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第一部 ハーレム男の栄光と落日
プロローグ 藤堂正道の日常
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「お前が藤堂正道だな」
校舎裏を歩いていると、険のある声が後ろから聞こえてきた。
俺は一息つき、ゆっくりと声をかけてきた男へ振り向く。そこには不良が五人、バットや木刀等の凶器を持って、俺を睨んできた。
放課後の人通りの少ない校舎裏で呼び止めるとは、ろくな用件じゃないな。
「そうだが、お前達は?」
「てめえのチクリのせいで停学食らったモンだよ!」
不良の言葉に眉をひそめる。
目を閉じ、最近停学になった者がいたか、記憶をたどる。
「ああ、思い出した。恐喝、器物破損、窃盗をした生徒だったな」
「違います~。垂直とびをさせて遊んでいただけです~」
「窓に触れたら割れただけです~」
「盗んだバイクで走ってただけです~」
何が面白いのかケラケラと笑い出す不良達。人数が多いからか、余裕がみられる。
垂直とびと揶揄したのは、かつあげでポケットに小銭を隠していないか確認するためにかつあげ相手をジャンプさせる。そのとき、小銭の音がしないか確認するためのものだろう。
九月に入っても暑さが続く中、更に暑苦しい連中が頼みもしないのに来るのはどういうことなのか、うんざりしてくる。
戦闘態勢に入る為に一度目を閉じ、ゆっくりと不良を睨みつける。鋭い視線を不良達に向けた途端、不良達の笑いが引いていくのが分かる。
「お前達のやったことは犯罪だ。それを学校に伝え、先生方がお前達に相応の罰を与えた。それが社会のルールだ。自分達の行動を少しは反省したらどうだ?」
「うるせえ! いい子ちゃんぶりやがって、このチクリが! いちいち社会のルールなんて従ってられっか!」
「レールに乗った人生なんてまっぴらなんですけど~」
「この青島で真面目君なんて、格好悪いことできっかよ!」
不良の言い分には何の説得力もない。ただのわがままだ。そんなことで俺は呼び止められたのか。
自然とため息が出る。
「真面目の何が悪い? ルールを破って好き勝手するのはただのわがままだ。お前達の迷惑行為を、真面目にルールを守っている人に押し付けるな。迷惑だ」
「ルールなんて守ってるヤツいるのかよ! お前、今まで一度もルールを破ったことがないのか?」
「破ったことはある」
堂々と言い放つと、ほらみたことか、と鬼の首を取ったかのような態度で非難してきた。
「あるんだろうが! だったら偉そうに言うなや!」
「俺がルールを破ったからといって、お前達がルールを破っていいことにはならない。勘違いするな。お前らのやったことは犯罪だ。見過ごせるわけないだろ」
不良は真っ赤な顔になって、俺を糾弾してくる。
「うるせんだよ! てめえみたいな偽善者が、俺は一番気にいらねえんだよ! てめえ、今の立場が分かってんのか?」
正しいこととルールを守ることが、どうして同一になるのだろう。彼らのいい加減な考えに眉をひそめたが、口にはしなかった。
殺気だった五人の不良が距離を詰めてくる。
「てめえ、死んだぞ……今、死刑って決まった! 今度は俺がてめえを裁いてやるよ!」
不良達は薄笑いを浮かべながら、手にしたバットを振り上げ、襲い掛かってきた。
不良が攻撃してくるよりも早く、前に出て腕を掴み、後方に押す。バランスが崩れたところを足払いをして、相手が倒れたと同時に拳を振り下ろす。
「あぺっ!」
まずは一人。
出鼻をくじかれたことで、粋がるだけの残りの不良の足が止まることは経験則で身に染みている。
複数相手の喧嘩は、焦らず、隙を見逃さず、一人ひとり、囲まれないように注意すればいい。それと敵の勢いを殺すことも大切だ。俺に喧嘩を売っても勝てないことを体で理解させてやればいい。
それには……。
「うぉおおおおおおおおお!」
