とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ

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25巻

25-2

 やがて完全に日が落ち、報告会の時間になった。

 〔なるほど、そちらの状況は分かった〕

 自分達の順番が来て、今置かれている状況を全て何一つ隠さず報告し終える。そうして返ってきた第一声が、魔王様のこの言葉だった。

 〔報告通り、ここは地上に帰還してもらったほうがよいかと。三人は十分な仕事をしましたし、有翼人が配っている品を持ち帰ってもらえば、洗脳に対抗する研究が進みます〕

 そしてその後も、擁護ようごや同意する意見が中心になり、いったん引くのは適切な判断だろうという意見で一致した。また、

 〔別の者から貰っている情報で、お前達が目を付けられているってのは俺達も分かっていた。お前らが言わないのなら、俺から提案しようと思っていたぞ。それに、お前達が目を付けられていたおかげで、こっちは色々とやり易かった。だからいったん引いてろ、時を見てまたこっちに戻って動けばいいだろうが〕

 と、こういう場だからか、いつもより荒さを抑えた口調でグラッドが同意してきたのには、ちょっと驚いた。ちなみに、そのグラッド達は各島を精力的に探索し、色々な発見を持ち帰ることで有翼人達からの信頼を得るように動いている。
 ともあれ、自分達は次にログインしたタイミングでいったん地上に戻ることが認められた。

 〔研究材料にしやすい物を選んで持ち帰るつもりじゃ。即座に調べられる準備を整えておいてほしいところじゃな〕

 と雨龍さん。それらの品物を揃えるのは、自分がログアウトしている間にやっておいてもらえるそうだ。

 〔うむ、期待している。時がしいのは事実だが、いて優秀な人材を失うという愚かな真似をするようでは、勝てる戦いも勝てぬ。再び時を得るまで、地上で活動していてほしい〕

 この魔王様の言葉で、自分達に関する話は終わった。
 その後も報告がぽつぽつ上がるが、有翼人達がすぐさま地上に進攻しようとしているという気配は今のところ感じ取れない、という結論に達した。といっても、状況はいつ何時変わるか分からないので、監視は当然継続される。

 〔皆の働きに感謝している。まだまだつらい時期が続くが、今は耐え忍ぶ時だ。必ず奴らの首に刃を叩き込む機会は来る!〕
 〔〔〔〔〔〔はっ!!!!〕〕〕〕〕〕

 魔王様の言葉と、それに応える皆の声で、この日の報告会は終了。通信を終える。

『すんなり許可が出て助かりましたね』

 雨龍さんと砂龍さんに、そう念話で話しかける。

『魔王殿は愚物ぐぶつではない。きちんと状況を伝えてけば問題ないと確信していたぞ』

 これは砂龍さん。

『そうとも。きちんとすじが通る話をすれば、柔軟に対応する方じゃ。わらわもそこには何も不安などなかったぞ。周囲の反応は読めんかったが、こちらの状況を理解できる者ばかりで助かったのう』

 と、雨龍さん。他の作戦参加者から批判が出る可能性は考えていたが、ふたを開ければいったん引いて建て直せという意見ばっかりで、いい意味で拍子抜けした。
 その判断が間違いではなかったということを、いずれ何らかの形で証明する必要があるな。

『急くな。気持ちは分からぬでもないが、成果を出そうと急くことは失敗に繋がるぞ。今できることをすればいい。そして我らがすべきことは、有翼人の品を手に入れて魔王城に戻ることだ』

 っとと、そんな念話が砂龍さんから届く。どうやらこちらの心情を察したらしいが、釘の刺し方が上手い。ああ、確かに自分は成果を出したいと考えた……その考えこそが焦りなのだ。

『目標を立てることは重要じゃがな、先ばかり見ていては、足元の石につまずき、大怪我おおけがを負うこともある。お前はそのことを分かっているはずじゃ。魔王殿の言っていた通り、必ず時というのは来るものよ。いざ出陣となったときに適切な動きができぬようでは、やんでも悔やみきれんぞ? それに、一歩引いて周囲を見れば、意外な所から機会を得ることもある。じゃから、時には引くことも重要なのじゃ』

