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11巻

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 4


 さて、翌日。「ワンモア」にログインした自分は、事前のアポも取らず、ある場所に突然押しかけた――いや、この言い方は正しくないか。正確には、迷わず殴りこんだ、といった方が間違いないかもしれない。

「それで突然の訪問とは、何の御用かな」

 行き先は、あのメイドさんが大勢いる大きな館。アポなしで本当に会えるとは思っていなかったので、最初は出てきた人に伝言を頼むつもりだった。だが今こうして会えた以上、直接ここで言ってしまおう。

「では早速要件を言わせていただきますが、ライナさんになぜ、自分がメイドに惹かれることを教えてしまったのですか? と伺いたかったのが一つ。それから、もうこれ以上変に広めないでください、という二つです」

 昨日はメイド服を来たトイさん&ライナさんに挟まれて、街を案内された。いやまあ、お陰で街にある施設の場所などはよく分かったのだが……その代償はかなり大きかった。なにせメイドさん二人に案内されている一人の男、という光景のせいで、多くのダークエルフの皆さんから自分はメイド好きであるという認識を持たれてしまった。
 外套がいとうのフードを被ってるんだからもしかしたら顔は見えないんじゃ? とも思ったのだが、どうもダークエルフの皆さんは、その人が放っている気みたいなものを感じられるらしい。だから、個人特定は顔が見えなくても大体可能らしく……ライナさんがニコニコ顔でそのことを教えてくれたときには、頭を抱えてしまった。
 それもこれも、今目の前にいるご当主が原因なのだから、少々強く当たらせてもらってもばちはあたるまい。

「ふむ? メイドはロマンなのだろう? ならばそのロマンを実現することに意味があると思ったのでな」

 いや、待ってほしい。それは自分が言った言葉ではないのですが。
 しかしご当主は、あのときあそこに集まっていた人達全員の総意と捉えたらしい。そして何らかの理由で自分とライナさんが知り合いであると知って、彼女らにメイド服と一緒に情報を流したのか。
 言うまでもないが、ダークエルフの長老の娘であるライナさんなら、街の有力者のご当主とはそれなりのパイプがあると考えるのが普通だろう。

「実現するにしても、もう少しおとなしい方法でお願いしたかったというのが、こちらの本音なのですが……」

 何もあんな風に、トイさんとライナさんに服を与えなくてもよかったはず。お陰で酷いことになってしまった。

「ふむ、そうか。それは済まなかったな……ロマンだからこそ、メイドを横に置いて一緒にいるというのをやりたいのかと思ってしまった」

 いやいや、自分はそこまで吹っ切れられないのですよ。自分の中のひっそりとした趣味を、ここまで大々的に他者に知られてしまう日が来るとは思いませんでしたよ……仮想現実とはいえVRだと、精神的に受けるダメージの量が現実とあまり変わりがない……

「が、あれだけ派手にやってしまった以上、もう引っ込みもつくまい。ならばいっそ、より派手にやってみるのも面白いと思わないか?」

 突然、にやにやしているご当主がそんな恐ろしい提案をしてくる。

「すみません、もうそういうのはお腹いっぱいでして。切実にお腹いっぱいですから、やらなくていいんですよ! やらなくていいんですからね! 大事なことだから二回念押ししましたよ!」

 こちらは必死なのだが、ご当主だけでなく控えていたメイドさん達まで、我慢できなくなったのか笑い出している。他人の必死な姿が笑えるということは理解できるので、それに対していちいち腹を立てたりはしない。苦笑はするけど。

「し、失礼しました。ですが、昨日のあのあたふたするお姿を見ていた身としましては……」

 メイドさんの一人が必死で笑いをこらえつつ、そんなことを教えてくれる。やれやれ、あれだけ目立てば当然、ここにいる中の誰かが見ているか。自分にできることは、顔を押さえてうつむくことだけだった。穴があったら入りたいとはこんな心境である。

「まあ、もう済んだことですからそれはいいです。いちいち掘り返したりもしませんから、そのまま記憶の奥にふたをしてください……とにかく、これ以上何もしないでくださればそれでいいですから」

