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12巻
12-1
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技の伝授も終わったので、自分――アースとダークエルフのライナさんはエルフの村を後にすることにした。しばらく行動を共にしてきたルイさんととらちゃんが揃って見送ってくれる。またいずれここに来よう。
――そんな気持ちのいい旅立ちだったというのに。
「ねえアース、気付いてる?」
「もちろん、数は七ってところか。まず自分が前に出ていなすから、その後は任せる」
サーズの街へ抜ける森の中で、モンスターの反応が近づいてきたのだ。まったく、邪魔くさい。
自分は腰に差している【刻月・惑】を鞘から抜き、いつでもアーツが放てる状態で前に進む。自分がターゲットにされているのは間違いないようで、敵はこの先で待ち伏せの態勢に入ったようだ。
(確かに待ち伏せは基本だな、だが、その戦法が常に通じるかというと……)
そう考えながら前に進む。歩く速度は変えず、待ち伏せに気が付いていない振りを続け……あと三歩、二、一、ここ。
「ガルルルウゥ!!」
茂みの中から飛び出してきたのは狼タイプのモンスター。自分の腕や首を食いちぎろうとしてくるが……
「《惑わしの演陣》」
『闇食い』さんからもらった魔スネークソード【惑】の固有技、《惑わしの演陣》を発動。即座にスネークソードが伸びてぐるぐると自分を中心とした刃の陣を作り、それと同時に足元に闇で作られた魔法陣が出現し、狼達はその中に自ら飛び込むことになった。
「ギャイン! ギャイン!」
悲鳴を上げる狼達。だが、牙を向けたのはそちらが先なんだから、覚悟していただこうか。
数匹を纏めて迎撃した《惑わしの演陣》の締めに入る。伸ばした刃を元に戻す動作を利用して狼達を更に切り裂き、ダメージを蓄積。闇の魔法陣で捕らえられている狼達は、のこぎりのように切り刻んでくる刃から逃げたくても逃げ出せない。
【惑】の刃が剣に戻ったところで、トドメとばかりに地面の魔法陣が爆発。闇属性のダメージを捕らえている狼達に与える。これで、自分に飛びかかってきた狼達は文字通り消し飛んだ。
「ガウウ!?」
飛びかかってこなかった三匹の狼は、手を出したらヤバイ相手だと理解したのか、逃げるそぶりを見せるが……時間切れだな。ほーら、ガントレットを構えたライナさんがきゅっ♪ と狼の顔面をがっちりと掴みましたよ?
「さて、売られた喧嘩は買わないとね。お代は貴方達の命よ♪」
どんがんごんがんと、鈍い音が森の中に響く。もちろん狼達も必死に抵抗しているが、足が地面についていないからな……ばたばたと空しく暴れるばかりだ。掴まれなかった幸運(?)な狼は、掴まれた狼を何度も何度もぶつけられて消えていった。残ったのは、すでにぷらーんぷらーんと揺れるばかりの二匹だけである。
「まったくもう、気持ちよく出発できたと思ったのに、イヤになるわね」
ぷんすかという表現が似合う感じで、ライナさんが怒っている……その表情はやや可愛らしくもあるが、両手の巨大なガントレットにしっかりと握られたままピクリとも動かない狼達のせいで、何ともいえない威圧感と恐怖感が漂う。掴んでいるのが人間だったら、完全にホラー映画の悪役だ。
「街や村の外に出たらもうそこは安全地帯ではないんだ、仕方がないだろう。とはいえ、その意見には同意するけどな」
折角の見送りつきなんて贅沢な出発だったのに、いい気分をぶち壊されたのは事実だ。狼達に同情するつもりはまったくない。
でも結局、これがサーズに着くまでに行った唯一の戦闘となった。何度かモンスターが近づいてきたのは《危険察知》で分かったのだが、一定距離まで来ると一目散に逃げ去っていくのだ。ライナさんのガントレットに捕まったままの狼を見て、ああはなりたくないと考えたのかもしれない。
「やっと森を抜けたな。サーズの辺りに来るのは久々な気がするよ」
森の中や谷底の岩場といった場所で戦い続けてきたせいか、開けた草原はやけに広く見える。視界をさえぎるものが少ないというのはいいものだな。