 む、そうかも。今の雨龍さんの言葉にも納得できる点が多いな。
 時間もチャンスも、人を待ってはくれない。人が、その時間やチャンスに合わせなきゃいけないんだ。

『仰る通り、無意識のうちに焦ってしまっていました。少し、頭を冷やしたほうがいいですね……そういう点でも、一度地上に戻るのはいい機会だったと考えます』

 このお二方がいてくれてよかった。もしここで自分一人だったら、焦りからがむしゃらに突っ走って、その結果取り返しのつかないミスをやらかしていた可能性がかなり高かっただろうな。
 そうなったらその後は……うわ、考えたくない結末を迎えているところが簡単に想像できてしまった。

『そろそろ寝ておけ。休息のとれておらん頭で考えることなど、碌なものではない。ゆっくりと休息をとって、また頑張ればいいだけだ。そうだろう?』

 と、砂龍さんが休むことを進めてくる。今日はそうしておこうか、報告も終わらせたし、ログアウトしても何の問題もない。

『うむ、休むときには休む。とても大切なことじゃ……なに、休んでいる間に何かあったとしても、わらわ達二人でどうとでもしておく。安心するがいい』

 雨龍さんもそう言ってくれるし、ログアウトするか……時間的にもそろそろなタイミングだ。

「眠くなってきたんで、そろそろ寝ます……お先にお休みなさい」
「うむ、ゆっくりと休め」

 盗聴されていることを見越して、あえて声を出してからベッドの中に潜り込む。無言が続けば、怪しまれてしまうだろうから。
 さて、有翼人達はどう出るか。次にログインしたとき、ここが消えてなくなってるとかそういうことになってないといいなぁ。



 空の世界)雑談掲示板No.6877(ダンジョン怖い


 748:名無しの冒険者 ID:5efa3wEwd
 乗り物で行くことができる島の中にダンジョンがいくつか発見されたが、
 進行状況的に見ると進みが遅いよね?
 まあ仕方ないんだけど……難易度めっちゃ高すぎ


 749:名無しの冒険者 ID:EFw52EF2g
 運営……なんでここに来て、ファンタジーの皮を被ったSF突っ込んだし


 750:名無しの冒険者 ID:JUhr21reF
 罠もレーザーフェンスとかになってるもんな
 周囲が岩壁だから、ぱっと見は今までと変わらないんだけど……


 751:名無しの冒険者 ID:3rgsWed52
 出てくるモンスターも、オートマターって言うんだっけ?
 とにかくそういうやつだからな……
 しかも怖いところは、こちらの首をポンポン刈っていくこと
 俺達の首は作物じゃねーっつうの


 752:名無しの冒険者 ID:AEWFFbv3X
 女性的なフォルムで……何て言えばいいの?
 表現が難しいんだが、クネクネッとした動きでいつの間にか近づいてきて、
 手の甲や足の脛辺りについてる異様な切れ味を誇る刃を振りかざしてくる
 もうあいつら相手にタンクやりたくないんですが


 753:名無しの冒険者 ID:JTDS2db7e
 初めて戦った時は唖然としたよ
 スルスルッと近寄られたかと思うと一瞬でタンクの首が飛んでたんだもん
 で、その後に自分の首が飛んだというね……


 754:名無しの冒険者 ID:HRhra6wdr
 とにかく首への被弾だけは何としても防がないとダメ
 あいつらの刃が首に当たったら九割首が飛ぶと思っていい……


 755:名無しの冒険者 ID:HRg5wefhg
 更に三体以上来たらもう絶望しかねえ
 あいつら、こっちよりも洗練された連携攻撃までやってきやがる


 756:名無しの冒険者 ID:RUrat5wdg
 二体でもやってくるけどね
 左右から同時に切り込んでくるとか、
 前進してくる奴の後ろにいた奴が飛び掛かってくるとか
 ……で、首がまた飛ぶ


 757:名無しの冒険者 ID:k32f5fRgw
 マジで今までのモンスターとは格が違うわ
 モンスター相手じゃなくてガチの対人戦だって考えないと戦いになんない
 一瞬の油断で誰かが死ぬ


 758:名無しの冒険者 ID:AEdefd5gW
 運営の本気ってことか?
 でもさ、他にもモンスターはいるんだよね……
 紫電を発する空飛ぶ球体
 あいつも色々厳しい


 759:名無しの冒険者 ID:OIstdry12
 正式名称知らんけど、通称『魔法殺し』
 魔法がほとんど無効化されちまう……
 無効化されなきゃダメージ通るみたいだけど、
 体感で七割ぐらい無効化されるからなー


 760:名無しの冒険者 ID:REHTerg1w
 攻撃方法は単純な体当たりだけだか、周囲に紫電を纏ってるせいなのか、
 攻撃をまともに受けると[スタン]の状態異常を食らうことがある
 特に金属系防具多めのタンクがやばい
 対策仕込んでないとガンガン[スタン]食らう


