50 / 521
カーテンコール
近藤武の絶望
しおりを挟む
「失礼しました」
職員室を出た俺は、自然と部室へ足が向かっていた。
放課後なので、生徒の通りは少なく、俺一人しか歩いていない。それが余計に孤独に感じる。部室にたどり着くと、ドアに手をかける。鍵がかかっていて、中に入ることはできなかった。
分かっていた。
部室に戻ったって、誰もいないことくらい。それに、今、部室の鍵を先生に渡したばかりだ。中に入る事すらできない。それでも、最後にここにきたかった。
ヒューズが解散し、目的を失ったアイドル部。部員も俺一人。部の廃部と部室の引き渡しが勧告されるのは時間の問題だった。
俺は結局、部室を守ることができなかった。ヒューズのいないアイドル部にどんな意味があるのだろう。その意味を見いだせず、俺はなすがままに受け入れてしまった。
受け入れたはずなのに……それなのに……なんで、俺はここにきちまうんだ!
俺は手を握り、部室のドアをドンドンっと叩いた。
ドンドン……ドンドン……ドンドンドン……ドンドンドン! ドンドンドンドン! ドンドンドンドンドンドンドンドン!
手をドアに叩きつけたまま、膝が折れ、そのまま膝をつく。
はははっ……乾いた笑いがこぼれた。
この結果は俺のせいだ。俺がもっとうまく立ち回っていたら……みんなの気持ちを考えていれば……。
俺は今はいない同士の事を思い出した。
そう、あれは大佐に指導を受けた日の放課後。
「俺は断固立ち向かう! 風紀委員がなんだ! 裏切者の暴挙は俺達が阻止するべきだ!」
俺は部室の机をバンバンと叩く。
俺達、FLCは今後の方針を話し合っていた。風紀委員に折檻されたが、こんなことで諦めるわけにはいかない!
許さん! 許さんぞ、裏切者!
ヤツのハーレムは断固阻止だ! きっとヒューズのみんなもいつかは目が覚めるはず。それまでは、俺達がヒューズを守らないと!
だが、みんなの反応は芳しくなかった。
「なあ、近藤さん。もういいんじゃないか?」
「何がだ、原田君?」
「もう、止めないかって言ってんだ。これ以上は虚しいだけだろ?」
「な、永倉君?」
いつもならみんなのってくれるのだが、今日は違った。全員が何か思いつめたような顔をしている。
ど、どうしたんだ、みんな?
戸惑っていると、全員が席を立ち、部室を出ていこうとする。
「お、おい! どこにいくんだ! まだ話は終わってないぞ!」
「もう、終わってるよ。近藤さん、いつまでこんなこと続けるつもりなの?」
「……申し訳ないが、もう潮時だろう、近藤さん」
「藤堂君、斎藤君……」
なぜだ? なぜ二人ともそんな悲しい顔をしている? そんな憐れんだ目で俺を見ないでくれ。
「俺達が何をしたってもう現実は変わらない。ヒューズはおしまいだ。男と付き合っていると噂が出て、ランキング外になったんだ。もう、終わりだよ、近藤さん。正直、しんどいんだ」
「ま、待ってくれ! トシ!」
全員が部室から出ていった。
俺一人取り残されてしまった。何が起こったのか理解できなかった。
ただ、俺はもう一人なんだと、その現実だけが突きつけられた。
あの日から、俺は一人になった。仲間とは一言も話していない。つまらない意地を張っていた。そのせいで、大切なものを失ってしまった。
もっと仲間の事をヒューズの事を考えるべきだった。裏切者の忠告にも耳を傾けず、仲間の声も聞かなかった。だから、俺からみんな、離れていったんだ。間違いを間違いだと気づかずに俺はただ、幻想を見ていた。みんなが、ヒューズがいたあの景色をもう一度……もう一度だけでも見れるんだって……勘違いしていたんだ。
失ってはじめて気づくことがある。一番大事なものを失った俺に待っていたものは、孤独だけ。
戻りたい……ヒューズのメンバーがいて、仲間がいたあの頃に帰りたい……。
神様、お願いだ……もう一度……もう一度でいい……チャンスをくれ……。
そう願っても、無駄だって分かってる……それでも、それでも……頼む……頼むよ……。
俺はもう一度、部室のドアを叩く。何も反応はかえってこなかった。一人だと、孤独だと思い知らされる。
くそ、くそ、くそ……。
俺は歯を食いしばり、昇降口へ向かった。もう、どうしたらいいのか分からない……。
昇降口へ向かう途中、残酷な光景が目の前にあった。
ヒューズのメンバーでリーダの雪村さんがいた。雪村さんは友達に囲まれ、楽しそうにしていた。これが現実。
みんなはもう、みんなの生活があることを思い知らされた。スクールアイドルのことなんて、もうなかったかのような空気になっている。それが、俺の心を絶望で満たされていく。
俺は我慢できなくて、雪村さんが悪くないのを知っていながらもつい雪村さんの前に立って、恨み言を漏らしてしまった。
「雪村さん……これでいいんですか? このまま、なかったことにして終わってしまってもいいんですか? ヒューズを……こんなかたちでなくしてしまってもいいんですか?」
なんて情けないのだろう。女の子にすがってしまうなんて。自分の事なのに……誰かに頼むなんて……。
俺は慌てて、作り笑いを浮かべる。
「す、すみません! 変なことを言ってしまって! 忘れてください! し、失礼しました!」
醜い姿を見られたくなくて、俺はすぐさま背中を向けた。
もう忘れよう……終わったんだ、俺の青春は……。
職員室を出た俺は、自然と部室へ足が向かっていた。
放課後なので、生徒の通りは少なく、俺一人しか歩いていない。それが余計に孤独に感じる。部室にたどり着くと、ドアに手をかける。鍵がかかっていて、中に入ることはできなかった。
分かっていた。
部室に戻ったって、誰もいないことくらい。それに、今、部室の鍵を先生に渡したばかりだ。中に入る事すらできない。それでも、最後にここにきたかった。
ヒューズが解散し、目的を失ったアイドル部。部員も俺一人。部の廃部と部室の引き渡しが勧告されるのは時間の問題だった。
俺は結局、部室を守ることができなかった。ヒューズのいないアイドル部にどんな意味があるのだろう。その意味を見いだせず、俺はなすがままに受け入れてしまった。
受け入れたはずなのに……それなのに……なんで、俺はここにきちまうんだ!
