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九章
九話 サイネリア -いつも喜びに満ちて- その六
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「先輩! 古見君! 次、あれやりましょうよ!」
私が指差したのは、恋愛診断ゲーム。二人の相性を診断してくれるゲームだ。ここに来たら絶対やろうと思っていた。ってか、これしかないでしょ!
先輩の袖をぐいぐい引っ張って誘導する。
私と先輩の相性を知りたい。もちろん、藤堂先輩と古見君の相性も!
恋愛診断ゲームの機体は、プリクラと占いの筐体をミックスしたような作りになっている。
細長いボックスのような形に、白と薄いピンクで塗装され、きらきらとした煌びやかな電飾。
側面には『運命さえ乗り越えられる!』、『的中率1000%!』等書かれている。
的中率1000%ってなんなの? レアブースト的なもの? 新人発掘オーディションはじまっちゃうの? 私、ピアノも作曲も無理なんですけど……。
他の筐体と違うのは、横幅が狭い。格闘ゲームのゲーム台よりも狭い。
椅子は二つ用意されているけど、密着しないと座れない。考えてるよね、これ。椅子があったら座らなきゃって思うし、座ると足や肩が絶対に触れる。
極めつけは、二人の間にあるボタン。このボタンの説明は後にして、私は先輩と古見君を席に座らせる。
先輩の体格は大きいので、余計に古見君と密着している。
「では、先輩、古見君! 始めましょうか! あっ、このゲームはですね、相性診断以外にも各種占いが四十種類あります。ニックネームと生年月日、性別、血液型をタッチパネルに入力して、質問に答えていきます。全部答えると結果が出ますので」
「そうか。始めるか、古見」
「は、はい」
ふふふ、先輩、ブレませんね。古見君は恥ずかしがっているのに。だけど、甘いですよ、先輩!
先輩は相性診断をタッチし、ニックネームを入力しようとしたけど、手が止まる。入力されない。文字を何度タッチしても、何も入力されない。
「? 入力できないぞ。故障か?」
「ちっちっち! 違いますよ、先輩。説明、見てなかったでしょ? ここですよ、ここ」
私が指差したところに注意書きが記載されている。先輩はその注意書きを見て……あっ、固まった。
先輩が困った顔で私を見つめてくる。先輩、可愛いです。
「い、伊藤。なんだこれは?」
「書いてある通りですよ。台にあるボタンを押しながら入力しないと文字が入りません。ボタンを押し続けてください」
「ま、待て。ボタンを押し続けるだと?」
「はい。二人同時に、手を重ねて押してくださいね♪」
そう、これが他のゲームと違うところ。相性診断のみ、二人が一緒にボタンを押さないと先に進めない!
ボタンの大きさは手のひらサイズで、二人が左右半分に押すのは難しい仕様になっている。では、どう押すのか?
一人がボタンを押し続け、その押し続けている手の上にもう一人が手を重ねる。これで二人同時押しと判断される。
科学ステキ! 強制的に手を重ねることができるなんて……。
「待て、伊藤。俺だけ押せばいいだろう」
「ふふふっ、そう思うのなら試してみてくださいよ」
先輩はボタンに手を置き、タッチパネルを触る。でも、何も反応しない。検証済ですから。
女の子同士で遊んだことがあるもんね、リサーチ済みですよ、先輩。
「さあ、先輩。古見君。手を重ねてください。恋人握りでも可ですよ」
「……古見君、やめておくか」
「そうですね」
先輩と古見君は笑顔で席を立とうとした。
「に・が・し・ま・せ・ん・よ!」
「ば、バカな! 俺が伊藤に力押しされるだと!」
知らないんですか、先輩? 女の子はいざってときに秘められた力、『火事場の馬鹿力』が自動発動するんですよ。
古見君の方は滝沢さんが押さえつけてくれている。
「ま、まひろ? どういうこと? まひろは同性愛に反対だよね?」
「それはそれ。これはこれよ。面白そうじゃない」
滝沢さんってドSだよね。あんなにいい笑顔で古見君を押さえつけている。
古見君の手がボタンに触れ、先輩の手が古見君の手に触れる。
よし! 完成! 二人の手が震えているけど、問題ないよね!
