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九章
九話 サイネリア -いつも喜びに満ちて- その五
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「古見君、今日の事は伊藤から聞いている。よろしく頼む」
「あ、あの、藤堂先輩……藤堂先輩も同性愛に賛成なんですか?」
滝沢さんが恐る恐る先輩に尋ねる。滝沢さんの不安そうな顔を見て、私はある考えが浮かんだ。
私に突っかかってくる理由。それはきっと、古見君のことを……。
「賛成じゃない。風紀委員としては同性愛については反対の立場をとっている」
「そ、そうなんですか? だったら、ひなたと遊びにいくのはなぜですか?」
先輩は真剣な顔で滝沢さんに説明する。
「古見君の力になりたいからだ。獅子王先輩の気持ちは分かったが、古見君の気持ちはまだ自分でも分かっていないようだからな。同性愛でないのなら、風紀委員一同、全力で対応する」
「先輩……さりげなくに同性愛反対に誘導するの、やめてもらえません?」
「おほん!」
咳をしても誤魔化せませんよ、先輩。
先輩、まだ古見君達の事、認めてくれてないんだ。それでも、律儀に私の提案に付き合ってくれる。
先輩らしいね。そんな不器用なところも好きですよ、先輩。
きゃ! 言っちゃった!
秘技、一人告白!
説明しよう! この技は心の中でさりげなく好きな人に告白してテンションをあげる技である。
メリットは絶対にフラれない事。伝わっていないからね。
デメリットは、誰も反応してくれないことと、バレたら頭のおかしい子と思われてしまうこと。バレたら、ハブにされるかもしれない、
そんなスリルを味わう私って……暇人だよね。
でも、そこがいい!
「古見君は部活、いいのか?」
「は、はい」
私の考えは全くスルーされ、話が進んでいく。
古見君は少し困ったような顔をしているが、先輩はそのことについて何もふれなかった。
ボクシング部の顧問のこともあって調べてみたんだけど、古見君の立場は微妙。
部員はまるで、腫物を扱うかのような態度で古見君に接しているみたい。同じ一年のボクシング部員に会って確認した。
部活を休む許可をもらいに私と古見君は顧問を訪ねたけど、冷たい態度をとられた。一応は許可をもらったけど、やっぱり同性愛ってみんなから受け入れられていない。
芸能人が同性婚したことが話題になったり、同性同士をパートナーとして証明書を発行するよう条例案が提出されたりしているけど、まだまだ世間は同性愛者に厳しい。気持ちが重くなる。
いけない、私が沈んでどうするの。当事者の古見君の方がつらいはず。今日くらい、楽しまないと。私が古見君を笑顔にしてみせる!
私は気合を入れなおし、元気よくみんなに声をかける。
「さあ、いきましょうか!」
滝沢さんも納得してくれて、四人で遊びにいくことになった。滝沢さんは余計だって思ったけど、いい機会かもしれない。
滝沢さんの気持ち、確認しておかないと。
「ここがデート場所です」
私は古見君達を駅前のゲームセンターに案内した。自然豊かな青島で、駅の周りだけは色んなお店が集まっている。
色んなお店といっても、スーパーやコンビニといった生活に必要なお店ばかりなんだけどね。それでも、青島で遊びにいくとしたらここしかない。
本土にいけば沢山遊ぶ場所があるんだけど、時間の都合上、青島内になっちゃうんだよね、平日は。
それに先輩、門限うるさそうだし。
ゲームセンターを選んだのは明日香とるりか、クラスメイトの男の子に相談した結果だ。男の子が楽しく遊べて、お互い協力して遊べる場所がゲームセンターなんだって。
カラオケも考えたけど、先輩が苦手だと思ったのでやめておいた。|
私的《わたしてき》にはウィンドウショッピングがおすすめなんだけど。
お互いの好みが分かるし、新作もチェックできるし、楽しいと思うけどな。
でも、男の子の事はやっぱり男の子のほうが詳しいと思うし、古見君に楽しんでもらいたいからゲームセンターを選択したわけ。
まあ、青島でウィンドウショッピングなんてすぐに終わっちゃうのも理由なんだけど。
「どうですか? 男の子ってゲーム好きだと思って、無難な場所を選んでみました」
「ゲームセンターって久しぶりだな」
古見君は懐かしそうにゲームセンターを見つめている。古見君の表情から見て、嬉しそうだし、選択は間違っていなかったみたい。
「寄り道でゲームセンターくらいなら問題ないか。時間を守ればいいだろうし」
先輩は相変わらず風紀の事を考えていた。先輩、悩んでばかりだとハゲますよ?