 釘を刺しておかないと、色々と危険だからな。
 だがここで、笑いやんだご当主がこんなことを言ってきた。

「そうか、だが君は冒険者だろう? そしてライナ嬢から聞いているが、現時点ではメンバーが三人しかいないそうだな? 新たにメンバーを集めるのは大変だろうし、私の方から出そうと思って用意しておいたメンバーが三人いる。見るだけでも見てほしいんだが、どうだろうか?」

 む? 確かに情報を軽くあさっただけでも、ダークエルフの谷底にいるモンスターは厄介な面が多い。だからPTの面子めんつをもう少し増やそうかなと考えていたのは事実だ。
 そんなことを考え始めた自分から断りの言葉が出なかったために、提案を了承したと判断したご当主は、その三人を連れて来るようにと指示を出した。そうして現われたのは、やや幼さを残す、身長一六五センチ前後のダークエルフのメイドさん達だった。

「この三名にはこちらで行える訓練は十分に積ませたが、まだまだ未熟者だ。そこで、冒険者と一緒に谷底で魔物相手に戦うことで、訓練では得られない経験を積ませたい。どうだろうか? ちなみにこの三人は、冒険者に例えるなら前衛が一人、回復と支援を得意とする者が一人、遠距離攻撃特化者が一人だ」

 ふーむ、ここで受け入れてしまえばメンバーは一気に揃うし、このご当主とツテが出来るか? だがなぁ。

「えーと、やっぱり戦うときはメイド服なんです……か?」

 並んでいる三人のメイドさんに確認をとるが……返ってきた言葉は予想通りであった。

「「「もちろんです。この服は私達の仕事着であり、戦闘服でございます」」」


 やっぱりそう答えるか。トイさんやライナさんのようなコスプレではなく、彼女達は正真正銘、メイドを職業とする人達である。そうなればこの服装に誇りを持っていてもおかしくない。おかしくはないが……

「街中で目立ちませんか?」

 そう、気になるのはやっぱりそこだ。昨日の一件でも、やっぱりメイド服は目立つことを痛感している。そこでさらにメイドさんを三人追加すると……そりゃまあ、多くの人が「何だあいつは」って視線になるよね。
 だが、自分のそんな疑問に対し、ご当主は笑って首を横に振る。

「いや、あんまり目立たないだろう。その理由は少し後になれば分かるはずだ。いや、こちらとしても久々に面白いことになってきている状況でね。ハイエルフの一件で暗い話題やうわさが多かったからこそ、その反動が大きいと見るべきだろうな。こちらとしても商売的においしい話でな、ぜひこの流れには乗っておかないといけないところだ」

 もう読めた。目立たなくなる&商売的においしい&ここのご当主が売っているものは布製品。つまりはメイド服の注文が殺到しているんだろう。トイさんとライナさんにメイド服を着せたのは、メイド服を来た女性はこうなりますよ、といった感じの広告効果を狙ったのかも。昨日の自分達はいい広告塔になっていたわけだ。そういう部分は、このご当主には初代からの商人の血が流れていると見るべきだな。
 とりあえず、メイドさん三人をPTに入れるかどうかは数日後に決定しますと告げて、この日は館を後にした。明日はどうなるんだろうか……


     ◆ ◆ ◆


 翌日、「ワンモア」にログインして軽い食事を済ませる。その後、昨日のメイド三人をPTに入れるかどうかをトイさんとライナさんに相談すべく、PTチャットを起動……しようとした直前に、ウィスパーチャットが飛んできた。
 送り主は……ツヴァイか、エルフの村以来だな。何か問題でも発生したのだろうか?

『どうした? 時間はあるから話せるぞ』

 ウィスパーの要請を受け入れて声をかけると、ツヴァイからはこんな言葉が飛んできた。

『アース、正直に吐け。今度は何をやった?』

 なんのこっちゃ? 訳が分からない。これはどういう意味なんだ。

『話が見えないぞ? 今度は何をやった、と言われても返答に困るのだが』

 この質問に対し、ツヴァイからのご返答はこうだった。

『まだダークエルフの街の様子を見てないなら、宿屋から外に出てくれ。それで分かると思うぞ』

 クエスチョンマークを頭に浮かべつつ、ツヴァイに言われた通り外に出てみると……

『メイドさんがいっぱい……?』

 そう、道行くダークエルフの女性の四〇%ぐらいが、昨日までよく見た露出の多い軽装姿から一転して、紺色のロングスカートのクラシックなメイド服へと、服装を変化させていた。

