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12巻
12-2
3
(ああ、やってしまった)
サーズの鍛冶場にて、自分はサーズ坑道産の鉱石で作った盾を前に、ため息をついていた。そもそも作る予定のなかったこれがここにある理由は、少し前のライナさんとの会話が原因である……
◆ ◆ ◆
「ごめーん、もうちょっと釣りを続けたいのよ、お願い」
新しい仕込み盾を完成させた翌日。ログインして馬車でサーズに移動した自分が、街の近くを流れる川の岸にて見たものは……釣りギルドの人や人魚とおしゃべりしながら釣りにドはまりしているライナさんの姿だった。なんでも、もう少しで釣りの技術がワンランク上がりそうなので、きりのいいところまで続けたいという。
ぽっかりと予定が空いてしまった自分は、暇潰しを兼ねて、実に久々となるサーズの坑道を訪れることにした。
余所で新しい素材が次々と見つかるので、この坑道で掘削している人はもうあまり多くない。ということで、自分は遠慮することなく鉱石をどんどん掘り出していった。次は妖精国に向かうつもりなので、途中ファストの倉庫に立ち寄れるから、ここで大量の鉱石を手に入れても全然問題ない。
各種鉱石を掘り出した自分は、サーズに帰ると【強化オイル】を製作し、在庫を補充した。しかし、それでもまだログアウトするには時間が早過ぎた……あまり早くログアウトしてもやることがない。
なので、昨日作った仕込み盾を、さっき掘り出した鉱石と余っているドラゴン素材でもう一つ作れないかと試すことにした。時間潰しにはもってこいだし。
スネークソード部分は刃物製作に向いている【グリンド鉱石】で、装甲部分や土台は比較的軽量な【カッティン鉱石】で作ればいいと判断。そして、スネークソードの一番先端部分の刃だけはドラゴン素材で作り、《ドラゴンの毒》効果を持たせてみる。
設計図はすでにあるし、二回目なので製作自体はすいすい進んだ。そうなるとつい熱が入ってしまい……半分遊びのつもりで作っていたはずが、気が付くと現物が完成しており、そこでやっと我に返ったのである。これ、どうしよう?
(作ったはいいが、こんな趣味武器を他人には売れんし……そもそも性能が見向きもされないレベルだからなぁ。自分で使うしかないか)
【毒蛇の盾】
効果:Def+20 スモールシールド 左右どちらの手にも装着可能
特殊効果:「スネークソードによる攻撃が可能。アーツは使用不可。Atk+17・毒付与(弱)」
製作評価:7
特殊効果も、仕込んだスネークソードによる攻撃が可能なだけ。製作評価がやや高いのは、ドラゴン素材メインではない分作りやすかったことと、二回目の製作でやや部品作りの作業に慣れていたことなどが理由だろう。だが防御力は低いし、スネークソードの攻撃力も低い。これで毒付与効果すらなかったら、使い道は本当にタダの嫌がらせ止まりだったかな。
(ま、これもロマンということにしておこうか……)
左手に【毒蛇の盾】を装備する。手に持つタイプではなく腕に装着させるタイプなので、弓も扱える。そして鉱石はドラゴン素材に比べるとかなり軽量なので、左手の動きをあまり妨害しない。
とはいえ、両手に六角形の小盾を装着する姿は、少々異様な感じもするな。普段は身に纏っている外套の内側に隠れてしまうから、あまり目立つこともないが。
街の外に出て、仕込んだ機構がきちんと動作するかをチェック。昨日と同じような動きをしてみると、ちゃんとスネークソードが飛び出した。安全装置もきちんと機能している。
(次は実戦だな。蹴りと、この両手に装着した盾のスネークソードだけで戦ってみるか)
単独行動をしている巨大狼を見つけたので、弓で攻撃して自分のほうに向かせる。巨大狼の突進を盾で受け流し、側面から蹴りを一発おみまいしてやった。
「ガウッ!?」
ふーむ、ちょっと芯を捉えていなかったな。足から伝わってくる感覚が、クリーンヒットしていないと教えてくれる。まあいいか、盾の安全装置を解除して、と。
