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15巻
15-3
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その後更に数試合を見せてもらったが、自分の頭に浮かんでいたのは、「これ、本当に自分が出てもいいのか?」という疑問だった。何せどの一戦も素晴らしく見ごたえがあり、観客の皆さんも非常に盛り上がっている。そんな場に自分などが上がっていいものか。
無理に例えるなら、一流マジシャンでもダンサーでもなんでもいいが、とにかく素晴らしい芸を見せてくれた人の後に、しろーとがひょこひょこ出ていってつまらない芸を見せたらどうなる? ものすごく温まっている会場でも一気に冷める可能性が非常に高い。
そしてその冷気は、容赦なく壇上にいる人に向かう。そうなるときついんだよなぁ……むしろへたれっぷりを笑ってもらえたほうがはるかにマシだ。
「如何でしょうか?」
そしてそんな自分の様子を窺うように、雪女さんが声をかけてきた。むう、なんて返そう。考えてもいい言葉が出るかどうか分からなかったので、とりあえず素直な感想を伝えることにした。
「率直に言えば、素晴らしい、のひと言に尽きます。力強さ、技の冴えもさることながら、何より見ごたえがあるのがすごいところです」
そう、魅せる戦いとでも言えばいいのだろうか? ただ勝つだけではない、観客を巻き込んで盛り上げる一面があるのだ。挑発、アピール、とっておきの大技。それらを上手く組み合わせて会場の空気を温める。この洞窟の寒さを忘れてしまうぐらいに。
ここに外から来る人が少ないのはもったいないな、と思う。道を整えて人の流れをよくし、この闘技場で行われている戦いを見せればかなり儲かるんじゃないだろうか? あと「痛風の洞窟」の特性もきついんだよなぁ。
「戦いが生きがい。そう豪語する人達が集う場でもありますから、楽しんでいただけたなら嬉しいです」
雪女さんは自分の返答に満足したようだ。満足してもらおうと言ったつもりはなく本音だったのだが、それでよかったのであれば最上の結果だろう。
「それで、どうしますか? そろそろ出場してみたいという気持ちになってきましたか?」
――ついに来た。残念ながら、その正反対の方向に自分の考えは突き進んでいるんですけど。これだけの戦いの後に道化……いや、この場合は本職の道化師の皆さんに大変失礼だな、ただの素人の戦いなんかを見せたところで盛り下がるだけだろうなぁ~。よし、はっきり断ろう。
「申し訳ないのですが――」
出るのは見合わせようと思います、と自分は続けようとした。だが、ここまで言った直後に雪女さんががしっと肩を掴んできて、にっこりと笑顔を見せた。握力がかなり強いらしく、結構痛いんですが。
「出ていただけますよね? もちろん勝敗も勝負内容も問いませんので」
一応補足しておくと、この笑顔は攻撃的な意味での笑顔だ。顔は笑っているけど目は笑っていないってやつに該当する。
しかしだなぁ、自分の力量を考えるとなぁ。うーんと唸ってしまった自分に、後ろで観戦していたモンスターさんから助言が入る。
「ああ、姐さんの言う通り、別段気負って戦う必要はないぞ。そもそもあそこで今まで戦っていた連中は、それこそこればっかりやってきた連中だ。それと同じレベルの内容を外から来てくれた客人にいきなり要求するのは馬鹿ってもんだ。それよりも、むしろこういった戦いとは全く別の試合を見せてもらえたほうがこっちにとっていい刺激になるんだよ。無理にとは言えないが、一戦だけでもいいから戦ってくれないかい?」
そんなもんですか。一応雪女さんに目で確認を取ると、彼女も頷いた。まあ確かに、熱戦を山ほど見ておいて、はいさよなら、では薄情すぎるというか、見料を踏み倒すようなものか。それなら、一回だけ戦っておくのが対価になるのかね。ただ、正々堂々なんて絶対に無理だから、小技を多数含めて……どれだけ持つかな。何とか見せ物になることはできそう……かね?