 761:名無しの冒険者 ID:EFDEf54wB
 対策してるタンクもそれなりにいるけど、
 スタン抵抗防具って未だにややお高めなお値段だからなー
 ……対策してても甘いとあいつに[スタン]させられる


 762:名無しの冒険者 ID:EGFegw14w
 そしてその両者がパーティ組んでると、もう絶望しかない
 オートマターに魔法放つと魔法殺しがカバーしに来るし、
 範囲魔法で一気に焼こうとしても、かなり威力が減衰してるっぽいから、
 効かなくなっちゃう


 763:名無しの冒険者 ID:Baf1wdHwe
 そんな厄介極まりない魔法殺しに唯一効く特攻とも言えるのが、
〈光魔法〉の発展先にある《アッシュ・シャイン》……
 あれ、〈光魔法〉を補助じゃなく攻撃に用いるタイプに進ませないと、
 手に入れられないらしいね。自分は支援方向に進ませてたから使えない


 764:名無しの冒険者 ID:EGew5dgEg
 あー、あれか
 今、魔法使いは《アッシュ・シャイン》の有無で、
 野良パーティでの拾われ率が露骨に違うからなー
 もともと〈光魔法〉は補助が得意だったから、
 攻撃メインに用いてた人はそう多くなかったんだよな
 それがここに来て攻撃運用を求められるってのが……


 765:名無しの冒険者 ID:Js2erf45e
 ギルメンが言ってたよ
 今まで〈光魔法〉を攻撃特化に伸ばしてるって言うと、
 野良パーティへの参加をすぐ断ってきた連中が、
 今じゃ手のひらを返すどころかドリルのように高速回転して
 すり寄ってくるのがめっちゃ気に食わねえって
 まあ気持ちは分かる


 766:名無しの冒険者 ID:RGgs45eRd
 しかし、悲しいかな……効果が絶大すぎるんだよ
 ああいう謎な存在に対しての《アッシュ・シャイン》の攻撃能力
 たいてい一発で灰にして消し去ってくれるから、
 使える奴が一人いるといないとでは生存率の差が段違い過ぎてもうね……
 募集がかかるの無理もない


 767:名無しの冒険者 ID:Jtsr4wdFe
 現実はこんなもんだよな……
 今までは要らないとか言ってたくせに、
 有用性が認められた途端に揃いも揃って手のひら返す
 これ「ワンモア」に限った話じゃない、どこでもそうよ


 768:名無しの冒険者 ID:KIerst1gu
 でも今まで要らない子扱いされたプレイヤーからすれば、
 報われたって感情より、
 お前ら昨日まで言ってたことを思い出してみろって
 言いたくなるのも事実だわ


 769:名無しの冒険者 ID:WRHhar5gB
 弓や盗賊のときもあったそういう流れって、
 いつになっても変わらんよなー


 770:名無しの冒険者 ID:Odtsy1rsf
 あの、皆さま
 自分はそのオートマター以前に、メカ犬に勝てないんですが……
 どうしたらいいでしょうか?


 771:名無しの冒険者 ID:OFYG5efaW
 メカ犬って、ダンジョンの浅い所にいる番犬みたいなあれか
 どうしたらいいか……
 勝てるようになるまで戦うしかないな
 オートマターが気になるのかもしれんが、
 あの犬に勝てないなら奥に来るのは無謀としか言えない
 あれに余裕を持って勝てる連中が、
 オートマター相手には一瞬で首を落とされてるんだからな?


 772:名無しの冒険者 ID:KYGTSfd4w
 うむ
 あの犬を模したメカは確かに強いけど、奥はマジで狂ってるから
 あの犬相手に勝てないまま来たら、
 気が付かないうちにパーティ全員の首が無くなってる可能性があるぞ


 773:名無しの冒険者 ID:RTUtysd2F
 上の二人の言う通りだね
 ダンジョンは逃げないんだから、
 スキルLvを上げるなり装備を更新するなり、
 もっと腕を磨いてからチャレンジしたほうがいい
 マジでこういうアドバイスしかできない


