とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ

文字の大きさ
584 / 753
連載

女神の願い

しおりを挟む
 ここで突如テーブルの上に現れる紅茶と焼き菓子。こういうムーブは神様っぽいね……口に運んでみる、うん美味しい。女神も普通に口に運んでいる。さて、お互いに喉を湿し一息ついたところで話を再開するのかな。

「さて、最後の戦いについて考えられる事ですが。おそらく最初はプレイヤーの皆様の士気も高い事でしょう。ですが、私もあっさり倒されるほどの弱き存在ではありません。それに対して恐らく勝てない、これは無理と判断し徐々に戦列から引いていく事になるでしょう。ですが、そんな姿を私は見たいわけではございません」

 まあ、そりゃねえ。そんな姿はこの女神様が見たいと口にした人の意地という物とはかけ離れている物だからね。それが目的ではないのは当然だ。

「無論それでも立ち上がり続ける人はいるでしょう。逸れこそが私が見たいものなのですが……そんな彼等でも、諦めてしまう速度は分かりません。本当に最後まで立ち上がってくれるのか、それとも……ですので、こうしてこの世界の住人に一番誠実に向き合ってきたアース様をこうしてお呼びしたのです。あるお願いを、私から直接するために」

 それが、先の発言に繋がるのか。最後まで折れずに立ち上がってくるのが自分であろうと判断して。

「改めてお願いいたします。無理にとは決して言えませんが、どうか最後の最後まで私と戦うのを諦めないでください。この世界の制作に関わった創造主を始めとした多くの方に無理を言って引き延ばしていただいたこの一年を、実りあるものにしたいのです。こちらの我が儘であることは重々承知しておりますが……それでも、何とかお願いできないでしょうか」

 あの日、塔を登る前にミリーから正体を明かされてまで伝えられた一件が、こういう形になるとは……この女神さま役になる事を決定づけられたAIがワンモアの終了を告げられてから一年と三か月になる原因だった訳だ。そんな存在から、最後のお願いをされたのであれば……応えたい。

「分かりました……ただ、こちらからもちょっとしたお願いがあります。あ、もちろん最終決戦で優遇しろとか、私達の世界における報酬を用意しろと言った類の話ではありません」

 ただ、それに応えるならば──見せたい人々がこのワンモアにはいっぱいいる。各国を回り、様々な知り合いが出来た。そんなみんなに、最後まで立ち上がり続ける自分の姿を見せておきたい。最後に自分がこの世界に残せるものになるのがまさにその姿になるだろうから……

「どういった事でしょう?」「その最後の戦いを、この世界に生きる全ての人が見られるようにして欲しいのです。すでにご存じではあるでしょうが、私もこの世界を旅し、様々な知り合いが出来ました。そんな知り合いたちに、自分の最後の姿を見せておきたいのです。そう、女神様だけではなく、この世界の人々全員に人の意地を見せて終わりたい」

 妖精国に始まり、地底や空へも旅をした。今は亡くなった知り合いも多い。でも、生きている知り合いも多い。ならばその生きている知り合いに、最後の人の意地という物を見せておきたい。それが自分が用意できる最後のプレゼントになるだろう。それに、女神だけではなく世界をめぐって繋いできた友が見ているとなれば、より自分を奮い立たせることが出来る。

「分かりました、その願いは聞き入れましょう。確かに、私だけではなく世界の住人皆が見る事で今後の世界は変わるかもしれません。それに、知り合いにこうして戦ったのだという事実を直接見て欲しいという感情は理解できます。当日までに用意を整えましょう」

 よし、これでさよなら代わりの挨拶は出来るな。情けない姿を晒す可能性も十分あるが……それでもなお立ち上がる姿もまた、きっと見せることが出来る。その姿を見てくれれば、きっと最後まであきらめずに立ち上がる姿を見せれば何故この塔に自分が挑んだのかを納得してくれる。

「ありがとうございます。その代わり、最後の最後まで立ち上がり諦めずに戦い続ける事を、ここに誓わせていただきます」

 願いを聞いてもらったのなら、後はこちらが誠実に向こうの望みである人の意地という物をみたいという願いに応えるだけだ。どんな相手であっても、そこは変わらないし変わってはいけないと自分は考えている。

