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一章
一話 伊藤ほのかの挑戦 落ちてきた男編 その二
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私は枕を持ち上げ、先輩に見立てる。
「ほのか、お前に話がある」
放課後、誰もいない教室に、私は先輩に呼び出された。夕日が教室の窓からさしこんでいる。
校舎には人の気配がない。部活に勤しむ声も、カラスの鳴き声も何も聞こえてこない。まるで、この世界に先輩と私だけ存在しているみたいな感覚に陥る。
先輩は思いつめたような顔をしている。なんでだろう、先輩の顔を見ているだけで、どきどきが止まらない。
私は胸の前で手を握ったまま、先輩の言葉を待つ。
「なんですか、先輩? そんな真剣な顔して」
「実はずっと前から、伊藤と初めて会ったときからお前のことが……」
先輩は私の肩に手を置く。その手が少し震えている。私も不安と期待で震えてしまう。
「せ、先輩……」
「正道と呼んでくれ、ほのか」
息が止まりそうになった。名前を呼ばれるだけで、どうして胸が切なく、苦しいのだろう。好きな人の名前を呼ぼうとするだけで、涙が出そうになるのだろう。
私は勇気を出して、愛しい人の名前を呼ぶ。
「正道……」
指と指が絡み合う。体を密着させ、私は先輩の顔を見上げる。
「ほのか……」
「正道……」
「ほのか……」
お互いの名前を呼び、距離が縮まっていく。まるでそれが運命であるかのように、決まっていたかのように……。
そして、二人の顔は近づき、唇が……。
いやぁああああああああああああああ!
ありえない! ありえないったらありえない!
ハズカシー! ダメ、ハズカシスギテシニマスワ!
バタバタバタバタバタバタ!
私の妄想があまりにも恥ずかしくて、枕に頭を押し付け、高速でバタ足する。今なら水泳の新記録出せるかも! 名人を超えて足で十七連射しちゃうぞみたいな!
「姉ちゃん、何やってるの?」
「こら! 勝手に入ってくるなって何度言えば分かるの、剛!」
せっかく恋のレッスンが盛り上がってきたのに、この愚弟は!
目の前にいる坊主頭の万年短パンTシャツ小僧が我が愚弟の剛だ。
人の部屋に勝手に入る、漫画を許可なくとっていく、私のお菓子を勝手に食べる等、私の人の神経を逆なでする為に、お前は生まれてきたのかって言いたくなる。
仁王立ちして姉を見下ろすなんて偉そうに。
「さっきからご飯って呼んでんだろ。早く来いよ。姉ちゃんがこないと食べられないだろうが」
もうそんな時間なんだ。
ベットからのそっと立ち上がり、着替えることにした。
「分かった。今いくから」
「姉ちゃん」
「何?」
「や~い、胸ダカケツデカオババ~」
「剛!」
愚弟にむかって枕を投げつけるが、当たる直前にドアが閉まり届かなかった。
む~か~つ~く~! お前は野原家のガキか!
漫画なら弟、妹が恋愛対象になってるけど、あれだけは理解出来ない。
現実に仲のいい兄妹、姉弟がいるらしけど、絶滅危惧種といっても過言ではないと私は思っている。
リアルでは喧嘩ばかり。一度として愚弟に、恋愛感情を抱いたことはない。絶対無理ですから!
愚弟のどこに異性として好きになれる要素があるのかさっぱり分からない。
愚弟のせいで年下の男の子は恋愛対象にならなくなった。そして、ショタコンは絶対にありえない!
妄想で盛り上がっていた気持ちは愚弟の愚行により、冷めきってしまった。火照った体もすっかり冷え切り、シャツ一枚の姿はとても肌寒く感じる。
はあ……着替えてご飯にしよう。
「……か……のか……ほのか」
「ん?」
「ほのか、どうしたの? 箸が止まってるわよ」
目の前に手をふっているママの姿で我に返った。またぼーっとしていたのかな?
思っていたより、疲れているのかも。お味噌汁にそっと口をつける。
「もしかして、恋煩い?」
「ぶぶっ!」
「ぎゃあああああ!」
思わず剛の顔めがけて、味噌汁を噴出しちゃった。
は、鼻が、鼻に味噌汁が……。
「姉ちゃん、何するんだよ!」
「げほげほっ!」
ご、ごめん、剛。きっと、わざとじゃないから。
「あれ、図星だった?」
「ち、違うから!」
「顔が真っ赤よ」
ううっ、恋煩いって聞いて先輩の顔、思い出しちゃったよ。さっきの妄想も思い出してしまい、顔が熱くなり、むずがゆくなる。
「いかん、いかんぞ、ほのか! お前にはまだ早すぎる!」
パパの言葉に、私の恋心が一気に覚めた。本当、魔法のような言葉だよね。
魔法って、ハリー・○ッタとか見てると私も使いたいって夢見ちゃうけど、現実に引き戻す魔法なんてロマンのかけらすらない。間違ってるよね?