 774:名無しの冒険者 ID:OUyr2tQd7
 ちなみにドロップ品はどうよ?
 なんかのパーツとか、オートマターが体に着けてた刃とかが落ちるけど


 775:名無しの冒険者 ID:EGgr1weer
 刃は鍛冶屋が新しい剣なんかを作る素材になるぞ
 もっとも、めちゃくちゃ鍛えた人じゃないと加工できないけど


 776:名無しの冒険者 ID:SDTRUrgs5
 変わり種で、その刃をできるだけ生かしたスネークソードを作る職人がいた
 見た目は刀身が広いブロードソードみたいな感じなんだけど、
 展開するとちゃんとスネークモードになる
 あの異常な切れ味の特性を殺さずにいるから、すげえ切れる
 オートマターの首を今度はこっちが落とすことも可能になった


 777:名無しの冒険者 ID:Kras4gWE8
 あー、良いなそれ
 必要な刃の数は多いんだろうけど、スネークソードのスキル持ちなら、
 作る価値ありだな
 遠距離から敵の首を飛ばせるってのは強いぞ


 778:名無しの冒険者 ID:TYFJtesh2
 パーツのほうは、有翼人に売りつけるといい値段で買い取ってくれるね
 パーツを解析しようとしてる職人もいるけど、
 そっちのほうはあまり進んでないって話だが


 779:名無しの冒険者 ID:RHDferw5S
 狩れればいい稼ぎになるし、すごい武器が作れるんだよね
 狩れれば、だけどさ


 780:名無しの冒険者 ID:aewCs5eBg
 大半の人は首を刎ねられて終わり、って感じだな
 もちろん今のところは、だけど
 慣れてくればもっと倒せるようになってくるだろ


 781:名無しの冒険者 ID:EGeg5fB6E
 しかし現時点で、そんなオートマター達をガシガシ狩る連中が
 存在しているという事実……お約束通り、グラッド達なんだけどよ
 あいつらおかしいわ


 782:名無しの冒険者 ID:WDge6gefw
 そうそう、「最強を目指す」だとか、最初は何言ってんだと笑ってたけど、
 今となってはその頃の自分を殴りたいわ
 あいつら本当に強すぎる
 あのオートマター達を次々と撃破していくんだもんな……


 783:名無しの冒険者 ID:JJT7ew12D
 そもそも《アッシュ・シャイン》が例の魔法殺しに
 特攻だってのを発見したのは、
 そのグラッドパーティの魔法使い、ガルだろ?
 涼しい顔で魔法殺しを魔法でホイホイ叩き潰してる姿を最初に見たときは、
 もう乾いた笑いが勝手に出るレベルだったわ


 784:名無しの冒険者 ID:LDTGgr58g
 どこの世界にも猛者っているんだなって感じた瞬間だな、そりゃ
 まあ、そんな彼らのおかげでこっちも情報を得ることができて、
 何とか戦えるようになってきたわけなんだよな
 事前情報なしで戦うのは、俺の腕じゃ無理!


 785:名無しの冒険者 ID:ERTHgrs6e
 みんながみんな、あんな動きをできるわけじゃないからな
 うちらはうちらにできる範囲でやればいいの
 オートマターには何度も首飛ばされたけど、
 それでも戦い続けて何とかできるようになってきた
 諦めず何度も挑戦することが大事よ


 786:名無しの冒険者 ID:WAEFfew85
 ただ、オートマター達の連携攻撃だけはマジで注意
 機械だからなのか、すげえ正確に攻撃を決めてくる
 タンクの負担を減らすために、特に弓使いやスネークソード持ちは、
 少しでもオートマターに攻撃を入れて、動きを妨害してあげよう


 787:名無しの冒険者 ID:ESAGfe2dW
 タンクが落ちたら、その後は自分達だからな……
 とにかく少しでも妨害を入れてタンクを護らんと


 788:名無しの冒険者 ID:f6gf8Ue5f
 でもそれを咄嗟にできるようになるまで、もうちょっとかかりそう
 今までの経験が問われるダンジョンだわ



 3


 翌日ログインすると、周辺が何もない更地さらちになっていた──なんて物騒な展開などはなく、前日ログアウトする前の部屋のままだった。
 ほっとひと安心して周囲を見渡すが、雨龍さんも砂龍さんもいない。どこに行ったのだろう……
 とりあえず、簡単な食事で腹を満たす。食事を終えても、まだ二人は帰ってこない……

(まさか、捕まったか? それにしちゃ部屋の中が綺麗きれいだ。あの二人と有翼人がこの部屋で戦えば、部屋の中がぐちゃっとなりそうなものだが。単純に外出しているだけ、か?)