「ちょ、ちょっと、うぁああああああああああああああ!」
俺は近くにいた不良を逆さまに抱え上げる。不良がじたばたとあがくが、そのまま力尽くで取り押さえ、周りの不良に見せつけるように高く抱えた。不良の視線が集まったことを確認してから、相手を一気に背面から叩き落とす。
「ぶるはっ!」
ブレーンバスターを見せつけられ、不良は浮足立っている。大技を決めた後は大抵、こうなる。こういった力技は、相手をビビらすには有効な手段だ。後は不良が立ち直る前に、焦らず迅速に処理するまで。
三人目の放心した不良の襟首を乱暴に掴む。不良の反応を確認する為だ。
不良は体を縮め、体を丸くしている。怯えている証拠だ。硬直した足をひっかけ、不良のバランスを崩す。
縮まった体を引っ張るのは足が踏ん張っている為に力がいるが、バランスを崩せば、千鳥足のように足に力がかからない。だから、簡単に不良を壁に叩きつけることができる。しかも、勢いをつけてだ。
「ぽるほっ!」
強い勢いで壁に叩きつけられた不良はそのまま地面に倒れる。無防備の不良の腹を思いっきり踏みつけ、無効化させる。
これで三人。
不良はまだ浮足立っている。なら、このチャンスを活かすべき。地面に落ちていたバットをゆっくりと拾い、四人目の不良に向かってダッシュする。
助走をつけたフルスイングを、不良の腹に叩き込む。
「ほげっ!」
あまりの痛みに不良が九の字になったところに、
「おらっ!」
体重をのせたヤクザキックを不良のみぞおちに叩き込む。不良は腹をおさえ、涎を垂らし、必死に吐き気をこらえている。喧嘩どころではないだろう。
これで四人。
最後の一人になった不良を睨みつけると、不良は足を震わせながらも俺を罵倒してきた。
「な、なんでだよ! なんで俺達ばかりがこんな目にあうんだよ! おかしいだろ! 理不尽だ!」
……ざけるな。
俺は不良の勝手な言い分に拳を握って、相手を睨みつける。
「おかしい? 理不尽? お前がかつあげした人達、バイクを盗まれた人達に同じことが言えるのか? ふざけるな! 真面目に生きてる人が、お前達の勝手な行動で迷惑にあうほうが理不尽だ。そんなこと、絶対に納得できない」
そうだ、どうして理不尽な目にあわなければならない。力が弱いからか? そんな理由で傷つけられるなんて、許せるはずもない。
「さっき、お前は俺のことを裁くと言ったが、俺もおまえたちも誰も人を裁く権利はない。人が人を裁くなんて傲慢だ。だから、ルールが、人以外のものが人を裁けるんだ」
「ルール、ルールって、ルールがそこまで偉いのかよ! 万能なのかよ!」
「万能じゃない。ルールが間違っていることだってある。だが、今回のケースは……」
大きく息を吸い、拳を握り、力強い口調で不良に告げる。
「お前達が悪い。そして、これは正当防衛だ。恨むなら暴力沙汰をおこした自分の行為を反省しろ」
足を大きく踏み出し、手加減なしのボディーブローを深々と不良の腹にたたき込む。不良が九の字になって、地面を転げ回り、悶絶している。
少しは理不尽さを思い知れ。
「藤堂、今のは喧嘩両成敗だぞ?」
倒れている不良を避けながら、一人の生徒が近づいてくる。相手が同じ風紀委員であることを確認し、警戒を解いた。
「過剰防衛をした覚えはないが」
「身長百九十もある藤堂の体格で殴られたら、ヘビー級のボクサーに殴られるのと同じってこと、理解してるか?」
同僚の指摘に思わずしかめっ面になる。それならば、喧嘩を売らなければいいだけのことだ。
「加減はしている。それより、何かあったのか?」
真顔で嘘をつくと、同僚に呆れたような顔で笑われた。
「橘さんが呼んでるから行ってくれ」
「何かあったのか?」
「さあな、何かあったんだろ。何もなければ呼び出さない人だ」
橘左近。
俺と同じ二年生で、風紀委員長を務める男だ。あいつの呼びだしは、大抵いい知らせではない。そのことは風紀委員の共通の認識だ。
伝言を伝えにきた同僚が苦笑しているのを見て、つられて苦笑いを浮かべる。