「ガルル……ガウッ!」
矢で攻撃された上に、突撃を受け流されて反撃を貰った巨大狼はお怒りのようで、再び突進してくる。だが、この辺のモンスターに今更遅れをとることもない。今度は盾に頼らず回避する。
そして隙だらけの後ろ姿に向けて、左手を右上から左下に振るい、その後に右手を正拳突きのように突き出して、双方の盾から仕込みスネークソードを射出する。左手の仕込みスネークソードは巨大狼の足部分を切り、右手の仕込みスネークソードは……お尻の真ん中に直撃して貫いていった。
「アォーン!!!」
あら痛そうだ。でも、まだ終わってないんだよな……突き刺さった右手の仕込みスネークソードは、機構に従って無慈悲に狼のお尻からその刃を引き抜く。つまり、より深く傷口をえぐったわけであり……巨大狼は地面に突っ伏すと、ビクンビクンと痙攣しながら光の粒子になって消えていった。
――ログアウトする前に刃を消毒したほうがいいだろうか?
この後も数匹と連続で戦ってみた。もちろん単独行動している奴に限定して、だ。
そうして何度も左右の仕込みスネークソードを振るって感じたのは、やはり四刀流どころか三刀流も自分には無理であるということか。
自分に制御できるのは二本までが精一杯で、試しに魔スネークソードの【惑】も持って戦ってみたところ、頭が複数のスネークソードの扱いに追いつかず、かえって戦いにくかった。結局【惑】は常に剣モードで使用し、中距離では仕込みスネークソード、寄られたら【惑】で斬るか蹴りで迎撃するかになった。【惑】を使うときは、【惑】だけに専念したほうがよさそうだ。
とにかく実験も実戦も終わり、サーズへと帰還。巨大狼のお尻を貫いてしまった【クリスタルシールド】のスネークソード部分を一度分解して取り出し、手入れを行う。傷ついてもいないし、ゲームデータ的には何ともないんだが、どうにも気分的にやらずには落ち着かなかった。
手入れを済ませるとそこそこの時間になっていたが、それでもまだログアウトには早い。もう一度ライナさんの所へ様子を見に行ってみると……入れ食い状態になっているのか、ものすごい勢いで次から次へと魚を釣り上げているライナさんがいた。
(うわお、これはまた。リアルでもこちらの世界でもボウズだった自分とは大違いだな)
近寄ると、釣りギルドに所属しているロッドさんが自分に気が付いた。
「これはアースさん、お久しぶりですな」
ロッドさんに挨拶を返し、ライナさんの状況を聞いてみた。
「いやはや、彼女には凄い才能がありますよ。基本的なことを教えた後は、あっという間に腕を上げていきましたからね。ライナさん、アースさんがやってきましたよ」
ロッドさんの声に反応したライナさんが、釣り上げた魚を処理し終えた後でこちらに向き直る。
「アース君、ごめんね。今のでようやく一区切り付いたから、魚釣りはこれで一旦終わりにするわ。それにしても、釣りって面白いのね~」
まあ、あんな勢いで釣れれば楽しいだろうな……自分には味わうことができない楽しみだが。
大量に釣った魚は、ロッドさんの指導を受けながらカマボコに加工したので、無駄にせずに済んだ。出来上がったカマボコを食べてみると、とても美味だった。
「市販のとは、ずいぶんと味が違いますね」
「この世界は大したものです、私が現実で作るかまぼこと、ほぼ同じ味がしますから」
カマボコは料理の具材にもなるから、思わぬ形で手に入れることができたのは嬉しい。
カマボコへの加工方法をライナさんにも教えて一緒に作り、完成品を三人で分配した後、ログアウトした。
【スキル一覧】
〈風迅狩弓〉Lv29 〈剛蹴(エルフ流・一人前)〉Lv37 〈百里眼〉Lv28
〈技量の指〉Lv30 〈小盾〉Lv28 〈隠蔽・改〉Lv1
〈武術身体能力強化〉Lv64 〈スネークソード〉Lv48 〈義賊頭〉Lv24
〈妖精招来〉Lv12(強制習得・昇格・控えスキルへの移動不可能)
追加能力スキル
〈黄龍変身〉Lv3
控えスキル
〈木工の経験者〉Lv1 〈上級薬剤〉Lv23 〈釣り〉(LOST!)
