風紀委員 藤堂正道 -最愛の選択-

Keitetsu003

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二章

二話 だからだろうが! その三

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「あ、あの! そろそろお昼にしませんか!」

 上春の突拍子のない提案に、俺達は目を丸くした。
 注目が集まるなか、上春は顔を真っ赤にさせ、それでも真っ直ぐに俺達を見つめている。

「もう、止めにしませんか? 今すぐ結論を出す必要はないと思います。兄さんは私達が責任を持って更生させますから」
「更生? 何様なの、アンタ? ただの再婚相手の連れ子か余計な口出ししないで」
「それはこっちの台詞です。たまにしか帰ってこない人達が、兄さんに……家族に……意見しないでください」

 俺は大きく目を見開いた。上春らしくない、苛烈な言葉だったからだ。
 上春は更にたたみかける。

「家族は一朝一夕でなるものじゃありませんから。長い時間を掛けて、家族になっていくんです」

 上春の言葉に、菜乃花は喧嘩越しで突っかかっていく。

「それはアナタの妄想でしょ? 世間知らずのお嬢様が頭の中で思い浮かべたお花畑のような夢物語ね。話していて恥ずかしくないの?」
「恥ずかしくありません。事実ですから」
「説得力がないんですけど」

 お、おいおい、上春。なんでそんなにムキになっているんだ?
 いつもの上春と違う雰囲気に俺は違和感を覚える。
 俺の心配など余所に話しは続いていく。

「体験談ですので実績はあります」
「体験談? なにそれ?」

 不味い。二人ともヒートアップしている。
 上春は普段大人しいが、頭に血が上ると大胆な行動に出る。

「私の家族は……」
「もういいだろう。正月早々、ぎゃーぎゃ騒ぐな」
「「あんたが言うな!」」

 やぶ蛇だった。
 女ってヤツはどうして仲違いしていても、相手を攻撃するときは息がぴったりなんだ? バツが悪い。
 ただ喧嘩を止めたかっただけなのにな。きっと、アイツがいたら、空気読んでくださいって言うんだろう。
 そんなありえないことを考えていた。

「まあまあ、落ち着こう。僕も正道君に賛成。正直、菜乃花が正道君を贔屓ひいきしている姿を見ると嫉妬しちゃうよ」

 総次郎さんの率直な意見に俺はつい苦笑してしまう。
 だよな。娘が他の男を擁護ようごしている姿を見せつけられるのは気分が悪いよな。

「はあ……仕方ないわね。さっさと食べさせて」
「……悪い、ちょっと待ってくれ」
「はぁああ~?」

 菜乃花が俺を、アホを見るような目つきで睨んでいる。せっかく譲渡してやったのに、水を差すなと言いたいのだろう。
 し、仕方ないだろうが。もう、忘れるわけにはいかない。

「もう一人いるんだ。そいつが帰ってきていない。もうすぐ帰ってくると思うから、それまで待ってくれ」
「強のことは忘れていないんですね。私のことは忘れてそうですけど」
「……安心しろ。そんなキャラじゃねえよ、お前は」
「……その間とキャラってところが気になるんですけど」

 上春を怒らせてしまったようだ。完全に拗ねてやがる。
 面倒くさい正月になりそうだと、俺は心の中でため息をついた。



 がらがらがら。

 しばらくして、玄関から戸を開ける音が聞こえてくる。強が帰ってきたのだろう。
 俺は席を立ち、お雑煮とご飯の準備を始める。

「はあ……ようやくお出ましね。私達を待たせるとは、とんだ居候いそうろうね、あなたの弟は。ヒーローでも気取ってるの?」

 菜乃花の強烈な皮肉に、上春は黙って席を立ち、俺と同じくご飯の準備を始めた。

「兄さん……私、あの子苦手です」
「見れば分かる」

 菜乃花の中で上春は完全に敵と認識されているな。しかも、強が帰ってくるまでおせちはお預けなのだ。怒りたくもなるだろう。

「それと、怒ってもいます」
「悪いが、俺は菜乃花の苦情窓口じゃないぞ。本人に言ってくれ」
「だから、本人に言っているんです。なんですか、赤の他人って。私、兄さんの事、見損ないました。あっ、見損なっても別にかまわないとか、空気読めないこと、言わないでくださいね」