「わかった。ここは任せてもいいか?」
「任せとけ。頑張ってこいよ」
同僚にこの場を任せて、俺は風紀委員室へ向かうことにした。
校舎裏を歩いていると、険のある声が後ろから聞こえてきた。
俺は一息つき、ゆっくりと声をかけてきた男へ振り向く。そこには不良が五人、バットや木刀等の凶器を持って、俺を睨んできた。
放課後の人通りの少ない校舎裏で呼び止めるとは、ろくな用件じゃないな。
「そうだが、お前達は?」
「てめえのチクリのせいで停学食らったモンだよ!」
不良の言葉に眉をひそめる。
目を閉じ、最近停学になった者がいたか、記憶をたどる。
「ああ、思い出した。恐喝、器物破損、窃盗をした生徒だったな」
「違います~。垂直とびをさせて遊んでいただけです~」
「窓に触れたら割れただけです~」
「盗んだバイクで走ってただけです~」
何が面白いのかケラケラと笑い出す不良達。人数が多いからか、余裕がみられる。
垂直とびと揶揄したのは、かつあげでポケットに小銭を隠していないか確認するためにかつあげ相手をジャンプさせる。そのとき、小銭の音がしないか確認するためのものだろう。
九月に入っても暑さが続く中、更に暑苦しい連中が頼みもしないのに来るのはどういうことなのか、うんざりしてくる。
戦闘態勢に入る為に一度目を閉じ、ゆっくりと不良を睨みつける。鋭い視線を不良達に向けた途端、不良達の笑いが引いていくのが分かる。
「お前達のやったことは犯罪だ。それを学校に伝え、先生方がお前達に相応の罰を与えた。それが社会のルールだ。自分達の行動を少しは反省したらどうだ?」
「うるせえ! いい子ちゃんぶりやがって、このチクリが! いちいち社会のルールなんて従ってられっか!」
「レールに乗った人生なんてまっぴらなんですけど~」
「この青島で真面目君なんて、格好悪いことできっかよ!」
不良の言い分には何の説得力もない。ただのわがままだ。そんなことで俺は呼び止められたのか。
自然とため息が出る。
「真面目の何が悪い? ルールを破って好き勝手するのはただのわがままだ。お前達の迷惑行為を、真面目にルールを守っている人に押し付けるな。迷惑だ」
「ルールなんて守ってるヤツいるのかよ! お前、今まで一度もルールを破ったことがないのか?」
「破ったことはある」
堂々と言い放つと、ほらみたことか、と鬼の首を取ったかのような態度で非難してきた。
「あるんだろうが! だったら偉そうに言うなや!」
「俺がルールを破ったからといって、お前達がルールを破っていいことにはならない。勘違いするな。お前らのやったことは犯罪だ。見過ごせるわけないだろ」
不良は真っ赤な顔になって、俺を糾弾してくる。
「うるせんだよ! てめえみたいな偽善者が、俺は一番気にいらねえんだよ! てめえ、今の立場が分かってんのか?」
正しいこととルールを守ることが、どうして同一になるのだろう。彼らのいい加減な考えに眉をひそめたが、口にはしなかった。
殺気だった五人の不良が距離を詰めてくる。
「てめえ、死んだぞ……今、死刑って決まった! 今度は俺がてめえを裁いてやるよ!」
不良達は薄笑いを浮かべながら、手にしたバットを振り上げ、襲い掛かってきた。
不良が攻撃してくるよりも早く、前に出て腕を掴み、後方に押す。バランスが崩れたところを足払いをして、相手が倒れたと同時に拳を振り下ろす。
「あぺっ!」
まずは一人。
出鼻をくじかれたことで、粋がるだけの残りの不良の足が止まることは経験則で身に染みている。
複数相手の喧嘩は、焦らず、隙を見逃さず、一人ひとり、囲まれないように注意すればいい。それと敵の勢いを殺すことも大切だ。俺に喧嘩を売っても勝てないことを体で理解させてやればいい。
それには……。
「うぉおおおおおおおおお!」
「ちょ、ちょっと、うぁああああああああああああああ!」
