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第一章

第十話

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「怪我はないか?」
俺はいまだに尻餅をついたままのエルフの少女に手を差し伸べながら尋ねた。
エルフの少女は恐る恐る俺の手を取った。
「お、おかげさまで…」
「そうか。ならよかった」
「あの…助けてくれて本当にありがとうございます」
礼儀正しくも、ペコリと頭を下げるエルフの少女。
「無事ならそれでいい。それより…見たところ武器も荷物もないようだが、どうしてこんなところに?」
「えっと、それは…」
尋ねた途端に、少女の表情が曇った。
「あ、答えたくないなら別にいいぞ」
地雷を踏んだかと思い、俺はすぐに身を引いたのだが…
「いえっ…その、実は私、エルフの里を追い出されまして…」
「里を追い出された…?」
聞けば。
少女の名はソフィアといい、エルフの母と人間の父親の間に生まれたハーフエルフだという。
ハーフエルフは、エルフたちの間では忌むべき存在であり、幼い頃から迫害されて生きてきた。
そしてつい最近、とうとう故郷の村を追い出されてしまったのだそうだ。
「両親はすでに死んでしまっていますし…頼れる人もなくて…私、死ぬ気でこの森に入ったんです…」
ソフィアは、自殺するつもりでモンスターの潜むこの森に足を踏み入れたようだ。
「でも、やっぱり死ぬのは怖くて…それで必死に逃げたんですけど、体力も限界で…そんなところに…」
そう言ってソフィアは俺を上目遣いに見つめた。
「俺が来たってわけか」
コクリと首肯するソフィア。
「なるほどな…事情はわかった。嫌な話をさせてすまなかったな」
「い、いえっ!!とんでもありません。あなたは命の恩人ですから!」
慌てたようにそんなことをいうソフィア。
「それで、これからどうする?俺は今からアイナークに向かおうと思ってるんだが、ついてくるか?」
「いいんですか!?」
ソフィアが驚きの表情を浮かべる。
「ああ。自殺したいってんなら止めはしないが…」
「いえっ!!せっかく救ってもらった命です!精一杯生きてみます!」
「そうか」
ソフィアが元気を取り戻したようで、何よりだった。
「じゃあ、行こうぜ」
「はいっ!!」
そういうわけで、俺の旅にエルフの少女が一人加わった。
「あ、あの…すみません…」
「なんだ?腹でも減ったか?携帯食とかあるぞ」
「いえ、そうじゃなくて…私、まだ名前を伺ってません」
「あー、そういえば。俺はアレンだ。よろしくなソフィア」
「あ、アレン様ですね。よろしくお願いします!!」
「様はいらないぞ…?」


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