『他のプレイヤーに聞いてみると、現実時間で朝だったときはこんなことにはなってなかったらしい。だが、昼間から徐々に増えて、今は見た通りの状態だ。こっちの世界の人にここまで極端な変化を起こせるのは、色々とわき道を突っ走っているアースぐらいだろ? だから何をやったんだとウィスパーを飛ばしたんだ』

 ――今回は自分よりも、メイドさんはロマンです、と力説したあのプレイヤーのせいなんだがなぁ。それに、露出が少なくなったのだから目のやり場に困ることも少なくなって、いいことではないのだろうか? とりあえずツヴァイには、館での一件を細かく説明する。

『ってことで、今回の原因を作った責任者というなら、メイドさんはロマンだと力説した人だろう……名前は覚えてないが、一緒に館に入った面子は三〇人ほどいたから、自分が嘘を言ってもすぐバレる』

 そもそも、メイドさんの服装をする人が増えたからって大した問題ではないだろう? リアルでこうなったらそれは珍しいだろうけれど、仮想現実世界のこちらなら、一つの国における女性の礼服がメイド服であったとしてもおかしくはない。我ながら極端な例えだとは思うが。

『そもそも、実害なんて特にはないだろう? メイド服のアバターなんて、ネットゲームではありふれたものだし。これだけ街の女性が揃いも揃ってメイド服を着ている光景はなかなか凄いものではあるがね。それに、一番最初に自分を疑ったのはなぜだい? 普段からわき道を突っ走っているってだけでは、説得力が少し弱いように思えるんだが』

 これに対するツヴァイからの反論は……

『ノーラ、カザミネ、ロナが口を揃えて言ってたぞ? 「「「こんなことを引き起こすのは、アース君(さん)が何かやったはず」」」ってな。何で三人が見事にハモったのかまでは知らないけどよ……それと、実害というのには微妙なんだが……』

 歯切れが悪いな。ツヴァイは一旦そこで言葉を切った後に、とりあえず言わないとな~と付け加えてから、続きを送ってきた。

『ミリーが「せっかくですし、メイド服を着てみるというのも面白いですね」と言って、少し前に宿泊している宿屋を飛び出していった。それを見たエリザが「まさかミリーさん、メイド服で誘惑を!? そういえば我が国でも、結婚したい職業の相手ランキングの上位にメイドが入っていましたわね……!」とか何とか言って、後を追うように出ていった。それだけでもかなり面倒なんだが』

 まだ何かあるのか。とりあえずツヴァイの話の続きを静かに待つ。

『よりにもよってレイジがボソッと「メイドか……いいな」とつぶやいたんだよ。質実剛健とまでは言わないが、こういった話に興味がなさそうな雰囲気のレイジがまさかの反応を見せたんだ。もう予想できると思うが、レイジの彼女であるコーンポタージュまで飛び出していった。まるで伝染病のように、ギルドメンバーの中にコスプレメイドが増えそうな勢いなんだよ』

 知らんがな。と切り捨てるのはあんまりか? だが、本当にこうなったきっかけは自分じゃないからなぁ。広告塔にはなってしまったけれど、そんなことまで馬鹿正直にツヴァイに伝えるつもりはない。それにしても、レイジにもそんな面があったのか。ちょっとびっくりだ。

『話は大体分かったけどな、だからってこちらは何もできないぞ? まあ今のように八つ当たりを受けてやるってぐらいだな。後はそちらで何とかしてもらうしかないなぁ』

 まぁ、普段から女性に囲まれているんだから、ツヴァイに向けられる視線の量は大して変わらないだろうしな。それにこれだけ街中にメイドさんが増殖すれば、メイド服を着ている方が逆に目立たなくなるかもしれん。木を隠すには森の中、って言葉もあるし。