「ありがとうございます、アースさんの他にも有望な方は一定数いらっしゃいますので、アース様だけが負担を負うと言う事はまずないと思いますけれど……」

 ツヴァイ達ブルーカラーの初期メンバー、グラッドパーティはそうそう潰れないだろう。ヒーローチームは塔に挑んでないからいないな、彼等もヒーロー故に諦めず最後まで食い下がる筆頭格なんだが……いないのは残念でならない。そのほか幾人か思い当たる面子はいる。あの人達なら強大な存在が相手であっても最後まで戦い抜くのではないだろうか。

「そうですね、自分よりも強い人達は何人もいます。その人達は、自分以上に戦い抜く可能性は十分高いですよ。女神様を失望させる可能性はまずないと思います」

 これは素直な本音だ。思いついたメンバーは、心が弱いと言う事もない。あの面子ならばたとえどんなに女神様が強かったとしても、早々にもう無理だなどの弱音を吐いてさっさと諦めると言う事はあり得ないだろう。だから、自分が例え折れても女神の願いはかなう事になるだろう。

「それを私も望んでいます。人の意地という物はどれほどの熱を持つのか。私に訴えてくる何かがあるのか──それこそが、私が感じたい物なのです。追い詰められてなお、周囲から笑われてなお、立ち上がってくる人が持つ何か。それこそが、資料を山ほど集めて何度も学ぼうとしても学べなかったモノ。是非、それを教えてくれる人が大勢いて欲しいと願っています」

 しかし、ここまでして人の意地を学ぼうとするAIってのもまたすごい話だよな、冷静に考えると。資料を山ほど集めて学ぼうとしたというのは誇張でも何でもないだろうし、そう言った勉強の結果人の意地を知りたいという答えを出すのはもはやAIと表現する事すら出来なさそうな……

 この手の技術関連には明るくないが、それでもAIがはじき出した答えとしては何というか完全に想定外の話のように感じられる。恐らく開発者も相当に驚いたのではないだろうか。でも、だからこそ応えたくなった。それが、今後多くの知り合いが生きているこの世界が無事に続いていく事に必要な事になる可能性があるのだから。

「他に、自分に対して依頼したい事などはあるのでしょうか?」

 この自分の確認には、女神様は首を振った。

「そうですね、名前は出しませんのでインフォメーションを通じてパーティを強制されるエリア以外ではソロで登り切ったプレイヤーが現れましたと流してもよろしいでしょうか?」

 そんなインフォメーションしたいのか? うーん、まあ、いいか。多少騒ぎにはなるだろうけど、それぐらいだろうし。

「構いませんよ、名前を出さないのであれば流していただいて結構です」

 むしろ、その後にやってくるインフォメーションの方が騒ぎになるだろうからね。明日には白の塔と黒の塔両方制覇したパーティが現れたって流れるんだろうからね。

「ありがとうございます、それから残りの日は自由に過ごしてください。白の塔でも黒の塔でも自由に入って頂いて最後まで己を磨いても良いですし、のんびり過ごしていただいても構いません。最終日にだけ来ていただければ、後は自由ですので」

 残り時間は二ヶ月ちょっとか……ほどほどに訓練して、ほどほどにのんびりしていればいいだろう。言われた通り、最終日だけはしっかりと参加しないといけないだろうが。こうして、自分の塔への挑戦は終了した。残された時間では、流石に黒の塔を登り切るのは無理だからね。これで終了となる。

 後は準備期間だな。最終日までにできる事をすべてやっておこう。この考えがフラグになっていたのかどうかは分からないが……想定外の方向から、生産に忙しい日々が始まる事になる事などこの時は知る由もなかった。
しおりを挟む
感想 4,923