〈料理の経験者〉Lv16(←2UP) 〈鍛冶の経験者〉Lv28(←1UP) 〈人魚泳法〉Lv9
ExP37
称号:妖精女王の意見者 一人で強者を討伐した者 ドラゴンと龍に関わった者
妖精に祝福を受けた者 ドラゴンを調理した者 雲獣セラピスト 人災の相
託された者 龍の盟友 ドラゴンスレイヤー(胃袋限定) 義賊 人魚を釣った人
妖精国の隠れアイドル 悲しみの激情を知る者 メイドのご主人様(仮)
プレイヤーからの二つ名:妖精王候補(妬) 戦場の料理人
4
本日もログインして、ライナさんと合流。お互いこれといった準備は必要ないのでさっさとサーズから旅立つ。
「で、どこへ行くのかしら?」
「とりあえず妖精国に行こうと思ってる」
ファスト行きの高速馬車に揺られつつ、ライナさんの質問に答える。そういえば、ライナさんと初めて出会ったのは妖精国だったっけな。
「妖精国かぁ~、久々ね。何か目的があるのかしら?」
「いや別に。だが久しぶりに行ってみれば、何か面白いことが転がっているかもしれないだろう? しばらく歩き回って何もなければ、次は龍の国に行ってみよう」
雑談を交わしつつ、サーズからファスト、ファストからネクシアと、街から街へ馬車を乗り継いで移動。もちろんファストでは、サーズで掘った鉱石関連を全て倉庫に置いてきた。
ネクシアからは歩いて妖精国に入る。入国審査をあっさり終え、久々に妖精国の玄関口である北の砦街に足を踏み入れた。
「まずは宿屋で情報の入手かしらね?」
ライナさんの提案に頷く。妖精国では宿屋に酒場がくっついているのが基本。ある意味、この「ワンモア・フリーライフ・オンライン」の世界で一番ファンタジーしているのは妖精国だろう。
適当に見つけた宿屋に入り、主人に挨拶する。
「いらっしゃい、泊まりかい?」
「いや、情報が欲しい……泊まるかどうかはその情報の内容次第になるかな」
まだまだ外は明るいので、大したネタがなければ他の街に行くつもりだった。今は街と街を行き来する定期便馬車があるので、移動の難度はとても低くなっている。もちろん時間がある人は歩いて移動しても問題はない。その場合はモンスターと戦うか、上手く逃げる必要があるが。
「情報ねえ。なら、最近広まっているネタが一つあるんだが、聞くかい?」
宿屋の主人の言葉に頷いて先を促す。
「この国にダンジョンが二つあるのは知っているだろう?」
自分は再び頷く。今まで入る理由がなかったので一回も行っていないが、存在自体は知っていた。
「そのうちの一つ……中央にある城下町の北の地下ダンジョンが、最近異様な変貌を遂げたらしい。なんでも、PTを組んでいても入った途端にばらばらにされてしまうし、地形が一定でなく、その上今の俺とアンタのような普通の会話以外の言葉は全てかき消されてしまうらしいんだ」
ふむ、ローグライクRPGなどによくあるインスタントダンジョンで、スタート位置がランダムな上にPTチャット禁止とは、かなり面倒だな。
「そんな状況では、生き延びること自体が難しいでしょう? 立ち入る人はほぼいないのでは?」
プレイヤーなら死んでもやり直せるが、こちらの世界の人はそうはいかない。死んだら終わりなのに、そんなハイリスクなダンジョンに挑むだろうか?