こうして、先輩達の診断が始まった。
「終わった……」
「……」
「きゃ! きゃ! 先輩、先輩! 凄いです凄いですよ!」
画面に診断結果が映し出される。
『相思相愛! 運命の相手はキミだ!』
これってすごくない! リアルBLだよ! キター!
「……僕……もうお嫁にいけない」
跪き頭を垂れる古見君に、私は優しく古見君の肩をたたき、親指を立てる。
「それは獅子王先輩に養ってもらう的なコメですか! ルート確定! おめでとう、古見君!」
「……ああ、そうなのかな? 僕はゲイ……」
「古見、嫁という発言におかしいとは思わないのか?」
さて、堪能させていただきましたし、次にいきますか!
次はどれに……せ、先輩?
先輩が私の肩を掴む。先輩に触れられて、どきっ……痛たたた!
先輩の手が私の肩に食い込む! 痛い痛い!
「いい機会だ。伊藤も同性愛を体験してみたらどうだ?」
「のーさんきゅーです」
「遠慮するな。ほら、座れ」
私が椅子に座ると、滝沢さんも椅子に座った。
私には先輩が、滝沢さんには古見君が体を押さえつけている。え、笑顔なのが怖いんですけど。
「わ、私と滝沢さんがしても意味ないですよ!」
「そうよ! ひなた、離しなさい!」
「お前も俺達の痛みを知れ」
「まあまあ、そう言わずにまひろもやってみてよ」
必死に抵抗するけど、先輩の力にはかなわず、滝沢さんの手の上に私の手が触れる。
ひぃ! 鳥肌が!
「ちょっと! 離れなさいよ! 気持ち悪い!」
「それはこっちのセリフ! 近い近い近い!」
私達は無理やり、ゲームをさせられることになった。
「……」
「……」
『相思相愛! 運命の相手はキミだ!』
なにこれ? なんで私の運命の相手が滝沢さんなのよ。マ○ア様、酷くないっすか。
こんな……こんな屈辱……。
「どうだ、伊藤。人の痛みに触れて、少しは反省したか?」
「反省? なんで私が反省しなくちゃいけないんですか?」
「伊藤?」
そう、全部……このヘボ装置が悪い!
私は思いっきり台を蹴りつけた! 滝沢さんも加勢して、この忌まわしい機械を蹴って蹴って蹴りまくる!
「死ね! 死ね死ね死ね!」
「トラウマうえつけてるんじゃないわよ!」
「お、お客様! 困ります!」
私は店員に止められるまでひたすら蹴り続けた。
ううっ……痛いよ……。
恋愛診断ゲーム機を蹴った足も、先輩のげんこつされた頭も。
おかしい。楽しい放課後デートなのに、生傷がどんどん増えていく。これは私が想像していたものと違う。
先輩に怒られてばかりだし、私の好感度がどんどん下がっているような……。
ふと目に留まったのが、クレーンゲームだった。
沢山あるクレーンゲームの中で、特に気になったのが、『どうぶつたちの森』と書かれた看板のあるクレーンで、中にはいろいろな動物のぬいぐるみが群がっている。
どうぶつたちの森シリーズは、動物の赤ちゃんのぬいぐるみが揃っていて、とても可愛い。
手のひらサイズだから場所をとらないし。あ、あのうさぎのぬいぐるみ、可愛い。
「どうかしたのか、伊藤?」
「あ、あのうさぎのぬいぐるみ、可愛いなって思って」
あのぬいぐるみ、ほしいな……でも、私、クレーンゲームって苦手。
クレーンゲーム、別名リアル課金ガチャ。
ネトゲと違うところは、いくらつぎこんでも欲しいアイテムが出ないことと何のアイテムももらえず、お金だけが減っていく。
これって致命的なバグだよね? 世の中間違ってる……。
恨めしい視線をクレーンゲームにぶつけていると、先輩が近づいてきた。
ま、まさか……。
先輩がクレーンゲームにお金を入れて、始めちゃったよ! なんで? も、もしかして、私にプレゼント? でも、先輩ってクレーンゲームできるの?
期待に胸をふくらませ、クレーンの動きをじっと見つめる。
あれ? 全然違うところにアームが……あ、ああああ!