「俺は絶対に認めんからな! ほのかにか、か、かれぴなど!」
「はいはい」
かれぴって……噛むようなこと? 本当にウザい!
「ほのか! なんだ、その態度は! 親に向かってなんて態度だ!」
「御馳走様でした」
まだパパは叫んでいるけど、知らない。
いつまでも子ども扱いしないでほしいよ、もう!
髪型、まつ毛、目元、鼻、リップ、制服……チェックよし!
星占いもチェックしなきゃ! めざ○しTVの占いコーナはっと……。
私の運勢は……。つい鼻歌を歌ってしまう。
い~え、わたしは~さそり座か~いて座~。
あっ、今日は二位だ! ラッキー! えっと、ラッキーカラーは……。
チェック完了!
「いってきます!」
夏の暑さも落ち着き、少しずつ秋を感じる十月下旬の今日この頃。
衣替えした時はまだ暑かったけど、今はちょうどいいくらいの気温になっている。
青島高等学校。
一時期は青島学園と改名したが、押水先輩が去った後は再び青島高等学校に戻った。
あの騒動から一か月。
先輩の謹慎も解けて、日常が戻り始めていた。でも、気になることがあった。
押水先輩を好きになった女の子達のこと。彼の幼馴染、桜井みなみ先輩が転校したことは噂で知っている。
他の女の子達はどうなったのだろう? あの一件で友達になったくるみとは疎遠になっている。
恋愛って楽しくて温かくて、キツいことがあってもそれでも最後はハッピーエンドになるものだって信じていた。
でも、そうはならなかった。けど、あれは仕方ないよね。四十股以上してたんだから例外だよね。
それに失恋は新しい恋の始まり。次こそは幸せになってほしい。そう願っている。
彼は反省してほしいけどね。
「おはよう、ほのか」
「おっはよ~ほのほの」
「おはよう、明日香、るりか」
私は親友の明日香とるりかに朝の挨拶を交わす。
「ねえ、聞いてよ、ほのか……」
いつもの退屈な日常が始まる。だけど、いつかきっと私の恋が成就して、先輩と甘い楽しい日々を過ごせるって信じている。その為にも頑張らないとね!
待っているだけじゃ絶対に恋人になれない。こっちから掴み取るくらいの勢いでいかなきゃ!
今日も一日、頑張るぞ~。
「ほのか、お前に話がある」
放課後、誰もいない教室に、私は先輩に呼び出された。夕日が教室の窓からさしこんでいる。
校舎には人の気配がない。部活に勤しむ声も、カラスの鳴き声も何も聞こえてこない。まるで、この世界に先輩と私だけ存在しているみたいな感覚に陥る。
先輩は思いつめたような顔をしている。なんでだろう、先輩の顔を見ているだけで、どきどきが止まらない。
私は胸の前で手を握ったまま、先輩の言葉を待つ。
「なんですか、先輩? そんな真剣な顔して」
「実はずっと前から、伊藤と初めて会ったときからお前のことが……」
先輩は私の肩に手を置く。その手が少し震えている。私も不安と期待で震えてしまう。
「せ、先輩……」
「正道と呼んでくれ、ほのか」
息が止まりそうになった。名前を呼ばれるだけで、どうして胸が切なく、苦しいのだろう。好きな人の名前を呼ぼうとするだけで、涙が出そうになるのだろう。
私は勇気を出して、愛しい人の名前を呼ぶ。
「正道……」
指と指が絡み合う。体を密着させ、私は先輩の顔を見上げる。
「ほのか……」
「正道……」
「ほのか……」
お互いの名前を呼び、距離が縮まっていく。まるでそれが運命であるかのように、決まっていたかのように……。
そして、二人の顔は近づき、唇が……。
いやぁああああああああああああああ!
ありえない! ありえないったらありえない!
ハズカシー! ダメ、ハズカシスギテシニマスワ!
バタバタバタバタバタバタ!
私の妄想があまりにも恥ずかしくて、枕に頭を押し付け、高速でバタ足する。今なら水泳の新記録出せるかも! 名人を超えて足で十七連射しちゃうぞみたいな!
「姉ちゃん、何やってるの?」
「こら! 勝手に入ってくるなって何度言えば分かるの、剛!」
せっかく恋のレッスンが盛り上がってきたのに、この愚弟は!
