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遼太
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ひよりが産まれた日の事を覚えている。
ひよりの母親、ひまりさんはうちのオカンと幼なじみで同級生で親友だ。結婚してもずっと一緒で、マイホームまでこうして向かい合わせの家を買い、現在に至っている。
でも、オカンには、俺の上に2人のアニキ、という3人の子供がポンポンと出来たのに、ひまりさんにはなかなか出来なかったらしい。
それで、やっと出来たのが、俺の7つも下のひよりだった、というわけ。
ひまりさんは綺麗で優雅な人で、ガサツで豪快なうちのオカンと親友というのが今でも信じらない。
とにかく、〝おばさん〟なんて呼ぶのが躊躇われるような人で、俺は今でも〝ひまりさん〟と呼んでいる。
ひよりが生まれた時は、アニキ達にもみくちゃにされてきた俺に妹が出来たみたいで、凄く嬉しかった。しかも、大好きだったひまりさんの子供。
「遼ちゃん、お兄ちゃんになってあげてね」
産院でそう言われた時はもう天にも昇るような気持ちだった。
小学2年だった俺の腕に抱かせてくれた生まれたばかりのひよりは、柔らかくてふにゃふにゃと動いてた。俺は「お兄ちゃんになってこの子を守ってあげるんだ!」なんて、あの時思ったんだっけ。
その気持ちは今でも変わらなくて、ひよりは俺にとって〝守るべき大事な存在〟なんだ。
それ以上でも、それ以下でもなくて――。
*
高校生なんてのは、暇さえありゃ異性の話をしてる。まあ、俺だってそうだったけど。
練習が終わり、緊張が解けた部員達の会話を聞いてると、たまに中に割って入りたくなる。
部室で明日の練習スケジュール確認をしていた俺の耳に、帰り支度をする部員達の会話が入ってきた。
「1組の佐倉ってさぁ、二股だったらしいぜー」
「らしいな~。ツイッターでバレたとか、間抜けかよ、ってな」
「つーか、アイツ全然かわいくなくね?」
「なんかいい技でも持ってんじゃね?」
「いい技ってなんだよ」
思わず吹き出しそうになる。
バカだよなコイツら。カワイイけどな。
「そういやさぁ、1年の宮部っつったっけ?」
「ああ、宮部ひよりスか? 宮部ならうちのクラスっス」
「そっか、お前のクラスか」
突然、ひよりの名前が出てきてドキッとした。不本意ながら、聞き耳を立ててしまう。
「あの子、スゲーかわいくね?」
「あ、俺も知ってるぞ。カワイイよなー」
「ああ、密かに人気ありますね」
「だろ? あの無防備な感じがたまんねーの。俺、ねらっちまおっかなー」
俺は机に向かったまま、ひよりの事を言い出したヤツに声を掛けた。
「たかはしぃ~、お前明日のランニング10キロ追加な」
「は!? マジで!?」
高橋の方に振り返った俺を見た。
ひよりをそういう目で見るヤツは、おにーさんが許しません。
「まじ。お前ピッチャーだろ。走っとけ」
もっともらしい理由は付けておく。
「なんだよー、ひらたっちにそう言われちゃぁな……」
「あと1つ言わせてもらうが。監督と呼べ」
*
子供のままの〝大好き〟を全力でぶつけてくれるひよが、可愛くてたまらない。
境界線はどこだ? なんて迷いとか戸惑いとか、背徳感とか。全部吹っ飛ばして、〝キス〟を教えてしまった訳だが。
小さな顔を両手で包んで、キスをする。舌を絡めて吸い上げると、おずおずしながらも、返してくれる。
俺の膝の上で目を瞑るひよの、長い睫毛が見えた。白い頬が微かに紅潮していて、不覚にもドキリとさせられて、俺も目を閉じた。
ヤバイ方向一歩手前という自覚はある。
俺はロリじゃねぇ、とか。
ああもう、何言ってんだ、俺は。
『ひよりはりょうちゃんのおよめさんになるの!』
そう言って、小さな頃から俺にくっついて来たひよりが可愛くて可愛くて、よく「チューしよう」なんてやってたら、それが習慣になってしまった。
〝なかよしタイム〟なんて、一歩間違えれば如何わしい名前を冠してスキンシップの時間を作ったのは俺。
大学生の時に、ひまりさんにお願いされて中1だったひよりの家庭教師を引き受けた。
男ってさ、こんなもんなんだよ。独占欲、みたいな?
