70 / 118
第七十話
しおりを挟む「御者…!もっとスピードは出ないのか!?」
「こ、これ以上は無理です…!!お客さん…!!」
「…っ…そんなはずはない…!!もっとスピードが出せるはずだ…!!一刻も早く領地に帰らないと…!!」
「やってますよ…!!これが最大速度です…!!これ以上スピード出すと馬車が持ちません!!」
「…っ」
御者の悲痛な叫びに、俺はぐっと拳を握る。
焦る気持ちを思わず御者にぶつけてしまった。
俺は冷静じゃなかったと座り直して反省する。
「だ、大丈夫ですよ、アリウス様…屋敷にはエレナ様がいます…増強した騎士たちもいますし、旦那様奥様も昔は腕の立つ魔法使いだったと聞きます…そう簡単に領地が攻め滅ぼされるとは思いません…!!」
焦る俺を落ち着けようと、馬車に乗っているルーシェがそんなことを言ってくる。
その言葉によって、俺も幾分か気持ちが落ち着く。
だが、カラレス領とエラトール家の兵力の差を考えるとやはり居ても立っても居られない。
「た、確かにエレナや両親は強いかもしれない……だが、向こうの兵力はこちらの二倍以上だ……数で押されれば領地にも多大な被害が…」
「…っ」
俺がそういうとルーシェが表情を歪める。
カラレス領が出身の彼女も、エラトール領が襲われようとしていることに心を痛めているようだった。
「ほ、本当なのでしょうか…カラレス家が突然エラトール領に武力侵攻を…」
信じたくない。
そんな声のトーンで、ルーシェがそう呟いた。
「嘘であってほしい…だが、家のものがこんな嘘をつくとは思えない…ガレス・カラレスには領土的野心も我が家に対する恨みもある…だから…可能性は十分にある」
「…」
そう言うとルーシェが口を引き結んで俯いた。
俺はことの発端となった半日前のことに思いを馳せる。
『た、大変ですアリウス様…!』
血相を抱えた男が、帝都にある屋敷を訪れた。
男はエラトール家のもので、エラトール領から急いで馬を飛ばしてきたと言った。
『一体どうした?』
尋常じゃない男の雰囲気に俺がわけを尋ねると、男は信じられない事実を口にした。
『カラレス家が…エラトール領に武力侵攻を開始しました…!!』
『なんだと!?』
聞けば、四日前、突如として領内の兵力をかき集めたカラレス領がなんの前触れもなくエラトール領に武力侵攻したらしい。
領主のアイギスは慌てて領地防衛のための騎士たちを集めてこれに応戦。
騎士たちの奮闘のおかげでなんとか食い止められている状態らしい。
『こうしている間にも領地が陥落しようとしています…アリウス様。すぐに帰還を…!』
『もちろんだ…!』
その後俺はすぐに馬車を手配して現在に至る。
カラレス家との戦争。
アイギスはこのことを予期して、兵力を以前の二倍以上に増強していた。
だが、それでもカラレスは領土的野心を捨てずに攻め込んできた。
おそらくいつかはエラトール領を征服しようと計画を練っていたに違いない。
まさか俺がこうして帝都に滞在しているタイミングで侵攻が始まるとは。
「わ、私のせいで…」
「ん?」
みんな、無事出会ってくれ、と。
俺が心の中でそう願っていると、ルーシェが突然震え声で呟いた。
「私のせいで……ガレス様がエラトール家を恨むことになって…みんなが…」
「それは違うぞ、ルーシェ」
俺は首を振った。
「お前のせいじゃない。悪いのはガレス・カラレスだ。あいつには以前から領土拡張の野心があった。
だから、アイギスは領地の兵力を少しずつ増強してきた。お前のせいじゃない。これは遅かれ早かれ起こっていたことだと思うんだ」
「…っ」
ルーシェが唇を噛む。
その目には涙が滲んでいた。
「これは本心だ。この戦争はお前のせいじゃない」
そう言って俺はルーシェを抱きしめる。
「うっ…うぅ…」
ルーシェは啜り泣きを始める。
俺はルーシェを安心させようとその背中をさすった。
そんな時だ。
「お、おおお、お客さん大変ですっ!!!」
「…?」
「ぜ、前方にモンスターが…!!」
御者が悲鳴のような声をあげる。
見れば、前方に二十匹入るかというモンスターの群れが待ち伏せをしていた。
現在馬車は森の中の一本道を走っており、避けることはできない。
「ば、馬車を停めますよ…!?」
「いいや、このままだ…!!」
俺はすぐに御者台に登って御者に馬車を止めることを許さない。
「ででで、でもこのままじゃ!?正面衝突で…」
「邪魔なんだよ!!今はお前に構っている暇はない…!!」
俺は焦りと、それから怒りの感情をぶつけるように前方のモンスターたちに全力の魔法を使う。
ズゥウウウウン!!!
「ひぃいい!?」
爆発音と共にモンスターたちは一瞬で肉片になって散らばった。
御者が悲鳴のような声をあげて手綱を話そうになる。
「おい、このまま進め。モンスターは俺が消す。全速力でで領地まで帰還するんだ…!」
「は、はいぃいいい!!」
御者がガクガクと頷いて手綱を握り直した。
14
あなたにおすすめの小説
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します
名無し
ファンタジー
毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
ブラック企業で心身ボロボロの社畜だった俺が少年の姿で異世界に転生!? ~鑑定スキルと無限収納を駆使して錬金術師として第二の人生を謳歌します~
楠富 つかさ
ファンタジー
ブラック企業で働いていた小坂直人は、ある日、仕事中の過労で意識を失い、気がつくと異世界の森の中で少年の姿になっていた。しかも、【錬金術】という強力なスキルを持っており、物質を分解・合成・強化できる能力を手にしていた。
そんなナオが出会ったのは、森で冒険者として活動する巨乳の美少女・エルフィーナ(エル)。彼女は魔物討伐の依頼をこなしていたが、強敵との戦闘で深手を負ってしまう。
「やばい……これ、動けない……」
怪我人のエルを目の当たりにしたナオは、錬金術で作成していたポーションを与え彼女を助ける。
「す、すごい……ナオのおかげで助かった……!」
異世界で自由気ままに錬金術を駆使するナオと、彼に惚れた美少女冒険者エルとのスローライフ&冒険ファンタジーが今、始まる!
初期スキルが便利すぎて異世界生活が楽しすぎる!
霜月雹花
ファンタジー
神の悪戯により死んでしまった主人公は、別の神の手により3つの便利なスキルを貰い異世界に転生する事になった。転生し、普通の人生を歩む筈が、又しても神の悪戯によってトラブルが起こり目が覚めると異世界で10歳の〝家無し名無し〟の状態になっていた。転生を勧めてくれた神からの手紙に代償として、希少な力を受け取った。
神によって人生を狂わされた主人公は、異世界で便利なスキルを使って生きて行くそんな物語。
書籍8巻11月24日発売します。
漫画版2巻まで発売中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる