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第十六話

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「小僧…本当にやるのか?」

俺は防具店のギガスと台を挟んで向かい合う。

互いに台の上に手を置いて、手を握ったところでギガスが聞いてきた。

「誰からこの話を聞いた?俺はお前みたいな子坊主だからと言って手加減しないからな?」

「誰から聞いたかは言えない。手加減は必要ない。全力できてくれ」

まさかゲームでプレイしてあらかじめ知っていたんだ、なんて言えるはずもないからな。

俺はそう言って適当に誤魔化した。

「そうか…腕の骨折れてもしらねぇぞ?後悔するなよ?」

ギガスの瞳に闘志がこもる。

「スタートの合図ぐらいは譲ってやるよ」

「そうか。ありがとう。じゃあ…スタート」

俺は開始の合図を迷わず出した。

「ふん!!」

ギガスが息を吐き出し、腕に力を入れる。

「…」

俺は腕にかかってくるだろう力に耐えるために、筋肉に力を入れて備える。

「ぬぐぐぐぐ…!」

「…?」

あれ。 

すごく軽いな。

ギガスは力を入れているのか?

「ぐぉおおおおおお…!!」

「…」

顔が真っ赤になっているし、手を抜いているということはなさそうだ。

だが、腕には全然力を感じない。

まるで五歳ぐらいの子供と腕相撲をしているみたいに、ささやかな力しか感じない。

…ゲーム内ではアレルはぎりぎりの勝負をなんとか制して元戦士のギガスに勝っていたが。

「はぁ、はぁ、はぁ…」

ギガスが力を緩めた。

肩で息をしながら、驚愕の目で俺を見ている。

「こ、小僧…お、お前…何者なんだ…?」

「…いや、俺はただの勇者のお…あ、いや…」

勇者の幼馴染。

そう言おうとして慌てて止める。

「死ぬ予定だったモブ、かな」

「はぁ?」

「それより…そろそろ終わらせる。今度は俺の番な」

「は…?」

「ほい」

「ぐぉおおおおお!?」

俺が少し腕に力を込める。

バァン!!

ギガスの腕はあっさりと倒れ、俺は腕相撲に勝利した。



「参った!!こいつは持っていってくれ!!」

「ありがとう。大事に使わせてもらう」

自分の目の前に差し出された光り輝く防具に、俺は満足してそういった。

腕相撲に負けたギガスは、ゲームのイベントの通り、店で一番の防具を俺にプレゼントしてくれた。

これはこの店でしか手に入らないギガスが自ら作った特別な防具で、ゲームの終盤になっても使える優れものだった。

これがあれば、しばらくは防具を新調する必要もなくなるだろう。

「はぁ…ったく。この俺が、まさかお前みたいな小僧に負けるなんてな。お前一体何者なんだよ」

ギガスが呆れ気味に俺を見てくる。

「ひょっとしてお前、勇者なんじゃないのか?」

「違うって言ったろ。俺はただのモブだ」

「もぶ…?がどういう意味かわからないが、なんとなく自分自身を卑下しているのはわかるな。俺がその歳でそれだけの力を持っていたら、もっと威張り腐っていただろうよ」

「…まぁ、棚ぼた的に得た力だからな。とにかくありがとう、ギガス。これは大事に使うよ」

「たなぼた…?お、おうよ。そいつは俺さま自ら作った防具だからな。お前みたいな強いやつに使ってもらえるなら本望だ!」

少し誇らしげにそんなことをいうギガスに背を向けて、俺はギガスの防具店を後にしたのだった。


「武器に防具…装備は揃ったな」

ギガスにもらった防具を身につけ、勇者の剣を持って俺は王都の街を歩く。

ギガスの防具は、頑丈ながら非常に軽く、全くと言っていいほど重みを感じない。

風の指輪もゲットしたため機動力も上がったはずだ。

しばらくはこれらの装備でやっていけそうだと俺は思った。

「さて次は……ギルドに向かってみるか」

装備が整ったとなれば、次に向かうべき場所は一つしかない。

それは冒険者の集まる冒険者ギルドだ。

冒険者というのは、この世界における戦闘職の一種で、モンスターと戦うことを生業としている。

冒険者ギルドは、その冒険者をまとめ上げる統括組織のようなもので、そこへ行けば依頼などを斡旋してもらえる。

装備の揃った俺は、冒険者ギルドで冒険者として登録し、依頼を受けて金を稼ごうと考えたのだ。

「ゲームプレイ時は、メインストーリーを進めるために冒険者としてはあまり活動しなかったからな…楽しみだ」

『世界の終わりの物語』を初見でプレイした時は、メインストーリーをとにかく進めること優先で、冒険者になって活動した期間は少なかった。

なので今一度、この世界で冒険者として思う存分動いてみるのは楽しそうだと思ったのだ。

「ついた…さて、入るか」

勝手知った王都の街を歩くこと20分ほど。

俺は荒くれ者の集まる冒険者ギルドにたどり着いていた。

両開きの扉から意気揚々と中へ入ろ……うとして、ふと足を止める。

「そういや…入るとあのイベントが起きるんだったな」

俺は冒険者ギルドに入ることで起きるイベントを思い出す。

そのイベントは知っていれば回避できるものなのだが、逆にわざと踏めば、その後に旨味もある。

「そうだな…登録をスムーズに済ませたいし、イベントは踏むことにしよう」

少し考えた末に、俺は初見だとほとんど踏んでしまうそのイベントを、回避しないことにした。

そうすれば、その後の冒険者登録が非常にスムーズに行くことを知っているからだった。
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