「分かりました、そちらの期待に応えられるかどうかは自信がありませんけど……やるだけやってみます」
自分の答えに、近くにいた観戦者達が「よっ、待ってました」とばかりに拍手する。あの、帰っていいですか? その拍手から伝わってくる期待が重いのですが。
「ダメです、出ると言ったのですから曲げないでくださいね♪」
声には出してないのになぜ分かったんだよこの雪女さんは。
そして自分は闘技場の控室に案内されていった。逃げ道は初めからなかったのであった。
(ここが控室か。やっぱりこういう場所には独特の空気があるねぇ)
肌がピリピリする。部屋に入ると、中にいたモンスターの皆さんが自分にちらりと目をやったが、すぐに視線を戻してその後はもう見てこない。やっぱり戦いの中に生きる人はそれだけの緊張感を持っている……っと、肩を叩かれた。
振り返ると、そこには闘技場で最初に見た勝負で熊型と戦っていたリザードマン型さんがいらっしゃった。
「ようこそ闘技場へ。貴方の参戦を心より歓迎しよう」
とっさにどう返答すればいいか分からず、自分の口からは「はあ、どうも」と間が抜けた言葉しか出なかった。
「なに、緊張する必要はない。それで確認しておきたいのだが、ここでのルールは説明を受けているか?」
こんな最終確認みたいなことを言われたので、教わったルールを全て口に出して、このように聞いていますと伝えた。知っている、のひと言で済ませるよりもこっちのほうが確実性が高いからな。
「伝わっているようだね。あくまで自分の武を見せる場であって、殺し合いの場ではないと理解していれば十分だ。あと、無理に挑発やアピールを行う必要はないぞ? アレはある意味悪ノリでやっているだけだからな。人族にも、『ヒール役』とか『ベビーフェイス役』とかいう似たようなものがあるのだろう?」
そりゃプロレスですがな。こういう情報は絶対プレイヤーが持ち込んでるな……誰だよこんな情報をこっちの世界の人に流したのは――って追及すると、カレーをはじめとした複数案件に各方面から総ツッコミが来そうだからやめておこう。自分も結構色々なものを各地にばら撒いちゃってるからなぁ。
「ええ、まあ……ありますね」
これ以外何と返せと。いや、口の回る人ならさらっと返すんだろうが、自分には無理だった。
全然関係ないけど、今の自分はモンスターハウスの中に一人でいる状況だよね。友好的な皆さんだから問題ないにせよ、事情を知らない人が見たら、お前さんはそんな場所で何やってんだとツッコむ光景だよな。
「結構だ。では、楽しみにしているよ」
そういうプレッシャーをズッシリとかけるお言葉はやめてほしい。こればっかりはいくら齢を重ねてもどうにもならない部分だ。ただそれを表面に出さないように、ポーカーフェイスとか小細工を覚えていくだけ。
それ以降は話しかけてくる方もおらず、呼び出されるのを装備とアイテムのチェックを行いながら待つ。アイテムを使っちゃいけないとは言われていないので、回復アイテムとかは使わせてもらう。そもそもの肉体的な差が大きいんだから、それぐらいはいいだろ。
「お待たせしました。アース様、出番です」
あ、いよいよ出番ですか。歓声が上がってる。前の試合もかなり盛り上がったようだな。やーれやれ、お相手は誰なんだろうねぇ。いきなり闘技場のチャンプが待っていて、「よくぞ来た、遊んでやろう!」とかいうネタはやめてほしいな。
闘技場の舞台に上がる前に、自分は指輪を撫でながらクィーンの分身体に一つお願いをしておいた。「この戦いにはよほどのことがない限り手を出さないでくれ」と。
(分かっております、一対一の真剣勝負に水を差すような無粋な真似はいたしません。相手がしてきた場合はその限りではありませんけど)
と、分身体からも素直に了承を得られた。あとは、自分自身が精一杯の戦いをすればいいということになる。
そうして舞台に上がった自分を待っていたのは、レフリー役のガーゴイル(念のために言っておくが、門番にいたあの漫才コンビの二人とは別人)と、ワーウルフの姿をした氷のモンスターさんだった。服などは身に着けず、どういう仕組みなのか白い体毛に覆われている。
