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第十七話

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「あぁん?」

「おぉん?」

冒険者ギルドに一歩足を踏み入れた途端に、近くにいた冒険者たちにギロリと睨まれた。

冒険者ギルドは、入ってすぐの場所は酒場のような場所になっていて、奥に受付のカウンターがある。

「新入りか…?」

「ガキが…こんなとこに何のようだ…?」

ジロジロと不躾な視線を送ってくる冒険者たちを無視して、俺は奥の受付を目指した。

サッ!

「おっとぉ」

前を向いて歩く俺の足元に、不意に誰かの足が飛び出した。

あらかじめ予期していた俺は、避けることもできたその足に、わざと引っかかってはでに転ぶ。

ズダン…!

「痛てて…」

ぶつけた膝をさすりながら俺は起きあがる。

「すまんすまん。わざとじゃないんだ。許してくれよ」

顔を上げると、そこには予想通り、ゲスな笑みを浮かべた1人の冒険者が立っていた。

「大丈夫かぁ?ほら、手貸してやるよ」

俺をわざと転ばせたその冒険者の男が、ニヤニヤしながら手を差し伸べてくる。

俺はその手を取ろうとすると、引っ込められるのをわかっていてあえて手を伸ばす。

「なんてな」

「うおっ!?」

男が手を引っ込めて、俺はバランスを崩す……ふりをする。

「ギャハハっ!!馬鹿なやつだなぁ…!」

冒険者の男……噛ませ犬のハンスがバランスを崩す俺を下品に笑い飛ばす。

「な、何なんだあんたは…!」

俺はまるでゲームプレイ時に、初めてこの場所を訪れた時のアレルのように、怒り気味にハンスに食ってかかる。

「ギャハハっ。いやぁ、随分ノロマで馬鹿なやつだと思ってな。お前、ここに何しにきたんだよ」

ハンスが小馬鹿にしたような表情で訪ねてくる。

「俺は冒険者になりにきたんだ」

俺がそういうと、ハンスがまた笑い出した。

「ぶははっ!!おいみんな聞いたか!!こいつ冒険者になりたいんだとよ!!」

「冗談だろ?」

「無理無理」

「帰れよ、小僧」

「残念だが、ガキはお呼びじゃねぇよ」

冒険者たちが口々にそんなヤジを飛ばしてくる。

「うるせぇ!!やってみなくちゃわかんないだろ!!」

俺は内心おかしくて笑いそうになりながら、このイベントの展開が変わらないようゲームプレイ時のアレルのセリフをなぞる。

さあ、かませ犬のハンス。

ゲームの時みたいに、俺に勝負を挑んでこい。

「ちっ…生意気な小僧だな」

俺が正面から言い返したのが気に食わなかったみたいだ。

ハンスが舌打ちをして、俺を至近距離から見下ろしてくる。

「お前みたいなヒョロイガキには冒険者は務まらねぇ。とっとと帰れ」

「嫌だね」

「野郎…」

「どいてくれ。俺はあっちに用があるんだ」

俺は奥の受付を指差した。

奥の受付では、このギルド一番の受付嬢……エレナが心配そうに俺をみている。

待っててくれ、エレナ。

今この馬鹿を倒してそっちに行くからな。

「どかねぇよ。てめぇ、俺と勝負しろよ」

「はぁ?」

よし。

ゲームと同じ展開になった。

ここまで誘導できればイベント発生は確定だな。

「お前に冒険者になれる実力があるか、俺が見極めてやるっつってんだよ!!先輩冒険者のこのハンスがな!!」

「…」

予想通り難癖をつけて勝負をふっかけてきたハンスに、俺は内心ガッツポーズをとる。

あとはハンスを倒すだけで、この後の展開がスムーズに進められる。

「…そこまで言われたら俺も黙っちゃいられない。いいぜ。受けてやるよ」

「…そうこなくっちゃ」

勝負を受けた俺に、ハンスがニヤリと笑う。

「お、なんだなんだ?」 

「喧嘩か?」

「ハンスがまた新人を引っ掛けたぜ」 
「おいおい、また新人いびりかよ…」

「あいつも飽きねぇなぁ…」 

喧嘩騒ぎの匂いを聞きつけて、ギルド内にいた冒険者があっという間に俺たちの元に集まってくる。

俺とハンスは野次馬の冒険者たちにぐるりと囲まれて、互いに構えをとって向かい合った。

「武器はなし。純粋な、素手の勝負で決着だ。いいな?」

「もちろんだ」