アームは私のほしいぬいぐるみと違う場所に降りていき、何もない場所を掴もうとするけど、ぬいぐるみの山が崩れて……お、落ちた! 落ちたよ! これってありなの!
ぬいぐるみを掴むんじゃなくて、山を崩して落すなんて……。ちょっと感動した! 目から鱗!
先輩はぬいぐるみを取り出す。
「せ、先輩。うまいですね」
「……理由は聞かないでくれ」
な、なんでだろう。先輩の顔が苦渋に満ちている。
何か訳ありかもしれないけど、私は先輩の手にしていたぬいぐるみにロックオンしている。
欲しい……放課後デートの記念のプレゼント……欲しいな……。
「伊藤。これを……」
「これを……」
手を震わせ、ぬいぐるみを受け取ろうと……。
「古見君に渡せばいいんだな? 前にやった恋愛講座を実践するべきか? 教えてくれ」
気分が一気にブルーになる。
……先輩、ちょっと違う。サプライズは必要だけど! だけど!
ううっ、先輩は私の期待に応えようとしているだよね。恋愛講座の事、覚えてくれていたんだね。古見君の為に行動しているんだよね。真面目だよね。
私はぐっとこらえて笑顔でうなずく。
「流石は先輩ですね! お願いできますか?」
ううっ、先輩が遠ざかっていく。うさぎの赤ちゃんのぬいぐるみが……でも、いいもん! 今度先輩と二人で来た時にとってもらうもん!
「ねえ、いいの?」
意外にも声をかけてきたのは滝沢さんだった。拗ねたようなそっけない声で尋ねてくる。
私は苦笑しつつ心境を話す。
「仕方ないよ。今日は古見君の為のデートだもん。私は二の次だよ」
「そう……あなたの想いってその程度なのね。私なら奪い取ってでも手に入れるわ。男なんかに取られてたまるもんですか」
滝沢さんは背を向け、そのまま先輩達のほうへ歩き出す。
私だって、先輩への気持ち、誰にも負けない……負けないけど……でも、仕方ないじゃない。
今日は古見君と先輩の仮想デートなんだから。ここで私の事を優先させたら、真面目に付き合ってくれている先輩と古見君に悪いじゃない。だから、問題ない。
滝沢さんの言葉が胸にささったまま、私は先輩の後を追った。
私が指差したのは、恋愛診断ゲーム。二人の相性を診断してくれるゲームだ。ここに来たら絶対やろうと思っていた。ってか、これしかないでしょ!
先輩の袖をぐいぐい引っ張って誘導する。
私と先輩の相性を知りたい。もちろん、藤堂先輩と古見君の相性も!
恋愛診断ゲームの機体は、プリクラと占いの筐体をミックスしたような作りになっている。
細長いボックスのような形に、白と薄いピンクで塗装され、きらきらとした煌びやかな電飾。
側面には『運命さえ乗り越えられる!』、『的中率1000%!』等書かれている。
的中率1000%ってなんなの? レアブースト的なもの? 新人発掘オーディションはじまっちゃうの? 私、ピアノも作曲も無理なんですけど……。
他の筐体と違うのは、横幅が狭い。格闘ゲームのゲーム台よりも狭い。
椅子は二つ用意されているけど、密着しないと座れない。考えてるよね、これ。椅子があったら座らなきゃって思うし、座ると足や肩が絶対に触れる。
極めつけは、二人の間にあるボタン。このボタンの説明は後にして、私は先輩と古見君を席に座らせる。
先輩の体格は大きいので、余計に古見君と密着している。
「では、先輩、古見君! 始めましょうか! あっ、このゲームはですね、相性診断以外にも各種占いが四十種類あります。ニックネームと生年月日、性別、血液型をタッチパネルに入力して、質問に答えていきます。全部答えると結果が出ますので」
「そうか。始めるか、古見」
「は、はい」
ふふふ、先輩、ブレませんね。古見君は恥ずかしがっているのに。だけど、甘いですよ、先輩!