俺は手を握り、部室のドアをドンドンっと叩いた。
ドンドン……ドンドン……ドンドンドン……ドンドンドン! ドンドンドンドン! ドンドンドンドンドンドンドンドン!
手をドアに叩きつけたまま、膝が折れ、そのまま膝をつく。
はははっ……乾いた笑いがこぼれた。
この結果は俺のせいだ。俺がもっとうまく立ち回っていたら……みんなの気持ちを考えていれば……。
俺は今はいない同士の事を思い出した。
そう、あれは大佐に指導を受けた日の放課後。
「俺は断固立ち向かう! 風紀委員がなんだ! 裏切者の暴挙は俺達が阻止するべきだ!」
俺は部室の机をバンバンと叩く。
俺達、FLCは今後の方針を話し合っていた。風紀委員に折檻されたが、こんなことで諦めるわけにはいかない!
許さん! 許さんぞ、裏切者!
ヤツのハーレムは断固阻止だ! きっとヒューズのみんなもいつかは目が覚めるはず。それまでは、俺達がヒューズを守らないと!
だが、みんなの反応は芳しくなかった。
「なあ、近藤さん。もういいんじゃないか?」
「何がだ、原田君?」
「もう、止めないかって言ってんだ。これ以上は虚しいだけだろ?」
「な、永倉君?」
いつもならみんなのってくれるのだが、今日は違った。全員が何か思いつめたような顔をしている。
ど、どうしたんだ、みんな?
戸惑っていると、全員が席を立ち、部室を出ていこうとする。
「お、おい! どこにいくんだ! まだ話は終わってないぞ!」
「もう、終わってるよ。近藤さん、いつまでこんなこと続けるつもりなの?」
「……申し訳ないが、もう潮時だろう、近藤さん」
「藤堂君、斎藤君……」
なぜだ? なぜ二人ともそんな悲しい顔をしている? そんな憐れんだ目で俺を見ないでくれ。
「俺達が何をしたってもう現実は変わらない。ヒューズはおしまいだ。男と付き合っていると噂が出て、ランキング外になったんだ。もう、終わりだよ、近藤さん。正直、しんどいんだ」
「ま、待ってくれ! トシ!」
全員が部室から出ていった。
俺一人取り残されてしまった。何が起こったのか理解できなかった。
ただ、俺はもう一人なんだと、その現実だけが突きつけられた。
あの日から、俺は一人になった。仲間とは一言も話していない。つまらない意地を張っていた。そのせいで、大切なものを失ってしまった。
もっと仲間の事をヒューズの事を考えるべきだった。裏切者の忠告にも耳を傾けず、仲間の声も聞かなかった。だから、俺からみんな、離れていったんだ。間違いを間違いだと気づかずに俺はただ、幻想を見ていた。みんなが、ヒューズがいたあの景色をもう一度……もう一度だけでも見れるんだって……勘違いしていたんだ。
失ってはじめて気づくことがある。一番大事なものを失った俺に待っていたものは、孤独だけ。
戻りたい……ヒューズのメンバーがいて、仲間がいたあの頃に帰りたい……。
神様、お願いだ……もう一度……もう一度でいい……チャンスをくれ……。
そう願っても、無駄だって分かってる……それでも、それでも……頼む……頼むよ……。
俺はもう一度、部室のドアを叩く。何も反応はかえってこなかった。一人だと、孤独だと思い知らされる。
くそ、くそ、くそ……。
俺は歯を食いしばり、昇降口へ向かった。もう、どうしたらいいのか分からない……。
昇降口へ向かう途中、残酷な光景が目の前にあった。
ヒューズのメンバーでリーダの雪村さんがいた。雪村さんは友達に囲まれ、楽しそうにしていた。これが現実。
みんなはもう、みんなの生活があることを思い知らされた。スクールアイドルのことなんて、もうなかったかのような空気になっている。それが、俺の心を絶望で満たされていく。
俺は我慢できなくて、雪村さんが悪くないのを知っていながらもつい雪村さんの前に立って、恨み言を漏らしてしまった。
「雪村さん……これでいいんですか? このまま、なかったことにして終わってしまってもいいんですか? ヒューズを……こんなかたちでなくしてしまってもいいんですか?」
なんて情けないのだろう。女の子にすがってしまうなんて。自分の事なのに……誰かに頼むなんて……。
俺は慌てて、作り笑いを浮かべる。
「す、すみません! 変なことを言ってしまって! 忘れてください! し、失礼しました!」
醜い姿を見られたくなくて、俺はすぐさま背中を向けた。
もう忘れよう……終わったんだ、俺の青春は……。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
60
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる