上 下
254 / 358
File:03

ネーム持ちの矜持 その二

しおりを挟む
 襲撃!

 「全員、姿勢を低くしてランタンの明かりを消せ!」

 ヨシュアン、ジョーンズはしゃがみながらランタンの明かりを消すが……。

「ミリアン! カリアン! 大丈夫か!」

 ルシアンがランタンの光を消さずにまっすぐミリアンとカリアンの元へ向かう。

「馬鹿!」

 私はルシアンを押し倒すようにタックルをかます。
 その瞬間。

「痛ぁ!」

 ルシアンの背中に切り傷がうまれる。だが、傷は浅い。

「うぅ……」
「げほぉ!」

 ミリアンとカリアンは戦闘不能。至急治療が必要。
 ルシアンは軽傷。戦闘は続行可。
 傷の広さは数ミリ、深さは数センチ。鋭い刃物で刃渡り十センチほど。
 ナイフ? ダガー?
 そんな感じ。
 ただ……。

「姿が見えない?」

 獲物は至近距離系。なのに、敵の姿が見えなかった。

「くそ! 大丈夫か、ルシアン!」
「俺はなんともない! それよりも、ミリアンとカリアンが! 助けに行かないと!」
「馬鹿野郎! 立つな! 二人とも狙われるぞ! あの二人が追い打ちされていないのは俺達を誘うためだ! もっと冷静になれ!」

 それならば飛び道具?
 けれども……。

「敵はどこから狙ってきているんだ? この暗闇でどこから狙ってきてやがる」
「何落ち着いているんだ、ジョーンズ! それよりも二人を助けないと!」
「落ち着け、ルシアン! ジョーンズの言うとおり、まずは敵の位置を見つけないと、助けにいけねえだろうが! 敵はきっと狙撃……でいいのか? とにかく遠距離攻撃だ!」

 ヨシュアンの言うとおり……なの?
 ミリアンとカリアンがほぼ同時に同じ傷を負った。
 ただ、ミリアンとカリアンとの距離は離れていて、そこを同時に狙われたとなると……。

「待て! 敵は少なくても二人はいる! ミリアンとカリアンが同時にやられたんだ! そうに違いない!」

 ジョーンズの分析は正しい。二人同時の狙撃なら説明がつく。
 説明がつくけれど……何か違和感を覚える。
 なぜ?

「なあ……日本には、月が綺麗ですね、って言葉があるだろ? 日本人ってヤツはあれをどういう思考回路でプロポーズって言葉に変換できるんだ? フツウに月が綺麗だって異性の前では言えないのか? 面倒な人種だな、日本人って」
「……だ、誰だ!」

 驚いた……敵が目の前に現れた。姿を見せた。
 ローブを着ているが、フードは外している。
 身長は百八十。背面の筋肉の発達、顔つきから欧米人男性。ロングスピア以外に武器は見当たらない。
 雰囲気で分かる。
 同業者。
 そして……。

「よう、昼間はどうも」
「襲撃者」

 そう、私がライザーを矢で射貫こうとしたとき、襲ってきた四人組。
 つまり、ここには四人以上の敵がいるってことになる。

「安心しな。俺一人だ。さて、始めるか。俺はシンプルなのが好みだ。命のやりとりに駆け引きとか面倒なもの、いらないだろ?」

 私は姿勢をゆっくりと整え、立ち上げる。
 ヤツの言葉通りに受け取らない。一人で来るなどありえない。
 わざと脳筋みたいなことを言って、私達を立ち上がらせ、そこをまた別の刺客が飛び道具でこちらを狙ってくる可能性がある。
 目の前の男が先ほどの狙撃した相手と同一人物は限らないのだから。
 今のところ、目の前にいる男の気配しかない。

「あ、姐さん! 危険だ!」

 ジョーンズが立ち上がろうとするけど、それを手で制する。

「……みんなはここにいて。私一人で処理する」
「ひ、一人って……姐さん!」

 私は敵はお互い別の建物に飛び移り、真正面から対峙する。
 床の広さは正方形で十メートルほど。足場としては悪くない。それに一つだけ、私の有利な天を見つけた。
 お互い、構えようとして……。

「ま、待て! お前は誰なんだ! なぜ、ミリアンとカリアンを傷つけた! これ以上、仲間を傷つけるつもりなら、正義の鉄槌が下るぞ!」

 ルシアンが無警戒に立ち上がり、怒鳴ってきた。

「……」
「……」
「おい!」
「「うるさい」」

 遺憾だが、敵と心が通じ合ったことにより、言葉が重なってしまった。
 敵も私もバツが悪い顔をしている。
 ルシアン、後でお仕置き。

「助かるよ。これから殺り合おうっていうのにわざわざ自己紹介するなんてマヌケだよな? ああっ、日本は我こそはとか、どこぞの何某って名乗るお国柄だっけ?」
「……」

 私は即男との距離を詰め、ダガーを振るおうとしたが……。

「ちっ!」

 私は慌ててバックステップする。
 闇の中で風が通り過ぎたと思ったら、アーマーの肩の部分が浅く切り傷が発生した。

「なかなかお利口さんだな。流石はネーム持ちのパイシースさんだ。殺りがいがある」
「……」

 このとき、私は顔にでなかったことを自画自賛したい。
 私の素性がバレている? 信じられない。
 私は呼吸を整え、状況を再確認する。
 敵は二人以上。目の前の男と狙撃の相手。
 狙撃に何が使われているのかは不明。ただ、矢や銃ではない。その痕跡が全く見当たらないから。