先輩は相性診断をタッチし、ニックネームを入力しようとしたけど、手が止まる。入力されない。文字を何度タッチしても、何も入力されない。
「? 入力できないぞ。故障か?」
「ちっちっち! 違いますよ、先輩。説明、見てなかったでしょ? ここですよ、ここ」
私が指差したところに注意書きが記載されている。先輩はその注意書きを見て……あっ、固まった。
先輩が困った顔で私を見つめてくる。先輩、可愛いです。
「い、伊藤。なんだこれは?」
「書いてある通りですよ。台にあるボタンを押しながら入力しないと文字が入りません。ボタンを押し続けてください」
「ま、待て。ボタンを押し続けるだと?」
「はい。二人同時に、手を重ねて押してくださいね♪」
そう、これが他のゲームと違うところ。相性診断のみ、二人が一緒にボタンを押さないと先に進めない!
ボタンの大きさは手のひらサイズで、二人が左右半分に押すのは難しい仕様になっている。では、どう押すのか?
一人がボタンを押し続け、その押し続けている手の上にもう一人が手を重ねる。これで二人同時押しと判断される。
科学ステキ! 強制的に手を重ねることができるなんて……。
「待て、伊藤。俺だけ押せばいいだろう」
「ふふふっ、そう思うのなら試してみてくださいよ」
先輩はボタンに手を置き、タッチパネルを触る。でも、何も反応しない。検証済ですから。
女の子同士で遊んだことがあるもんね、リサーチ済みですよ、先輩。
「さあ、先輩。古見君。手を重ねてください。恋人握りでも可ですよ」
「……古見君、やめておくか」
「そうですね」
先輩と古見君は笑顔で席を立とうとした。
「に・が・し・ま・せ・ん・よ!」
「ば、バカな! 俺が伊藤に力押しされるだと!」
知らないんですか、先輩? 女の子はいざってときに秘められた力、『火事場の馬鹿力』が自動発動するんですよ。
古見君の方は滝沢さんが押さえつけてくれている。
「ま、まひろ? どういうこと? まひろは同性愛に反対だよね?」
「それはそれ。これはこれよ。面白そうじゃない」
滝沢さんってドSだよね。あんなにいい笑顔で古見君を押さえつけている。
古見君の手がボタンに触れ、先輩の手が古見君の手に触れる。
よし! 完成! 二人の手が震えているけど、問題ないよね!
こうして、先輩達の診断が始まった。
「終わった……」
「……」
「きゃ! きゃ! 先輩、先輩! 凄いです凄いですよ!」
画面に診断結果が映し出される。
『相思相愛! 運命の相手はキミだ!』
これってすごくない! リアルBLだよ! キター!
「……僕……もうお嫁にいけない」
跪き頭を垂れる古見君に、私は優しく古見君の肩をたたき、親指を立てる。
「それは獅子王先輩に養ってもらう的なコメですか! ルート確定! おめでとう、古見君!」
「……ああ、そうなのかな? 僕はゲイ……」
「古見、嫁という発言におかしいとは思わないのか?」
さて、堪能させていただきましたし、次にいきますか!
次はどれに……せ、先輩?
先輩が私の肩を掴む。先輩に触れられて、どきっ……痛たたた!
先輩の手が私の肩に食い込む! 痛い痛い!
「いい機会だ。伊藤も同性愛を体験してみたらどうだ?」
「のーさんきゅーです」
「遠慮するな。ほら、座れ」
私が椅子に座ると、滝沢さんも椅子に座った。
私には先輩が、滝沢さんには古見君が体を押さえつけている。え、笑顔なのが怖いんですけど。
「わ、私と滝沢さんがしても意味ないですよ!」
「そうよ! ひなた、離しなさい!」
「お前も俺達の痛みを知れ」
「まあまあ、そう言わずにまひろもやってみてよ」
必死に抵抗するけど、先輩の力にはかなわず、滝沢さんの手の上に私の手が触れる。
ひぃ! 鳥肌が!
「ちょっと! 離れなさいよ! 気持ち悪い!」
「それはこっちのセリフ! 近い近い近い!」
私達は無理やり、ゲームをさせられることになった。
「……」
「……」
『相思相愛! 運命の相手はキミだ!』
なにこれ? なんで私の運命の相手が滝沢さんなのよ。マ○ア様、酷くないっすか。
こんな……こんな屈辱……。
「どうだ、伊藤。人の痛みに触れて、少しは反省したか?」
「反省? なんで私が反省しなくちゃいけないんですか?」
「伊藤?」
そう、全部……このヘボ装置が悪い!