 一度深呼吸してから、《危険察知》を使用……すると、二人はこの宿からそう遠くないところにいるようだ。この宿を目指して帰ってきている途中なのかもしれない。
 そして、その周囲に四人ほど有翼人がいることも分かった。むろんあの二人がそれに気が付いていないはずがない。あえて放置しているんだろう。
 この速度でこっちに向かっているとなると、大体一〇分前後で帰ってきそうだ。

(すぐに出られるように、旅支度たびじたくを済ませておこう)

 忘れ物などがないように確認しながら、装備を着込み、外套がいとう羽織はおっていつもの姿になる。
 と、そうして支度が済んだところに雨龍さんと砂龍さんが戻ってきた。

「お、用意はできているようだな。食事はどうした?」
「あ、自分のほうで適当に済ませました」
「そうか、ではわらわ達もさっさと支度して、ここを出ようかの」

 そんな会話と共に、お二人とも素早く身なりを整えた。

土産みやげはすでに買っておいた。あとは帰るだけだ」
「了解です」

 土産――つまり魔王様に見せるための例の物はすでに用意済みってことか。
 宿屋の人に旅立つことを告げ、見送られて外へ。
 相変わらずこちらを警戒する有翼人の反応が六つほどあるが、気が付いていないふりをして帰り道を行く。

「いくつかトラブルもありましたけど、いい土産話ができそうですね」
「話ばかりでは物足りんから、土産そのものもそれなりに買っておいたからの。しばらく話の種には困らぬぞ」

 そんな会話を交わしながら、今いる島から中央の島に渡る筒状の移動装置に入る。
 筒を抜けてやってきた中央の島にも、こちらを監視する有翼人の存在が八人ほど感じられた。でも、こちらが何もしない以上手出しできないようで、距離を詰めたりはしてこない。チリチリという、苛立いらだちみたいなものを首筋あたりに感じるだけだ。

『分かっているだろうが、放置だ。身構えてもならぬ』
『ええ、心得ています。奴らにこちらを探るきっかけを与えるわけにはいきませんから』

 砂龍さんからの念話に、そう返す。何かあれば直接調べてやる、という気配を隠しきれていない有翼人達を無視して、地上と行き来するための装置の前に立つ。
 自分達以外にも、観光を終えたと見られる様々な種族の人が順番を待っていた。

「長生きはするものじゃ、こんな場所を見られて楽しかったわい」
「じーちゃん、帰るまでが旅行だかんね?」
「そうじゃな、帰るまで気を付けていかんとな」

 自分達の前では、老人と子供、そして夫婦と思われる二人からなるダークエルフの四人家族が、この空の世界の感想を話し合いながら順番を待っていた。

(こういう一般の人々の生活を、有翼人達がぐちゃぐちゃにしようと考えているとは、皆は夢にも思っていないんだろうな)

 無邪気に話す子供と、そんな子供に優しい微笑ほほえみを向ける老人。こんな穏やかな風景を一瞬で消し去るのが戦争ってやつだ。リアルでも沢山発生して、そしてこれからもまた沢山発生してしまうんだろう。
 でも、今回有翼人が仕掛けようとしているやり口だけは、事情を知る自分達が協力し合って絶対に阻止してみせなければな。
 そんな風に決意を新たにしているうちに、自分達の順番がやってきた。
 装置の中に入ろうとする一瞬、見張っていた有翼人達から一斉に強い殺気をぶつけられたが、自分も雨龍さんも砂龍さんも揃ってスルーした。こんな見え見えの挑発に乗るほど、こっちは安くない。
 向こうの歯ぎしりが聞こえてきそうな雰囲気を感じつつ、ついに地上に戻ってきた。色々とあったせいで、妙になつかしく感じる。
 ファストの街に立ち寄り、軽く食事をとった後、フォルカウスの街へと向かう。フォルカウスで一泊したら、次に魔王領へと向かう予定である。
 だが……隠れている人が一人、こちらを追ってきていた。といっても警戒はしていない。追ってきているのは、グラッド達のPTパーティメンバーの一人、レンジャーのジャグドだと《危険察知》で分かっているからだ。

(ここまで姿を現さないってことは、相応の理由があるんだろうな。で、人気ひとけがなくなってから距離を詰めてきたってことは、追ってきた理由を教えてくれるのかね?)

