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第七十一話
しおりを挟む「クソが!!!何をしているんだこの無能どもが!!!」
「も、申し訳ございません…!!」
エラトール領森付近。
侵略者カラレス軍の後衛陣地で、ガレス・カラレスは思ったような戦果が上がってこない私軍に苛立ちをぶつけていた。
「兵力はこちらの方が上回っているんだぞ…!?なぜ進軍が出来ないんだ…!!」
「申し訳ございません…エラトール領の兵力が予想を遥かに上回っていたことに加え…向こうには地の利もあるので…前線部隊が手こずっておりまして…」
「言い訳は聞きたくない!!!」
ガレスが机を蹴っ飛ばした。
エラトール領の地図や測量道具が吹っ飛んでいき、軍を率いている参謀が「ひっ」と軽く悲鳴を漏らす。
「開戦当初のお前の話では……長くとも三日で攻め落とせるということであったではないか…!それがどうだ!?一週間が経過しても、少しも軍を前に進められないではないか!!」
「本当に申し訳ございません…!!私の力が及ばず…」
肩を落とす参謀。
ガレスはペッと唾を吐いて、憎々しげにエラトール領中心部の方角を見た。
カラレス家がエラトール領に侵攻を開始してから一週間が経過しようとしていた。
当初の予定では、カラレス軍がエラトール領全土を三日以内に制圧するはずだったのだが、しかし蓋を開けてみれば、カラレスの軍はエラトール領のたった一割程度しか制圧できず、硬直状態に陥っていた。
兵力に二倍以上の差がある中でこのような戦局になた要因は様々だが、その最大の原因がそれぞれの家に使える騎士たちの忠誠心の違いだった。
善政を敷くエラトール家の当主、アイギス・エラトールは領民たちから好かれ、騎士たちにも尊敬されていた。
必要以上に税を課さず、自分達の暮らしもなるべく質素なものに努めようとしてきたエラトール家に、騎士たちは絶対の忠誠を誓っており、カラレス家が攻めてきた際には、あっという間に武器を取って集結し、押し寄せるカラレス家の軍を迎え撃った。
カラレス家の軍は、楽に片付くと思っていた初戦で大損失を出し、一時後退した。
その後、カラレス軍は立て直しを図り、何度かエラトール領中心部に向かって進軍を試みたが、その度に撃退されているといった醜態を晒していた。
「くそぉ…調子に乗るなよアイギス・エラトール……俺は諦めないぞ…何年何ヶ月かかろうが必ずエラトール領を制圧してお前たちをこの手で屠ってやるからなぁ…」
ガレスは呪詛のようにそんな言葉を呟いた。
兵力に二倍以上の差をつけたこの戦いで万一負けるようなことがあれば、カラレス家は全世界から笑い者にされるだろう。
そうなれば、勢いあるカラレス家が一気に落ち目になり、破滅へと近づいていくことになる。
勝ち戦だと思っていた戦いが、一週間のうちに、自分の家の命運をかけた戦いになったことをガレス・カラレスは悟り、悔しさに血が滲むほど拳を握るのだった。
「おい、参謀…」
「は、はい…」
ガレスは深呼吸をして苛立ちを一旦抑え、参謀を呼びつける。
「例の秘密暗殺部隊はどうしてる…?」
「はい…ご命令通り、領民に扮して内部に潜り込んでいます」
「そうか……最高の戦果を期待しているぞ…?」
「は、はい…!!我が騎士団の選りすぐりの戦士たちを選びましたゆえ、必ずや…」
「…そうか」
その言葉を聞いてガレスは少し余裕を取り戻す。
秘密暗殺部隊とは、戦線が硬直したのを見かねて二日前にガレスが突如編成させた部隊である。
エラトール領の領民に扮し最低限の装備のみでエラトール領内へと侵入した彼らの任務は、ひとえに当主であるアイギス・エラトールの暗殺だった。
もしアイギスの暗殺に成功し、騎士たちが忠誠を誓ったまとめ役が殺されたとしれば、一気に戦局はこちら側の有利に傾くとガレスは考えたのだった。
「必ずやアイギス・エラトールの首を貴方様の元へ…」
「くくく…期待しているぞ」
跪きそう誓う参謀に、ガレスは卑屈な笑いを漏らした。
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