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第五十九話
しおりを挟む第三王女ルーナの生誕祭の会場となっていた王城のメインホールは、圧巻の様相を呈していた。
覚悟はしていたが、予想の遥か上をいくような規模感だった。
広い。
とにかく広い。
会場入りしてまず目に入ったのが、テーブルに並んだ豪勢な食事。
その量といえば、王都の住人全員に振舞っても余るのではないかというほどの量。
その奥に見えるのは楽器を奏でる楽隊。
気にならないほどの静かな音楽が流されており、会場の飾り付けとも合わさって、シックな空間を作り上げている。
そんな中を、優雅に微笑みながら談笑したり、体を揺らしたり、食事を口に運んでいるのが、着飾った貴族たち。
焦って食事を頬張ったり、忙しなく動き回ったりするものは一人もおらず、まさに優雅な空間というものがそこにあった。
こんなところへ、俺みたいなもと荒くれ家業が踏み入ってもいいのだろうかと思わせる、そんな場所。
「緊張していますか、アルト様」
「あ、あぁ…こんなんで緊張するなという方が無理だ…」
「うふふ…アルト様でもそんな弱気の顔をするのですね…いつもはあれだけ自信に満ちていてお強いだけに、少し意外です」
「庶民がここにくれば誰だってこうなるさ…これが上流階級ってやつか…」
俺は洗礼を受けているような気分だった。
会場へ入ると、ニーナはまず、前と同じように顔見知りの貴族たちの元へと挨拶をしに行った。
俺も少し後を歩いてついていき、ニーナに仕込まれた作法の通りに、胸に手を当ててお辞儀をする。
そうやって一通り挨拶回りをやっていると、突然楽隊の音楽が止んだ。
皆が食事や談笑をやめて、静かになる。
「ん?どうかしたのか?」
俺がニーナに尋ねると、ニーナが「しーっ」と人差し指を唇に当てた。
「ルーナ王女がいらっしゃるんですよ」
「…そうか」
俺も口を閉ざして、みんなが見ている方を見る。
やがて数人の護衛に囲まれて、真っ白なドレスに身を包んだ少女が会場へと現れた。
恐ろしいほどに美しい少女だ。
金髪碧眼。
恐ろしいほどに整った容姿。
白磁の肌に、出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいる理想の体型。
完璧を絵に描いたような少女が、目を閉じて、ゆっくりと歩く姿はあまりに様になりすぎていて、どこからともなく吐息が漏れている。
おそらくあれがルーナ王女なのだろう。
美しい、という話は俺も噂で知っていたが、またしても予想の遥か上をいかれてしまった。
「…」
貴族たちが自然道を開けるなか、少女は無言で会場の中央へと歩いていく。
そして皆に囲まれ一斉に注目を浴びる中、目を開けてにっこりと微笑んだ。
「今宵は私などの生誕祭へ足を運んでいただき、誠にありがとうございます。どうぞ思う存分楽しんでいってください」
そう言って一礼した。
「「「「わあああああっ!!!」」」」
歓声とともに拍手が沸き起こった。
俺もあわせて拍手をする。
やがて会場が静かになると、楽隊の音楽が再開した。
皆も再び食事に手をつけたり談笑を始めたりする。
どうやら今ので挨拶的なのは終わったらしい。
「おっ、あれとか美味そうだな…」
ニーナの挨拶回りも終わったようなので、俺は食事に手をつけようとする。
が、伸ばした手を慌てて引っ込めていすまいをただした。
なんと挨拶を終えた王女が、こちらへと歩いてきたのだ。
「まぁ、ニーナ!来てくれたのね。嬉しいわ」
笑顔でニーナに話しかける王女。
「こんばんは、ルーナ王女。お誕生日、おめでとうございます」
「ありがとう、ニーナ」
ニーナが祝いの言葉をかけると、王女は嬉しそうに微笑んだ。
どうやら二人は仲がいいみたいだった。
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