 俺に苦情かよ。
 俺が誰をどう思うと勝手だろうが。日本国憲法第19条、思想・良心の自由を知らないのか、コイツは。
 上春は恨めしそうに俺を睨みながら、雑煮を温める。

「兄さんはもっと、人と仲良くなる努力をするべきです。先に言っておきますけど、どうして、俺が仲良くなりたくもないのに、俺から下手したでに出なければならないんだ? 納得いかないって言わないでくださいね。兄さんが努力すれば、親孝行にもなるんですから」
「おい。どうして、俺が女のご機嫌取りなんてしなければならないんだ」
「違います。私の言った両親はおじいちゃんとおばあちゃんの事を言ったんです。兄さんにとって、両親はおじいちゃんとおばあちゃんの事でしょ? やっぱり、澪さんの事、お母さんだって認めているんすか~?」

 こ、この野郎……揚げ足をとりやがって。
 俺が本気で上春を睨みつけると、上春はさっと顔をそらすが、それでも、恨み言は続く。

「おじいちゃんとおばあちゃんは本当に兄さんの事、気に掛けています。だから、心配しているんですよ。兄さんがいつまでも人を遠ざける態度をとっていることに。兄さんはお父さんと一緒に家族について……自分に欠けているものを取り戻すために『集合体 アグリゲーション 』に参加したんですよね? 兄さんはやっぱり、真っ直ぐに行動している方が格好いいです。あっ、別に格好つけているつもりはないとか言わないでくださいね」

 いちいち言わんでいい事ばかり言いやがって……。
 上春は俺が反論する前にそそくさと台所を出て行く。俺はため息をついた。

 義信さんと楓さんに心配を掛けているか……。
 上春の言葉が胸に突き刺さり、気分が重くなる。
 確かに上春の言うとおりだ。変わらなければならない。
 本当は自分の為に行動するべきなのだろうが、そんな気にはなかなかなれないんだよな。

 人との付き合いなんて、親しい者だけで充分だと俺は思っている。
 ある程度距離をとり、当たり障りもなく、お互い傷つける事もなく、深入りする事もない関係が一番だ。
 けれども、俺は何度も人のつながりについて、他人で検証ばかりしてきた。本当は自分が誰かと確固たる信頼関係を築きたいと願っているのに。
 俺の態度が変われば、義信さんと楓さんは喜んでくれるのだろうか? 主旨が違うとは思っていても、そう思わずにはいられない。

 さて、どうしたものか……。
 俺は食器と箸を持ってリビングに行こうとしたとき、強が台所に入ってきた。

「ただいま」
「おかえり、強。手洗い、うがいは済んだか?」
「うん。手伝う」

 俺は強に食器を渡す。
 強くらいだよな、俺や義信さんの言いつけを守ってくれるのは。
 強は俺と境遇が似ている。強なら俺の想いを理解してくれる気がする。
 それでも、強はきっと、両親が迎えに来たら、ここを出て行ってしまうのだろう。ならば、信頼関係など最初から意味がないのでは?

「あんちゃん?」

 不安げに見つめてくる強に、俺はなんでもないと言いたげな態度をとる。
 強は気を遣ってくれて、何も問いかけることはしなかった。本当に聡い子だと思いつつ、俺はリビングに戻った。



「お待たせ致しました」
「待ったわよ……誰かさんのせいでね。居候のくせに何様なの?」

 トントントンと指を机で叩き、不機嫌な表情を全く隠そうとしない菜乃花。
 コイツ、本当に大人げねえよな。いや、ガキか。

「あ、あの、菜乃花ちゃん」

 おおっ、やるじゃないか、上春。弟を護る為、勇気を振り絞って声を掛ける上春の姿に、俺はある種の感動を覚えた。
 だが……。

「ちゃんづけするな、馴れ馴れしい」
「はい」

 上春はすぐさまリモコンをいじり、テレビをつけた。おい、上春。俺の感動を返せ。
 上春はぷるぷると肩を震わせながらテレビから視線をそらすことなく、ぴっぴっとチャンネルを変えていた。
 星占いのチャンネルでとめる。