「さて、この子達にももう用はないわね」
グシッと、ライナさんが捕まえていた狼達を握り潰す。投げ捨てるんじゃなく握り潰したってことは、相当いらついていたんだな。狼達は光の粒子となって退場していった。
まあ、サーズの街近辺でダークエルフの女性が馬鹿でっかいガントレットでモンスターを握ったまま歩いていたら異様だものな。ここで処分してもらっておいたほうが都合がいい。
「この先の川に架かっている橋を渡ればサーズだ。今日は街とその近辺でのんびりして、ファストに行くのは休息後にしよう」
しばらく歩くと、人魚達に出会ったサーズ西の川と、橋が見えてきた。今日も大勢が釣り糸を垂らしているようだ。
「あー、楽しんでるわねー。アース君は釣りってやらないの?」
ライナさんからの質問に苦笑しながら、今までの自分の釣果を教える。もちろん人魚を釣り上げたことも含めてだ。
「魚を釣らずに人魚を釣るって、また変なことやってるわね……」
自分の話を聞いたライナさんにも苦笑いは伝染した。とはいえ、しょうがないだろう……人魚がいるなんて、公式にもプレイヤー間の話にもまったく情報がなかったんだから。
言うまでもないが、魚か人魚を釣らないと釣りのスキルレベルは上がらない。更にはステータス画面にて、自分の釣りスキルは永久に失われたことが分かっている。
「ね? 私も釣りをやってみたいんだけど、ここで寄り道をしてもいいかな?」
ライナさんの言葉に頷く。急ぐ旅でもないし、ファストに戻ったら自分は新しい盾の製作に入るから、ライナさんには退屈しのぎにここで釣りをしてもらっていたほうがいいかもしれないな。
となれば、釣竿とルアーがなければ始まるまい。ちなみに生餌 (ミミズとかね)はない。
「いいよ。えーっと、釣りギルドの人の露店はどこかなーっと」
幸いすぐに見つかった。
「いらっしゃい。おや、ダークエルフのお嬢さんとは珍しい。釣り道具をご所望で?」
そんな言葉で露店の店主プレイヤーは出迎えてくれる。
初心者用の道具一式をお願いすると、店主はいくつかの釣竿を持ってきて、ライナさんに持たせた。どうやら一番手に馴染むものを選んでほしいということらしい。
「これ……が一番馴染むような気がします」
「それは一番反応が精密な奴だよ。ちょいと難しいかもしれないが、馴染んだというのであれば使いこなせるかもしれないな。お値段は一二〇〇グロー、初回はサービスで消費アイテムのルアー五〇個が付くよ」
浮きや錘なども竿に一緒にくっついている。その辺りはゲームゆえに簡略化しているんだろう。
「じゃ、これで。あれ? アース君は買わないの?」
ライナさんの言葉に頷いて答える。
「どうにも、釣りはダメなんだよね。話しただろう? 横で見ているほうが楽しいから」
ということで、新しい釣竿を手にうきうき気分で川に向かうライナさんに付き合って、釣りの光景を見届けることに。ライナさんは大体三分から四分の間に一匹釣り上げるというペースだった。三〇分以上一回も釣れなかった自分はやっぱり異常だったんだな……その魚は自分が焼いて、おいしく頂いた後に本日はログアウト。明日はファストに向かおうか。
◆ ◆ ◆
翌日ログインし、ライナさんと合流。自分は失った盾の製作のためにファストに向かうと告げ、その間はライナさんがかなり暇になるだろうから、サーズで魚釣りなどに興じていてほしい、とお願いしてみる。
「そう、ね。確かに物を作るとなると、ちょっとやそっとではできないでしょうから……分かったわ、終わったら連絡を頂戴ね」
とのことで、あっさりと許可が下りた。今はライナさんに重要なお仕事はないようで、特に焦る必要がないのだろう。自分には釣りの技術がまったくないので、ライナさんにはぜひできるようになってほしいところだ。魚料理にも挑戦したいからな……中ると怖いから生以外で。