 実はジャグドは、自分達が地上に降りてファストの街に向かう途中から追ってきていた。だが、話しかけてきたりせずに一定の間合いを維持していたのだ。だから、こちらから話しかけるのもここまで控えていた。

「どうせバレてんだろうからこのまま挨拶あいさつさせてもらうぜ、アース」

 と、透明状態を維持したままのジャグドの声が聞こえてきた。自分達三人はその声に反応して振り返る。

「ああ、ジャグド、でいいんだよな。そちらもひまじゃないだろうし、早速用件を聞かせてもらおう」

 グラッド達も色々と動き回っているから、暇などあるはずがない。にもかかわらずこうしてジャグドをよこしてきたってことは、そうしなければならない重大な用事があるのだろう。姿を隠したままなのも、それなりの理由があるはずだ。

「これから魔王様のとこに行くんだろ? そのときにこいつも渡しておいてくれ。ダンジョン内で倒したオートマターが落とす部品とかだ」

 そんな言葉と共に、ジャグドの手だけが見えるようになって、一つの箱を渡された。工具箱ぐらいの大きさだが、軽く中を覗いて見ると、色々な金属片がぎっしりと入っていた。箱を渡し終えたジャグドは、再び完全な透明状態に戻っている。

「魔王様が見れば、今プレイヤーが活用している方法とは別の使い方が見えてくるかもしれないって意見が、うちのゼラァとガルから出たんだよ。で、グラッドもその可能性は高いと見て、ちょうど魔王様のとこに行くアースに渡せって頼まれたってわけだ。その箱にはいろんなパーツをかき集めて入れてある。ゼッドにバレないようにやらなきゃいけなかったから、ちっと面倒だったが」

 ああ、グラッドPTでもゼッドだけは蚊帳かやの外だからな。彼に何やってんだ?ってかれると困るだろう。全てが終わるまでは理由を話すわけにいかないんだから。

「なるほど、話は分かった。これも必ず魔王様に提出する。任せてくれ」

 そういえば掲示板で、そういうメカ系のモンスターが出るとか何とかって話で盛り上がってたな。そいつらの部品となれば、ちゃんと届けないとな。

「じゃ、俺はまた空に帰らなきゃならねえからよ、ここで失礼するぜ。何か分かったら、報告会で言ってくれ」

 そう言い残し、ジャグドは立ち去った。預かった箱はすぐにアイテムボックスにしまい、なくさないようにする。

「良い土産が増えたようじゃな、そしてあの隠形おんぎょう……ふふ、なかなか人族もやるものよ」

 おっと、雨龍さんがジャグドをめている。雨龍さんから見ても感心するレベルの隠形術だったか……やっぱり特化している人の技術ってのはすごいんだな。確かに、《危険察知》がなければ自分にはジャグドがいることを察知できなかったと思う。雨龍さんや砂龍さんなら平然と見破りそうだけど。

「真っ向勝負だと、アースが勝つのは難しかろうな。もっとも、お前の持ち味はそこではないが」

 言われなくったって分かってますよ砂龍さん。グラッドのPTメンバーは全員猛者もさ揃いだからな……ちょっと前にジャグドとやった勝負も、初見殺しの即死攻撃で勝ったわけだからね。戦闘メインに鍛えた人と、あっちこっちふらふらと手を出した人間では差がつくのは当然だろう。

「彼らには彼らの、自分には自分の味ってものがありますからね。さあ、フォルカウスの街へ行きましょう」

 フォルカウスは久々だ。街の様子は変わらないままかな? それとも変わっているのかな? ちょっと楽しみだ。


感想 4,999

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子爵令嬢メリッサは、十年間、王の私的書記として親書の代筆を担ってきた。隣国の王子クラウスとの外交文書を毎月一通、彼女が王の筆跡で書き、隣国から届く返信を王に届ける——その繰り返し。「お前の字は子供の落書き。書記など下級官吏の仕事だ」婚約破棄の宴で王が放った一言に、メリッサは筆を置いて去る。翌朝、隣国の使者が困惑する。王の親書の筆跡が違う。慌てた政務官が王に「書き直してください」と求める。王は筆を取る——書けない。その日、王宮にクラウス王子自身が訪れた。「メリッサ嬢に会わせていただきたい」クラウスは静かに、十年前の最初の親書の写しを取り出す。「親書の行間に、毎回一文ずつ私が書いた言葉があります。それは王陛下にではなく、代筆をしてくれていた『あなた』に宛てた言葉でした」メリッサは目を伏せる。十年。三千通。彼女が一度も読まなかった「行間の私信」が、ようやく彼女のもとへ届いた。