「あーあー、テステス。よっし、今日ここにいる連中は幸運だ! これから、外の世界からわざわざこんな僻地にやってきた一人の戦士と、初めてこの闘技場の舞台に上がる新米の戦士との一騎打ちが見られるぜ!」
ガーゴイルさんは突如スピーカーを持ち出し、闘技場全体にそんな言葉を届けた。そしてそれを聞いたお客さんはおおー、と盛り上がりを見せる。
「二人の詳しいことは、これから戦う姿を見てもらえば分かるよな? ごちゃごちゃ前振りをすると、俺が会場の皆から袋にされちまうからな!」
このガーゴイルさんの言葉に反応して、あちこちから「その通りだー」とかいう声や笑い声が聞こえてくる。
「さあて、お二人さん。そろそろ準備はいいかい? 始めるぜ~?」
ガーゴイルさんの確認に頷いた自分は、弓を左手に持ち、戦闘態勢を取る。ワーウルフさんもゆっくりと構えを取る。
見た限り、向こうは武器を持たない純粋な格闘家という感じだな。もしかしたら実は飛び道具も使いこなす可能性だってあるのかもしれないが、基本的には距離を取って弓で射撃するのが一番無難な戦術だろう。
「では、無制限一本勝負、始め!」
戦いの開始を告げるガーゴイルさんの大声を聞いた直後、一直線に自分に向かい、距離を詰めてくるワーウルフさん。なので自分もワーウルフさんに向かって数歩走って……《大跳躍》を発動して前方に大きくジャンプ。これで突っ込んできた相手の頭上を飛び越えた。
が、弓も蹴りもスネークソードも角度的に有効とは思えなかったので、久々に〈風魔法〉の《ウィンドニードル》を使ってワーウルフさんの後頭部にぶつける。これは初歩魔法の上に自分は魔法専門じゃないので大したダメージにはならないが、まずは軽いジャブをお見舞いしてみたといったところか。
「ちっ、やっぱりそう簡単にいきゃしないか」
ワーウルフさんがそう呟く。独り言のような小声ではあったのだが、聞こえてしまったものはしょうがない。
着地した自分とこちらに向き直ったワーウルフさんは、また睨み合いの状態に入った。
が、こうしていても始まらないので、今度はこちらから攻めてみることにする。矢を番え、八割ほどの力で弓を引いて、アーツを使っていない普通の一矢をワーウルフさん目がけて放つ。この矢を、ワーウルフさんは半身だけずらしてあっさりと回避。なるほど、何の工夫もない正面からの攻撃はまず当たらない、か。
無事矢を回避したワーウルフさんは、再びこちらとの距離を詰めてくる。が、先程とは違ってやや遅い。おそらくすぐに停止できる速度で迫ってきているのだろう。
そうなると、先程と同じように頭上を飛び越えても、自分の着地の瞬間を狙い撃ちにされるだろう。それは御免こうむる……氷で出来た拳でぶん殴られたら、ドラゴンスケイルメイルを着ていてもそれなりに痛そうだからなぁ。
なので自分は、再び矢を番えながら左斜め前にステップする。
「あぶねっ」
ワーウルフさんはそんな自分の行動に素早く対応し、すれ違う瞬間に右手の裏拳を自分の頭部目がけて振るってきた。チッ、とこすられた音が耳に入ってきたので、本当にギリギリで回避したことになるんだろう。だがまあ何とか回避したことに変わりはないので、自分はできるだけ早くワーウルフさんのほうを向いて矢を放った。
しかしこの矢もワーウルフさんの左手で弾き飛ばされた。まあ、今のは弦の引きが甘かったし仕方がないか……が、ワーウルフさんのほうも何とか弾けたという様子で、そこからこちらに向かって前進を再開してくることはなかった。
その間に再び自分が距離を取ったことで、戦闘開始時と同じぐらいの間合いになる。
「ここまで来た実力は、確かにあるってことか……が、お互いにそろそろもっと力を出していこうぜ? まさかさっきの攻撃で全力ってわけじゃないんだろ?」
ワーウルフさんからそんなことを言われてしまった。お互いの動きを探り合う「準備運動タイム」はもう終わりにしようぜってことなんだろう。
「こっちは結構いっぱいいっぱいなところがあるんだが……」
ここで「参りました!」と言えば、ルール的には勝負は終わりなんだろうけど、盛り下がるよな。よし、そろそろこっちもギアを上げるか。程よく心の一部が熱くなってきたところだし。
