風紀委員 藤堂正道 -最愛の選択-

Keitetsu003

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女を黙らせるにはこうするんだろ? 前編 朝乃宮千春SIDE

2/6 その九

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「もしもし」
「朝乃宮姫、ご依頼いただいた件について報告を」

 電話の相手は芝はんやった。
 ウチと藤堂はん、桜花ちゃんは今、家に帰っている。その途中で電話がきた。
 ウチは今日の三小はんの処分内容の確認と校舎内で聞いたサイレンについて芝はんに依頼していた。
 サイレンの原因は秋脇やった。正確には藤堂はんが秋脇はんをボコボコにして、秋脇はんは重傷。
 病院送りになったのが原因。
 ウチは最悪の事態を考え、指示をする。

「芝はん、面倒かけますけど……」
「秋脇の件じゃな? 承知致した。プランは元々用意しちょったモノで?」
「話が早くて助かります。教頭は鬼門ですから……」
「校長じゃのんた? いつも通り、話を進める。彼にゃあ多額の『寄付金』を渡しちょるけぇのぉ。喜んで協力いただけるじゃろう」
「よろしくお願いします。それと……」

 ウチは簡潔に打ち合わせを済ました後、電話を切り、もう一人、電話をかけた。



「ママ! はやく! はやく!」

 家に帰るなり、桜花ちゃんは買ってもろうたプリンを握りしめながら、鼻息荒くダッシュでウチの部屋へ向かう。
 ウチも藤堂はんも目を丸くして桜花ちゃんの行動に首をかしげる。
 あんなに焦ってる桜花ちゃんを見るのは初めてや。何が桜花ちゃんをせかしてるんやろ?
 気になって、ウチは桜花ちゃんの後を追う。

「ママ! はやく! ふく!」
「桜花ちゃん、何をそんなに急いでるの? 見たいテレビでもありますの?」
「パパが! パパがおかしたべちゃう!」

 お菓子?
 ああっ、そういうこと……。
 家に帰る前、藤堂はんはスーパーに立ち寄った。桜花ちゃんのご褒美をあげるために。
 そのとき、藤堂はんは『ラッコのマーチ』となつちゃんのりんご味のジュースを購入していた。
 桜花ちゃんはおこぼれをもらうため、急いでいる。藤堂はんが食べきる前に……。

 い、いやしいわ……桜花ちゃん。そこまで食べたいん?
 でも、必死になってる桜花ちゃんは……可愛ええわぁ~。
 ウチはせかす桜花ちゃんにあえてゆっくりと桜花ちゃんの服を用意する。
 桜花ちゃんは急いで着替えるけど……。

「桜花ちゃん。ちゃんと着替えへんと……」
「はやく!」

 はぁ……。
 ウチはため息をつきながら、ボタンの掛け違いをなおしながら、桜花ちゃんに服を着せる。
 脱いだ服をそのままにしながら、桜花ちゃんは部屋を飛び出した。
 ほんま、おてんばやな……これが朝乃宮……以下略。
 まあ、しゃあないか。
 ウチは脱ぎ捨てた桜花ちゃんの服を片付けようとして……。

「ん?」

 桜花ちゃんのスカートを持ったとき、ある異変に気づいた。
 これって……。

「ママ!」

 桜花ちゃんがパタパタと走って戻ってきた。
 今度はなに?
 また我が儘……。

「ママにプレゼント!」
「う、ウチに?」

 いきなり、なに?
 ほんま、桜花ちゃんは突然すぎて面食らう。
 けど、プレゼントってなんやろ? 嬉しいわ。
 ここは定番の似顔絵……。

「あれ? ない……」

 な、ないの!
 桜花ちゃんはポケットに手を入れてプレゼント? を探してる。

「桜花ちゃん。制服のズボンやない?」
「あっ、そっか! ありがとうございます、ママ!」

 か、可愛ええわ~~~!
 桜花ちゃんはウチが地面においたスカートを広げ……って! また散らかすの!
 桜花ちゃんはポケットから……。

「これ! あげる!」
「……えっ?」

 なにこれ?
 桜花ちゃんが満面の笑顔で差し出してきたものは……ガラスの欠片?
 オレンジ色の薄汚れた欠片。
 シーリングライトの光を浴びて、薄く光り輝いている。
 はぁ……これって、ただのゴミ……。


「なあ、清洲はん。この石、どう思います?」
「……ただの石ですけど? それが?」
「そうですね、ただの石です。けど、例えば、この石が親の形見や大切な人から贈られた物でしたら、どうです? ただの石と言えます?」
「それは……」
「清洲はんにとってただの石でも、他の人にとっては宝物ってこともあります。ウチにとって青島祭を手伝ってもらうことは、融資先を見つけるに値するものだっただけです」


「ママ?」
「ぷっ! あはははははははははははははははははははははは!」

 ウチは大笑いしてもうた。
 まさか、ここで! ここで、思い出すん? ほんま! ほんま!
 せやな! せや!
 ただのゴミでも……桜花ちゃんがくれた初めてのプレゼントはウチにとって……宝物や。

「桜花ちゃん、おおきに!」
「おおきいき?」
「ありがとう!」

 ほんま、この子は!
 見てて飽きへんわ!

