52 / 61
第五十二話
しおりを挟む「ま、待ってくださいグレン…!」
そんなことを言いながら必死に追いかけてくるクレアに構わず、俺はスリの子供を追う。
子供は路地裏へと逃げ込み、どんどん奥へと進んでいく。
「くそっ…!どこまで逃げるんだ!?待ちやがれ…!」
俺はいかにも真剣に追いかけているかのような声を出しながら、子供を追いかける。
…クレアを完全に置き去りにしては計画が台無しであるため、途中で振り返ってクレアが俺を見失っていないことを確認する。
「よし…ちゃんと追ってきているな…」
俺はクレアがちゃんと俺を追ってこれるように絶妙な距離を保ちながら、スリを追いかけた。
「よし…追い詰めたぞ…返してもらおうか…俺の金を…!」
「チキショウ…!!行き止まりかよ…!ついてない…!!」
やがて俺はスリを行き止まりに追い詰めた。
俺は悔しがり表情を歪めるスリの子供を少しずつ追い詰めていく。
「はぁ、はぁ…やっと追いつきました…ぐ、グレン…!!待ってくださいと言ったのに……」
クレアがようやく俺に追いついてきた。
肩で息をしながら、財布を盗んだスリの子供を追い詰めている俺に向かって首を振る。
「ダメですよ、グレン。乱暴をしては……お金は私がどうにかして補填することが出来ますから…だからその子に乱暴だけは…」
優しいクレア王女は、スリの子供のことを気遣ってそんなことを言ってくる。
悪いとは思いつつ、俺はそんなクレアの優しさを利用し、自分の目的を達する。
「いいえ…退いていてください、クレア様…!こういう輩は懲らしめないと…!!また同じことを繰り返すかもしれない…!」
「え…グレン…?何をしているのですか…?」
スリの子供に向かって拳を振り上げた俺に、クレアが戸惑いの声をあげる。
俺はそれに構わず、振り上げた拳を迷わず子供に振り下ろした。
「痛いっ!」
スリの子供が悲鳴を上げて尻餅をつく。
「グレン!?」
クレアが俺の名前を呼ぶ。
「ダメです!!一体何をしているのですか!?」
「教育です。しつけです。こういう輩は殴らないとわからない」
そう言って今度は俺は、スリの子供に蹴りを入れる。
もちろん本気ではなく手加減はしている。
レベルがカンストしている俺が本気で蹴れば、この子は死んでしまうだろう。
しっかりと体に当たる寸前で勢いを殺し、大したダメージにならない威力に抑えてある、
「ぐはぁっ!?」
スリの子供が声を上げて吹っ飛ぶ。
「や、やめてくださいっ…!絶対にダメですっ…!」
クレアが悲鳴のような声を上げて、俺を押さえつけようとする。
「離してくださいっ…!クレア王女…!これは必要なことなんだ…!!俺の金を取ったこいつは…こうなって当然なんです!!」
「きゃあっ!?」
俺はクレアを突き飛ばす。
そして、うずくまるスリの子供にひたすら蹴りをお見舞いする。
「おらっ!!おらっ!!」
「うがっ!?うげっ!?」
子供は俺の蹴りに応じて、体を震わせる。
「ふん。こんなものでいいだろう」
しばらくして蹴るのをやめた俺は、ペッと唾を吐いて、背後を見る。
「…」
そこには呆然と俺を見ているクレアがいた。
その目は今までの俺を見る目ではなかった。
何か恐ろしいものを見るような、恐怖の混じった目立った。
「…」
あーあ、これは完全に嫌われたな。
元々そういう作戦だったため、俺は目的を達したことになるが……なんかちょっと寂しいな。
だが仕方ない。
これも歪んでしまったストーリーを元に戻すためだ。
「なんですかクレア様。俺は当然のことをしたまでです。このどうしようもないガキを教育してやったんですよ。むしろ感謝してほしいぐらいです」
俺はドン引きしているクレアに対してダメおしの一撃を加える。
これで完全にクレアは俺をクズと認定し、俺の元から離れていくだろう。
「これは返してもらうぞ」
「痛いっ!?」
俺は子供の足を踏んで、金の入った袋を奪
い、その頭にペッと唾を吐いた。
尻餅をついていたクレアがすくっと立ち上がった。
そしてツカツカと俺の元に歩いてくる。
「クレア様。今こそ泥の退治が終わりました。さあ、帰りま
「…っ!!」
パシン!!と乾いた音が鳴った。
一瞬何をされたのかわからなかった。
しばらく呆けたあと、頬を張られたのだと気づく。
「あなたには失望しました!グレン…!」
涙目のクレアが、俺に向かってそんなことを言った。
「優しい人だと思ったのに……まだ幼い子供にこんなことをするなんて…!」
「…」
「私はあなたという人を見誤っていたようです…!!」
「…」
「あなたは私が思うような心優しい人ではなかった……さようなら。もうあなたとは関わることもないでしょう」