先輩の誕生日にはチャップ○ップをプレゼントしてあげよう。
「……」
滝沢さんは何も言わない。
何も言わないということは賛成と判断させていただきます。
「では、いきましょうか!」
私達はゲームセンターに入った。
ゲームセンターの中に入ると、色んな騒音と数々のゲーム機が私達を迎え入れてくれた。
この不協和音を聞くと、ゲームセンターにきたって感じちゃう。
ビデオゲームの筐体だけでなく、各階に色んなゲーム機が設置されている。
UFOキャッチャー、プリクラ、レースゲーム、コインゲーム……色々あり過ぎて何から遊んでいいか困るよね。
私達はそれぞれの階のゲーム機を見て回った。
巨大スクリーンには競馬の画面が映し出されている。ダーツやバスケット、エアーホッケーなんかもあって……ああっ! ワ○ワニパニック! 懐かしい……。
昔、ちっちゃかった弟の剛が飛び出すワニを見て、泣いていたんだっけ。
泣きじゃくる剛に私は剛の後頭部を抑えて、剛の頭をワニにかませようとぐいぐいと押していた。
剛は大泣きしていたけど、私は大笑いしていた。心安らぐエピソードだ。
小さい子供から大人まで楽しめるファミリー向けのゲームセンター。やるじゃん、青島!
ゲームセンター内は学校帰りの生徒達がたむろっている。不良もいるけど、楽しそうに遊んでいた。
みんなが楽しめる場所。これぞゲームセンター!
私もゲームセンターに来るのは久しぶり。ちょっと楽しくなってきた。
「さて、何から遊びましょうか? 古見君、何かリクエストある?」
「……あ、あれはどうかな?」
古見君が指差したのはパンチングマシーンだった。やっぱりボクシング部だよね。自分のパンチ力を知りたいのかな? それとも自信があるのかな?
「それなら、私も参加しますよ! 先輩もやりましょうよ! 先輩のパンチ力、みせてください!」
「分かった。滝沢さんもいいか?」
「……」
滝沢さんは先輩達に顔を合わせようとせず、返事もしない。カンジ悪いな、滝沢さん。
反対の声はないので、パンチングマシーンから遊ぶことにした。
ゲームの画面にはアメコミのヒーローみたいな人が映っている。お金を入れると、アクセントのある声で私達にルール説明してくれる。
へえ、パンチングマシーンってただパンチ力を測るだけじゃないんだ。ストーリーも面白そう。
ルールはワンステージ、三回チャレンジできる。三回の合計ポイントがステージクリアに必要なポイントを超えていればステージクリアで次のステージにいけるみたい。
「ねえねえ、誰からやる? やっぱり、古見君やりたい?」
「公平にじゃんけんして決めるのはどうかな?」
私達はじゃんけんで順番を決める。滝沢さんは私達から少し離れている。参加する気はないみたい。
「では、三人で! じゃんけん……ぽん!」
先輩と古見君はグーで私はパーだ。
勝った! 私が一番。
画面にうつっているのはチンピラだ。ステージの最初っぽい雑魚キャラだよね。
パンチングパットがゆっくりと起きる。
私はグローブをはめて、軽く体を動かす。よし! やるぞぉ! 私はちょっと助走をつけて、体ごと思いっきり殴りつけた。
ダイナマイト○ンチ!
「HITS!」
チンピラの顔がちょっとだけ腫れあがる。
ポイントは30と表示された。
三回で合計100だから三分の一か。
「後はお願いね、古見君」
「うん、任せて」
私はグローブを古見君に渡す。古見君の腕は私と同じくらい。どんなパンチ力なんだろう。
「ねえ、ひなた。次、私にやらせて」
ずっと黙っていた滝沢さんが古見君からグローブを奪い取る。
「滝沢さん。じゃんけんに参加しなかったくせに、勝手に割り込まないでくれるかな?」
「伊藤、落ち着け。いいじゃないか」
先輩になだめられ、私は頬を膨らませながら、仕方なく引き下がる。
滝沢さんは画面を睨みつけ、パンチングパットにグローブをたたきつける。
「HITS!」
不良の顔がさっきよりも大きく腫れあがる。
ポイントは……40!
