とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ

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25巻

25-3

 そうしてやってきたフォルカウスの街は、相変わらず雪の中にあった。今も、チラチラとではあるが雪が空から舞い降りてきている。

「さて、今日休む宿を探すか。あまり混雑はしておらぬようだから、そう難しくあるまい」

 砂龍さんの言う通り、人通りは多くもなく少なくもなく。一定の活気はあるが騒がしいと言うほどでもない。まあ、イベントとかがない限り、攻略中のエリア以外の都市はこんなものだ。今も大半のプレイヤーは皆空の上……ちらほら見かけるプレイヤーは、街の人相手に商売してるとか、商人の用心棒ってのが大半だ。

「そうですね、さっさと宿を決めてしまいましょうか──あそことかどうでしょうか?」

 目に入った宿を適当に指さすと、雨龍さんと砂龍さんからも反論は出なかったのでそこに行き、部屋もそこそこ空きがあったのですんなりと決まった。
 割り当てられた部屋に入って軽装になり、腰を下ろすと、つい大きな息が漏れてしまう。

「アース、疲れたようじゃの? まあ、わらわ達は先日まで敵の本拠地に潜り込み、情報を集めておったのじゃからな……あまり気が休まらなかったことをかんがみれば、無理もないのう」

 雨龍さんの言う通り、空の上では常に警戒状態にあったから、こうやって「ワンモア」世界の中で気を抜いていられるのも久しぶりな気がするよ。
 と、そんな感じの自分とは違い、雨龍さんと砂龍さんは立ち上がった。

「アース、少し我らは出てくる。一度龍の国に戻って米や味噌みそといった旅に欠かせぬ物を補充せねばならぬでな」

 ああ、買い物ですか。お二人の邪魔をしたくないのと、一人になりたい理由もあったので、出かけていくお二人を見送る。
 そしてしばらくして部屋の中が静かになった後……久しぶりに義賊小人のリーダーを呼び出した。

「親分、何か御用で?」

 相変わらず呼べばすぐに駆け付ける小人リーダーに、大きな賊の集まりが突如消息を絶ったという話を耳に入れていないかと質問する。
 そう、空の世界で襲ってきたあいつらが、有翼人に連れ去られた盗賊なのかどうかを確認したいのだ。

「少し、お時間を頂いてもよろしいですかい? 部下にも確認を取りてえんで」

 小人リーダーの言葉に自分は頷いた。情報は少しでもあったほうがいい。
 小人リーダーは「一〇分ほど頂きやす」と言って姿を消す。雨龍さんや砂龍さんはおそらく今日は買い物で忙しくて帰ってこない可能性が高いし、一〇分ぐらいなら構わないだろう。
 そしてきっかり一〇分後、消耗品の数などを再チェックしていた自分のところに、小人リーダーが帰ってきた。

「お待たせしやした。部下達からの情報も交えてお伝えさせていただきやす──」

 そうして小人リーダーが話したところによると、三〇人程度の中規模盗賊団が七つ、五〇人以上の大規模盗賊団が四つ、騎士団などの討伐隊に消されたわけでもなく返り討ちにあったわけでもないのに、姿を消しているとのことだった。

「ふうむ、かなり多いな。頭目争いなどで同士討ちをやらかしたって線はねえのか?」

 四〇〇人以上も消えているってことになるよな。それらが全員攫われたとは考えたくないので、自分はそう訊いてみた。

「へえ、そういった線もありやすが……その可能性がたけえ馬鹿な集団は数に入れておりやせん。また、実際に潰れたことが直接確認できた連中ももちろん含んでおりやせん。結構な数のクズどもが頭目争いをやっていたんでやすが、その顛末てんまつも見届けておりやすんで、そこら辺の抜けはまずねえかと」

 それを聞いて、つい反射的に舌打ちをしてしまった。四〇〇人以上のサンプルを有翼人が手に入れていて、そいつらの体をいじくり回して得たデータをもとに、あの洗脳装置が稼働しているとしたら……そう時間を必要とせずに、空の島々にいる人達の洗脳が完了してしまうかもしれない。

「その確認できなくなった連中の種族は分かるか?」
「へえ、ドワーフと魔族を除く各種族が混じってやしたが……」

 頭痛が強くなったのは気のせいではない。ドワーフ族と魔族以外の全種族について、どうすれば効率よく洗脳できるのかの情報を有翼人達側は得てるってことになるぞこれは。むしろ、そういったデータが集まったからこそ、地上への侵攻計画を始めたと考えるほうが自然か? 