「これでパパからおかしもらえる!」
「……おかし?」
「うん! パパがおうかちゃんがいいこならおかしくれるよね!」
「……」

 お、桜花ちゃ~~~~~~~ん。
 ウチの感動を返して~~~~~~~~~~! えっ? 裏があるん?
 ショックやわ~~~~~~!
 た、確かにウチ、人の行動には裏があるって考えてたけど……けどぉ~~~~~~~!

「それにママもげんきになってくれる!」
「えっ?」
「パパがいってた! おうかちゃんがいいこだと、ママがげんきになるって!」
「……」
「ママ?」

 あ、あかん! 頬が緩む!
 ほ、ほんま、この子は……予測不可能や……。
 だからこそ、目が離せへん。藤堂はんとは別の意味で。
 桜花ちゃんは首をかしげてたけど、ドアが開く音がしたので即座に部屋を飛び出した。

 ウチは桜花ちゃんのこと、どう思ってるんやろ?
 たった二週間のルームメイト。偽りの家族。
 血のつながりもない子供。

 けど、桜花ちゃんのウチに向けてくる好意はあまりにも無垢で純粋で……ウチにはまぶしかった。
 これほど、好意を向けられたことがあった? 元気づけようとしてくれる子がおった?
 ウチは朝乃宮家で迫害を受けていた。誰もウチの事を愛してくれなかった。

 でも、今は……。
 ウチはいつまでこの幸せを享受できるの? タイムリミットは刻一刻と近づいている……。
 これは神様が与えてくれた最後のチャンス。
 だとしたら……ウチは……ウチは……。
 ウチは桜花ちゃんの服を片付ける。今、出来ることを……。

「んん?」

 スカートを手にしたとき、違和感を覚えた。
 さっきも思ってたんやけど、このスカート……重い。
 ここ最近、桜花ちゃんのスカートを用意してたから分かる。

 このスカートはいつもよりも重い。
 いつもと同じスカート。それが重くなっているってことは……。
 ウチはポケットに手を入れた。

「こ、これは……」

 砂。大量の砂が入っていた。
 砂場の砂? でも、なんで、こんなに砂が?
 わ、分からん……桜花ちゃんの行動が……理解できへん。
 けど、それが……楽しい! 新鮮!

 景色が違って見える。
 代わり映えしない学校生活に策略と計略の毎日。
 そこに現れたイレギュラー。
 藤堂正道と宇佐美桜花。
 この二人がウチに及ぼす影響とは?

 知りたい……。
 ウチは日に日に強く願うようになった。
 ウチはスカートの砂を片付けようとしたとき。

「あっ……」

 ウチの部屋にプリンが落ちていたことに気づいた。
 あんなに大事そうに持ってたのに、忘れるやなんて……。
 ウチはプリンを手にする。

 ア○パンマンのプリン。国産の卵と乳原料を使用してる体に優しそう。
 あれほど夢中にしっかりと握りしめていたプリン……き、気になるわ……。
 どんな……味が……するんやろ……。

 た、食べてみたい……。
 け、けど、食べたら、確実に……百パーセント嫌われる……。
 ウチの事を元気づけようとした桜花ちゃんを裏切るの?
 罪悪感が胸の中を締め付ける。

 でも……。
 桜花ちゃんの好物がどれほどの味か……知りたい。
 だって、知りたいやん! 気になる!
 そ、それに、桜花ちゃんの好みの味付けを知るチャンス!
 桜花ちゃんの好みが分かれば、これからの献立にも役立つ!
 せや! これは桜花ちゃんの為や! 決して盗み食いやない!

 ピロ~~ン♪

「ひぃ!」

 タイミングよくメッセージの着信音が鳴った。
 ウチはスマホを取り出す。

『犯罪です』

 咲……。
 絶対見張られる! 怖い! ウチの妹はストーカーなん!
 ああっ、咲の忠告が逆にプリンを食べろとウチの欲望に火をつける。ダメと言われるほど、やりたくてしかたなくなる……。

 アンパ○マンのイラストの目とウチの目があった。
 アン○ンマンはがウチにこう囁いてる……。

 ボクを食べて……っと。

 ウチは……ウチは……このプリンを……。
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