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祝祭の影
見えた真相
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西方の村は、音を失ったように静かだった。
森を渡る風が、枝を揺らす。
その擦れ合う音だけが、やけに大きく耳に残る。
「……落ち着かねぇな」
ローレンスが、低く呟いた。
「人はいる。でも、なんか視線が突き刺さる」
ミオも同意する。
歓迎ではない。拒絶とも違う。
――“巻き込まれること”への恐れ。
その視線の中心に、ひとりの男がいた。
広場に停められた荷馬車。
御者台の脇で、積み荷を何度も確かめている若い商人。
目が合った瞬間、男の動きが止まった。
ほんの一瞬。
だが、シンは見逃さなかった。
「……声をかけてみるか。」
仲間は何も言わず、うなずいた。
⸻
「え、ええ……私はミュラー。ただの行商です」
男――ミュラーは、笑顔を浮かべた。
だが、その笑顔は張り付いたように硬い。
「この村では、何を?」
「雑貨を……必要とされるものを」
言葉は整っている。
だが、視線が定まらない。
シンは、静かに名乗った。
「影裁だ」
その瞬間、ミュラーの顔色が変わった。
喉が鳴り、呼吸が浅くなる。
「……話がある」
逃げ道はなかった。
ミュラーは、観念したようにうなずいた。
⸻
宿の一室。
窓は閉められ、外の気配を遮断している。
「王都の祭り……あのテロですが」
ミュラーは、声を潜めた。
「テロは本来の目的じゃない」
「ブラフ?」
サラが聞く。
「ええ。人の目を引くための……」
ローレンスが続ける。
「じゃあ、裏では何があったんだ?」
ミュラーは一度、目を伏せた。
「……大型の魔道具と、金です」
沈黙。
「軍事規格の魔道具。
正規ルートじゃ、絶対に流れない」
ミオの視線が鋭くなる。
「それを、誰が?」
「……言えません」
即答だった。
だが、嘘ではない。
“言えない”のだ。
「なぜ、その話を俺たちに?」
シンが問う。
ミュラーは、しばらく黙り込んだ後、ぽつりと答えた。
「……助けてもらったんです。ある人に。」
「誰に?」
「騎士団の……部隊長に」
一拍。
「リア・トルー・トゥゼンです」
その名が、静かに落ちた。
⸻
ミュラーが去った後、部屋には重苦しい沈黙が残った。
「……テロはおとり」
ローレンスが腕を組む。
「筋は通る」
「でも……」
サラが言葉を探す。
「リアさんが、そんなことに……」
シンは、ゆっくり息を吐いた。
「俺は」
静かな声だった。
「リア個人を、憎んでるわけじゃない」
仲間がシンを見る。
「……騎士団だ」
続ける。
「俺の家族を殺したのは、騎士団だ。
命令か、都合か、正義かは知らない」
拳を握る。
「だから…サラには分かんないだろうけど、騎士団を“庇う”行為に、どうしても耐えられない自分がいるんだよ。」
サラは、すぐに反論しなかった。
「それでも……」
やがて、言葉を選ぶように言う。
「救えるかもしれない人を、見捨てるの?」
シンは答えなかった。
答えられなかった。
⸻
「……言い過ぎだぞ」
夜。
焚き火のそばで、ローレンスが言った。
「分かってる」
即答だった。
「でも、あれが本心だ」
「そっか。まぁ、それでいいよ。」
ローレンスは、火を見つめたまま言う。
「一度燃え上がった感情は、中々消せない」
一拍。
「でもな。後悔って選択は、後で一番重くなる。参考までに、な。」
シンは、黙って炎を見つめた。
⸻
夜明け前。
サラは、村外れに立っていた。
声をかけるまで、時間がかかった。
「……さっきは」
サラは振り返らない。
「全部、分かってるわけじゃないよ」
柔らかな声。
「でも……シンが、騎士団を簡単に許せない理由は」
シンは、深く頭を下げた。
「……俺は行く」
「どこへ?」
「リアを、助ける」
サラは、しばらく黙っていた。
やがて、小さく笑い。息を吐く。
「……そっか。もちろん一人じゃ行かせないよ」
その言葉に、シンは顔を上げた。
「一緒に行こう!」
⸻
朝靄の中、影裁は歩き出す。
テロは囮。
真の狙いは、まだ霧の向こうだ。
だが一つだけ、確かなことがある。
剣を抜く理由は、復讐だけじゃない。
憎しみを抱いたままでも、