滝沢さんが勝ち誇った顔をしている。
く、悔しい。
「先輩~! 仇をとってください!」
「いや、次は古見君だろ?」
もう、空気読んでよ、先輩!
古見君がグローブを付ける。残り30ポイントでクリアだ。余裕だと思うけど、まさか、30に届かないってことはないよね?
古見君がファイティングポーズをとり、軽くリズムを刻む。気負うことなく、右ストレートで殴りつけた。
あれ? それだけ? パンチは早かったけど、あまり威力がなさそう……。
「HITS!」
チンピラがぶっ飛ばされ、星になった。これってクリアだよね。やった!
動きも最小限で地味なパンチだったけど、どのくらいなんだろう。
ポイントは……90!
「す、凄い! 凄いよ、古見君! 私、古見君のこと怒らせないように気を付けるよ!」
だって、私の三倍だよ! もしかして、古見君って強いの?
「そんなことないよ。こういったゲームは、コツがあることを獅子王先輩から教えてもらったし」
「そうなんだ。私もコツさえつかめたら90はいくかな?」
「コツをつかんで、必要な筋肉を鍛えたらできるよ」
そっか。
よし、鍛えてみようかな。先輩に腕力で復讐したいし。今日、先輩が私にした仕打ち、絶対に忘れませんからね。
古見君と仲良く話していると、険のある声が割り込んできた。
「お世辞だってこと、分からないの?」
もう! なんで滝沢さんはテンション下がること言うのかな? 雰囲気悪いんですけど。
「伊藤、次のステージが出たぞ。次は俺の番だよな?」
先輩、嬉しそうですよね。空気読めてない。本当にマイペースなんだから。
私は肩を回している先輩をみて苦笑してしまう。
先輩のパンチ力ってどうなの? 私と先輩の差ってどれくらいなのかな? 私のふとももくらいある先輩の腕を見ながら、そんなことを考えていた。
先輩はゆっくりと構え……目にも止まらないスピードでパンチングパットを殴りつけた。
「……」
うわ……。
画面に出たポイントを見て、ドン引きしちゃった。先輩は表情に出さないようしているけど、バレバレですよ。
得意げな顔を隠している先輩が可愛いって思ったけど、私は先輩を怒らせまいと固く誓った。
だって、殴られたら顔面が変形しそうだし。
「あ、あの、藤堂先輩……藤堂先輩も同性愛に賛成なんですか?」
滝沢さんが恐る恐る先輩に尋ねる。滝沢さんの不安そうな顔を見て、私はある考えが浮かんだ。
私に突っかかってくる理由。それはきっと、古見君のことを……。
「賛成じゃない。風紀委員としては同性愛については反対の立場をとっている」
「そ、そうなんですか? だったら、ひなたと遊びにいくのはなぜですか?」
先輩は真剣な顔で滝沢さんに説明する。
「古見君の力になりたいからだ。獅子王先輩の気持ちは分かったが、古見君の気持ちはまだ自分でも分かっていないようだからな。同性愛でないのなら、風紀委員一同、全力で対応する」
「先輩……さりげなくに同性愛反対に誘導するの、やめてもらえません?」
「おほん!」
咳をしても誤魔化せませんよ、先輩。
先輩、まだ古見君達の事、認めてくれてないんだ。それでも、律儀に私の提案に付き合ってくれる。
先輩らしいね。そんな不器用なところも好きですよ、先輩。
きゃ! 言っちゃった!
秘技、一人告白!
説明しよう! この技は心の中でさりげなく好きな人に告白してテンションをあげる技である。
メリットは絶対にフラれない事。伝わっていないからね。
デメリットは、誰も反応してくれないことと、バレたら頭のおかしい子と思われてしまうこと。バレたら、ハブにされるかもしれない、
そんなスリルを味わう私って……暇人だよね。
でも、そこがいい!
「古見君は部活、いいのか?」
「は、はい」
私の考えは全くスルーされ、話が進んでいく。
古見君は少し困ったような顔をしているが、先輩はそのことについて何もふれなかった。
ボクシング部の顧問のこともあって調べてみたんだけど、古見君の立場は微妙。
部員はまるで、腫物を扱うかのような態度で古見君に接しているみたい。同じ一年のボクシング部員に会って確認した。
部活を休む許可をもらいに私と古見君は顧問を訪ねたけど、冷たい態度をとられた。一応は許可をもらったけど、やっぱり同性愛ってみんなから受け入れられていない。
芸能人が同性婚したことが話題になったり、同性同士をパートナーとして証明書を発行するよう条例案が提出されたりしているけど、まだまだ世間は同性愛者に厳しい。気持ちが重くなる。
いけない、私が沈んでどうするの。当事者の古見君の方がつらいはず。今日くらい、楽しまないと。私が古見君を笑顔にしてみせる!