 私はランタンをつける。
 闇の中に小さな明かりが浮かび上がり、自分が立っている場所と前方にいる敵がより把握しやすくなる。

「いくぜぇ!」

 敵はロングスピアを前に突き出し、矛先が私の心臓に飛び込んでくる。
 タイミングを合わせ、攻撃をくぐりぬけようとするが。

「甘いぜ!」

 瞬時に二段突きに切り替え、後退せざるをえなくなる。速いし鋭い。それにリーチが長すぎる。
 敵の追撃が更に続く。
 闇の中でかすかな光を頼りに矛先から逃れるのは難しい。
 だから、敵の心理を読み、攻撃を予測しながら距離を詰めることを考える。

「あ、姐さん!」
「いくな、ルシアン! 俺達では足手まといだ!」
「でも!」
「今がチャンスなんだ! ミリアンとカリアンを助けるぞ!」

 ルシアン達はミリアンとカリアンの救助に入る。私はただひたすら敵の攻撃を回避することに集中する。
 ジョーンズの言うとおり、これはチャンス。

 もし、ルシアン達に狙撃者が遠距離攻撃を仕掛ければ、私は一人を相手にすればいいので、攻撃のチャンスがうまれる。
 更に、ルシアン達と私が同時に遠距離攻撃を受ければ、相手は三人以上であると情報を更新できる。
 狙撃者が一人で私を狙えば、ルシアン達はミリアン達を救出しやすくなる。
 ピンチでもあるが、体勢を立て直すチャンスでもある。

「パイシース、てめえはすげえな! ランタンを壊さないよう必要最低限の動きをしながら俺達を牽制しているんだからな! そろそろ、ネタは分かったか?」
「……」

 ネタとは何で遠距離攻撃を仕掛けているか。その点。
 私はある程度予測はついている。だから、ランタンをつけた。

「ごほぉ! ごほぉ! こ、コシアンさんは……ごほぉ!」
「カリアン! 大丈夫か! 無理してしゃべらなくてもいい!」
「こ、コシアンさんに……ごほごほ! 伝えてくれ……僕達は……ごほごほ! チャクラムで攻撃された可能性が高いって……」
「ちゃ、チャクラム。なんだそれは」
「投擲武器の一つだよ……輪のような武器で……多分大きさから三十センチくらいだと思う……地面やどこにも跡がないのはそのせい……ごほごほ! だよ……ブーメランはどっちかというと打撃……ごほごほごほ! っぽいし、切れた跡があわないし……」
「あ、姐さん! カリアンがチャクラムで仕掛けてきているって言ってます!」

 カシアン先生、なかなか鋭い。私もそう思う。
 けど、一つ問題がある。獲物が目に見えないこと。
 確かに暗闇のなかで跳んでくる武器の形を確認するのは難しいが、不可能ではない。
 しかし、来ると分かっていて神経を集中させ観察したが、武器の形状が全く見えなかった。
 その解はある程度予測はついている。

 目の前の敵……とりあえず、Aと呼ぶが、Aがロングスピアで今度は私の足を狙ってくる。筋肉を貫き、えぐらんと矛先が襲いかかるが、これも左右に動くことで回避。
 Aの攻撃スピードは徐々に上がり、素早い判断が必要となり余裕がなくなりそうになったとき、Aは仕掛けてきた。
 Aの猛攻が止まり、首を横に傾ける。
 私は前方めがけてダガーを振り下ろす。

 キン!

「「「な、なんだ!」」」

 ルシアンとジョーンズ、ヨシュアンは驚きの声を上げている。私がようやく、チャクラムの攻撃をとめて見せたから。

「なあ、ジョーンズ……何か見えたか?」
「いや……姐さんがダガーを振り下ろしたら甲高い金属音と火花が見えただけだ」
「ど、どうなってるんだ?」

 予測は的中した。謎の半分は解けた。

「へえ、つくづく感心するわ。攻撃を下に集中させて、上への警戒をゆるめたつもりなんだけどな。鉛筆をふると曲がって見えたときくらいに感動したわ。よく分かったな」
「当然」

 答えは透明のチャクラムで攻撃してきた。
 ガラス製のチャクラムくらいしか思いつかないが、たいしたものだとこちらが感心させられる。
 透明故、目に見えにくい。私はランタンの光の反射でようやく確信した。ほんの一瞬だろうと私は見逃さない。
 それがネーム持ち。

 私はダガーをAの顔面めがけて投げ飛ばすと同時に走り出す。Aは回避しつつ、ロングスピアを突き出す。
 首だけを横にした瞬間、顔面スレスレで矛先が通り過ぎた。私はAの懐にたどり着き、走ってきた勢いを殺さず鳩尾に肘鉄を叩きつける。