「そうか、良い情報を持ってきてくれた。この情報を得た上で、ここからどう動くべきか……」

 ぎちぎちと歯ぎしりをしながらこれからの行動を考える。残された時間は、こちらが考えているよりはるかに少ないと見るべきだ。
 この情報は報告すべきことではある、あるが……ダメだ、まずは明日、魔王様に直接言おう。予想以上に衝撃が大きい。これを今日の報告会で流したら、どれだけ動揺が広がるかが恐ろしい。
 そしてその動揺から、どんなミスが生まれるか。それが何より怖い。

「親分、あっしらは今の状態で地上のクズどもを抑えやす。親分は親分のお仕事に集中してくだせえ」
「ああ、また用があるときは呼び出す。行け」

 小人リーダーの言葉に頷いた後、彼を帰した。
 ここで地上に戻ってきたのは、今の話を聞くためだったのでは?と思えるぐらいに重要な情報だった。これは大きい。その分ショックも大きかったが……まだ間に合うタイミングであったと信じたい。

(こういう情報を流すのは禁じられているが……もし禁止されていなかったとしても、信じてはもらえないな。むしろこっちがおかしいというレッテルを張られて、孤立したところで有翼人の暗殺部隊みたいな連中にさっくりられるって流れだったかも。前も同じことを思ったが、洗脳が目に見える攻撃じゃないという点は、厄介すぎるにも程があるっての)

 チラチラと雪が降る景色を窓越しに眺めながら、あれやこれやと考える。かといって、考えても良い解決方法が都合よく浮かぶはずもない。そんなことは分かっているが、考えずにいられないのだ。

(例の洗脳装置を破壊できたとしても、洗脳の進み具合によってはそれで正気に戻れるかどうか……ダメだ、どうしてもいい方向に、ポジティブな考えに持っていくことができない。唯一の救いは、まだそうなってはいないってことだけか)

 有翼人達が仕掛けてきた攻撃の厄介さを再確認させられるばかりだ。今回は、かつて妖精国であった戦争と同じか、それ以上の多大な被害を出してしまうかもしれないな……だが、それを何とか阻止したい。幸いにして、仲間がいるのだから。自分はこうして地上に降りてきたが、空で頑張ってくれている仲間がいる。だから諦めるという選択肢だけは存在しない。

(とにかく、今できることをやる。それしかないんだよな。気ばかりいても、仕損じるのは目に見えている。同じ結論になってしまうことは分かってるんだが、それでもな……)

 考えることを止めてはいけない、考えを止めた時点で進歩も変化もなくなってしまう。相手が強大であればあるときこそ、何度同じ結論に達すると分かっていたとしても様々な方向性から物事を考えなければならない。考えることを止めなければ、突如解決策のひらめきが舞い降りる可能性があるのだから。

(とにかく、まずは魔王様に直接報告。そこは決定事項としていいだろう。この情報をどう伝えていくかは、魔王様と話し合って決めよう。あとは、空に戻る方法だが……そっちは雨龍さんと砂龍さんが言っていたように、龍神様や黄龍こうりゅう様にお力添えいただくしかないだろうな)

 考えが纏まってきた頃に時計を確認すると、ログアウトすべき時間が迫ってきていた。結構あれこれ悩んでいたためか、かなり時間を食ってしまったらしい。あと少しで報告会の時間を迎えるわけだが……今回の自分はみんなからの報告を聞くだけだ。
 やがて報告会は始まり、細々とした報告が続く……

 〔報告。ちょっと前に、空を飛んでいると弾かれる場所があるって報告されていたよな? あそこが怪しいってんで、有翼人達が本格調査に乗り出すという噂を聞いた。なのでできる範囲で探ってみたところ、その噂はどうやら間違いなさそうだ。もしそこに有翼人が手に入れたらまずいものがあった場合、どうする?〕

 そこへ、ツヴァイらしき声から報告が入った。おいおい、そんな話まで上がってたのか……うなり声やひそひそ声がいくつも耳に入ってくる。

 〔最悪、強行突入でもなんでもやって、危険物を破壊するしかないでしょう。しかし、それをすれば間違いなく、有翼人達にこちらの存在がバレます。魔王様、どちらを取りますか?〕

