風紀委員 藤堂正道 -最愛の選択-

Keitetsu003

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三章

三話 言うなぁあああああああああああああああああああああああ! その三

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 寒空の下、俺は待ち人をコートのポケットに手を入れながら待ち続けた。吐く息は白く、すぐに消えてなくなる。
 俺がいる場所は、青島ではなく、本土にあるショッピングモールだ。
 施設内はファッション、雑貨、グルメなど約二百十店が集結し、屋上には緑の多い公園がある。キッズスペースもあり、子供から大人まで楽しめる。
 俺達田舎者からしたら、このショッピングモール自体が一つの街に思えてくる。
 普段の買い物なら青島で十分事足りるが、プレゼントとなるとこちらの方が選択肢が多いとのことで、武蔵野に勧められたのだが。

「藤堂先輩、あのバカはまだ来ませんの?」
「……まだだ。提案者が遅れてくるってどういう神経してるんだ?」

 そう、武蔵野がまだ集合場所に来ていない。時間は十分遅れている。俺はため息をついた。
 俺は集合時間十五分前、黒井は五分前についている。だが、武蔵野がまだ来ない。携帯にかけてみたがつながらず、なんの音沙汰おとさたもない。
 遅れてくるのはいい。予定通りにいかないことなどよくあることだ。しかし、遅れてくるのなら、連絡くらいいれろといいたい。
 でなければ、何の対処もできないだろうが。それに、黒井の事もある。
 黒井が一人で集合場所に来た時、俺はつい黒井に確認した。なぜ、一緒に来なかったのかと。
 黒井は疲れたようにため息をつき、

「待ち合わせ場所に一緒に行くと、デート気分が味わえないと言われましたの」

 何を考えているんだ、アイツは。アホか。
 義妹相手に何がデートだ。しかも、遅れている。それに付き合わされている黒井に、俺は心底同情した。
 黒井は俺の隣のベンチに座っている。俺は立ったまま、武蔵野が来るのを待っていた。

 黒井の服装はファータッチコートに白のニット、タイツ、ショートパンツ姿は少し大人びた雰囲気をかもし出し、周りの男がちらほらと黒井に見惚れている。
 黒井はそんなことはお構いなしに、ただつまらなさそうに空を見上げていた。
 黒井とは御堂の事や伊藤の事もあるので、仲は最悪だろう。
 お互い過去の事は知っているが、それだけで何も話すことはない。共通の話題などないし、嫌われているから会話は不可能だろう。
 さっさときやがれ、武蔵野。

「藤堂先輩はどうですの? 新しい家族は」

 俺は黒井に話しかけられたことに内心、驚きながらも、本心を告げる。

「うまくいっていたら、俺はここにはいない。それに、上春を家族だなんて思ったことはない」
「そうですわね」
「黒井はどうなんだ? うまくいっているのか?」

 黒井は何度目になるのか、疲れたようなため息をつく。寂しそうな自嘲した笑顔に、俺は余計な事を言ってしまったと後悔した。

腫物はれもの扱いですの」
「腫物?」
「そうですの。父も新しい母も、私に気遣うような態度で接してきますの。家族なのに人の顔色を伺いながら生きていくのは、息苦しくて……窮屈きゅうくつで仕方ありませんわ」

 そうだろうな。
 きっと、黒井の父親、武蔵野の母親は黒井と仲良くしたいが、どう接していいのか分からないのだろう。
 だから、よそよそしくなる。それが子供にとってわずらわしく感じるのだ。
 俺も感じたことがあるから分かる。これは悪循環だ。

 学校でストレス発散ができればいいが、それは難しいと思う。
 友人と遊んだり、話したりはできるが、勉強や人間関係等から、ストレスを感じやすい環境でもある。
 家に帰ってもストレスを感じるとなると、辛い毎日になるだろう。

 黒井は誰かに自分の気持ちを話せる相手はいるのだろうか?
 話せる相手がいるだけでも気が楽になるのは、武蔵野と知り合ってから重々感じていた。
 黒井にもそういった相手がいればいいのだが。

「でも……」
「でも?」

 黒井は呆れたように笑っている。きっと、武蔵野の事を考えているのだろう。
 武蔵野は基本、やりたい放題だ。相手の顔色を伺う節はあるが、自分のやりたいこと、思った事を口にするので、友人のような感覚に陥りやすい。
 黒井の両親に感じる煩わしさと、武蔵野に感じる煩わしさは大きく違う。武蔵野の煩わしさは仕方ないなと思いつつ、許せてしまうのだ。
 俺にも武蔵野のような、能天気な人物に心当たりがあるので、つられて笑ってしまう。