ライナさんとPTを維持したまま別行動に移り、自分はファストに向かう高速馬車に乗る。以前のモンスター襲撃イベントの報酬で自分は乗車賃がタダだし、どんなものなのかを実際に乗って試してみたいところだった。ちなみに、普通は片道五〇〇〇グローかかる。高額だが、安全で高速に移動できるメリットから、もっぱら街に住んでいる人がどうしてもというときに使う足となっているようだ。
以前は街を行き来できる転移門を作るみたいな計画があったのだが、そのモンスターの襲撃が原因でとりやめになったそうだ。すでに開通していたファストとネクシアの間も完全に封鎖されたらしい。何でこんな情報を得られたのかというと――
「その代わりがこの高速馬車というわけでしてな」
高速馬車の御者さんが教えてくれたからだ。馬車はきちんと屋根もあるしっかりとした造りだったが、外で馬を操る御者さんと会話ができるよう、壁に筒が通っていた。馬車の周りには武装した騎馬の兵士さんが並走し、護衛に当たっている。
また、高速馬車が走る道だけはしっかりと舗装されており、馬車の揺れも少ない。たまにモンスターも見かけるが、護衛の騎馬兵のおかげで一目散にいなくなるので、快適に移動できる……ピカーシャと比べてはいけないが。
「冒険者の皆様に護衛を頼むことができるのは、それなりに裕福な人だけですよ。商人とかね」
一緒にサーズの街から馬車に乗った人がそう教えてくれた。彼はサーズからファストの家に帰る途中なんだそうだ。馬車は六人乗りで、荷物が多い人はその分多く乗車賃を取られる。荷物の分だけ人が乗れなくなるのだから。
「自分はそういった仕事を引き受けたことがないから分からないのですが、大体片道でどれぐらいの報酬を渡すものなんですか?」
ついでなので、そう質問してみた。
「そうですねえ、ファストからサーズで一人頭だいたい二五〇〇グローから三〇〇〇グロー程度ですね。ただし最低でも前方に四人、後方に三人の七人ぐらい雇うのが当たり前ですから、やっぱり高くつきますよ。人ひとりを護衛するだけでも三人は欲しいところです……そうなると、この高速馬車のほうが経済的です」
なるほどね。この世界にはモンスターがわんさかいる。モンスターに絡まれたら、街の人はひとたまりもない。護衛に三人は欲しいというのは、真ん中に護衛対象を置いて、前に一人と後ろに二人、またはその逆という、三角形の形を取りたいからだ。モンスターが背後から襲ってこない保証なんてないから、後ろにも人を配置するのは当たり前である。
そうして雑談を交わしていると、ファストの街が見えてきた。流石に、歩くのと比べればはるかに早く到着できるな。しかも安全に。これだけ普及しているようなのも頷ける。
馬車から降りて、久々となるファストの街に入る。街並みは変わっていないな……これといった問題もないようだ。これならば盾の製作も腰を据えて行うことができるだろう。
素材となる【ドラゴンボーン】を倉庫に取りに行き、とりあえず一五本ほどをアイテムボックスへ。今回は精錬が大変になりそうだ……
久々に訪れたファストの鍛冶場は、変わらない熱気で自分を出迎えてくれた。さて、空いているのはどこかな……ぐるっと回ってよさそうな場所を発見したので、そこに陣取る。途中で例の親方を見かけたが、忙しそうに剣を打っていたので声をかけるのはやめておいた。
(さーてと、今回は面倒だ)
今回の盾は、仕込み武器と頑丈さの両立を狙おう。まずは頑丈さということで、以前作った盾のような変形機構は採用しない。変形はロマンだが、それに頑丈さを兼ね備えさせるほどの腕が自分にはないことは、あのスケルトンナイト戦で証明されてしまっている。だから今回は、土台と盾の装甲部分の間に入れる仕込み武器に、変形が必要ないものを選ぶ。
そしてそれを、スネークソードとすることに決めた。
スネークソードの伸縮機構を学ぶため、【惑】を手に入れるまで頑張ってくれた鋼のスネークソードを分解する。この伸縮機構を真似できればと考えていたが――
(動き方自体は何とか分かるんだが、この機構を自分の腕で組み立てることは無理だ)
そう結論を下すしかなかった。なので、金属の筒の中に、ライトメタルで作ったバネを仕込んだ機構で代用する。鋼とライトメタルを溶かして筒とバネをいくつも作って連結させ、試作品を仕上げた。流石に本職の作ったスネークソードのように滑らかには曲がらないが、飛び出させることと、すぐに元に戻すことは可能となった。