人は前へ進める。
――その証明のために。
シンは、再び騎士団と向き合う。
次は、逃げない。
森を渡る風が、枝を揺らす。
その擦れ合う音だけが、やけに大きく耳に残る。
「……落ち着かねぇな」
ローレンスが、低く呟いた。
「人はいる。でも、なんか視線が突き刺さる」
ミオも同意する。
歓迎ではない。拒絶とも違う。
――“巻き込まれること”への恐れ。
その視線の中心に、ひとりの男がいた。
広場に停められた荷馬車。
御者台の脇で、積み荷を何度も確かめている若い商人。
目が合った瞬間、男の動きが止まった。
ほんの一瞬。
だが、シンは見逃さなかった。
「……声をかけてみるか。」
仲間は何も言わず、うなずいた。
⸻
「え、ええ……私はミュラー。ただの行商です」
男――ミュラーは、笑顔を浮かべた。
だが、その笑顔は張り付いたように硬い。
「この村では、何を?」
「雑貨を……必要とされるものを」
言葉は整っている。
だが、視線が定まらない。
シンは、静かに名乗った。
「影裁だ」
その瞬間、ミュラーの顔色が変わった。
喉が鳴り、呼吸が浅くなる。
「……話がある」
逃げ道はなかった。
ミュラーは、観念したようにうなずいた。
⸻
宿の一室。
窓は閉められ、外の気配を遮断している。
「王都の祭り……あのテロですが」
ミュラーは、声を潜めた。
「テロは本来の目的じゃない」
「ブラフ?」
サラが聞く。
「ええ。人の目を引くための……」
ローレンスが続ける。
「じゃあ、裏では何があったんだ?」
ミュラーは一度、目を伏せた。
「……大型の魔道具と、金です」
沈黙。
「軍事規格の魔道具。
正規ルートじゃ、絶対に流れない」
ミオの視線が鋭くなる。
「それを、誰が?」
「……言えません」
即答だった。
だが、嘘ではない。
“言えない”のだ。
「なぜ、その話を俺たちに?」
シンが問う。
ミュラーは、しばらく黙り込んだ後、ぽつりと答えた。
「……助けてもらったんです。ある人に。」
「誰に?」
「騎士団の……部隊長に」
一拍。
「リア・トルー・トゥゼンです」
その名が、静かに落ちた。
⸻
ミュラーが去った後、部屋には重苦しい沈黙が残った。
「……テロはおとり」
ローレンスが腕を組む。
「筋は通る」
「でも……」
サラが言葉を探す。
「リアさんが、そんなことに……」
シンは、ゆっくり息を吐いた。
「俺は」
静かな声だった。
「リア個人を、憎んでるわけじゃない」
仲間がシンを見る。
「……騎士団だ」
続ける。
「俺の家族を殺したのは、騎士団だ。
命令か、都合か、正義かは知らない」
拳を握る。
「だから…サラには分かんないだろうけど、騎士団を“庇う”行為に、どうしても耐えられない自分がいるんだよ。」
サラは、すぐに反論しなかった。
「それでも……」
やがて、言葉を選ぶように言う。
「救えるかもしれない人を、見捨てるの?」
シンは答えなかった。
答えられなかった。
⸻
「……言い過ぎだぞ」
夜。
焚き火のそばで、ローレンスが言った。
「分かってる」
即答だった。
「でも、あれが本心だ」
「そっか。まぁ、それでいいよ。」
ローレンスは、火を見つめたまま言う。
「一度燃え上がった感情は、中々消せない」
一拍。
「でもな。後悔って選択は、後で一番重くなる。参考までに、な。」
シンは、黙って炎を見つめた。
⸻
夜明け前。
サラは、村外れに立っていた。
声をかけるまで、時間がかかった。
「……さっきは」
サラは振り返らない。
「全部、分かってるわけじゃないよ」
柔らかな声。
「でも……シンが、騎士団を簡単に許せない理由は」
シンは、深く頭を下げた。
「……俺は行く」
「どこへ?」
「リアを、助ける」
サラは、しばらく黙っていた。
やがて、小さく笑い。息を吐く。
「……そっか。もちろん一人じゃ行かせないよ」
その言葉に、シンは顔を上げた。
「一緒に行こう!」
⸻
朝靄の中、影裁は歩き出す。
テロは囮。
真の狙いは、まだ霧の向こうだ。
だが一つだけ、確かなことがある。
剣を抜く理由は、復讐だけじゃない。
憎しみを抱いたままでも、
人は前へ進める。
――その証明のために。
シンは、再び騎士団と向き合う。
次は、逃げない。
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