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十一章
十一話 アネモネ -恋の苦しみ- その十
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「あっ痛ったたたたたたったたたたたたたたたたたたたたたたた!」
痛い痛い痛い痛い!
私はあまりの痛みに座ったまま、机に寝そべってしまう。机をバンバン叩き、降参する。
な、何なの? ママが指をからめたと思ったら、激痛が襲ってきた。
痛い痛い痛い痛い! 指が指が指が! 痛い!
「ごめんなさいは?」
「ごめんなさい許してくださいもう言いません勘弁してくださいもう二度と貴方様には逆らいません一生のお願いです助けてください」
「ふう、仕方ないわね」
ママが手を放した瞬間、私は痛みで地面を転げまわった。
「ほのかぁああああああ!」
「ね、ねえちゃぁああん!」
「た、剛……パパ……なんでもっと早く言ってくれないの……恨むわよ」
痛すぎて涙が止まらない。
こんな痛みはじめて知った。
なんなの、もう! 古見ママもそうだけど、身内に半端なさすぎでしょ! 手加減って言葉、駅のホームにでも置き忘れちゃったのって言いたくなる。
「子供なんだから親に迷惑かけて当たり前でしょう? 大人ぶってるんじゃないの。それに子供の迷惑を受けとめるのが親の役目でしょうに。勝手に大人になってるんじゃないわよ」
「む、無茶苦茶だよ」
私は涙目で抗議するけど、ママは取り合ってもらえない。
「当たり前じゃない。子供を相手にするっていうのはね、全力で体当たりするくらいの勢いがないと体がもたないのよ。余裕ぶってる余力なんてないわ。知らないの? 母は強しって言葉」
今知ったよ。強すぎでしょ、ママは。もしかして、ママ達が連合を組んだら、青島は制覇されちゃうんじゃない? 最凶の族、誕生じゃない。
現実って、本当に甘くない。痛いことだらけだよ。
「それで、ほのかはどうするの? 悩みを解決する方法、あるの?」
「どうって……言われても」
どうするって言われても、私が教えてほしいくらい。私がやってきたことなんて、全部裏目にしかでない。だったら、どうしようもないじゃない。
だから、答えが言えなかった。
「そう、なら悩みなさい」
「そんな無責任な!」
悩んでるから! 絶賛進行形で! 本当に分からないから辛いの我慢しているのに。ママは私と立場が違うからそんなこと言えるの。
っ! なんだろう、今、胸の奥が少し痛んだような?
「無責任じゃないわよ。ほのかはもう子供じゃないんだから、自分で答えをみつけなさい。自分で出した答えなら、前に進んでいけるでしょ?」
さっきまで子供扱いしていたくせに、本当に勝手なんだから、ママは。都合よすぎでしょ!
自分が出した答えが間違っているから、前に進めないんじゃない。自信を持てないんじゃない。
「自分の答えが間違っていたら?」
「どうして間違いだって思うの?」
「だって、みんな間違いだって言うし、認めてくれない」
なんだろう、この言葉、以前にも……。
「なら、ほのかが自分の意見は正しいと証明してみせなさい。誰かに否定されるのが怖いなら、相手から否定されないよう、受け入れてもらえるように頑張りなさい」
頑張れか……頑張っても辛いだけじゃない。
報われないことのほうが多いよ。
「ほら、またすぐ諦めた顔をする。ほのか、すぐに嫌なことがあったら逃げ出すクセ、治しなさい」
ママは優しく私を抱きしめてくれた。
ああ、ママの匂いだ。落ち着く。私はぎゅっとママを抱きしめ返した。
いつもそう。
私がいじめられたときも、泣いているときも、ママは私をやさしく抱きしめて、慰めてくれる。
この年でママに甘えるなんて恥ずかしいことだけど、今はそのぬくもりが何よりも私を癒してくれる。
ほんの少し、力がわいてくる。
「私にできるかな? 私、弱虫だから、バカだから……何もできないんじゃないかな? 迷惑かけちゃうよ、きっと」
「そんなことないわ。誰かのために頑張ることは悪いことじゃない。でも、余計なおせっかいだってこともある。それを見極めなさい」
「……無理だよ。私、失敗ばかりしている。それに怖いの」
失敗するのが怖い。嫌われるのが怖い。どんなに努力しても報われないことが怖い。怖いから足がすくんで何もできなくなる。
怖い思いをするくらいなら、最初から何もせずに見て見ぬふりをしていたい。
「やめてよ! 伊藤さんに何がわかるの! 僕達のように同性が好きじゃないくせに! 伊藤さんはちゃんと異性の人を、藤堂先輩が好きなんでしょ! 全然違うよ!」
「やっぱり、伊藤さんはただBLが好きなだけじゃない! 好奇心でこれ以上、接してこないで! 伊藤さんが納得いかないから何? 伊藤さんに、僕達の恋なんて関係ないじゃない! 勝手に自分の考えを押しつけないで! 迷惑だよ!」