「がはぁ!」

 裏拳を鼻っ柱にたたき込み、掌底で顎を突き上げる。腰に差していたダガーを取り出し、喉元に喰らいつかんと……。

「!」

 甘い!
 絶対にこのタイミングでチャクラムを投げてくると予測していた。予測できる攻撃など、怖くない。
 私は首元に狙いをつけたチャクラムを鳩尾から上を後方に動かすことで回避……。

「!」

 痛ぁ!
 左足側面付け根からふとももまで切られた! 馬鹿な!
 私は体勢を崩し、追撃を諦めざるを得なかった。
 それどころか、狙撃者の攻撃が続き、今度は大きくステップして回避することにする。

「これで終わりだ!」
「!」

 な、なに?
 私の体が急激に前に吸い込まれる。その先にAがロングスピアを構え……突き出した。

「「姐さん!」」

 私は体をプロペラのように回し、矛先を回避しながら男の後ろ首に肘を叩きつける。

「がはぁ!」

 私は前方に転がり、体勢を低くして追撃にそなえていた。
 ハッキリ言おう。混乱している。

 チャクラムは私から見て首元左から右へ飛んできた。それなのに、私は足を攻撃された。しかも、上から下に。
 チャクラムは二個あった?
 それだとしても、説明がつかない。なぜなら、上から下に落ちていったのなら、地面に突き刺さっているはず。
 それなのに地面は綺麗なままで刃の傷は全く見当たらない。

 その一点だけでも驚愕の事実なのに、その後、私は掃除機に吸い込まれた埃のように前方に吸い込まれた。
 咄嗟の動きでなんとか回避したが、これらはもうマジック。
 勿論タネはあるが、どんなタネを使えば屋外でチャクラムの軌道を変え、人間一人を吸い込むような吸引力を発揮できるの?

「ねえ、コシアンのヤツ、ピンチじゃない? チャクラムだっけ? 回避出来てないじゃない! 私達が参戦した方が……」
「カリアンもミリアンも自分の身を守ることを考えろ。出血が止まったとはいえ、もう傷を回復させるヒーリングストーンは手元にないし、SPだって半分はもっていかれただろうが。それより、姐さんは今までチャクラムの攻撃をまともに受けることはなかったのに、さっきはなぜ……いや、その後に姐さんは無防備に敵に近づいた……いや、近づかされた? そんなこと……」

 ジョーンズはぶつぶつと独り言を重ね、状況を分析し……。

「分かった! 潜在能力だ! 姐さん! チャクラム使いは投げたチャクラム……いや、武器全部かもしれませんけど、軌道を好きなように変えられます! 目の前にいる男は相手を引き寄せることが可能です! あれは絶対に潜在能力です!」

 潜在能力? ああっ……ナルね……。
 私がライザーを狙撃しようとしたとき、四人の刺客に襲われ、ルシアンの潜在能力で危機を脱出した。
 私らしくない。こんな大事なことを見落とすなんて……。
 ここはゲームの世界。それくらいはありってわけね。
 だとしたら、敵は二人である可能性が高い。
 私が足を怪我したとき、最大のチャンスだったのに、攻撃してきたのはAだけだった。
 しかも、Aは奥の手を使ってきたって事はもう援護がないので自分の手で片をつけようとしたと考えられる。

「せ、潜在能力だと! ヤバいじゃねえか! こうなったら、差し違えても戦わないと! このままだと全滅だ!」
「そうだ! 姐さんだけに戦わせたら駄目だ! もう足手まといだろうがなんだろうが、仲間のために今度は俺達が戦うんだ!」
「馬鹿野郎! 策もなしで戦うのは自殺行為だ! 敵は用意周到に俺達を狙ってきた。無策で飛び込むのは全滅するだけだ!」
「けど、敵は強いんじゃない? どうするの? 逃げるって手もありじゃない?」

 ヨシュアン、ルシアンは私を助けようとするが、ジョーンズに止められ、ミリアンは逃げ腰になっている。
 確かに状況は最悪に見える。ただし、見方を変えればチャンスでもある。
 そう、私の中ではもう勝利の方程式は成立済み。
 Aを脱落させ、軌道自在なチャクラムを無効化させる方法があるから。

「いてててて……まさか、あの攻撃を躱すとか、お前はエスパーか?」
「……エスパーじゃないし、戦いはもう終わる」
「終わるだと?」

 私は堂々と宣言する。

「そう……パイシースの力、お前の命と引き換えに披露してあげる。ネーム持ちに敗北の二文字はない」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【画像あり】転生双子の異世界生活

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:725pt お気に入り:8

Select Life Online~最後にゲームをはじめた出遅れ組

SF / 連載中 24h.ポイント:127pt お気に入り:1,685

仲良しな天然双子は、王族に転生しても仲良しで最強です♪

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:302

異世界で趣味(ハンドメイド)のお店を開きます!

ree
ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:92pt お気に入り:840

叶わない恋ならば……あなたを忘れよう

BL / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:11

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,002pt お気に入り:33

許してもらえるだなんて本気で思っているのですか?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:13,248pt お気に入り:3,751

処理中です...