「ところが、そうではなくてな。このダンジョンはどうも、挑戦してもらうことに意義があると考えているらしい。ダンジョンに意思なんてものがあればの話だがな。このダンジョンに挑んで死亡した奴はゼロなんだ。魔物や罠によって戦闘不能に追い込まれると、強制的に一定の治療が施された後にダンジョンの入り口まで戻されるようになっているそうだ。だから、むしろ気楽に戦闘の経験が積める場所として大人気になりつつある」
なんじゃそら。死者が出ないダンジョンって、ダンジョンと言っていいんだろうか? もちろん死者が出ることを望むわけではないけれど。
「へえ、面白そうね。ちなみに、ずっとPTメンバーとははぐれたままなのかしら?」
ライナさんも興味を持ったようで、質問を追加してきた。
「いや、歩き回っているうちに合流できることもあるらしいぜ。そしてそれまでは、偶然出会った他の冒険者と一時的にPTを組んで生き延びるのが一般的だそうだ。最悪、元のメンバーと最後まで合流できない可能性も捨てきれないからな」
ふむ、完全なソロプレイを強いられるわけではない、か。その時々で出会った人達とできることを相談し合い、いかに対処するかが問われるのだな。
「ちなみに、そのダンジョンのクリア条件みたいなものはあるんですか?」
この自分の質問に、宿屋の主人は「ある」と答えた。
「一〇階層ごとに、報酬を受け取って帰るか、更に下に進むかを選べる部屋があるらしい。現時点では三〇階が最下層と言われているな。当然、下りれば下りるだけ報酬の中身は期待できる」
一応の区切りはあるわけか。ライナさんを見ると、彼女の顔には「行ってみたい!」と書かれている。まあ、安全なようだし、行ってみるのも悪くない。
「そのダンジョンの場所は、どこなんでしょうか?」
自分の質問に宿屋の主人はにやりと笑って、取り出した地図の一点を指した。
「街の南門から直通の馬車があるから、それに乗ればいい。このダンジョンは我らの女王陛下からも調査の要請が出ているんで、行ってくれる奴は大歓迎だ。ダンジョンの周りに設備が整えられていて、宿や道具の補充、武器の修理などの心配もない」
そう言った後、主人は一転してまじめな顔になる。
「だが、今までの死者がゼロだとしても、これからもそうだという保証はどこにもねえ。潜ってくれるのは大歓迎だが、キツイと感じたら無理せず戻れよ。いいな?」
確かにそうだな。今までがこうだったからってこれからもそうだとは限らない。この忠告に自分はもちろん、ライナさんも頷いている。
「じゃあ頑張れよ」
チップを払って宿屋を後にした自分とライナさんは、お店にも立ち寄らず出発地点を目指す。南門に到着すると、複数の馬車が待っていた。どうやら定期便サービスは繁盛しているようだな。
ダンジョン行きの馬車はすぐに見つかり、早速乗り込む。同じ馬車に乗ったメンバーは、自分とライナさん、龍人、プレイヤーが三人の合計六人だ。
目的が同じなので自然と雑談に花が咲きつつ、馬車に揺られること二〇分。ダンジョン近辺に到着した。
とりあえず目の前まで行ってみると……そのダンジョンは神殿のような外観を誇っていた。扉を開ければ礼拝堂がありそうな雰囲気だ。
「なんか、凄い外観ね。ダンジョンというから、てっきりおどろおどろしいものを予想していたんだけど……」
ライナさんの意見には全面的に同意する。恐らくダンジョン内部の壁も、レンガや土ではないな。
「まあ、それは中に入れば分かることか。とりあえず、今は宿屋を探さないと」
ライナさんもそうね、と同意してくれたので宿屋を探す。ついでに、道具屋、鍛冶屋なども。
といっても、ダンジョンの周りにとりあえず建てましたって感じで纏めて立地していたので、どれもすぐに見つかった。一番でかい建物が宿屋だったし、人がそれなりにいるということでどうしても巨大化するのかもな。宿屋は複数あったが、一番近いところでいいだろう。