私は気合を入れなおし、元気よくみんなに声をかける。
「さあ、いきましょうか!」
滝沢さんも納得してくれて、四人で遊びにいくことになった。滝沢さんは余計だって思ったけど、いい機会かもしれない。
滝沢さんの気持ち、確認しておかないと。
「ここがデート場所です」
私は古見君達を駅前のゲームセンターに案内した。自然豊かな青島で、駅の周りだけは色んなお店が集まっている。
色んなお店といっても、スーパーやコンビニといった生活に必要なお店ばかりなんだけどね。それでも、青島で遊びにいくとしたらここしかない。
本土にいけば沢山遊ぶ場所があるんだけど、時間の都合上、青島内になっちゃうんだよね、平日は。
それに先輩、門限うるさそうだし。
ゲームセンターを選んだのは明日香とるりか、クラスメイトの男の子に相談した結果だ。男の子が楽しく遊べて、お互い協力して遊べる場所がゲームセンターなんだって。
カラオケも考えたけど、先輩が苦手だと思ったのでやめておいた。|
私的《わたしてき》にはウィンドウショッピングがおすすめなんだけど。
お互いの好みが分かるし、新作もチェックできるし、楽しいと思うけどな。
でも、男の子の事はやっぱり男の子のほうが詳しいと思うし、古見君に楽しんでもらいたいからゲームセンターを選択したわけ。
まあ、青島でウィンドウショッピングなんてすぐに終わっちゃうのも理由なんだけど。
「どうですか? 男の子ってゲーム好きだと思って、無難な場所を選んでみました」
「ゲームセンターって久しぶりだな」
古見君は懐かしそうにゲームセンターを見つめている。古見君の表情から見て、嬉しそうだし、選択は間違っていなかったみたい。
「寄り道でゲームセンターくらいなら問題ないか。時間を守ればいいだろうし」
先輩は相変わらず風紀の事を考えていた。先輩、悩んでばかりだとハゲますよ?
先輩の誕生日にはチャップ○ップをプレゼントしてあげよう。
「……」
滝沢さんは何も言わない。
何も言わないということは賛成と判断させていただきます。
「では、いきましょうか!」
私達はゲームセンターに入った。
ゲームセンターの中に入ると、色んな騒音と数々のゲーム機が私達を迎え入れてくれた。
この不協和音を聞くと、ゲームセンターにきたって感じちゃう。
ビデオゲームの筐体だけでなく、各階に色んなゲーム機が設置されている。
UFOキャッチャー、プリクラ、レースゲーム、コインゲーム……色々あり過ぎて何から遊んでいいか困るよね。
私達はそれぞれの階のゲーム機を見て回った。
巨大スクリーンには競馬の画面が映し出されている。ダーツやバスケット、エアーホッケーなんかもあって……ああっ! ワ○ワニパニック! 懐かしい……。
昔、ちっちゃかった弟の剛が飛び出すワニを見て、泣いていたんだっけ。
泣きじゃくる剛に私は剛の後頭部を抑えて、剛の頭をワニにかませようとぐいぐいと押していた。
剛は大泣きしていたけど、私は大笑いしていた。心安らぐエピソードだ。
小さい子供から大人まで楽しめるファミリー向けのゲームセンター。やるじゃん、青島!
ゲームセンター内は学校帰りの生徒達がたむろっている。不良もいるけど、楽しそうに遊んでいた。
みんなが楽しめる場所。これぞゲームセンター!
私もゲームセンターに来るのは久しぶり。ちょっと楽しくなってきた。
「さて、何から遊びましょうか? 古見君、何かリクエストある?」
「……あ、あれはどうかな?」
古見君が指差したのはパンチングマシーンだった。やっぱりボクシング部だよね。自分のパンチ力を知りたいのかな? それとも自信があるのかな?