大体の方向性が決まったので、あとはひたすら【ドラゴンボーン】を炉に入れて熱してから叩き、精錬を重ねていく。土台や盾の装甲部分となる部分は頑丈になるように。刃部分は切れ味と粘りが出るように、その刃を纏める筒とライトメタルのバネを使った機構部分はできるだけ柔軟性と耐久性を引き出すように、と。
今回の盾の完成形は五角形のカイトシールドタイプで、これまでの盾と同じように右手に装着する。安全装置を解除すれば、右手を振り回すことで発生する遠心力を用いてスネークソードが伸びるようになり、一般的な剣の間合いよりも長いリーチを確保する。
そして、すぐに元に戻ることで剣の長さを見切られにくい。
そんなこんなでスミスハンマーを持って【ドラゴンボーン】を叩き続けたのだが……不運なことに、頑丈な部分用のインゴットは十分に作れても、刃部分に使いたい粘りと切れ味を持つインゴットと、色々なつなぎとして使いたい柔軟と耐久性を持つインゴットは、ほとんど取り出すことができなかった。
仕方がないので、もう一度倉庫から【ドラゴンボーン】を持ち出して叩いてみても、やはり大半が欲しいインゴットにならない。
(これは困ったな。前に【ドラゴン・ボウ】を作ったときよりも偏りがひどいぞ)
結局、必要だと思われる素材の量を揃えるために、【ドラゴンボーン】を大量に消費する羽目になった。これで【ドラゴンボーン】の在庫は残り僅かになってしまったな……何かを仕込む盾は、今回が最後かもしれない。頑丈な素材のインゴットは十二分に作り出せたから、普通の盾を作るのであれば当分は問題ないが。
(ぼやいてもしょうがない、今日はもうお終いだ。続きは明日にしよう)
そう考えを纏め、後片付けを済ませて鍛冶場を出る。作ったインゴットを倉庫に預けた後、宿屋に泊まってログアウト。
明日は気合を入れて盾を作らねば!
【スキル一覧】
〈風迅狩弓〉Lv29 〈剛蹴(エルフ流・一人前)〉Lv37 〈百里眼〉Lv28
〈技量の指〉Lv27 〈小盾〉Lv28 〈隠蔽・改〉Lv1 〈武術身体能力強化〉Lv64(←1UP)
〈スネークソード〉Lv48 〈義賊頭〉Lv24
〈妖精招来〉Lv12(強制習得・昇格・控えスキルへの移動不可能)
追加能力スキル
〈黄龍変身〉Lv3
控えスキル
〈木工の経験者〉Lv1 〈上級薬剤〉Lv23 〈釣り〉(LOST!)
〈料理の経験者〉Lv14 〈鍛冶の経験者〉Lv20(←2UP) 〈人魚泳法〉Lv9
ExP35
称号:妖精女王の意見者 一人で強者を討伐した者 ドラゴンと龍に関わった者
妖精に祝福を受けた者 ドラゴンを調理した者 雲獣セラピスト 人災の相
託された者 龍の盟友 ドラゴンスレイヤー(胃袋限定) 義賊 人魚を釣った人
妖精国の隠れアイドル 悲しみの激情を知る者 メイドのご主人様(仮)
プレイヤーからの二つ名:妖精王候補(妬) 戦場の料理人
2
いよいよ新しい盾を作るべく、設計図をもう一度見直し始めたのだったが……ここに来て一つ不満が出てきた。
(仕込めるスネークソードの長さが、予想以上に短い……)
この一点をどうにか解消できないかと考えているうちに、一つの結論に至った。
(そもそも、何で五角形に拘ってるんだよって話だ。六角形でやや縦長にすればいいじゃないか)
というわけで、設計図を少し引き直す。盾の装甲や土台用のインゴットは昨日十分確保できているので必要量が多少増えたところで何も問題ない。更に盾の前面には、靴にも付けた《ドラゴンの毒》の効果があるパイルを、中央から左右に一つ、上下に二つずつ、合計六つ配置することにした。
こうして仕込むスネークソードの長さを伸ばすことに成功。これ以上大きくすると「小盾」の枠から外れるので、ここが限界点だろう。
面倒な機構を作るのは後回しにして、土台部分と盾装甲部分をちゃっちゃと作ってしまう。
大きさと厚さを確保できる量のインゴットを炉に突っ込み、熱せられていじくれるまでに柔らかくなったら作業開始。ひたすら叩いて六角形に整えつつ、装甲部分を形成していく。
