七英雄伝 ~長すぎる序章 魔王討伐に出た女勇者、返り討ちに遭ってなぜか魔王に求婚されたが絶対婚約なんてしない~

コメッコ

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第28話 魔王軍と盗賊

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ロジィの家を後にし、村の外に出たルナティアは森の中を歩いていた。


「ロジィ君もロナさんもいい人だったな」


ルナティアは一人歩きながらそんな事を呟いていた。

ルナティアは魔界に来るまで、魔人というものがどういう人達かあまり知らなかった。

いや、知らなかったというより、知ったつもりになっていたというのが正しいだろう。

人間界で話に聞いていた魔人は強大な敵にして極悪非道。悪逆の限りを尽くす人類の敵。

魔界に来るまではルナティアもそう思っていた。

恐らく、そんな印象を持っているのはルナティアだけではないだろう。

人間界に暮らすほぼ全ての者がそう感じていると言っても過言ではないはずだ。

ルナティアも魔王城に囚われるまではそう思っていた。

魔界に入った時は魔獣や魔人が襲い掛かってきたし、シュトライゼンには追い掛け回されたのだから。——まぁシュトライゼンに関してはこちらから仕掛けたので単に返り討ちに会っただけなのだが。

だが、魔王城に囚われてからはそんなルナティアが思う魔人像とは程遠い事の連続だった。

魔王はルナティアに惚れているから例外としても、ミーニャは優しい上に可愛かったし、グラガドも怖い見た目とは裏腹に優しかった。

シュトライゼンは……なんかむかつくが、特に最初の戦い以降は特になんかしてくることもなかったし、他の魔人もルナティアには普通に接してくれた。

唯一、ルナティアが敵意を向けられたのは人間界侵攻作戦の中止を発表したあの会議の場だけだった。

あの時ですら、半数の魔人はルナティアと魔王の婚約発表?を祝福してくれていた。

決定的な問題として、ルナティアが魔王と結婚する気などさらさらないという事があるが、会議に参加していた魔人達はそれを知らないので、心からの祝福だったはずだ。

仮にあの会議が行われていたのが人間界でルナティアが魔人だった場合、あんなことにはならなかっただろう。

それほどまでに人間は魔人を敵対視している。


(なんで私達って魔人達と敵対してるんだろ? 魔人にも良い人たちはたくさんいるのに) 


人間が魔族と敵対しているのはルナティアが生まれるよりも遥かに昔の事だ。

理由は分からない。

理由を聞くまでもなく『魔人は人類の敵』とそう人間界では子供の頃から大人たちに言われ続けられて、大人になっていくのだ。


(私は人間界に戻ってどうすればいいんだろ? また勇者として力を蓄えて魔王を倒しに魔王城に? そして魔王を倒す? 倒してその後は?)


ルナティアはいくら考えても考えがまとまらなかった。

魔族の事を知れば知るほど自分が何を成せばいいのかが分からなくなってきたのだ。

ルナティアは心の底では魔人達とはもう争いたくないと願っている。

だが、ルナティアは勇者だ。

勇者の立場が魔人との共栄という道を示す事を許さない。

そもそもいくら勇者のルナティアが人間界に戻り、魔人が人類の敵ではないと説いたとしても人々は耳を貸すことはないだろう。

ルナティアが思考の檻に閉じ込められそうになっているそんな時だった。


「……なに?」


遠くで何者かが戦っているような声と物音が聞こえてきた。

まだルナティアはロジィたちがいる村から出たばかりであまり村からは離れていなかった。

そんな村の近くで戦っている音が聞こえ気になったルナティアは警戒しつつもその声と物音が聞こえてきた方へゆっくりと向かう事にした。

木々の陰に隠れながらルナティアは物音が聞こえた方に進むと向かい合った2つの勢力が何やら大きな声で口論しているのが見えた。


「なんだ、貴様たちは! 我々が魔王軍だと分かっているのか!?」


3人の魔王軍を名乗る兵士らしき魔人が10人を超える魔人達に囲まれている。

魔王軍の兵士の1人が取り囲んでいる魔人達に脅すように言うが、取り囲んでいる方の魔人達はそんな兵士の言葉に臆するどころかニヤニヤとした笑みを浮かべながら兵士の言葉に答えた。


「そんな事は分かってんだ! 分かってやってんだ、こっちはな!」


「くそっ、魔王軍を舐めるなよ! 盗賊風情が!」


兵士の一人がそう叫ぶと3人は他の2人の魔人に背を預ける様に迫りくる魔人の集団達の猛攻に立ち向かうために剣を奮い続ける。

ルナティアがぱっと見る限り2つの勢力の戦力は拮抗していた。

盗賊側10人以上の男達を相手に魔王軍側の兵士はたったの3人で見事に盗賊側の攻撃を防いでいた。


(強いわね、あの3人。ここままならあの3人が勝ちそう)


流石は魔王軍の正規兵と言ったところだろう。

勇者であるルナティアから見ても魔王軍の兵士側の練度は中々のものだった。

並の冒険者では太刀打ちが出来ないほどに技は冴え、力強さでいえば上級冒険者さえも凌ぐほどに見えた。


(あれでも魔王軍の一般兵か。いくら数で勝っているとはいえまともに戦って人類に勝ち目があるとは思えないわ)


魔王軍兵士の3人に目が行きがちになるが、盗賊と思わしき魔人達だって決して弱くはない。

仮にあのレベルが人間界で言う所の一般的な盗賊レベルの魔人であるのだとしたら脅威以外の何物でもないのだから。

10人以上いる盗賊達は時間が経つごとに3人の魔人兵側に押され始め、次々と怪我を負い始めてきた。


(終わりね。魔王軍も無傷で済むかは分からないけど、やはり練度が違うわ)


これで盗賊側が勝ちそうならルナティアも魔王軍側に助太刀することも考えればならなかったが、その心配もなくなりルナティアはほっと胸を撫でおろす。

ここはロジィたちがいる街からそれほど離れていない場所だ。

仮に盗賊側が勝ったら次に襲われるのはロジィたちの村の可能性が高いのだ。

そう思う一方で、ルナティアは1つだけ気になったことがあった。

魔人兵と盗賊の魔人達が激選を繰り広げているのを蚊帳の外からただ見ているだけの魔人がいたのだ。

魔王軍兵士を取り囲む魔人盗賊の更に外にいる事から普通に考えれば盗賊側の魔人だろう。

それだというのに、盗賊の魔人が苦戦する姿を見ても、戦いに助太刀する様子も逃げる様子もなくただ戦いの行方を見守っている風に見えた。


(なんなの、あいつ? なんで何もしないの?)


ルナティアがそう思い始めていたその時だった。——ただ戦いの行方を見守っていた魔人が動き出したのは。
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