「いっぱいいっぱいなところがあるのはこっちも変わらないぜ? でもそれは、別の部分では余裕があるってことだろうが。このままじゃ見てる人達も退屈しちまうからな、そっちからが嫌ならこっちが仕掛けるぜ!」
言うが早いか、ワーウルフさんの体からうっすらと黄色いもや……いうなればオーラとかそんなものが漂い始めた――来る、な。
「うおおおっ!!」
叫び声を上げて突っ込んでくるワーウルフさん。こちらも今回はそれを避けずに突っ込む。ただし、《スライディングチャージ》で彼の足元に。
とっさに跳躍して回避したワーウルフさんだが、跳躍したということは当然着地をしなければならず、着地をするときはどうしても硬直して隙が出来る。
その隙を逃す理由はどこにもないな、何せ「お互いにそろそろもっと力を出していこうぜ?」と言われちゃったんだから。
「それじゃかっ飛べ、《ハイパワーフルシュート》!」
久々に使う蹴り技アーツによって宙に蹴り上げられたワーウルフさんを、自分は《大跳躍》と《フライ》のコンボで追いかける。このコンボを発動するのもまた久々な気がするな……まあそれは置いといて、大体同じ高度になったタイミングで攻撃に入る。
ガンガンガンっと蹴りを何回か入れてから、地面に叩きつける角度で《エコーラッシュ》を放って〆。空中ということもあってワーウルフさんは踏ん張れないし回避行動もとれないので、自分の攻撃は全て命中した。
だが、舞台に墜落したワーウルフさんはその後すかさず立ち上がって自分を待ち受けた。ありゃ、あまりダメージになっていないのか? それとも受身をしっかりとってダメージを軽減したのか?
が、まだ《フライ》の有効時間は残っている。
自分は弓に矢を番えて、《スコールアロー》を発動。放った矢自体は回避されたが、その後に来る雨のように降り注ぐ風の矢はさすがに回避しきれず、ワーウルフさんは防御態勢を取る。その隙に自分は無事着地した。
「蹴りに弓。この様子だと腰に差している剣も飾りじゃねえな? 初陣になんて厄介な相手を持ってきたんだよ!」
ワーウルフさんはそんなことを言ってくるけど、その声は嬉しそうだったりする。ああ、バトルジャンキーの素質があるんだな、このワーウルフさんにも。まあそうでなきゃ、こんな舞台に立とうとはしないよな。見るので十分な人なら観戦席から眺めていればいいんだから。
まあフィクションとかだと、人質を取られたからだとか奴隷として戦うことを強要されてるとかの設定もあるけど、ここではそういったこともないだろう。
と、とりとめのないことを考えていたら、ワーウルフさんの纏っているオーラの質が変わったような気がする。
「じゃあこっちも行くぜ!」
そう言ったワーウルフさんだが、その場から動かない――と思ったら、彼の姿が僅かに揺らめいている。
(しまった、あれは幻影かっ! 本体うア!?)
気が付いた時にはすでに遅く、自分はゴズッという音と共に頭部に衝撃を受けてブッ飛ばされていた。やられたと理解できたのは、ゴロゴロと舞台の上を転がっている時である。
(今のは……《トライアングルシュート》か!? 幻影を残して不意打ちの蹴り……自分も使ってきた技だが、こうやって味わってみると厄介すぎ……ってうおっ!?)
転がる勢いを利用して何とか立ち上がったまではよかったが、その瞬間自分の目に入ってきたものは、ワーウルフさんの氷の足だった。慌てて両腕についている盾を構えて防御する。
当然アーツを使う余裕はなかったので、盾自体の防御力だけが頼みだ。それで何とかダメージを抑えることには成功したのだが、衝撃は殺しきれずに自分の体勢が大きく崩される。そこで間髪容れずにワーウルフさんの拳が顔面に迫ってきた。
「うほあああっ!?」
訳の分からない奇声を上げながらも、自分は何とか首をグリンと捻ってその拳をいなし、直撃を回避した。それでも完全にはダメージを殺せていないので、更に体勢が崩れる。
こんな好機をワーウルフさんが逃がすはずがない、と今までの経験がほとんど本能のように働いて、腰に下げている【惑】に手を伸ばさせた。そして――
「《惑わしの演舞》!」
【惑】固有のカウンター技を発動させる。間に合うか!?