格闘すること一〇分、装甲部分が完成した。形が違うだけで、この辺はこれまでの盾と大差ない。
あとは盾の表面にパイルをくっつける仕組みを作って、こちらの作業は終了。パイルは靴に使っているものを流用できるようにした。いちいち新しい基準で作るなんてやってられないし。
土台のほうは、腕に巻きつける部分だけは自分の腕に合わせて皮を挟んで緩衝材代わりにしておき、あとは頑丈さを重視。ただ、頑丈なだけでは案外あっさりバリンといくかもしれないので、ある程度ライトメタルも混ぜてある。
以前の弓を仕込んだものと違って、装甲部分が砕けても盾の能力を完全に失うことがないようにした。当然そのときは仕込んであるスネークソードも大破するだろうが、盾としての役目は維持できる。
盾と土台は、六つの角のうちスネークソードを飛び出させる一番下の角以外の五か所を、しっかりとした柱でくっつける。弓を仕込んだ盾と同様、この柱の長さの分だけ生まれるスペースに、スネークソードを仕込むことになる。
今回は変形機構を撤廃している分、頑丈に作れる。横から仕掛けが見えないよう、懐かしのロック・アントの甲殻で適当に隠す予定だ。倉庫に在庫が転がっていてくれていて助かった。
スネークソード自体は、剣の中心に筒を付け、その中にライトメタルのバネを入れる。それから筒とバネを一部溶接しておく。とりあえずいくつかサンプルを作るが、やはり本式のスネークソードのようには曲がらない。使い方が違うからいいけど。
まあ、そんな柔軟さは【惑】に任せよう。こっちは一種の暗器として運用できればいい。
ここからはとにかく設計図の通りに、パーツの生産を続ける。これが非常に手間だった。同じ作業を何度も何度も行わないといけないし、刃の大きさにずれがあってもいけない。ポーションみたいに一括生産ができれば楽なんだが……これだけで一時間以上かかり、へとへとになってしまった。こんな調子では、毎日依頼を受けて武器を打つ鍛冶屋プレイヤーにはなれそうにないな。
今日はもうここでやめることにし、宿屋に泊まってログアウトする。スネークソードのパーツは大体八割完成といったところだ。明日残りの二割を完成させて、組み上げることにしよう。
◆ ◆ ◆
そして翌日、再び鍛冶場に戻った自分は、スネークソードの刃の製作に取りかかった。
この作業だけで、〈鍛冶〉スキルがもりもり上がっていくんだよな……初めて扱ったときのような反動こそないが、明らかに自分のスキルに対して素材が高級品過ぎることが原因だろう。
四五分ほどでようやく刃を作り終えた。昨日よりもペースがかなり落ちたが、とりあえず必要な分量は完成。それから一五分ぐらいかけて、筒とバネも完成。さっさと刃の中心に、筒を通していく。
最後に筒の中とバネの仕掛けの具合の様子を見て、伸びてもすぐ元に戻ることを確認する。これで刃部分も完成としていいだろう。
この刃が傷まないよう、盾の土台と装甲部分の間に鞘を設置し、スネークソードは普段その中に納まっている仕組みにする。安全装置を外すとこの鞘の先が開き、盾を突き出したり振り回したりすることでスネークソードが飛び出して、相手に襲いかかるというわけだ。
更にこの刃にも《ドラゴンの毒》を仕込んだので、切りつけによって直接ダメージを狙うより、小さくても傷を負わせて毒状態にさせる、というのがメインの扱いになる。アンデッドや毒耐性の高いモンスターを相手にするときのために一定の攻撃力は確保してあるが、残念ながらゴーレムのような硬い相手には無力だろう。
あくまでサブウェポンであって、これをメインに置いた立ち回りはよろしくない。それでも、【惑】を振るいつつ盾に仕込んだ刃も伸ばすという、右手だけでの擬似的な二刀流もできるな。
いっそのこと、両手にこの盾を装備して両手に武器を持てば四刀流といえるもしれんが……その装備に意味があるのかどうかはちょっと微妙だ。自分には絶対に扱いきれないことだけは分かる。