 その声と同時に沈黙が訪れる。誰もが魔王様の決断を待つ……そして。

 〔──物にもよるが、もし未知の兵器、武器だった場合は、バレても構わん、その場で破壊しろ。それ以外の場合は……今はまだ見送れ。いいな?〕

 かなり悩んだ末の決断。その声からそう察することは容易だった。そんな魔王様に、更に気を重くさせる情報を持ち込まねばならんのか。まったくもって気が重い……けどやらないわけにはいかない。
 何とか逆転の一手を見つけ出さないと、苦しすぎるな、今回の戦いは。



 4


 翌日。ログインすると、雨龍さん砂龍さんが用意してくれていた朝食を食べ、装備を整えてフォルカウスを出発。魔王領に入るまでは問題なかったのだが……ある程度進んだところで天候が急変し、急激に吹雪ふぶいてきた。
 とはいえ、自分は魔王様から貰った特製のマントがあるから、これだけ吹雪いていても何の問題もない。それに……

「ふむ、少々風が強いが……大したことはないな」
「アース、おぬしはどうじゃ? 問題ない? ならばこのまま進もうかの」

 龍であるお二人にとっても、ちょっと風が強い程度の認識でしかなかったようだ。普通のプレイヤーだったら即座に街に逃げ込むレベルなんだけどねえ。
 そんなわけで、吹雪いている中をいつも通りの速度で歩く自分達三名。モンスターもぽつぽついるが、この吹雪をしのぐことに専念しているようで、その場から動かない。おそらくちょっと穴を掘ってその中に避難しているんだろう。そんな彼らにこちらからちょっかいを出す理由は欠片かけらもないのでスルーする。近づいてこないと分かると向こうも警戒を解いたのが、《危険察知》で分かる。

「この辺りまで来れば他の者の目もあるまい。魔王殿の城の近くまで転移で移動するぞ」

 転移は、雨龍さんや砂龍さん、魔王様といった一部の存在だけが使える(と思われる)能力。多くの人の目につく場所で使うと騒ぎになってしまう。
 この吹雪ふぶきで外をうろついている人がいる可能性はかなり低いのだが、念のため自分も《危険察知》で気配を確認しておいた。かまくらを作って緊急避難している人とかがいるかもしれなかったからね。

「よし、では飛ぶぞ」

 砂龍さんの言葉の直後に、足が宙に浮くような感覚を味わい、そして再び雪の上に立っている感覚が戻った。が、頭がふらついて片膝かたひざをついてしまった。
 転移はこれまで何回か経験してるのだが、やっぱり慣れない。どうしても一瞬気持ち悪くなったり、今回みたいにふらついたりする。独特の感覚に体が対応できないのだろうか? その理由は、そこそことし食ってるから? ……このことはあまり考えないようにしよう、うん。

「具合でも悪くしたかの?」

 雨龍さんがそう話しかけてくるが、自分は「大丈夫です、軽いくらみのようなものですから」と告げてすぐに立ち上がる。一応ステータスを確認するが、これといってデバフが付いたりはしていない。

「ならばよい。ほれ、魔王殿の城までもうすぐじゃ」

 雨龍さんが示した方向に顔を向けると、確かにここからは魔王様の城が肉眼で見える。かなりの時間短縮になったのは助かった。まあ今回は吹雪が強かったから転移を使ってくれたが、晴れていた場合は修行代わりにここまで走らされていた可能性がある。
 魔王城前には魔族の兵士がいていったん止められた。しかし魔族の皆さんも含めた大規模訓練の教官役を担当した雨龍さんと砂龍さんは当然顔パスだし、自分も魔王様のくれたマントのおかげで、すぐに城内に通してもらえた。あくまで念のための確認に過ぎなかったようだ。

「魔王様より、お三方がいらっしゃったらすぐに通すようにとの命令が出ております。どうか私について来ていただきたい」

 案内役の魔族さんにそう言われたので、その指示に従って彼の後に続く。通された先は魔王城にある会議室、その中でも一番でかい場所のようで、中には魔王様をはじめ大勢の魔族の皆さんが待機していた。

「待っていたぞ、早速報告と、手に入れてきた物の提出を頼む!」

 魔王様の言葉に頷いた自分達は、手に入れてきた各種アイテムとジャグドから渡された例の箱を大きな机の上に出す。それから、空の世界で行った行動とそれによって得た情報、更に小人リーダーから仕入れた話や、掲示板で得たダンジョンの存在などについてを、先日の報告会よりも詳しく伝えた。

