる――変な事を覚えてるな。まあ、やるって事だろうと判断する。

「了承してくれたようです。私が冒険に出る時間以外は、この子のできる範囲で支援をしてくれると思います。ただ、無理はさせないでくださいね。この子だって生きていますし、調子の良いとき悪いときはありますから」

 必要ないかもしれないが、一応念押し。大切な相棒を便利な道具扱いされて使い潰されたら、たまったものじゃない。前の街では大丈夫だったけど、ここも大丈夫かどうかなんて分からない。もし明らかにアクアがヘタってしまっているって感じた場合は、さっさとこの街から出ていく事にしよう。

「もちろん分かってるさ。前の街のまとめ役からも、そこら辺は念押しされてる。まあ、もし念押しされてなかったとしても、人様の相棒をぞんざいに扱うなんて恥知らずな真似をするつもりはねえよ。万が一それを分かってねえ馬鹿がいたら、みっちり締め上げる事も約束しておくぞ」

 それならいいか。こちらとしても、外にテントを張る面倒さから解放されるのはありがたい。
 ログアウトするだけなら、アクアのふかふかの背中を寝袋代わりにして埋もれさせてもらえば可能なんだけどさ、他のプレイヤーの目がある場所ではやりたくない。妖精国の象徴であるピカーシャのアクアがここにいるって事を知られたら、面倒事に発展してしまうのは絶対に間違いないのだから。

「ではお手数ですが、お借りできる家と、ドワーフの皆様が作業されている現場に案内していただけませんか? どちらも場所が分からなくては動きようがありませんので……」

 そう言うと、まとめ役ドワーフは早速案内人を手配してくれた。借りられる家は小さかったが、今回は前の街での集会所のような役割がない一軒家なので、のんびりできそうだ。
 また、作業場のほうにも案内してもらうと、そこではドワーフの皆さんが滝のような汗を流しながら、ミスリルの精製作業を行っていた。

「親方、今回精製できたのはこのぐらいです!」
「うーむ、やっぱり量が足りねえ。大都の要求量の半分にも満たねえ」
「無茶言わんでくださいよ、いきなり要求量が五倍ですよ? 皆くったくたになるまでハンマー握ってミスリルブッ叩いて……もう限界が目前ってのは親方だって分かってるでしょうに」
「分かってらぁ、だからどうするか悩んでるんだろうが」

 耳に入ってきてしまった会話から、ドワーフの皆さんが追い込まれている状況はすぐに理解できた。だから――

「アクア、済まないが頼む。薄くでもいいから、全体にまんべんなく支援をしてあげてくれ。それでも支援があるとないでは大違いのはずだから」
「ぴゅぴゅい」

 自分の願いに応えて、アクアがへたり気味になっているドワーフの皆さんに水魔法で支援を始めた。
 すると、鍛冶作業の最中のドワーフさん達の頭上と首元にうっすらときりが漂い始め、その霧が熱くなり過ぎた体を徐々に冷やし、癒しを与える。もちろん、その霧が視界を塞いだりといった作業の邪魔になるようなへまを、アクアがするはずもない。

「何か、急にひんやりしてきた気が」
「このクソ熱い作業場でそんなわけがあるか!」
「いや、気のせいじゃねえぞ。首元が急に楽になりやがった」
「首だけじゃねえ、あれだけうだってた頭から徐々に熱が引き始めたぞ。これならまだ作業を続行できる」
「こりゃ水魔法だな、でもこんな魔法の使い手がこの街にいたか?」

 二分も過ぎると、ドワーフの皆さんが決して作業の手は止めずにそんな会話を始めた。さすがアクアの魔法、あれほど熱い作業場の熱に負ける事なく程よい冷気を出すという難しい事を、あっさりやってのけている。
 そして、そんな支援を受けたドワーフの皆さんの作業速度は明らかに速くなった。おそらく今の速さが、本来の作業速度だったのだろう。
 そんな現場の変化を見渡していた、親方と呼ばれていたドワーフの視線が自分達を捉えた直後、彼はゆっくりと立ち上がり、作業場を離れてこちらに近寄ってきた。

「これは兄ちゃん達の支援魔法かい? 助かったぜ、もう俺も含めて皆がへとへとでな。かといって作業を休むわけにもいかず必死にやってたんだが、いくら慣れているとはいっても作業場の熱は容赦ねえし、連日の疲れもあってにっちもさっちもいかなくなってたところだったんだ。だが、この涼しさと……それだけじゃねえな。ゆっくりとだが、体力を回復してくれてるだろ、これ。さっきまで荒い息を吐いていた連中が、徐々に本来の作業速度が出せるようになってやがる。大した魔法だ」

 アクアの水魔法は、一級品だからねえ。自分も今までさんざん世話になっている。
 それに一回大怪我をして離脱した後、訓練し直して合流してからのアクアは能力がより高まっている。以前自分が【ドラゴンボーン】を鍛えていたときに支援してくれていたやり方よりももっと効率的、かつ効果的な魔法を使えるようになっていても不思議ではない。
 実際、今のドワーフの皆さんに使っている魔法は、以前は使っていなかったものだ。