とにかく仕込むものやら盾のパーツやらがようやく全部揃ったので、あとは一気に組み立てるだけだ。土台に柱を立て、鞘を中央に配置し、スネークソードをその中に収めて固定する。その上に蓋をするように装甲部分を載せて固定したら、六つのパイルも装着。左右の隙間にはロック・アントの甲殻を配置して、中の機構が見えないように隠す。
仕上げに、盾の装甲部分を【ドラゴンスケイルライトアーマー】と同じ青色に染める。濃さはうっすら程度にとどめた。ドギツい色は自分の好みから外れるのだ。
何度か念入りに点検し、ようやく完成であると確信を持つことができた。その性能は……
【ドラゴン・スネーククリスタルシールド】
効果:守備力+42 スモールシールド 左右の手どちらにも装備可能
特殊効果:「シールド攻撃アーツ威力増加(中)」「防御成功時、ダメージの一部を反射・《ドラゴンの毒》付与(中)」「魔法・属性防御力増加(中)」「スネークソードによる攻撃が可能。アーツは使用不可能。攻撃力+29・毒付与」
製作評価:6
こんな感じだ。以前のクリスタルシールドとの違いは、シールド攻撃アーツの威力増加が「強」から「中」にダウンし、魔法・属性防御力増加が「弱」から「中」にアップ、といったところか。
まあ、盾による攻撃アーツなど自分はまず使わないから、純粋に盾が強化されたと見ていいだろう。Defが強化された理由は、装甲と土台の二重構造になったためと思われる。
早速右手に装備してみると、やはり仕込み武器を追加した分、やや重量がかさむ。当分の間は装備し続けて、この重さに腕を慣れさせておくべきだろう。
後片付けを済ませたら、早速仕込みスネークソードを試しにファストの草原へ。
草原に人はほとんどおらず、武器を試すにはよい状況だった。懐かしのラビットホーンがいるので、犠牲になってもらう。盾の上部に作ったスイッチを左手で操作し、安全装置を解除。これで鞘の先端が口を開けたはずだ。〈隠蔽・改〉を発動して気が付かれないようそろそろと接近し、間合いに入ったところで盾を装備した右手を左上から右下へと振り下ろす。
ジャラリィッ、という音と共に内蔵されたスネークソードが伸び、のんびりしていたラビットホーンの胴体に食い込んで切り裂く。その一撃で、相手は光の粒子となって消滅した。
即死させたことは別に何でもない。むしろ今の自分のステータスならこの辺りの敵なんて即死させて当然である。それよりも……
(ふむ、きちんと伸びて、きちんと切れたか。これならば暗器として使っていけるかな?)
念のため、更に数匹のラビットホーンとゴブリンに犠牲になってもらった。上から下に振り下ろすだけでなく、正拳突きのような形や、下から上に振ったときでもきちんとスネークソードは伸びてくれた。射程は大体二・四メートルぐらいかな? 不意を突く武器としては十分だ。
最後に、安全装置を入れたまま何度か腕を振ってみるが、きちんと動作しているようで一安心。
(よーしよし、これで目的は果たせたな。明日ログインしたら、ライナさんと合流しようか)
【スキル一覧】
〈風迅狩弓〉Lv29 〈剛蹴(エルフ流・一人前)〉Lv37 〈百里眼〉Lv28
〈技量の指〉Lv30(←3UP) 〈小盾〉Lv28 〈隠蔽・改〉Lv1
〈武術身体能力強化〉Lv64 〈スネークソード〉Lv48 〈義賊頭〉Lv24
〈妖精招来〉Lv12(強制習得・昇格・控えスキルへの移動不可能)
追加能力スキル
〈黄龍変身〉Lv3
控えスキル
〈木工の経験者〉Lv1 〈上級薬剤〉Lv23 〈釣り〉(LOST!)
〈料理の経験者〉Lv14 〈鍛冶の経験者〉Lv27(←7UP) 〈人魚泳法〉Lv9
ExP37
称号:妖精女王の意見者 一人で強者を討伐した者 ドラゴンと龍に関わった者
妖精に祝福を受けた者 ドラゴンを調理した者 雲獣セラピスト 人災の相
託された者 龍の盟友 ドラゴンスレイヤー(胃袋限定) 義賊 人魚を釣った人
妖精国の隠れアイドル 悲しみの激情を知る者 メイドのご主人様(仮)
プレイヤーからの二つ名:妖精王候補(妬) 戦場の料理人
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