俺は近くにいた不良を逆さまに抱え上げる。不良がじたばたとあがくが、そのまま力尽くで取り押さえ、周りの不良に見せつけるように高く抱えた。不良の視線が集まったことを確認してから、相手を一気に背面から叩き落とす。
「ぶるはっ!」
ブレーンバスターを見せつけられ、不良は浮足立っている。大技を決めた後は大抵、こうなる。こういった力技は、相手をビビらすには有効な手段だ。後は不良が立ち直る前に、焦らず迅速に処理するまで。
三人目の放心した不良の襟首を乱暴に掴む。不良の反応を確認する為だ。
不良は体を縮め、体を丸くしている。怯えている証拠だ。硬直した足をひっかけ、不良のバランスを崩す。
縮まった体を引っ張るのは足が踏ん張っている為に力がいるが、バランスを崩せば、千鳥足のように足に力がかからない。だから、簡単に不良を壁に叩きつけることができる。しかも、勢いをつけてだ。
「ぽるほっ!」
強い勢いで壁に叩きつけられた不良はそのまま地面に倒れる。無防備の不良の腹を思いっきり踏みつけ、無効化させる。
これで三人。
不良はまだ浮足立っている。なら、このチャンスを活かすべき。地面に落ちていたバットをゆっくりと拾い、四人目の不良に向かってダッシュする。
助走をつけたフルスイングを、不良の腹に叩き込む。
「ほげっ!」
あまりの痛みに不良が九の字になったところに、
「おらっ!」
体重をのせたヤクザキックを不良のみぞおちに叩き込む。不良は腹をおさえ、涎を垂らし、必死に吐き気をこらえている。喧嘩どころではないだろう。
これで四人。
最後の一人になった不良を睨みつけると、不良は足を震わせながらも俺を罵倒してきた。
「な、なんでだよ! なんで俺達ばかりがこんな目にあうんだよ! おかしいだろ! 理不尽だ!」
……ざけるな。
俺は不良の勝手な言い分に拳を握って、相手を睨みつける。
「おかしい? 理不尽? お前がかつあげした人達、バイクを盗まれた人達に同じことが言えるのか? ふざけるな! 真面目に生きてる人が、お前達の勝手な行動で迷惑にあうほうが理不尽だ。そんなこと、絶対に納得できない」
そうだ、どうして理不尽な目にあわなければならない。力が弱いからか? そんな理由で傷つけられるなんて、許せるはずもない。
「さっき、お前は俺のことを裁くと言ったが、俺もおまえたちも誰も人を裁く権利はない。人が人を裁くなんて傲慢だ。だから、ルールが、人以外のものが人を裁けるんだ」
「ルール、ルールって、ルールがそこまで偉いのかよ! 万能なのかよ!」
「万能じゃない。ルールが間違っていることだってある。だが、今回のケースは……」
大きく息を吸い、拳を握り、力強い口調で不良に告げる。
「お前達が悪い。そして、これは正当防衛だ。恨むなら暴力沙汰をおこした自分の行為を反省しろ」
足を大きく踏み出し、手加減なしのボディーブローを深々と不良の腹にたたき込む。不良が九の字になって、地面を転げ回り、悶絶している。
少しは理不尽さを思い知れ。
「藤堂、今のは喧嘩両成敗だぞ?」
倒れている不良を避けながら、一人の生徒が近づいてくる。相手が同じ風紀委員であることを確認し、警戒を解いた。
「過剰防衛をした覚えはないが」
「身長百九十もある藤堂の体格で殴られたら、ヘビー級のボクサーに殴られるのと同じってこと、理解してるか?」
同僚の指摘に思わずしかめっ面になる。それならば、喧嘩を売らなければいいだけのことだ。
「加減はしている。それより、何かあったのか?」
真顔で嘘をつくと、同僚に呆れたような顔で笑われた。
「橘さんが呼んでるから行ってくれ」
「何かあったのか?」
「さあな、何かあったんだろ。何もなければ呼び出さない人だ」
橘左近。
俺と同じ二年生で、風紀委員長を務める男だ。あいつの呼びだしは、大抵いい知らせではない。そのことは風紀委員の共通の認識だ。
伝言を伝えにきた同僚が苦笑しているのを見て、つられて苦笑いを浮かべる。
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