「この子の魔法ですけどね。これから、自分達が街にいるとき限定ですが、こういった支援でお助けする事になりました。まとめ役のドワーフさんからの依頼といったところでしょうか。ただし、決して酷使はしないようにお願いします」

 一応、現場の監督である親方ドワーフにも伝えておく。釘は複数刺しておくべきだというのが自分の考えだから。
 感謝しきりの親方ドワーフと会話を交わして情報を収集し、この日はログアウト。次のログインからは、この街の周囲を探索して、魔王様の遺体捜しに取り掛かろう。



 2


 翌日、ログインしてアクアと合流。その際、アクアが大勢のドワーフからあがめられているところを見てしまい、ちょっと引いた。当のアクアも困惑しきりで、自分の姿を見つけた途端に頭の上に飛んでくる始末。
 それだけドワーフの皆さんの作業に貢献したって事なんだろうが、ちょっと行き過ぎな気がしなくもない。
 で、自分がしばらく街の外に出るのでアクアを連れていく事を告げたら、ドワーフの皆さんは即座に休憩を始めた。アクアがいないと仕事にならないから、今のうちに飯を食って体を休めておこうって事らしい。
 一応仕事の進み具合を聞いてみると、かなりのハイペースでミスリル鉱石をインゴットにできており、アクアのおかげでこれまでの遅れを取り戻すどころか少し余裕すら生まれ始めたとの事。だからこれほど崇められているのか。
 そんなドワーフの皆さんに見送られ、街の外へ。
 街から十二分に離れたところで、〈百里眼〉と《危険察知》のダブルで周囲に人影がない事を確認。そこでようやく本来のサイズに戻ったアクアの上に乗り、早速調査を開始。アクアの足があれば、一気にマップが埋まっていく。時々立ち止まってもらって、方角や地形のチェックも欠かさない。

(このペース、この感覚なら……街周辺のマップが埋まるのに四日か五日ぐらいかな?)

 アクアと共に調査する事一時間。マップの広がりから、自分はそうアタリをつける。前の街周辺を調査したときに見つけた、あの凍えるような寒さと霧を発生させていた地底湖などがなければ、の話だが。あの地底湖レベルなら、魔王様から貰ったこのマントで十分対処できる。ただ、その場合はアクアから降りて徒歩で調べなければならなくなるので、時間が余計にかかる。疲れや焦りのせいで目的の物を見落としてしまいましたよ、なんてのはゲームでなくてもよくある話。だから念入りにチェックポイントを潰していかないと。
 幸い、命を収穫する者とは出会わなかった。コログウには数回遭遇したが、こちらが手を振ると向こうも尻尾を軽く振って挨拶した後、どこかに消えていった。彼らは彼らで目的を持って動いているんだろうから、こちらもその後を追って邪魔になるような真似はしない。

「アクア、この辺りでいったんご飯にしようか」
「ぴゅい!」

 周囲に危険な物はないと確認したところでアクアから降り、料理の準備をする。
 今回も作るのはシチュー。寒いときにはやっぱりこれだろう……以前と同じように作り、味見。うん、二回目だけあって少し美味おいしくなったような気がする。評価の数字に変動はないが、それは気にしない。
 パンも用意し、いざ実食。アクアに渡すパンは、ある程度の大きさにちぎってあげた。くちばしでちぎって食べろってのも酷い話だから。
 パンをシチューにつけたりしながら完食すると、アクアも満足したようで、小さくケプッという音が聞こえた。

「アクア、ここまで走ってきて何か気になった事はないか?」

 もしかしたらと思って聞いてみたが、アクアは首を左右に振るだけ。もう一度《危険察知》で周囲をチェックするが、やはり変わった気配などはない。この周辺には、魔王様の遺体はないと考えてよさそうだ。
 何せ死んでも魔王様だ、その遺体の傍に来れば、きっと何らかの違和感を覚えるはず――そういったものがなければ見つけるのがかなり難しくなってしまうから、あってほしいという願望でもあるが。

「街に戻るか……明日は別の方向を調査してみよう」


 こうして数日かけて調査した結果、この街の傍には魔王様の遺体はないと断定した自分は、次の街に向かう事にした。
 しかし、この旅立ちのときが大変だった。

「た、頼む! もうちょっとここにいてくれ!」

 街を発とうとした自分とアクアに対して、まとめ役ドワーフの懇願こんがんが飛んできたのである。
 アクアの水魔法によるバックアップのおかげで、工房の作業が危機を脱して順調に回るようになったが、アクアがいなくなるとまた作業員達のテンションがダダ下がりになる事は明らか。そのためもう少し、いやできればここにずっといてくれ、と言われてしまったのだ。
 無論呑める話ではない。こちらにも目的があるし、もたついていれば今後の情勢に差しさわりが出る。
 現魔王様をはじめ、『羽根持つ男』らの存在を知っている魔族の皆さんは、一刻も早く魔王様の遺体が戻ってくる事を強く望んでいる。たった一日であっても、必要のない足止めを受けるわけにはいかないのだ。それに、リアルの一日で「ワンモア」世界は大体五日が過ぎる設定になっているから、尚更急がねばならない。


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