「いらっしゃいませ! 『勇士の宿り木』へようこそ!」
元気いっぱいの女性に出迎えられ、個室を二つ取り、鍵を受け取る。
「一緒の部屋でもいいんだけどな?」
そうライナさんに言われたが、冗談じゃない。宿屋の一階にある酒場で飲んでいた男性陣からの視線が痛いのなんの。外套のフードで顔を隠していなかったら逃げ出していたかも。
こうして、自分とライナさんは妖精国に現れた新しいダンジョンを探索することになった。
◆ ◆ ◆
翌日、ログインしてライナさんと合流し、宿屋で出された軽食を食べてからダンジョンに向かう。その途中で、ライナさんと大雑把な打ち合わせを済ませる。
「とりあえず、地下一〇階を最初の目標にしようと思うんだ」
自分はそう切り出した。中に入った後で合流できるかは運任せとして、とりあえず地下一〇階まで到着したら報酬を貰って引き返す。それを何回か繰り返してお互いダンジョンに慣れてきたら更に奥へと進むことにしよう、と。
「そうね、しばらくは様子を見るのも悪くないわ。初めて入る上に、強制的にばらばらにされる条件でいきなり奥まで進もうというのは無茶よね」
ライナさんの同意も得られ、地上に脱出したら情報交換を行うことに決定。そんな話を終えたところで、ちょうどダンジョンの入り口である神殿前に到着した。
「いらっしゃいませ、ダンジョンに向かわれる方ですね?」
神殿の中に入ると、なぜか妖精の受付さんまでいた。とにかく今までのダンジョンとは色々と違い過ぎるので、女王陛下の指示で管理が厳格になっている、とのことらしい。
「今までのダンジョンとはかなり異なっています。もしご存知でなければ詳しく説明させていただきますが、どうしましょうか?」
受付さんにそう尋ねられたので、こちらが知っている情報を話して食い違いがないかを確認。大きな誤解はなく、PTになっておくとメンバーと再会しやすくなるらしいから、必ず組んでおくほうがいいですよ、と念押しされたぐらいだった。また、ソロで入ることを止めるつもりはないが、そうなると他の人と出会える確率はかなり低いそうである。
「あと、人族の方には非常に申し上げにくいのですが……どこから入り込んだのか、ダンジョン内には人殺しを好む賊がいます。人族がいたからといって、必ずしも味方ではないことを忘れないでくださいね。そして、賊だと疑われてもあまり気を悪くしないでください、お願い致します」
こんな注意事項も付け加えられた。そういう事情なら、疑われても仕方ないだろうな。
「どこにでも、迷惑な奴っているものなのね……」
ライナさんの感想に、自分も頷く。実に面倒くさい話である。ましてや妖精国は、ゲヘナクロスの一件がある。根っこの部分で人族に対する厄介な感情が眠っている可能性も否定できない。
(ダンジョン内では、外套のフードは外しておいたほうがいいかもしれないな。ドラゴン素材の鎧を人目に晒すことになってしまうが……誤解を受けて切りつけられるよりはましなはずだ)
「ワンモア」では、PKはシステム上禁止されている。が、それが適用されるのはあくまでプレイヤー同士。「ワンモア」世界の住人とプレイヤーでの殺し合いは可能なのだ。盗賊の一味かと怪しまれる可能性は少しでも潰しておくほうがいいだろう。
受付さんにダンジョン調査の参加証明書を発行してもらって、ようやくダンジョンに入れるようになる。ダンジョンの入り口は、大きな門に水色の膜が張られたもので、この膜を通過するとダンジョン内部のどこかに飛ばされる仕組みとなっているらしい。
「じゃ、とりあえずダンジョンから帰ってきたら、ここで合流しよう」
「ええ、分かってるわ。じゃ、お先に」