『確かに、ギルドが内部分裂を起こすってわけでもないから、そんなに怒っているわけではないんだが……それでも少し言いたくなったんだよ……』

 せいぜい影響があったとしても、そのレベル止まりだろうな。

『むしろツヴァイは、メイド服を着たミリーとエリザに囲まれて、周囲にいる男性からキツい嫉妬の視線を一身に受けるべきだ』

 これぐらいは言い返してもいいだろう。昨日の自分は、こんな風にメイド服を着た女性が多くなる状態になる前に、メイド服姿のトイさんとライナさんに街の中を連れ回された。その影響で、嫉妬どころか、暗転する世界の中で袋叩きにされる技を放たれそうなぐらいのオーラを、多くの男性からぶつけられたんだから。
 ついでに、自分に向けられたこうしたオーラの出所は、プレイヤーだけではなかったとも付け加えておこう。

『ぐふっ』

 あー、ツヴァイが吐血したか? それでも昨日の自分よりはマシだろう。街にこれだけメイドさんが増えて、中には男性と腕を組んだりしている人もいる。そこにメイドが一人二人増えたって、もうほとんどの人が見やしない。

『ま、せいぜい頑張ってくれ。他に用事はないのか?』

 この後、トイさんとライナさんにPTメンバーをどうするかの相談をしないといけないし、そろそろ話を切り上げないといけない。

『あ、ああ。それとアース、ソロは気軽かもしれないが、たまには俺達のところに顔を出してくれてもいいだろ? 時々、何も言わずに引退したのかと不安になるぜ……ほっておくと、全然音沙汰がないからなおさらな』

 そのうちにな、と伝えてウィスパーチャットを終わらせる。
 さて、トイさんとライナさんは新しいPTメンバーのことをどう思うかな。一応リーダーは自分だが、だからといって何の相談もせずメンバーを増やすのは問題だ。

【ちょっといいかな? PTメンバーの増員の相談があるんだが】

 そうして自分が何気なく送ったPTチャット。しかしライナさんからは……

【ごめんね、直接会って話をしないといけないことが出来ちゃったから、広場まで来てほしいの】

 との返答が。声から判断するに、少々焦っている雰囲気が漂っていたのは間違いない。いったい何があったんだ?

【分かった、できるだけ急ぐ】

 PTチャットを切り、自分は全力で走り始めた。《大跳躍》や《フライ》を利用してのショートカットも駆使して、最短距離を突っ走る。そのお陰で、二分後には広場に到着することができた。
 広場でライナさんを探すと……いた。二人の体格がよいダークエルフの男性と、何か話しているようだ。ここでまごついていても仕方がないから、とりあえずライナさんに声をかける。

「すまない、待たせた。いったい何があったんだ?」

 自分の声に反応してライナさんが振り向く。

「ちょっと、困ったことが起きたの。あまり他の人の耳に入れたくないことだから、こっちに来てもらえない?」

 ライナさんの提案を受け入れ、広場を出てしばらく歩いたところにある静かな喫茶店に、自分とライナさん、そして二人のダークエルフの男性が入る。ライナさんがひと言伝えると、マスターは頷いて店の奥に案内してくれた。どうやら、本当に他の人の耳がない場所を選んだようだ。

「前置きは省いて、理由だけ言うわね。トイ姉さんの父親……つまりエルフの長老様が体調を崩して倒れたという話が伝わってきたの」

 なんだと!?

「トイ姉さんは、もうこの街を出てエルフの村に帰っている途中よ。PTリーダーの貴方に断りもなく行動したのは申し訳なかったけど……」

 当然、これはこちらが責めることではない。むしろ、そういう行動を取る方が正しい。

「気にしなくていい。というより、そういった事情があるなら、ライナさんもエルフ村に行った方がいいのではないか?」

 二人は義理の姉妹かもしれないが、自分はそう提案した。するとライナさんも、この提案にすぐ乗ってきた。

「行っていいと言うのなら、お言葉に甘えさせてもらうね。その代わり、私達が抜ける間はPTに私の兄を入れて使ってくれていいから」

 ライナさんの言葉に、二人のダークエルフの男性は苦笑いを浮かべている。

「了解した。さあ、ライナさんは早く行って」

 ライナさんは、「ごめんね、ここの代金は私が出すから」と言い残して、あっという間に出て行った。
 しかし、エルフの長老が倒れたとは……ハイエルフの一件による過労が原因かもしれんな。大事ないといいが。

「やれやれ、あんな荒っぽい妹ですまんな、アース。お前のことは妹からよく聞いているから、自己紹介は無用だ。こちらの挨拶あいさつだけさせてもらうぞ。まず、俺はゼイだ。そしてこっちが」
「ザウ、という。どれだけの間組むことになるか知らんが、よろしく頼むぞ」