目の前にいる坊主頭の万年短パンTシャツ小僧が我が愚弟の剛だ。
人の部屋に勝手に入る、漫画を許可なくとっていく、私のお菓子を勝手に食べる等、私の人の神経を逆なでする為に、お前は生まれてきたのかって言いたくなる。
仁王立ちして姉を見下ろすなんて偉そうに。
「さっきからご飯って呼んでんだろ。早く来いよ。姉ちゃんがこないと食べられないだろうが」
もうそんな時間なんだ。
ベットからのそっと立ち上がり、着替えることにした。
「分かった。今いくから」
「姉ちゃん」
「何?」
「や~い、胸ダカケツデカオババ~」
「剛!」
愚弟にむかって枕を投げつけるが、当たる直前にドアが閉まり届かなかった。
む~か~つ~く~! お前は野原家のガキか!
漫画なら弟、妹が恋愛対象になってるけど、あれだけは理解出来ない。
現実に仲のいい兄妹、姉弟がいるらしけど、絶滅危惧種といっても過言ではないと私は思っている。
リアルでは喧嘩ばかり。一度として愚弟に、恋愛感情を抱いたことはない。絶対無理ですから!
愚弟のどこに異性として好きになれる要素があるのかさっぱり分からない。
愚弟のせいで年下の男の子は恋愛対象にならなくなった。そして、ショタコンは絶対にありえない!
妄想で盛り上がっていた気持ちは愚弟の愚行により、冷めきってしまった。火照った体もすっかり冷え切り、シャツ一枚の姿はとても肌寒く感じる。
はあ……着替えてご飯にしよう。
「……か……のか……ほのか」
「ん?」
「ほのか、どうしたの? 箸が止まってるわよ」
目の前に手をふっているママの姿で我に返った。またぼーっとしていたのかな?
思っていたより、疲れているのかも。お味噌汁にそっと口をつける。
「もしかして、恋煩い?」
「ぶぶっ!」
「ぎゃあああああ!」
思わず剛の顔めがけて、味噌汁を噴出しちゃった。
は、鼻が、鼻に味噌汁が……。
「姉ちゃん、何するんだよ!」
「げほげほっ!」
ご、ごめん、剛。きっと、わざとじゃないから。
「あれ、図星だった?」
「ち、違うから!」
「顔が真っ赤よ」
ううっ、恋煩いって聞いて先輩の顔、思い出しちゃったよ。さっきの妄想も思い出してしまい、顔が熱くなり、むずがゆくなる。
「いかん、いかんぞ、ほのか! お前にはまだ早すぎる!」
パパの言葉に、私の恋心が一気に覚めた。本当、魔法のような言葉だよね。
魔法って、ハリー・○ッタとか見てると私も使いたいって夢見ちゃうけど、現実に引き戻す魔法なんてロマンのかけらすらない。間違ってるよね?
「俺は絶対に認めんからな! ほのかにか、か、かれぴなど!」
「はいはい」
かれぴって……噛むようなこと? 本当にウザい!
「ほのか! なんだ、その態度は! 親に向かってなんて態度だ!」
「御馳走様でした」
まだパパは叫んでいるけど、知らない。
いつまでも子ども扱いしないでほしいよ、もう!
髪型、まつ毛、目元、鼻、リップ、制服……チェックよし!
星占いもチェックしなきゃ! めざ○しTVの占いコーナはっと……。
私の運勢は……。つい鼻歌を歌ってしまう。
い~え、わたしは~さそり座か~いて座~。
あっ、今日は二位だ! ラッキー! えっと、ラッキーカラーは……。
チェック完了!
「いってきます!」
夏の暑さも落ち着き、少しずつ秋を感じる十月下旬の今日この頃。
衣替えした時はまだ暑かったけど、今はちょうどいいくらいの気温になっている。
青島高等学校。
一時期は青島学園と改名したが、押水先輩が去った後は再び青島高等学校に戻った。
あの騒動から一か月。
先輩の謹慎も解けて、日常が戻り始めていた。でも、気になることがあった。
押水先輩を好きになった女の子達のこと。彼の幼馴染、桜井みなみ先輩が転校したことは噂で知っている。
他の女の子達はどうなったのだろう? あの一件で友達になったくるみとは疎遠になっている。
恋愛って楽しくて温かくて、キツいことがあってもそれでも最後はハッピーエンドになるものだって信じていた。
でも、そうはならなかった。けど、あれは仕方ないよね。四十股以上してたんだから例外だよね。
それに失恋は新しい恋の始まり。次こそは幸せになってほしい。そう願っている。
彼は反省してほしいけどね。
「おはよう、ほのか」
「おっはよ~ほのほの」
「おはよう、明日香、るりか」
私は親友の明日香とるりかに朝の挨拶を交わす。
「ねえ、聞いてよ、ほのか……」
いつもの退屈な日常が始まる。だけど、いつかきっと私の恋が成就して、先輩と甘い楽しい日々を過ごせるって信じている。その為にも頑張らないとね!
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