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】

星森 永羽
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

【完結】「神様、辞めました〜竜神の愛し子に冤罪を着せ投獄するような人間なんてもう知らない」

まほりろ
恋愛
王太子アビー・シュトースと聖女カーラ・ノルデン公爵令嬢の結婚式当日。二人が教会での誓いの儀式を終え、教会の扉を開け外に一歩踏み出したとき、国中の壁や窓に不吉な文字が浮かび上がった。 【本日付けで神を辞めることにした】 フラワーシャワーを巻き王太子と王太子妃の結婚を祝おうとしていた参列者は、突然現れた文字に驚きを隠せず固まっている。 国境に壁を築きモンスターの侵入を防ぎ、結界を張り国内にいるモンスターは弱体化させ、雨を降らせ大地を潤し、土地を豊かにし豊作をもたらし、人間の体を強化し、生活が便利になるように魔法の力を授けた、竜神ウィルペアトが消えた。 人々は三カ月前に冤罪を着せ、|罵詈雑言《ばりぞうごん》を浴びせ、石を投げつけ投獄した少女が、本物の【竜の愛し子】だと分かり|戦慄《せんりつ》した。 「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」 アルファポリスに先行投稿しています。 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 2021/12/13、HOTランキング3位、12/14総合ランキング4位、恋愛3位に入りました! ありがとうございます!

ねえ、今どんな気持ち?

かぜかおる
ファンタジー
アンナという1人の少女によって、私は第三王子の婚約者という地位も聖女の称号も奪われた 彼女はこの世界がゲームの世界と知っていて、裏ルートの攻略のために第三王子とその側近達を落としたみたい。 でも、あなたは真実を知らないみたいね ふんわり設定、口調迷子は許してください・・・

その支払い、どこから出ていると思ってまして?

ばぅ
恋愛
「真実の愛を見つけた!婚約破棄だ!」と騒ぐ王太子。 でもその真実の愛の相手に贈ったドレスも宝石も、出所は全部うちの金なんですけど!? 国の財政の半分を支える公爵家の娘であるセレスティアに見限られた途端、 王家に課せられた融資は 即時全額返済へと切り替わる。 「愛で国は救えませんわ。 救えるのは――責任と実務能力です。」 金の力で国を支える公爵令嬢の、 爽快ザマァ逆転ストーリー! ⚫︎カクヨム、なろうにも投稿中

結界師、パーティ追放されたら五秒でざまぁ

七辻ゆゆ
ファンタジー
「こっちは上を目指してんだよ! 遊びじゃねえんだ!」 「ってわけでな、おまえとはここでお別れだ。ついてくんなよ、邪魔だから」 「ま、まってくださ……!」 「誰が待つかよバーーーーーカ!」 「そっちは危な……っあ」

お前は家から追放する?構いませんが、この家の全権力を持っているのは私ですよ?

水垣するめ
恋愛
「アリス、お前をこのアトキンソン伯爵家から追放する」 「はぁ?」 静かな食堂の間。 主人公アリス・アトキンソンの父アランはアリスに向かって突然追放すると告げた。 同じく席に座っている母や兄、そして妹も父に同意したように頷いている。 いきなり食堂に集められたかと思えば、思いも寄らない追放宣言にアリスは戸惑いよりも心底呆れた。 「はぁ、何を言っているんですか、この領地を経営しているのは私ですよ?」 「ああ、その経営も最近軌道に乗ってきたのでな、お前はもう用済みになったから追放する」 父のあまりに無茶苦茶な言い分にアリスは辟易する。 「いいでしょう。そんなに出ていって欲しいなら出ていってあげます」 アリスは家から一度出る決心をする。 それを聞いて両親や兄弟は大喜びした。 アリスはそれを哀れみの目で見ながら家を出る。 彼らがこれから地獄を見ることを知っていたからだ。 「大方、私が今まで稼いだお金や開発した資源を全て自分のものにしたかったんでしょうね。……でもそんなことがまかり通るわけないじゃないですか」 アリスはため息をつく。 「──だって、この家の全権力を持っているのは私なのに」 後悔したところでもう遅い。

姉妹差別の末路

京佳
ファンタジー
粗末に扱われる姉と蝶よ花よと大切に愛される妹。同じ親から産まれたのにまるで真逆の姉妹。見捨てられた姉はひとり静かに家を出た。妹が不治の病?私がドナーに適応?喜んでお断り致します! 妹嫌悪。ゆるゆる設定 ※初期に書いた物を手直し再投稿&その後も追記済

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。