「それなら、私も参加しますよ! 先輩もやりましょうよ! 先輩のパンチ力、みせてください!」
「分かった。滝沢さんもいいか?」
「……」
滝沢さんは先輩達に顔を合わせようとせず、返事もしない。カンジ悪いな、滝沢さん。
反対の声はないので、パンチングマシーンから遊ぶことにした。
ゲームの画面にはアメコミのヒーローみたいな人が映っている。お金を入れると、アクセントのある声で私達にルール説明してくれる。
へえ、パンチングマシーンってただパンチ力を測るだけじゃないんだ。ストーリーも面白そう。
ルールはワンステージ、三回チャレンジできる。三回の合計ポイントがステージクリアに必要なポイントを超えていればステージクリアで次のステージにいけるみたい。
「ねえねえ、誰からやる? やっぱり、古見君やりたい?」
「公平にじゃんけんして決めるのはどうかな?」
私達はじゃんけんで順番を決める。滝沢さんは私達から少し離れている。参加する気はないみたい。
「では、三人で! じゃんけん……ぽん!」
先輩と古見君はグーで私はパーだ。
勝った! 私が一番。
画面にうつっているのはチンピラだ。ステージの最初っぽい雑魚キャラだよね。
パンチングパットがゆっくりと起きる。
私はグローブをはめて、軽く体を動かす。よし! やるぞぉ! 私はちょっと助走をつけて、体ごと思いっきり殴りつけた。
ダイナマイト○ンチ!
「HITS!」
チンピラの顔がちょっとだけ腫れあがる。
ポイントは30と表示された。
三回で合計100だから三分の一か。
「後はお願いね、古見君」
「うん、任せて」
私はグローブを古見君に渡す。古見君の腕は私と同じくらい。どんなパンチ力なんだろう。
「ねえ、ひなた。次、私にやらせて」
ずっと黙っていた滝沢さんが古見君からグローブを奪い取る。
「滝沢さん。じゃんけんに参加しなかったくせに、勝手に割り込まないでくれるかな?」
「伊藤、落ち着け。いいじゃないか」
先輩になだめられ、私は頬を膨らませながら、仕方なく引き下がる。
滝沢さんは画面を睨みつけ、パンチングパットにグローブをたたきつける。
「HITS!」
不良の顔がさっきよりも大きく腫れあがる。
ポイントは……40!
滝沢さんが勝ち誇った顔をしている。
く、悔しい。
「先輩~! 仇をとってください!」
「いや、次は古見君だろ?」
もう、空気読んでよ、先輩!
古見君がグローブを付ける。残り30ポイントでクリアだ。余裕だと思うけど、まさか、30に届かないってことはないよね?
古見君がファイティングポーズをとり、軽くリズムを刻む。気負うことなく、右ストレートで殴りつけた。
あれ? それだけ? パンチは早かったけど、あまり威力がなさそう……。
「HITS!」
チンピラがぶっ飛ばされ、星になった。これってクリアだよね。やった!
動きも最小限で地味なパンチだったけど、どのくらいなんだろう。
ポイントは……90!
「す、凄い! 凄いよ、古見君! 私、古見君のこと怒らせないように気を付けるよ!」
だって、私の三倍だよ! もしかして、古見君って強いの?
「そんなことないよ。こういったゲームは、コツがあることを獅子王先輩から教えてもらったし」
「そうなんだ。私もコツさえつかめたら90はいくかな?」
「コツをつかんで、必要な筋肉を鍛えたらできるよ」
そっか。
よし、鍛えてみようかな。先輩に腕力で復讐したいし。今日、先輩が私にした仕打ち、絶対に忘れませんからね。
古見君と仲良く話していると、険のある声が割り込んできた。
「お世辞だってこと、分からないの?」
もう! なんで滝沢さんはテンション下がること言うのかな? 雰囲気悪いんですけど。
「伊藤、次のステージが出たぞ。次は俺の番だよな?」
先輩、嬉しそうですよね。空気読めてない。本当にマイペースなんだから。
私は肩を回している先輩をみて苦笑してしまう。
先輩のパンチ力ってどうなの? 私と先輩の差ってどれくらいなのかな? 私のふとももくらいある先輩の腕を見ながら、そんなことを考えていた。
先輩はゆっくりと構え……目にも止まらないスピードでパンチングパットを殴りつけた。
「……」
うわ……。
画面に出たポイントを見て、ドン引きしちゃった。先輩は表情に出さないようしているけど、バレバレですよ。
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