風紀委員 藤堂正道 -最愛の選択-

Keitetsu003

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八章

八話 シュウカイドウ -未熟- その二

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 すぐに介抱したおかげで、古見君は一命をとりとめた。今は滝沢さんにおんぶされている。滝沢さんが悪いんだけど、女の子におんぶされている古見君、カッコ悪い。

「ひなた、大変なことになってるのよ。早く教室にいくわよ!」
「教室に何かあるんですか?」
「……」

 む、無視した! 酷い! 私、滝沢さんに何かした?
 古見君が私に変わって、滝沢さんに質問してくれた。

「教室に何かあったの?」
「見たらわかるわよ。ひなた、ちゃんと否定しなさいよ!」

 否定? なんのことだろう?
 とりあえず、私達は教室に向かった。教室に近づくにつれ、私達を……古見君を見る目が好奇の目っぽいんだけど。
 教室につくと、黒板には、

『古見ひなたと獅子王一は付き合っている。二人はゲイだ』

 と書かれていた。
 私と古見君は唖然としたまま、黒板の字を見つめている。

「だ、誰がこんなこと書いたの?」
「違うクラスの男子が急にきて、書いていったの。大スクープだっていいながら」

 滝沢さんの握っている手が震えている。止まることができなかったことを悔やんでいるみたい。
 私は教室を見渡した。
 色々な感情の視線が古見君に向けられている。嫌悪、憎悪、好奇心……好意的なものはそこになかった。
 怖い……それが私の感想だった。
 いつも見慣れた教室は、悪意に包まれ、まるで人をおとしいれるためだけに存在する空間となってしまっている。
 吐き気をもよおす、最悪な状況だ。

「おい、クリス古見。どうなんだよ?」
「古見デラックス、お前、ホモなの?」

 な、何なのよ、クリスとかデラックスとか……。
 クリス? デラックス? それって芸能人の……ああ、そういうことか。オネエ系の人の名前をもじってつけたのね。くだらない。
 古見君は苦笑しながら答える。

「違うよ。僕と獅子王先輩は、付き合ってないよ」

 古見君は笑っているけど、無理して笑ってるよね。私もあんな風に笑っていたから分かる。
 あれは周りに合わせる為の笑顔だ。楽しくもないのに笑っていなきゃいけない、辛い笑顔だ。

「そうなのか? 案外、お似合いじゃない?」
「古見ってやっぱり女っぽいからな」
「ちょっと、いい加減にしなさいよ! ひなたを困らせたら怒るよ!」

 古見君をはやし立てる男の子を滝沢さんが一喝いっかつする。

「ヤベ! 鬼嫁がきた!」
「滝沢、可哀想だよな。浮気相手が男だなんて」
「!」

 今にも殴りかかる滝沢さんを私は慌てて止める。

「だ、ダメだよ、滝沢さん! 抑えて!」
「あんたは関係ないでしょ! 引っ込んでなさい!」

 ムカッ! なんで私にまで喧嘩腰なのよ!
 私と滝沢さんを周りの男子が冗談半分であおってくる。それが余計に滝沢さんの神経を逆なでさせる。
 何なのよ、この雰囲気は。悪意に満ちてる。
 人をバカにするのが、そんなに楽しいの? 許せない。ここは風紀委員として行動しなきゃ!
 私はスカートのポケットに入れていた腕章を取り出そうとしたとき。

「何の騒ぎだ?」

 し、獅子王先輩! なんでここに?
 最悪のタイミングで獅子王先輩が教室に入ってきた。
 ダメ! ここで獅子王先輩が黒板の落書きを見ちゃったら大変なことになっちゃう。
 事態がややこしくなる予感しかしない。最悪、血の雨がふるよ、これ。

 獅子王先輩をこの場から遠ざけないと! 黒板の落書きは絶対に見せてはダメ!
 ううっ……爆弾処理しているみたいで心臓に悪いよ。手に汗が出てきた。

「し、獅子王先輩。ちょっとお話があるんですけど。ここではなんですので……」
「おい、俺様は古見に用があるんだ。邪魔するな」
「ふ、古見君に用ですか! では、廊下に出ましょうか。古見君、いいよね?」
「う、うん」

 私の必死のアイコンタクトに気づいてくれた古見君は私の援護にまわってくれる。
 どうにか獅子王先輩を遠ざけないと。落ち着いて……焦らず、落ち着いて行動するのよ、ほのか。

「獅子王先輩、ちょっと廊下で話しませんか? ここだとうるさいんで」
「俺様はどこでもいいぞ?」

 どこでもいいんなら廊下でもいいでしょ! どこでもいいって本当、日本語おかしいよね? どこでもいいんなら文句いわないでよね!

「獅子王先輩、ボクシングのことでちょっと。ボクシング場にいきませんか?」
「お、おい! 古見!」

 古見君が獅子王先輩の手を握って、教室を出ようとしている。
 獅子王先輩は……か、顔が赤い! 獅子王先輩がテレているなんて……耳まで赤くなって……レアだ。
 でも、これはチャンス! このまま、獅子王先輩が教室を出てしまえばこっちのもの。
 後は私が落書きを消してミッション完了! 古見君、そのまま獅子王先輩を誘導して!

「ちょっと、待ちなさいよ! ひなたもまだ話終わってないでしょ!」

 な、なんで邪魔するのよ!
 滝沢さんが古見君の手首を掴み、獅子王先輩を呼び止める。
 もう少しだったのに! 先輩並に空気読めない子がいたなんて。

「おい、その汚い手をすぐに離せ」
「汚くないわよ!」

 ひぃ!
 獅子王先輩がキレそうになってる! 目つきが怖い、怖すぎる!
 滝沢さんが古見君の手首をつかんでいることが気にくわないんだよね。この状態で、万が一、黒板の落書きを見てしまったら……か、考えるだけで恐ろしい。
 ああ、状況は最悪。
 爆弾物にガソリンと火を近づけるなんて、滝沢さんはどこまで命知らずなの!
 私は必死にこの状況を打開する手を考えるけど、状況は待ってくれない。

「ちょうどいいわ! 獅子王先輩、この件について答えてください!」

 滝沢さんが黒板を指差す。ああー! 導火線に火をつけるなんて、バカなの? ボン○ーマンなの?
 まだだ! まだ終わらんよ!
 ダイブ、ダーイブ!

 手を黒板に押し付けながら左右に振ることで、チョークの文字をにじませる。ぴょんぴょん跳ねることで獅子王先輩の視界を邪魔して、黒板の落書きが見えないようにする。
 フンフンフンフンフン!
 これぞ、フンフンディフェンス! どうよ! 見えないでしょ!

「何やってるんだ、お前?」
「ディフェンスの練習です! 私、リバウンド王、目指してるんで!」

 古見君、早く獅子王先輩をどこかにやって!
 古見君が察して獅子王先輩を引っ張る。

「し、獅子王先輩、ボクシング場にいきましょう!」
「? お、おう?」

 よし、そのまま、そのまま……。
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