古見君の言葉が思い浮かぶ。そっか、私……古見君と同じことを思っているんだ。
やっと、私は古見君の気持ちが分かったような気がした。そうだよね、古見君と私の立場は違うし、辛いことがあると人に当たっちゃうよね。
私は古見君の不安な気持ち、何も分かっていなかった。情けなくて気持ちがどんどん沈んでいく。
「大丈夫よ。失敗しても、母さんが何度でもほのかを抱きしめてあげるから。頑張っている人間に頑張れって言うのは負担になってしまう。それでも、私は応援する。だって、私はほのかの母親だから。子供には甘やかして、厳しくする。それが私流の母親なのよ」
「……全然意味分からない」
甘やかして厳しくするなんて相反している。それなら最初から甘やかしてほしい。
「そうね、努力したって分かってもらえないものは仕方ないの。でもね、ほのか。人は大切なものほどあきらめが悪くなるの。私はほのかと剛のことは、分かりあえるまで絶対にあきらめたくない。母親としてね。母親が子供を理解するのをあきらめたらもう、母親でなくなるわ。そんなこと、絶対に嫌なの。だって、私はほのかも剛も愛しているから。だから、誰にもほのかと剛の母親を譲る気はないわ」
「……うん。私のママはママがいい」
ありがとう、ママ。慰められたおかげで、余裕が出てきた。だから、考えなきゃ。
私は古見君達のことをあきらめたくない。
恋愛で哀しい結末なんて、納得いかない。それが私の誰にも譲りたくない想いだ。この想いは先輩にだって否定されたくない。
甘い考えだって笑われてもいい。
それでも、悲しい結末を納得しなきゃいけないっていうのは間違っている気がする。
だって、私にとって恋愛は人を幸せにしてくれるものだって信じているから。憧れだもん、譲れない、譲りたくない。
古見君達のことも、先輩のこともあきらめてたくない。欲張りの何が悪いの? やっぱり、ハッピーエンドが一番ですから!
だから、もう少し、もう少しだけ、頑張ってみよう。
「……私、頑張ってみる」
「そう……でも、失恋したら、相手のことはきっぱりとあきらめなさい。ストーカーはよくないわ」
「なっ! なんでそうなるの! それにどうして私の悩みが恋愛だってわかるの!」
「ほのかに、か、かれぴだと! 認めんぞ! 父さん、絶対に認めないからな!」
私の抗議を遮るように、パパが猛抗議してきた。
「もう! パパは黙ってて! 彼氏のことじゃない! いや、あってるけど。ママ! 言ってることが全然違うじゃない! あきらめたらダメなんでしょ!」
「それはケースバイケースよ」
便利だよね、ケースバイケースって!
もう、せっかくのいい話が台無し! でも、元気は出た。
ありがとう、ママ。
「ほのか! 父さんの話を!」
「うるさい!」
痛い痛い痛い痛い!
私はあまりの痛みに座ったまま、机に寝そべってしまう。机をバンバン叩き、降参する。
な、何なの? ママが指をからめたと思ったら、激痛が襲ってきた。
痛い痛い痛い痛い! 指が指が指が! 痛い!
「ごめんなさいは?」
「ごめんなさい許してくださいもう言いません勘弁してくださいもう二度と貴方様には逆らいません一生のお願いです助けてください」
「ふう、仕方ないわね」
ママが手を放した瞬間、私は痛みで地面を転げまわった。
「ほのかぁああああああ!」
「ね、ねえちゃぁああん!」
「た、剛……パパ……なんでもっと早く言ってくれないの……恨むわよ」
痛すぎて涙が止まらない。
こんな痛みはじめて知った。
なんなの、もう! 古見ママもそうだけど、身内に半端なさすぎでしょ! 手加減って言葉、駅のホームにでも置き忘れちゃったのって言いたくなる。
「子供なんだから親に迷惑かけて当たり前でしょう? 大人ぶってるんじゃないの。それに子供の迷惑を受けとめるのが親の役目でしょうに。勝手に大人になってるんじゃないわよ」
「む、無茶苦茶だよ」
私は涙目で抗議するけど、ママは取り合ってもらえない。
「当たり前じゃない。子供を相手にするっていうのはね、全力で体当たりするくらいの勢いがないと体がもたないのよ。余裕ぶってる余力なんてないわ。知らないの? 母は強しって言葉」
今知ったよ。強すぎでしょ、ママは。もしかして、ママ達が連合を組んだら、青島は制覇されちゃうんじゃない? 最凶の族、誕生じゃない。
現実って、本当に甘くない。痛いことだらけだよ。
「それで、ほのかはどうするの? 悩みを解決する方法、あるの?」
「どうって……言われても」
どうするって言われても、私が教えてほしいくらい。私がやってきたことなんて、全部裏目にしかでない。だったら、どうしようもないじゃない。
だから、答えが言えなかった。
「そう、なら悩みなさい」
「そんな無責任な!」
悩んでるから! 絶賛進行形で! 本当に分からないから辛いの我慢しているのに。ママは私と立場が違うからそんなこと言えるの。
っ! なんだろう、今、胸の奥が少し痛んだような?