私は思いっきり台を蹴りつけた! 滝沢さんも加勢して、この忌まわしい機械を蹴って蹴って蹴りまくる!
「死ね! 死ね死ね死ね!」
「トラウマうえつけてるんじゃないわよ!」
「お、お客様! 困ります!」
私は店員に止められるまでひたすら蹴り続けた。
ううっ……痛いよ……。
恋愛診断ゲーム機を蹴った足も、先輩のげんこつされた頭も。
おかしい。楽しい放課後デートなのに、生傷がどんどん増えていく。これは私が想像していたものと違う。
先輩に怒られてばかりだし、私の好感度がどんどん下がっているような……。
ふと目に留まったのが、クレーンゲームだった。
沢山あるクレーンゲームの中で、特に気になったのが、『どうぶつたちの森』と書かれた看板のあるクレーンで、中にはいろいろな動物のぬいぐるみが群がっている。
どうぶつたちの森シリーズは、動物の赤ちゃんのぬいぐるみが揃っていて、とても可愛い。
手のひらサイズだから場所をとらないし。あ、あのうさぎのぬいぐるみ、可愛い。
「どうかしたのか、伊藤?」
「あ、あのうさぎのぬいぐるみ、可愛いなって思って」
あのぬいぐるみ、ほしいな……でも、私、クレーンゲームって苦手。
クレーンゲーム、別名リアル課金ガチャ。
ネトゲと違うところは、いくらつぎこんでも欲しいアイテムが出ないことと何のアイテムももらえず、お金だけが減っていく。
これって致命的なバグだよね? 世の中間違ってる……。
恨めしい視線をクレーンゲームにぶつけていると、先輩が近づいてきた。
ま、まさか……。
先輩がクレーンゲームにお金を入れて、始めちゃったよ! なんで? も、もしかして、私にプレゼント? でも、先輩ってクレーンゲームできるの?
期待に胸をふくらませ、クレーンの動きをじっと見つめる。
あれ? 全然違うところにアームが……あ、ああああ!
アームは私のほしいぬいぐるみと違う場所に降りていき、何もない場所を掴もうとするけど、ぬいぐるみの山が崩れて……お、落ちた! 落ちたよ! これってありなの!
ぬいぐるみを掴むんじゃなくて、山を崩して落すなんて……。ちょっと感動した! 目から鱗!
先輩はぬいぐるみを取り出す。
「せ、先輩。うまいですね」
「……理由は聞かないでくれ」
な、なんでだろう。先輩の顔が苦渋に満ちている。
何か訳ありかもしれないけど、私は先輩の手にしていたぬいぐるみにロックオンしている。
欲しい……放課後デートの記念のプレゼント……欲しいな……。
「伊藤。これを……」
「これを……」
手を震わせ、ぬいぐるみを受け取ろうと……。
「古見君に渡せばいいんだな? 前にやった恋愛講座を実践するべきか? 教えてくれ」
気分が一気にブルーになる。
……先輩、ちょっと違う。サプライズは必要だけど! だけど!
ううっ、先輩は私の期待に応えようとしているだよね。恋愛講座の事、覚えてくれていたんだね。古見君の為に行動しているんだよね。真面目だよね。
私はぐっとこらえて笑顔でうなずく。
「流石は先輩ですね! お願いできますか?」
ううっ、先輩が遠ざかっていく。うさぎの赤ちゃんのぬいぐるみが……でも、いいもん! 今度先輩と二人で来た時にとってもらうもん!
「ねえ、いいの?」
意外にも声をかけてきたのは滝沢さんだった。拗ねたようなそっけない声で尋ねてくる。
私は苦笑しつつ心境を話す。
「仕方ないよ。今日は古見君の為のデートだもん。私は二の次だよ」
「そう……あなたの想いってその程度なのね。私なら奪い取ってでも手に入れるわ。男なんかに取られてたまるもんですか」
滝沢さんは背を向け、そのまま先輩達のほうへ歩き出す。
私だって、先輩への気持ち、誰にも負けない……負けないけど……でも、仕方ないじゃない。
今日は古見君と先輩の仮想デートなんだから。ここで私の事を優先させたら、真面目に付き合ってくれている先輩と古見君に悪いじゃない。だから、問題ない。
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