「そうか……ともかく、よくやってくれた。それにしても、動物や人をしたゴーレムとはまた違う奇妙な敵か……そやつが有翼人とどのような関係があるのかも調べねばならんだろう」

 魔王様は、数々の物品に直接手を触れることなく、時計技師が使う片目用のルーペのような物で一つ一つ細かく観察していく。やがて、「この物品は○○に研究させろ」「これは○○向きの物だ、奴に調べさせろ」といった感じで部下に指示を飛ばし始めた。
 その指示に十分ほどかかっただろうか? 全てが終わったときには、自分達が持ち帰った物品は全て机の上から消えていた。

「調べるのにしばらく時が必要となる。できるだけ急がせるが、焦って肝心の部分を見落としてしまえば取り返しがつかぬ故、やはり即座に結果を出すのは難しいだろうな」

 魔王様の言うことはもっともである。結果を出すのを急いで失敗してしまっては目も当てられない。
 仕事を割り振られた魔王様の配下達は早速会議室を後にしたので、残ったのは魔王様と自分、雨龍さんと砂龍さんの四名のみとなった。

「難しい任務であったが、よくぞここまでの結果を出してくれた。今は休息をとり、後に控えている作戦に参加できるよう英気をやしなってほしい」

 と、魔王様からは勧められたが……その前に、自分としては聞いておきたいことがあった。

「魔王様、一つお伺いしたいことが……魔王様がこれまでお作りになられた魔道具の中に、個人が空に飛び立てるたぐいの物はございませんか?」

 例の進入できないとされる空の場所を調べるため、そして有翼人の目の届かない所から空に上るため、そういった魔道具が欲しい。魔王様ならもしかしたらと望みをかけて、そう聞いてみたのだが……

「──空に浮かぶ、までは成功した。しかし、有翼人のいる所まで飛び上がれる物はない。今も研究はしているが、遅々ちちとして進んでおらぬ。悪いが、お前の希望に沿うことは難しいと言わざるを得ない」

 との返答だった。ダメか……そうそう上手くことが運ばない経験は何度もあったが、今回は違ってほしかった……自分のためではなく、地上に住んでいるこの世界の住人のために。

「やりたいことは分かっているし、当然こちらも同じ考えを持っている。もしかしたらあそこに起死回生の手段が眠っている可能性があるとなれば、有翼人に先んじて調べたい」

 しかし、だ。と魔王様は肩を落としながら言葉を続ける。

「今、こちらにそうするための手段はなく、有翼人達の先手を取れる可能性は限りなく低い。悔しいが、それが現実だ……先程届けてもらった品も、明らかに我々のはるか先を行っている技術ばかりだった。認めざるを得ないよ、解析はともかく、模倣すら難しいだろうということを……あんな連中が下らぬ野心を持ったこと自体が、地上の皆の不幸なのだろう」

 こんな弱気になった魔王様を見るのは、暴走魔力との戦い以来だ。だが、そこで終わらないのが魔王様でもある。

「それでも、負けを認めるわけにはいかない。ここで負けを認めてしまえば、いつ終わりが来るか分からない苦痛の時代の幕開けを眺めているだけになってしまう。そんな時代を受け入れるわけにはいかない……尊厳も誇りも消え去って、悲しみだけが広がる世界など、私は認めるつもりはない!」

 自分も同意見だ。指をくわえて終わりが来るのを待つだけなんて御免蒙ごめんこうむる。
 ここは、前に師匠が言っていた力を使ってほしいところだ。そう思って砂龍さんを見る。

「──アース、お前はしばらくこの魔王城で英気を養っておけ。できるだけ静かに空に上がる方法、我らの伝手つてと力を使って探してみよう」
「うむ、ここが取り返しがつかなくなるかどうかの分岐点じゃろう。いざとなれば龍神殿や黄龍殿も引っ張り出すことも考えよう。地上の危機は龍の国にとっても危機、特例に特例を重ねることになってしまうが、今は動かねばならぬときじゃからの」