「あの人はどういう人ですの? つかみどころがないというか、なんというのか……」
「俺も同意見だ。悪いヤツではない。それでも、アイツとは対峙する時がくるかもしれない。そんな予感がするんだ。でも、そのときがくるまでは……武蔵野とはうまくやっていけたらと思う」
「珍しいですわね、藤堂先輩が誰かと仲良くやりたいだなんて」

 自分でもそう思う。風紀委員をやっていると、目に映った相手が問題児かどうか、つい判断してしまう癖ができた。それ故、相手が厄介な相手か、そうでないかの二パターンしかなかった。
 誰かと仲良くなりたいと思ったのは久しぶりだ。理由はやはり……。

「お節介なヤツだからな。それにこっちが話さないと、いつまでも話を止めない。仕方なしに話をしていたら、気分が楽になるというか……まあ、なんだ。うまく言えないが、そんな感じだ」
「全然分かりませんわ」

 そう言いつつも心当たりがあるのか、黒井は苦笑している。本当に厄介で俺達を振り回すヤツだ。

「おおーい! お待たせ!」

 やっと来たか……。
 武蔵野はようやく俺達の前に現れた。全く、連絡もなしに遅刻してくるとはいい度胸をしている。

「……遅い。何分待たせるつもりだ」
「おいおい。ここは定番の今来たところだろ?」
「それは女性が来た時に男性がいうセリフですの。今日のお昼は奢りですわね」

 武蔵野は苦笑いを浮かべ、頭の中で所持金と相談していることだろう。

「……正道、お前には奢らないからな」
「別にいい」

 遅刻程度でご飯をおごってもらおうとは思っていない。それより謝罪しろ、謝罪。

「そっか。遅れて悪かった! 女の子に声をかけられて、なかなか離してくれなくてさ。大変だったってわけよ」
戯言ざれごとはいいですの。さっさと行きますわよ」

 黒井は武蔵野に背を向け、歩き出す。武蔵野は慌てて黒井の後を追いかける。

「お、おい! 待ってくれよ、麗子」
「……待て」

 俺は二人を呼び止めた。二人は怪訝そうな顔で俺を見ている。

「なんだよ、正道。眉間みけんにしわを寄せて……まだ怒っているのか?」
「違う。武蔵野、なぜ遅れてきた?」

 武蔵野は呆れたように俺を見ている。黒井も早く暖かい室内に入りたいと思っているのでうんざりしている。
 だが、確認せずにはいられなかった。なぜなら……。

「おいおい、正道。理由はちゃんと言っただろ? 女の子が……」
「喧嘩してきただろ?」

 俺の言葉に黒井は目を丸くし、武蔵野は笑顔のまま表情を変えない。
 俺と武蔵野はお互い睨みあう。

「してないって。デートの日にまで喧嘩するほど、俺は暇じゃないぜ」
「はあ……隠すなら、そでの返り血を消すべきでしたわね」

 黒井の指摘に武蔵野の笑顔がくもっていく。

「いや、これは怪我してさ……」
「どこを怪我した? 見せてみろ」

 言い逃れができないと感じたのか、武蔵野は両手を上げた。

「……参った、降参だ。お前たち、刑事か何かか?」
「風紀委員だからな。喧嘩したヤツはどうなるのか、よく知っているだけだ」

 武蔵野に怪我した様子はない。手も綺麗だ。だが、ジャケットについた血は気が付かなかったようだ。
 人を殴ったときにつく返り血は案外分かりにくい。特に鼻血はよく飛ぶからな。
 それでよく、義信さんや楓さんに心配をかけた。その教訓がここで活かされるとは不思議なものだ。