「無責任じゃないわよ。ほのかはもう子供じゃないんだから、自分で答えをみつけなさい。自分で出した答えなら、前に進んでいけるでしょ?」
さっきまで子供扱いしていたくせに、本当に勝手なんだから、ママは。都合よすぎでしょ!
自分が出した答えが間違っているから、前に進めないんじゃない。自信を持てないんじゃない。
「自分の答えが間違っていたら?」
「どうして間違いだって思うの?」
「だって、みんな間違いだって言うし、認めてくれない」
なんだろう、この言葉、以前にも……。
「なら、ほのかが自分の意見は正しいと証明してみせなさい。誰かに否定されるのが怖いなら、相手から否定されないよう、受け入れてもらえるように頑張りなさい」
頑張れか……頑張っても辛いだけじゃない。
報われないことのほうが多いよ。
「ほら、またすぐ諦めた顔をする。ほのか、すぐに嫌なことがあったら逃げ出すクセ、治しなさい」
ママは優しく私を抱きしめてくれた。
ああ、ママの匂いだ。落ち着く。私はぎゅっとママを抱きしめ返した。
いつもそう。
私がいじめられたときも、泣いているときも、ママは私をやさしく抱きしめて、慰めてくれる。
この年でママに甘えるなんて恥ずかしいことだけど、今はそのぬくもりが何よりも私を癒してくれる。
ほんの少し、力がわいてくる。
「私にできるかな? 私、弱虫だから、バカだから……何もできないんじゃないかな? 迷惑かけちゃうよ、きっと」
「そんなことないわ。誰かのために頑張ることは悪いことじゃない。でも、余計なおせっかいだってこともある。それを見極めなさい」
「……無理だよ。私、失敗ばかりしている。それに怖いの」
失敗するのが怖い。嫌われるのが怖い。どんなに努力しても報われないことが怖い。怖いから足がすくんで何もできなくなる。
怖い思いをするくらいなら、最初から何もせずに見て見ぬふりをしていたい。
「やめてよ! 伊藤さんに何がわかるの! 僕達のように同性が好きじゃないくせに! 伊藤さんはちゃんと異性の人を、藤堂先輩が好きなんでしょ! 全然違うよ!」
「やっぱり、伊藤さんはただBLが好きなだけじゃない! 好奇心でこれ以上、接してこないで! 伊藤さんが納得いかないから何? 伊藤さんに、僕達の恋なんて関係ないじゃない! 勝手に自分の考えを押しつけないで! 迷惑だよ!」
古見君の言葉が思い浮かぶ。そっか、私……古見君と同じことを思っているんだ。
やっと、私は古見君の気持ちが分かったような気がした。そうだよね、古見君と私の立場は違うし、辛いことがあると人に当たっちゃうよね。
私は古見君の不安な気持ち、何も分かっていなかった。情けなくて気持ちがどんどん沈んでいく。
「大丈夫よ。失敗しても、母さんが何度でもほのかを抱きしめてあげるから。頑張っている人間に頑張れって言うのは負担になってしまう。それでも、私は応援する。だって、私はほのかの母親だから。子供には甘やかして、厳しくする。それが私流の母親なのよ」
「……全然意味分からない」
甘やかして厳しくするなんて相反している。それなら最初から甘やかしてほしい。
「そうね、努力したって分かってもらえないものは仕方ないの。でもね、ほのか。人は大切なものほどあきらめが悪くなるの。私はほのかと剛のことは、分かりあえるまで絶対にあきらめたくない。母親としてね。母親が子供を理解するのをあきらめたらもう、母親でなくなるわ。そんなこと、絶対に嫌なの。だって、私はほのかも剛も愛しているから。だから、誰にもほのかと剛の母親を譲る気はないわ」
「……うん。私のママはママがいい」
ありがとう、ママ。慰められたおかげで、余裕が出てきた。だから、考えなきゃ。
私は古見君達のことをあきらめたくない。
恋愛で哀しい結末なんて、納得いかない。それが私の誰にも譲りたくない想いだ。この想いは先輩にだって否定されたくない。
甘い考えだって笑われてもいい。
それでも、悲しい結末を納得しなきゃいけないっていうのは間違っている気がする。
だって、私にとって恋愛は人を幸せにしてくれるものだって信じているから。憧れだもん、譲れない、譲りたくない。
古見君達のことも、先輩のこともあきらめてたくない。欲張りの何が悪いの? やっぱり、ハッピーエンドが一番ですから!
だから、もう少し、もう少しだけ、頑張ってみよう。
「……私、頑張ってみる」
「そう……でも、失恋したら、相手のことはきっぱりとあきらめなさい。ストーカーはよくないわ」
「なっ! なんでそうなるの! それにどうして私の悩みが恋愛だってわかるの!」
「ほのかに、か、かれぴだと! 認めんぞ! 父さん、絶対に認めないからな!」
私の抗議を遮るように、パパが猛抗議してきた。
「もう! パパは黙ってて! 彼氏のことじゃない! いや、あってるけど。ママ! 言ってることが全然違うじゃない! あきらめたらダメなんでしょ!」
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