 雨龍さんもまた動いてくれるようだ。自分と顔を見合わせた魔王様は、その後でゆっくりと頷いた。

「分かりました。ここで遅れれば確かに致命的な打撃を受ける可能性があり、迷っている時間はない……お願いします」

 自分はそう言って、雨龍さんと砂龍さんに頭を下げる。隣の魔王様も同じく頭を下げているようだ。

「うむ。では雨龍、お前は龍神様の周辺を頼む。こちらはこちらの伝手を当たることとしよう」
「アースよ、心配するな。わらわ達が必ず何とかしてみせよう、そうでなければ元・師匠としての面子メンツが立たぬのでな。では、砂龍よ、早速動くか」
「そうしよう。魔王殿、慌ただしくなってしまって申し訳ないが、今回はこれにて失礼させてもらう」

 そんな二人に魔王様は──

「頼む、地上に住まう民の明日のため、何としてでも打開策を」

 魔王様の言葉に頷くとほぼ同時に、二人の姿が消えた。
 この後、自分は魔王様にお願いして、ログアウトするまで魔王城内の訓練場を使わせてもらい、体を動かした。あの二人が戻ってくるまでは、自分は魔王城内で待機だ。


     ◆ ◆ ◆


 雨龍さんと砂龍さんが迎えに来たのは、リアルの時間で三日後だった。
 魔王様からは「こちらも手を考える、それまでの間頼む」とのお言葉を頂く。
 そうして魔王城から龍城まで転移で一足飛びに到着。今回も軽い立ち眩みを覚えたが、その程度で終わり。軽く済んでくれたのはありがたい。

「久しいな、アースよ」
「元気にやっておったようで何よりだ。が、今は急がねばならんのだったな」

 声をかけてきたのは、龍神様と黄龍様の人型バージョン。こちらも軽い会釈えしゃくと共に挨拶を返す。

「これからやることを説明する。来なさい」
「はい」

 龍神様に呼ばれてやってきたのは、かつてゴロウと自分の『龍の儀式』を担当した幼女。彼女は龍神の分身、欠片だとかなんだとかだったはず。なぜ彼女が出てきたのだろう?

「アースにはこやつを背中に乗せてもらう。こやつには、自分の周囲限定だが他者から姿を見えづらく、感じにくくする術を授けてある。空に上る間、こやつの術で身を隠して有翼人どもの目をかいくぐるがいい。だがその術を維持している間、こやつは何もできんことをよく覚えておけ」

 そういうことか。これで、有翼人どもに見られずに空に上るという条件は達成できる。

「そして、肝心の空に上る方法だが……ついてくるがいい、現場を見せてから説明したほうが話が早い」

 そう言って龍神様が移動し始めたので、みんなでその後に続く。
 やってきた場所には、一本の柱と、一本のバカでっかいハエタタキみたいな物が置いてあった。なんじゃこれは?
 頭をひねる自分をよそに、龍神様の説明が始まる。

「アースと我が欠片には、あの柱の上に立ってもらう。そして我らが風の流れを読み、機を掴み次第、こちらの叩き棒でお前達を空に打ち上げる」

 えっ。

「打ち出される瞬間の衝撃は相当強いが、そこは我慢してもらいたい。打ち出された時点では命の危険性はない。ただし、着地時は現地の状況によっては安全が保証できない。臨機応変に立ち回ってほしい」

 えっ。

「打ち出す先は、雨龍と砂龍が持ち込んだ地図をもとに念入りに調べ上げ、最終的に全員一致でドラゴンの気配がここから感じ取れると結論を出した場所だ。そこは信用してもらっていい」

 わあ、それならば安心ですね――なんて口にすると思ったか!? 運ばれ方が不安しかないんだから、気休めにもならん!

「では、早速行くぞ。あの柱の上に乗るがよい。こちらも打ち出す準備に入る」

 ちょっと待って。いや本当にちょっと待って!? もうちょっと他の穏やかな手段はなかったんですか? なんで野球のノックみたいな感じで吹っ飛ぶことになるんですか!? いくらなんでも無茶苦茶すぎませんかね!? そう訴えたのだが……
「これが一番早い」と龍神様。
「何、予行演習は十分にやってある。失敗はない」と黄龍様。
「他の手段も考えたが、短時間で実行できる案は他にない」と砂龍さん。
「諦めも肝心じゃぞ? 男は度胸、女も度胸じゃ」と雨龍さん。
 逃げ場はないと知ってがっくりとうなれる自分。だが、覚悟を決めて柱の上に飛び移る。その後、龍神様の欠片である幼女が自分の背中にしがみついた。


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