「別に喧嘩を売ったわけじゃないぜ。逆に喧嘩を売られたんだ」
「喧嘩を売られた?」

 武蔵野は肩をすくめ、何があったのかを話し出す。

「そうだよ。なんか、新しい最強チームだとか、青島を征服するとか言ってたな。俺達が新しいルールだとかなんとか。鬱陶うっとうしいから、殴ってきた」
「……」

 俺と黒井は無言で目を合わせる。
 新しいチーム?
 別に不良がチームを作るのは珍しくない。青島はそういうところだ。だが、なぜが胸騒ぎがする。

 俺は左近にメールで報告しておくことにした。嫌な予感だけでメールしたわけではない。相手が一般人を襲ったからだ。
 不良同士の喧嘩なら急ぎで連絡しなくてもいいのだが、一般人なら話は別だ。
 被害が出ている以上、無視することはできない。次は青島の生徒かもしれないからな。

「なあ、もういいだろ? 今日は上春ちゃんとの仲直りの為にプレゼントを買いに来たんだ。いつまでも不景気面しても意味ないぜ、楽しくいかなきゃな」
「……そうだな」

 俺は近々、不良の抗争に巻き込まれる予感を感じながら武蔵野の後を追った。
 そのとき、武蔵野は俺の味方なのか? それとも……。



 ショッピングモールの入り口にたどり着いた俺達三人を迎えてくれたのは、クリスマスの飾りだった。華やかなイルミネーションとクリスマスソングが鳴り響ている。
 クリスマスイヴ前日の休日のせいか、午前中でも人通りが多い。家族や恋人達が明日のクリスマスの準備に心躍る気分なのだろう。彼らが羨ましい。
 俺といったら……。

「おい、正道」
「なんだ、武蔵野」
「なぜ、ここで立ち止まる?」

 そう、入り口から一歩も進めないでいた。理由は、上春に何をプレゼントしていいのか皆目かいもく見当けんとうがつかないからだ。
 女の子にプレゼントしたことのない俺に、どうしろというのだ。
 それに女の子にプレゼントを渡すこと自体、恥ずかしい。俺の柄ではない。
 一応、プレゼントの候補はあるが、ここは女性慣れしている助っ人……というよりも無理やりついてきた武蔵野に期待しているのだが。

「正道、まさか、俺達が案内するとでも思ったのか?」
「違うのか?」
「ちげーよ! いいか、正道。正道に女の子受けするプレゼントは期待していない。何を期待していると思う?」

 期待だと? 思いつくのは……。

「大男の俺が、年下の女子のプレゼントを必死に探す滑稽な姿か?」
「……お前、どこまで悲しいヤツなんだよ。一生懸命頑張るヤツを俺は笑いはしない。もちろん、いい女もだ。一生懸命頑張ることに意味があるんだよ」
「?」

 やれやれと言いたげに黒井が俺達の会話に割り込んできた。

「私もこの人の考えに賛成ですの。上春は自分の為に選んでくれたものなら、なんでも喜びますの。プレゼントの内容よりも過程を大事にする子ですわ。だから、クリスマスプレゼント人気ランキングに出てくるものを買えばいいなんて、思わないことですの」
「……なぜ、俺が買おうとしたものを予測できた?」
「「はあ……」」

 な、何が悪い。人気だから喜んでもらえるはずだろうが。
 一生懸命考えて出した答えが参考書だったら、上春が喜ぶとは全然思えないぞ。逆にブチキレるはず。
 一応、参考書を選んだ理由はある。以前、上春と一緒に勉強した時、成績に自信がないようなことを言っていた。
 だから、いい成績がとれるよう、進学する大学に入学できる確率を上げる為、参考書を思いついたわけだ。

 俺の考えを二人に話しても、きっとバカにされるだけなので黙っていることにした。
 どうでもいいが、二人とも仲よくないか? 息ぴったりだろ?
 入り口から当てが外れてしまい、途方に暮れてしまう。テディベアをプレゼントすれば万事OKだと思っていたのに……。

「まあ、いろんな店を見て回ろうぜ。きっといい案が思いつくだろ?」
「それでいいのか? もっとプレゼントの候補を絞るべきじゃないか?」
「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるって言葉、知らないのか?」

 武蔵野のいい加減な提案に俺は眉をひそめてしまう。

「……絶対に使いどころが違うと思うのだが……」
「早く行きますわよ。ここに突っ立っていても、仕方ありませんの」

 俺は渋々先に進む二人についていく。
 店の商品を見て思ったのだが、どれも工夫しているというか、クリスマスプレゼントとしては質が高いような気がする。
 デザインもクリスマスにマッチしていいと思うし、どれをプレゼントしてもいけるような気がしてきた。
 だからこそ、難しい。この中で上春が望むプレゼントはどこにある?
 きっと、プレゼントした内容は上春の事をどこまで理解しているのかが求められるはず。

 武蔵野達曰く、どんなに安物でも、上春に必要なものだったらそれでいいとのことだ。たとえば、この季節乾燥しやすい。
 上春の喉の調子が悪かったら、のど飴をプレゼントすることで、私の事をちゃんと見てくれている、優しいと思ってくれるのだろう。勝手な憶測だが。

 逆に高価なものでも、上春が全く望んでいなかったら意味がない。
 上春が欲しいもの……ダメだ、まったく思いつかん。
 参考書ではダメだろうか? ダメなんだろうな……。

 くそっ! こんなことなら、もっと上春と話しておくべきだったか? それか上春信吾か強にリサーチするべきだったか。二人は上春の家族だし、欲しいものも容易に想像がついたはず。
 今更後悔しても仕方ない。考えるんだ。

「なあ、正道。お前、いつまで親からクリスマスプレゼントもらった? どんなものもらってた?」

 武蔵野の質問に、何が言いたいのか理解できた。俺はいったん考えをまとめる為にも、自分の事を思い出してみる。

「……小学四年生まで本を貰っていた」
「中途半端だな。小学四年生って何かあるのか?」
「別に……高学年になるから子供扱いしない、だったかな」
「体の良い断り文句だな」
「まったくだ」

 クリスマスプレゼントがもらえなくなったことで、一気にクリスマスの期待度が下がったのを覚えている。
 ケーキやチキンが食べられるメリットはあったが、やはりクリスマスはプレゼントをもらってなんぼだ。

 今はプレゼントよりも、美味しい御馳走を楽しみにしている。食べるだけでなく、普段は作らないクリスマスの料理を楓さんと一緒に作るのは結構新鮮な気持ちになれるからだ。

「本は何を貰いましたの?」

 本に興味があるのか、黒井が質問してきた。俺はどんな本を貰ったのか、思い出してみる。

「確か……『子うさぎましろのお話』だったかな。クリスマスに貰う本は意外に面白くて、まだ家に残っている。親からクリスマスに貰うのは本だけだったから、クリスマスは本を貰うのが定番だと感じるな」
「素敵な話ですわね」

 黒井の感想に武蔵野がつまらなさそうにツッコミを入れる。

「そうか? 正道、本音を言えば、ゲームとか自転車とか、そういったものが欲しかっただろ?」
「まあな。クラスメイトがそういったものを貰ったって自慢していたのを聞くと、羨ましいと思ったな」

 なぜ、自分の家は本なのか? そんなくだらないことで親を恨んだことはあるが、親に捨てられた怒りと悲しみに比べたら、贅沢な悩みだった。
 きっと、親に期待していたからこそ、恨んだのだ。
 親の愛情も、プレゼントももらえて当たり前だと思っていたガキの頃にはもう戻れない。
 今はあの女と同じ空間にいるだけで、不快な気分になってしまう。そんな俺があの女とうまくやれるとは到底思えない。
 俺は胸に湧き上がる黒い感情を抑え込む。

「確かに。こういったところで家族の色というか、家族独特のものがありますの」
「そうだな。ちなみに黒井達はどうだったんだ?」

 話の流れからごく自然にプレゼントを聞くことができた。特に黒井が何を貰っていたのか興味がある。この中で唯一の女子だからだ。
 上春に渡すプレゼントで一番参考になるだろう。

「私は花とぬいぐるみですの。メリーソート社のテディベアをもらいましたわ」

 やはりテディベアは有力候補だな。ランキングも一位だったし。なら、それで問題ないような気がしていた。

「俺は服だったな。好きな服を買ってもらった」
「服?」

 これまた妙なプレゼントだな。
 武蔵野の服装はチェスターコートにクルーネックスウェット、ロング丈カットソー、黒スキニー、3ホールシューズ、クロスペンダントネックレス。おしゃれだと思う。
 服を貰うということは、親はファッション関連の仕事にたずさわっているのだろうか?

 やはり、クリスマス一つとっても家族が関連してくる。生活に家族が大きく関わってくるからだ。本当に厄介だな、家族は。
 必ずどこかで家族と結びついてしまう。これでは忘れたくても、忘れられないではないか。
 そう思いつつ、俺達はクリスマスプレゼントを探しに店を見て回っていた。
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