待ち合わせ場所を確認した後、ライナさんはさっさと膜を通過していった。自分もすぐ後に続く。
途端、エレベーターが下に向かうときのような浮遊感を味わい……気が付くと、無駄にゴージャスな壁で囲まれた部屋の中に立っており、前後には横に三人ぐらいが並んで歩けそうな通路が存在していた。
(部屋と部屋を通路でつなぐタイプか)
フードを下ろして顔を出してから、前方の通路を歩き始める。ともかく行動しなければ始まるまい。もちろん、この部屋の中にモンスターは一匹もいないし、罠もないのも確認済みだ。
さっさと部屋を出る……扉もないので、ただ通路に足を踏み入れたというだけなのだが。
(この壁、持って帰れば芸術品として飾れそうだな。本当に訳が分からないダンジョンだ)
通路の壁は、白地に金と銀、そして青色で描かれた模様が施されていて、今まで見てきたダンジョンとは段違いの美しさである。下手したら小さな王城よりも立派かもしれない。試しに指で触ったり、コンコンと叩いたりしてみたが、まったく汚れないし傷もつかない。何で出来ているのだろうか?
(それでもダンジョンであることに間違いはないようだ)
作動させている《危険察知》に、モンスターの反応が引っかかる。しかし、反応を感じ取った限り、かなり《危険察知》の有効範囲が狭い。かつてのエルフの森ほどではないが、ここもああいう探索能力を阻害する魔法か何かが展開されているようだ。
それはまあ、今分かったからそれでいいとして、モンスターの数は三匹。こっちは一人なのだから、弓でできる限り減らし、接近戦を行うのは一匹だけにしたいところだ。
(とりあえず〈百里眼〉で確認するか……)
幸いにして、モンスターがいる部屋と自分の場所は直線の通路で繋がっており、間に障害物もない。見て確認すると、三匹はどれも妖精国のモンスターの中では最弱のハイ・ラビットのようだ。これならば何とでもなる。愛弓の【双咆】を構え、矢を番えて弦を引く。しっかりと狙いをつけてから〈隠蔽・改〉を発動して気配を消す。【双咆】ならばこれぐらいの距離は射程範囲内だ。
六割まで引かれた【双咆】から撃ち出された矢は、狙い通りに突き刺さってハイ・ラビットを絶命させる。残りの二匹はこれで自分の存在に気が付き、自分のほうに走り寄ってくるが、まっすぐこちらへ走ってくる姿はただの的でしかない。再び矢を放って、二匹のうちの片方を始末する。
「ピキー!!」
激昂した様子の最後の一匹が突撃を仕掛けてくるが、自分は左手に装備している【毒蛇の盾】でアーツ《シールドパリィ》を発動してそれを軽く受け流し、カウンターで蹴りを放つ。更にエルフ流の蹴り技である《バランス・クエイカー》を発動し、一気に叩き潰した。
(ふむ、モンスターの強さは外と変わらないか。あくまで現時点では、だが)
毛皮や肉といったドロップアイテムを回収して、探索を再開する。しばらくそうして分かったのは、この一階層で出てくるモンスターはハイ・ラビットだけであり、罠も小さな落とし穴の底に小さな針があるだけの可愛いものしかないということ。もう新しい発見はなさそうなので、地下に行く階段、もしくはそれらしきものを探す。
歩き回ることしばし、ようやくそれを発見する。
(階段じゃなくて、エレベーターもどきとは)
上に乗るとゆっくりと床部分が動いて、一層下の区域にまで下ろしてくれる仕組みだった。下りると同時に頭上が閉じられてしまうので、先に進むしかないというわけだ。一応ダンジョンの調査中なので、戻るつもりはないのだが。
(今はとにかく前に進もうか。この階層には何がいるかな?)
◆ ◆ ◆
感想 5,013
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