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「ぐうううおおおお!?」
と、今度はワーウルフさんの奇声が周囲に響き渡る。ぎりぎりで発動が間に合って、《惑わしの演舞》をもろに食らったようだ。複数の刃によって反撃を食らい、アーツの最後に起こる爆発で更にダメージを積み重ねられたワーウルフさんがふっ飛んでいく。そのまま背中から落下して転がっていき、舞台の端っこでようやく止まった。
「ダウン! カウントを始めるぜ!」
ここで、審判役のガーゴイルさんが大きな声でダウンの判定を下す。ワン、ツーとカウントが始まった。
(――そうだ、ここは闘技場だった。完全に忘れていたな……ほとんど反射的に《惑わしの演舞》を発動してしまったが……)
と、ここで今の自分がぜえぜえと息を荒くしていることに気が付いた。まあいい、ワーウルフさんが立ち上がるまで呼吸を整えることに努めよう。どうせこれぐらいじゃ完全には倒れてくれないんだろうし。
「セブーン、エーイト……お、立ってきたな? どうだ、やれるのか?」
ワーウルフさんはカウントエイトで立ち上がってきた。ガーゴイルさんがいくつか確認の質問を飛ばしている様子だが、自分は続行だろうなと思っていた。ワーウルフさんの足元がふらついていないのが見えていたからである。
肉体的なダメージがたまっていると、足に来るものだからな。これはモンスターさん達にもある程度は通用する事柄だろう。
「おし、じゃあ両者再び構えて……ゴー!」
やはり再開か。って、ワーウルフさんの目が燃えてるな……今度はこちらの番だとばかりに。体は氷でも心は炎とでも言いたいのかね!? これはますます気を引き締めていかないと、あっという間に負けるな。
完全にさっきのダウンがきっかけで、ワーウルフさんの何かが大きく変わってしまった。詰め寄ってくるスピードが更に速くなった上に、鋭いパンチを乱打してくる。そのため、展開はこちらの防戦一方になってきた。
(避けきれないっ、一発一発にそこそこ威力があるってのに、この手数! しかも時々フェイントまで混ぜてくるから余計にタチが悪い! 大ぶりの攻撃がないからカウンターも取りにくい……よほど《惑わしの演舞》がこたえたと見える)
盾によるガードと今までの冒険で得てきた経験で回避に努めるが、それでもピシピシとワーウルフさんのパンチが細かく自分の体を捉える。
このままでは、今度はこっちが手も足も出せずに体力が尽きてダウンさせられてしまう。蹴りによる反撃を試みようとはしているが、タイミングが掴めずにいる。こんな至近距離では弓はもちろん、剣もあまり役に立たない……
(こんな攻撃をリアルでやったらあっという間にスタミナが切れるだろうに、苦しそうどころか楽しそうな表情を浮かべてるな。スタミナ切れを待つという戦法は使えない。アイテムも、防御で両手がふさがっている以上取り出す暇がない。やはりタイミングを掴んで蹴り技で反撃するか、《ウィンドブースター》で距離を取るしかないか)
このままではやられるのを待つだけだ。それは分かっているのだが、なかなか「今だ!」という瞬間がやってこない。このまま鳥かごの中に入れられたように窮屈に押しつぶされるしかないのか……? そう思っていたのだが、焦れていたのは自分だけではなかったらしい。
「なんてしぶといんだ! しかもまだ諦めてねえな? これだけ俺のパンチをぶち込んでるってのにまだ心が折れねえのか!?」
自分にパンチをぶち込み続けていたワーウルフさんの表情が遂に変わった。楽しそうな顔は、最初のほうはともかく、途中からは演技だったのかもしれない。
こうしてはっきりと感情が表に出てきたこの瞬間が、自分にとってのチャンスだった。口から言葉が漏れたと共に緩んだパンチの合間を縫って、ようやくまともな反撃となる右ミドルキックを叩き込めたのだから。
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