魔王討伐後のゴージャスかつ優雅な生活を邪魔された。俺様一人異世界転移させられるのもなんか癪なので他の奴らも異世界転移に巻き込むことにする

コメッコ

文字の大きさ
33 / 43
第2章 ドラゴン襲来編

第33話 第一王女エリシア=ユーディーン=ドレアス

しおりを挟む
アッシュ襲撃もとい挨拶から一夜明け、ドレアス王宮内はそれなりに落ち着きを取り戻していた。

現在、玉座の間では昨日と同様にドレアス王国の重臣と国王ユーディーン直属の親衛隊騎士に加え、実際にアッシュと一騎打ちで剣を交えたドレアス王国最強の騎士剣聖レイとドレアス王国第一王女エリシアも招集を受け、会議が開かれている。



ちなみに第一王子であるルシードは散々喚き倒してこの会議への参加を願い出たが、国王ユーディーン直々に重い謹慎を命じられ会議には参加する事はできなかった。



ユーディーンが会議の開始を宣言後すぐにこの場では唯一昨日の騒ぎにまったく関わっていなかった第一王女エリシアが口を開いた。





「昨日、何があったのですか? 兵に2000もの負傷者を出し、レイが敗れたと聞きました。兄上のヒステリックは今に始まった事ではありませんが、どこまでが真実なのでしょう?」





エリシアはドレアス王国第一王女にしてドレアス王国一の美女としてその名を国内外に知られていており、傍若無人に振舞う兄ルシードと対比されるように【ドレアスの聖女】としてその名を轟かせていた。

そんなエリシアはこの数日、国外の晩餐会に出かけていて帰還したのは昨晩の事だ。

帰ってきてすぐに受けた報告は散々たる話の連続で何が真実であるか図りかねていたのだった。





「恐らく姫様が受けた報告が全てかと」





疲れた表情の軍務長官のベルゼスがエリシアの問いに答え、そんなベルゼスにエリシアは厳しい視線を向ける。





「ヒステリックを起こした兄上に一人の戦士が暴行し、それを止めに入ったレイはその戦士に一騎打ちに敗れ、更にその後2000の兵を倒し尽くしたその戦士はこの玉座の間までやってきて父上に暴言を吐いた上で更にまた兄上に暴行を加え去って行ったと聞きましたが? それが真実だというのですか?」





口早に一連の流れを説明したエリシアにベルゼスは「まぁ細部が少し違いますがその通りですな」と答えたが、エリシアはその言葉に信じることができず、自らが一番信頼している友人である剣聖レイへと視線を移すと白銀の仮面越しにレイが答える。





「ベルゼス様の仰っている事に間違いありません。私は正々堂々の一騎打ちを挑み破れました」





「ありえない。貴方が敗れるなんて」





エリシアにとって2000の兵が敗れたという事実よりもレイの敗北が一番信じがたかった。

神獣であるドラゴンを追い返し、一騎打ちはもちろん戦争でも無敗を誇る剣聖がたった一人の戦士に敗れたという事実が。

正直、兄ルシードがヒステリックを起こした上に暴行を受けたなどはどうでもいいがそれだけがエリシアには信じられなかったのである。

それでもレイの性格を知るエリシアは平静を装いつつ、問い返す。





「その戦士、帝国の秘密兵器でしょうか?」





そんなエリシアの問いに答えたのはレイではなく玉座に腰かけたユーディーンだった。





「いや、恐らく違うのではないか?」





「なぜそんな事が分かるのですか? 父上」





「あの者は余の命を狙うわけでもなく、挨拶と交渉にやってきたと言っていた」





「交渉? なんのです?」





それを聞いたエリシアはその戦士がどこかの国に属する騎士で自身の武力を盾に和平交渉もしくは降伏勧告をしにやってきたと一瞬頭によぎったが、ユーディーンが次に放った言葉で思考の停止を余儀なくされる事になる。





「あの者は女神リティスリティアより遣わされた異世界の戦士で悪魔を倒す為にこの世界へとやってきたと言っていた。交渉はその悪魔を倒した報酬についてということらしい」





「……は?」





エリシアが意味の分からないユーディーンの話に呆気に取られる中、今度はエンデが割って入る。





「陛下! リティスリティアは女神ではございません! 邪神です!」





「この際、リティスリティアという者が何者かという事はどうでもよい」





「よくはありません! 邪神ですぞ! 陛下!」





エンデがユーディーンに詰め寄ろうとするとそれを阻止するように親衛隊騎士数人がエンデの前に立ち塞がり、ユーディーンは更に続ける。





「正直、余はあの者が言っていた事の大部分は真実ではないかと思っている。レイ、其方はあの者に敗れたと言ったがそれはあの者の剣技によってか?」





そんなユーディーンの言葉の意味がエリシアはまたも理解できなかった。

剣聖であるレイと戦うのに剣技以外の何で勝負するというのだろうか?

もちろん剣以外にも槍や斧などを得意とする者がいる事は知っているが、だからといって今そんな話をユーディーンがするとはエリシアには思えなかった。



エリシアや他の重臣たちの視線が集まる中、レイは口を開く。





「衝撃波とでもいいましょうか。不可視の攻撃を受け、私は意識を失いました」





「不可視の攻撃? レイの視認できない程速度で攻撃されたということ?」





不可視の攻撃など存在しない事を知っているエリシアはそう判断して、そう問い返すがレイからは明確な答えは返ってこない。





「レイが受けた攻撃とは違うようだが、ルシードが受けた攻撃も通常の戦士のものではなかったようだ」





ユーディーンがそう前置きをすると、ルシードが襲撃者アッシュから受けた未知の攻撃について話始める。





「治療した者の話によると、ルシードの手の甲はなんらかの攻撃によって貫通していたようだ。そしてルシードの後方には砕けた氷片が落ちていた。恐らくその氷の塊がルシードの手の甲を撃ち抜いたものだと余は考えている」





「氷の塊? そんなもので人間の手の甲を撃ち抜けるものなのですか?」





「普通は無理であろうな。そもそもあの乱戦の中、氷を溶かす事なく持ち歩く事自体不可能だ。それに余も見ていたがあの者が攻撃した時、そんなものを投擲したような動作はなかった」





どれも当たり前の話で、氷の塊が攻撃手段だったなど普通に考えればあり得ない話だが、玉座の間を丹念に捜索してもそれ以外に攻撃の痕跡を見つけることができなかったとユーディーンは言う。

更にアッシュと戦った兵士の中にも自分が倒れた理由が分からないという者がかなりの数いた事もユーディーンは付け加え、その上でユーディーンは更に話を続けた。





「正直、余にもあの者が行った攻撃のカラクリは分からない。だが、あの者が女神によって違う世界から遣わされた未知の攻撃手段を持つ戦士だと考えれば、我らの理解を超える攻撃手段もレイを超える戦闘能力も全て辻褄が合うとは思わないか?」





そんな荒唐無稽なユーディーンの考えに玉座の間は静寂に包まれるのだった。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

処理中です...