 ゼイさんとザウさんか。まずは軽い挨拶を兼ねて握手する。二人とも身長が二メートル近くある上に筋肉質な体を持っているので、握手をすると自分の手がほぼ隠れてしまった。

「こちらこそよろしくお願いします」

 自分も頭を下げて、そう挨拶をするが……ゼイさんとザウさんには不評だったようだ。

「硬い、硬いぞアース。PTメンバーなんだからもうちょっと砕けてくれていいんだぜ?」
「ゼイの言う通りだな、ここは公の場でもなんでもないんだぞ」

 こう言われてしまった。むう、なかなか難しい注文だが、何とか頑張ってみようか。

「了解、何とかしてみよう。そして申し訳ないんだが、あと三人、PTメンバーを入れる予定になっている。当初はライナさん達とそのことについて相談するつもりだったんだがな、今回のようなことになった以上、PTリーダーである自分の意思で増やさせてもらうが、いいかい?」

 自分の意見を、ゼイもザウも了承してくれた。その辺の考えは、PTリーダーの責任と権利だろうということだ。

「じゃあすまないが、そのメンバーと顔を合わせてもらいたいから、ついてきてほしい」

 話の合間に飲んでいたのは紅茶ぐらいなものだった。これぐらいなら、ライナさんに出してもらっても問題はないだろう。


 そうして喫茶店を後にして、例のメイドの館……じゃなくて、特製布を作っているご当主がいる館へとやってきた。

「おいおい、アース。お前さんはここの当主様と知り合いなのかよ!?」

 ザウにそう言われても、あえてスルー。呼び出し鈴を鳴らし、出てきたメイドさんに、PT加入の件です、と伝えるとすぐ中に通された。

「妹が『アース君は変な繋がりを作る天才』と評価していたが、なるほどな……」

 ゼイがそんなことを言う。ライナさん、後で覚えておけよ……今回はご当主とは会わず、例の新人メイドの前に通される。

「「「ようこそいらっしゃいました、お話をお伺いいたします」」」

 またも見事にハモる三名。すごいな。

「今日からしばらく、自分のPTに加入してもらいたい。報酬は冒険者の流儀に従って、得た収入を均等分配する。それでいいかな?」

 こちらの申し出に、三人は静かに頷いてから「「「問題ありません、これからよろしくお願いします、ご主人様」」」との答えを返してくる。

「え? 君達のご主人様はこの館のご当主だろう?」

 自分の質問には、この部屋まで連れて来てくれたメイドさんが説明をしてくれた。もちろん最終的にはここに帰ってくるので自分の認識は正しいが、帰ってくるまでの間は自分に仕えることになり、ご主人様が一時的に変わるんだと。

「ちなみに、どうしても気に入ったというのであれば、貴方のメイドにすることも可能です。現に数回、そういったことが以前にもございましたので、問題ありません。我らのご主人様もそのあたりは織り込み済みでございます」

 との補足説明までついた。メイドスキーが聞いたら狂喜乱舞するだろうなぁ……自分はそこまでの域には入っていないから、落ち着いて話を聞いていられるけどね。

「ではご主人様、私達は順にサーナ」
「シーニャ」
「スーと申します」

 むむむ、そう自己紹介を受けたんだが、この三人は三つ子みたいな感じで、見た目の差がほとんどないんだよね。扱う武器で区別させてもらうしかないな。昨日のご当主の話では、戦い方がばらばらだったはずだ。
 だが、その前に言っておかねばならないことが一つある。

「よろしくな、サーナ、シーニャ、スー。さて、早速ではあるが、君達に一つだけ言っておかねばならないことがある。それは、外では自分のことを『ご主人様』と呼ばないでほしい。理由は、変に目立ってしまうからだ。ろくなことにならないし、君達の訓練にも差しさわりが出る可能性がある。だから、『リーダー』か『アース』と呼び捨てるかで頼む」

 外でメイド服を着た女性にご主人様とか呼ばれてみろ、一発で色々と面倒なことが起きるに決まっているんだ。こういった可能性は真っ先に潰しておくに限る。

「「「了解いたしました、マイリーダー」」」

 しかし、この三人は本当によくハモるな。

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