俺たちは互いに武器を地面に置いて、向かい合う。

「合図はそっちでいいぜ。せめてものハンデだ」

ハンスがニヤニヤしながらそんなことをいう。

俺に負けることなど全然考えていないかのような表情だ。

俺は、あまりに咬ませ犬として優秀なハンスに、笑いそうになってしまうが、なんとか表情を保って、開始の合図を口にする。

「それじゃあ…スタートだ!!」

「おい、あそこを見ろ!!」

俺が開始の合図を出した途端、ハンスが明後日の方向を指差して大声を上げた。

俺はゲームの中のアレルのように馬鹿正直に、ハンスの指差した方向を見る。

「馬鹿が!」

ハンスがしめたとばかりに殴りかかってくる。

「…」

俺は横目にしっかりと、俺を騙せたと思って懐に飛び込んでくるハンスを観察していた。
 

「す、すごいですね…!!ハンスさんを倒してしまうなんて!!」

このギルド一番の受付嬢であるエレナが後ろで伸びているハンスと俺を見比べてそんなことを言ってきた。

「そうでもない。あいつはそこまで強くなかった」 
騙し討ちを仕掛けてきたハンスを一発でノックアウトした俺は、目を丸くしているエレナに余裕をアピールする。

ギルド一の人気美人受付嬢エレナ。

攻略可能ヒロインの1人であり、ビジュアルが非常にいい。

『世界の終わりの物語』に数いるヒロインの中でも、俺の一押しの1人であり、こうしていざ目の前で相対すると、そのビジュアルの完璧さに見入ってしまう。

「あ、あの…そんなにみられると…」 

「あ、すまん…」

ついつい俺はエレナをじっと見つめてしまい、エレナが恥ずかしげに俯いた。

俺は慌てて謝る。

「え、えっと…それで…今日はどのようなご用件でしょうか…?」

エレナが気を取り直したように訪ねてきた。

「冒険者登録をしにきた」

「はい、登録ですね…ええと、でしたら…まずはこちらに個人情報の記載をお願いします。それをもとに冒険者カードをお作りしますので」

「わかった」

俺はエレナに渡された羊皮紙に自分の情報を書き込んでいく。

するとしばらくして、俺の個人情報が書き込まれた冒険者カードが返ってきた。

俺はそのカードを確認して、自分の試みがうまくいっていることに小さく「よし」と呟いた。

「それがあなたの冒険者カードです、グレンさん。再発行にはお金がかかるので無くさないようにお願いします」

「えっと…エレナさん?」

「はい、何でしょう?」

「ここに書かれている冒険者ランクなんだが……どうしてBなんだ?最初はDからのスタートって聞いたんだが…」

冒険者にはランクが存在していて、普通登録したての冒険者はDスタートだ。

ゆえに、初めて渡された冒険者カードにBランクと記載されていたら普通は驚くだろう。

俺はこの結果を知ってはいたものの、不自然にならないようにわざとエレナに質問する。

「あ、それは先ほどハンスさんを倒されたからです」

「ハンスを…?」

エレナが後ろで伸びているハンスを指差した。

「新人いびりのハンスさんのランクはAです。そのハンスさんを倒したグレンさんにはどう考えてもBランク以上の実力があると判断しました」

「なるほど…」

「本当はハンスさんと同じAランクからのスタートにするべきだと思うんですが、私の権限で許されているのがBランクの認定までなんです」

「いやいや、これで十分だ。ありがとう」

俺は冒険者カードをポケットにしまいつつ、内心でミッションの達成を喜ぶ。

ハンスを倒し、エレナの前で実力を示した。

そのおかげで俺の冒険者生活は、さまざまな依頼を受けられるBランクからのスタートとなり、エレナに強さもアピールできた。

これは後々エレナを攻略する際の布石となることだろう。

「ふふふ…」

「…えっと、グレンさん?」

「あ、すまん。何だ?」

「いえ…クエストをお受けするかどうかをお尋ねしようかと思ったんですが」

「あ、あぁ…クエストね。受ける受ける。どんなのがあるんだ?」

知らずに漏れていた笑いを慌てて引っ込めた俺は、エレナがカウンターに並べてくれたクエスト用紙から、受けるクエストを選ぶのだった。

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