そう言ったクレア王女が踵を返して歩き出す。
「…」
俺は遠ざかっていくその背中をぼんやりと眺める。
やがて、クレアの姿が角の向こう側に消えた頃、うずくまっていたスリの子供が何事もなかったかのように立ち上がった。
「どうだった、兄ちゃん。完璧だっただろ?」
子供が、ニカッと笑う。
「おう、最高の演技だったぜ?」
俺も子供に対してニカッと笑いを返す。
どうやら作戦はうまくいったようだ。
クレアは俺たちの作戦にまんまと騙され、俺が本当に子供に暴力を振るうクズだと認識してくれたようだった。
だが、この子供は俺が金を渡してあらかじめ仕込んでおいた演者にすぎない。
蹴られて痛がっていたのも、全て演技である。
「本当に助かったぞ。ほい、これが後払いの分な」
俺はその子に、約束していた金を渡す。
「サンキュー!!まじで助かるぜ、兄ちゃん!!」
子供はほくほく顔で金を受け取る。
「でも、こんなにもらっちゃっていいのか?こんな簡単なことで。前払いでもあんなにもらったのに」
「いいんだ。お前は俺の注文してくれたことを完璧にこなしてくれたからな。正当な対価だ」
「そうかな…?まぁ、でも話を聞いた時は本当にびっくりしたぜ。自分から金を盗んで逃げてくれって……そんなこと頼まれたの初めてだよ。なんでこんなことしなくちゃいけなかったんだ?」
「…いろんな事情があるのさ。大人の事情が」
「ふぅん。なんだかわかんないや。とにかく、この金はもう俺のものだぜ?返さないよ?」
「もちろんだ。受け取ってくれ」
「よっしゃ!!じゃあな、兄ちゃんありがとう…!こんな都合のいいバイトがあったらいつでも俺を呼んでくれよ!!」
「おう、またなー」
子供がニコニコ笑って路地裏を出て行こうとする。
その途中でピタリと足を止めて、周囲を見渡した。
「あれ…?おかしいな。今誰かいたような…」
「ん…?そんなはずは…」
「いや、確かに気配がしたはずなんだけど…猫かな…?ま、いいか。またな兄ちゃん」
最後にもう一度こちらを見て手を振った少年は、すぐに走っていき見えなくなったのだった。
13
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
薬師の名門ブレルスクに入学した私は、退学するまで暴れます。〜少年アレクの倫理で殴る学園ファンタジー〜
鮒捌ケコラ
ファンタジー
入学式から3週間目にして『退学」を言い渡された。
(早くない?RTAじゃないんだからさ。)
自分で言うのもアレだけど、入学してからは結構真面目に通ってた。
けど、どうやら教員の不況を買ってしまったらしい。
幸か不幸か、退学まで1週間の執行猶予が与えられた。
けど、今更どう足掻いても挽回する事は不可能だろうし、
そもそも挽回する気も起こらない。
ここまでの学園生活を振り返っても
『この学園に執着出来る程の魅力』
というものが思い当たらないからだ。
寧ろ散々な事ばかりだったな、今日まで。
それに、これ以上無理に通い続けて
貴族とのしがらみシミッシミの薬師になるより
故郷に帰って自由気ままな森番に復職した方が
ずっと実りある人生になるだろう。
私を送り出した公爵様も領主様も、
アイツだってきっとわかってくれる筈だ。
よし。決まりだな。
それじゃあ、退学するまでは休まず毎日通い続けるとして……
大人しくする理由も無くなったし、
これからは自由気ままに、我儘に、好き勝手に過ごす事にしよう。
せっかくだし、教員達からのヘイトをカンストさせるのも面白そうだ。
てな訳で………
薬師の名門ブレルスクに入学した私は、退学するまで暴れます。
…そう息巻いて迎えた執行猶予満了日、
掲示板に張り出された正式な退学勧告文を
確認しに行ったんだけど……
どういう事なの?これ。
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる
家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。
召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。
多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。
しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。
何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる