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第三十八話
しおりを挟む「一体どうするのだガイズ!!!お前のいう通りに無能のアルトを解雇したら、ギルドが崩壊したぞ!!理由を説明してもらおうか!!」
「ひぃ!?」
ミノタウロス討伐遠征失敗の後。
多くの冒険者が、アルト、アイリスに追従する形でギルド『青銅の鎧』を去っていった。
『青銅の鎧』のメンバーは半分以下になり、特に主力だったベテランの冒険者がほとんど抜けてしまったため、実質『青銅の鎧』は骨抜きとなってしまった。
引き留めようとしてメンバーに不満をぶつけられたギルマスは、ガイズに詰め寄る。
「お前は言ったな!!アルトは日頃からメンバーの足を引っ張ってばかりの無能だと!!あいつさえいなければこのギルドはもっと上へ上がれると…!だが、結果はどうだ!!アルトをクビにしたらギルドが崩壊したじゃないか!!」
「そ、それは…」
「まさか貴様…私に嘘をついていたのではあるまいな…?本当はアルトはすごく優秀で、我がギルドを支える要だったのではあるまいな…?」
今更アルトの真価に気づいたギルマスが、ガイズを問い詰める。
ガイズは苦し紛れに言い訳を並べる。
「そ、そんなことはありません…!アルトは無能です!!それは紛れもない事実です!!ただ奴は…しゅ、周囲の人間に取り入るのが上手いんですよ…!そ、それでああいうふうにアルトを有能だと勘違いする連中が現れるんです!!」
「ふむ、なるほど…それだと一応筋が通っているように思える…だが、それならクエストを失敗した理由はどう説明する?なぜ今まで何度も成功させてきたミノタウロスの討伐を、今回に限りしくじった?やはりアルトが欠けたからで…」
「ち、違います…!それはアイリスが抜けたからです!!」
「…ほう?アイリスが?」
ギルマスが訝しむような目でガイズを見る。
ガイズは額からダラダラと汗を流しながら必死に弁明する。
「あ、アイリスの戦闘力は凄まじいものがありました…こでまでのクエストで、メンバーたちは彼女に頼りきりで、あまり自身の戦闘力を上げてこなかった…だから、アイリスが抜けた途端にレベルが落ちたのです!!!」
これでどうだ!
そう言わんばかりのガイズだったが、ギルマスの表情は白け切っていた。
「お前は何を言っているんだ?」
ギルマスがギロリとガイズを睨んだ。
ガイズが「ひっ」と悲鳴を漏らす。
今回ばかりは、愚かなギルマスも、ガイズの出鱈目の嘘に騙されることはなかった。
「アイリスに頼りきりだった?確かに彼女は強かった。しかし、彼女1人が抜けたからといってミノタウロスの討伐もままならないほどにレベルが落ちるのはおかしいだろう!!というか、我がギルドは約半年前にもミノタウロスの討伐に挑んで成功しているが、その時は、アイリスは参戦していないぞ!!お前から上がった報告では、ガイズ!お前自身が大いに活躍をして討伐を成し遂げたとあった!!同行したアルトは足を引っ張るばかりで何もしなかったと…!この事実はお前の今の主張と完全に食い違うぞ!!」
「ぐ…」
ギルマスの最もな指摘に、ガイズは何も言えなくなってしまう。
長年虚偽報告で自分の評価を上げてきた卑怯な男の化けの皮が今、完全に剥がされてしまっていた。
「ガイズ…正直に言え。お前は嘘をついているな?アルトは本当は有能で、足を引っ張ってばかりの無能は、ガイズ。お前なんじゃないか?」
「それは違うっ!!」
ガイズが吠えた。
自分がアルトより無能である。
それはガイズが一番認めたくない事実だった。
「あんな男が有能であるはずがないっ!!確かにあいつは多少戦闘において秀でているところがあったかもしれない…!しかし、あんな奴が俺より有能であるはずがないっ!!あいつは無能だっ!!足を引っ張るだけのお荷物なんだっ!!」
根拠もない思い込みを、ガイズはひたすらに繰り返す。
そんなガイズを見て、ギルマスはほとんど呆れ返っていた。
そして、それと同時に自分の愚かさを悔いていた。
自分は今までこんな男を、参謀として重宝していたのか、と。
「はぁ…ガイズ。見苦しいぞ。いい加減にしろ。どのみちもう終わったんだ。我々の野望は。認めたらどうなんだ?お前は私に虚偽報告を」
「違う違う違う!!俺は嘘なんてついていないっ!!!」
ガイズが現実逃避をするように首を振った。
ギルマスの手を取って必死に訴えかける。
「ギルマス…!どうかもう一度俺の実力を示すチャンスをください…!ミノタウロス討伐の期限まではまだ時間がある…!こんどこそ必ずミノタウロスを討伐して見せる!!」
「何を言ってるんだお前は!!目を覚ませ!!残っているメンバーはほとんど新米も同然の奴らばかりだぞ!!ミノタウロス討伐なんて出来るはずがない!!」
「メンバーは他のギルドから集めます!!どんな手を使ってでも…!だから、もう一度チャンスをください…!」
「ぐ…」
ギルマスは逡巡する。
もはや彼の中ではガイズは完全に信用できない男と成り下がった。
しかしここでガイズをクビにしたところで、事態は何も解決しない。
彼のやるべきことは、これ以上メンバーを解雇することではなく、期限の迫ったミノタウロスの討伐をなんとしてでもやり遂げることだった。
そしてそのためには、まだガイズには利用価値があると思った。
主力がほとんど抜けたことで、ギルドに残ったメンバーのなかではガイズが一番の実力者だ。
ギルマスは藁をも掴む思いで、もう一度だけガイズを頼ることにした。
長年自分に虚偽報告をしていた罰は、その後に与えればいい。
「わ、わかった…もう一度、もう一度だけだぞガイズ。お前にチャンスをやる。なんとしてでも冒険者を集めてミノタロスを討伐してこい。それができなきゃ…今度こそお前はクビだ!!」
「わかりました…っ、ありがとうございます…っ」
一瞬憎々しげな顔でギルマスを睨んだ後、ガイズは執務室を出ていった。
「はぁ…どうしてこうなった…」
ギルマスは背もたれに身を預け、頭を抱えて重々しいため息を吐いた。
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