「うわぁ……兄さん兄さん。双子座のラッキーナンバーは1ですって」

 どうでもいい情報ありがとな、上春。声がうわずっていて、わざとらしいぞ。
 上春は絶対に菜乃花と視線を合わせようともしない。小学生相手にビビるなよ。
 俺はため息をつきつつ、強の盾になることを決めた。

「菜乃花……」
「正道は黙ってて」

 女ってヤツはどうしてこう、先回りするんだ? 何も言えなくなるだろうが。
 だからといって、上春のように引く気はないのだが。
 俺は菜乃花の視界に強が入らないに立ち位置を変えようとしたが、それよりも先に強が前に出てしまった。

「あの……僕のせいで何かありました?」
「ありましたとも! あんたのせいで……」

 不味い!
 強は自分のせいで他人に迷惑を掛けることを極端に恐れている。家族に置いて行かれたのは自分の我が儘のせいだと思い込んでいるからだ。
 はっきり言って、菜乃花の言い分は八つ当たりだ。強が責められるいわれはない。

 強を傷つけるわけにはいけない。たとえ、後で酷い目にあったとしても。
 俺は強を擁護しようとしたとき、ある異変に気づいた。
 菜乃花がぽかんと口を開け、黙り込んでいる。文句の一つもとんでこない。

 なんだ? 何が起きたんだ?
 俺も強も菜乃花も、ここにいる全員がまるで時が止まったかのように動かない。
 本当に何なんだ、この状況は?
 お雑煮の湯気だけが、ゆらゆらと静かにたちのぼっている。

「ね、ねえ、正道君。彼は?」

 意外にも総次郎さんが沈黙を破った。
 総次郎さんは笑っているが、顔が真っ青に見えるのは気のせいか?
 俺は総次郎さんに言われるがまま、強を紹介する。

「上春強です。ここにいる上春咲の弟で、女の再婚相手の子供です。強、ここにいるのは、叔母の古都音さんとその旦那さんの総次郎さん。二人の娘の菜乃花だ」
「……強です。よろしくお願いします」

 強はぺこりと頭を下げる。

「私は尾上古都音。よろしくね、強君」
「……」
「菜乃花、ちゃんと挨拶なさい」
「……尾上……菜乃花です。よろしく……」
「よろしく」

 菜乃花の様子がおかしい。
 頬を上気させ、まるで借りてきた猫のように大人しくなっている。さきほどの勢いは欠片もない。
 風邪か?

「僕は尾上総次郎! 菜乃花の父親をやっています! 僕の目の黒いうちは菜乃花に彼氏なんて認めないんで、よろしく!」
「よろしく」

 総次郎さんはどうしたんだ? 血相を変えて強の手を握って。
 まあ、最悪な事態にならなくてよかった言うべきか。

「兄さん、今、事態が悪化しなくてほっとしていません?」
「人の心を勝手に代弁するな、上春。けど、これで穏やかに食事が出来そうだ」
「はあ……兄さんは本当に分かっていません。最悪です」

 コイツ……いい加減にしろよ。さっきから黙って聞いていれば言いたい放題言いやがって。
 生意気すぎる。

「口が過ぎるぞ、上春。人の親戚と一緒にご飯を食べることが最悪なのか? そんなに嫌なら、お前だけこの家から追い出してもいいんだぞ? この寒空でシュナイダーと一緒にご飯を食べるか?」
「に、兄さんはもっと妹を敬うべきです! そういう意味じゃなくて……その……もういいです!」
「逆ギレしているところ悪いが、何が食べたい? お皿に盛ってやるから、風邪を引かないよう厚着してこい。元旦の青空の下、雑煮を食べられるなんて粋な食べ方じゃないか」
「じょ、冗談ですよね?」
「俺は上春に冗談を言ったことがあったか?」

 上春はすぐさま古都音さんの隣に陣取り、おせちを勧めている。
 よく分かっているじゃないか、上春。この中で一番の権力者は古都音さんだ。流石に古都音さんの前で上春を庭に放り出す事は出来ないし、菜乃花も手が出せまい。
 俺はさっさと食事の準備を始めた。
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