まだまだガキンチョと思っていたのに、時折見せる仕草にちょっと不安になった。
ずーっと守ってきたひよりに一番最初に他の男が触れるのは許さん、みたいな気持ちになってしまった。
『俺たち、キスは挨拶みたいなもんだろ? だからこのキスの延長も仲良しの挨拶になるんだよ』
――んなわけねーだろっ! と心の中で1人ツッコミを入れながら、ひよりに話すと。
『大好きな遼ちゃんと〝なかよし〟のごあいさつが増えるの? うれしいっ!』
天然ど級の素直と言おうか、ただのおばかさん、と言おうか。
これだけは言える。
罪悪感は、あった。
何の言い訳にもなんねーけどな。
いつか、本当の恋を憶えて、男と付き合う日が来た時、このキスの意味を知るんだろうな。
俺はなんだか、とても大事なタイミングを逃してしまったような……。最近、そんな気がしてならないんだよ、ひよ。
「なあ、ひよ」
唇を離した後、柔らかな身体が気持ちよくて、そっと抱きしめて、小さく呼んだ。
「ん?」
腕の中で可愛い声が返ってくる。
「学校は、楽しいか?」
「うん、楽しいよ!」
日課になったこの質問は、生存確認みたいな大事な意味を持っていた。
短いやり取りだけど、ひよのこの返事を確認するのが、俺の役目。
「よし!」
ひよの頭をクシャクシャッと撫でると、くすぐったそうにキャッキャと笑った。
これでよし!
「ひよ」
甘える瞳を真っ直ぐに見て、優しく呼ぶとひよは愛らしい笑みで返す。
前髪をそっと手で避けて額にキスをしてから、もう一度、濃厚なキスを。
ひよりの母親、ひまりさんはうちのオカンと幼なじみで同級生で親友だ。結婚してもずっと一緒で、マイホームまでこうして向かい合わせの家を買い、現在に至っている。
でも、オカンには、俺の上に2人のアニキ、という3人の子供がポンポンと出来たのに、ひまりさんにはなかなか出来なかったらしい。
それで、やっと出来たのが、俺の7つも下のひよりだった、というわけ。
ひまりさんは綺麗で優雅な人で、ガサツで豪快なうちのオカンと親友というのが今でも信じらない。
とにかく、〝おばさん〟なんて呼ぶのが躊躇われるような人で、俺は今でも〝ひまりさん〟と呼んでいる。
ひよりが生まれた時は、アニキ達にもみくちゃにされてきた俺に妹が出来たみたいで、凄く嬉しかった。しかも、大好きだったひまりさんの子供。
「遼ちゃん、お兄ちゃんになってあげてね」
産院でそう言われた時はもう天にも昇るような気持ちだった。
小学2年だった俺の腕に抱かせてくれた生まれたばかりのひよりは、柔らかくてふにゃふにゃと動いてた。俺は「お兄ちゃんになってこの子を守ってあげるんだ!」なんて、あの時思ったんだっけ。
その気持ちは今でも変わらなくて、ひよりは俺にとって〝守るべき大事な存在〟なんだ。
それ以上でも、それ以下でもなくて――。
*
高校生なんてのは、暇さえありゃ異性の話をしてる。まあ、俺だってそうだったけど。
練習が終わり、緊張が解けた部員達の会話を聞いてると、たまに中に割って入りたくなる。
部室で明日の練習スケジュール確認をしていた俺の耳に、帰り支度をする部員達の会話が入ってきた。
「1組の佐倉ってさぁ、二股だったらしいぜー」
「らしいな~。ツイッターでバレたとか、間抜けかよ、ってな」
「つーか、アイツ全然かわいくなくね?」
「なんかいい技でも持ってんじゃね?」
「いい技ってなんだよ」
思わず吹き出しそうになる。
バカだよなコイツら。カワイイけどな。
「そういやさぁ、1年の宮部っつったっけ?」
「ああ、宮部ひよりスか? 宮部ならうちのクラスっス」
「そっか、お前のクラスか」
突然、ひよりの名前が出てきてドキッとした。不本意ながら、聞き耳を立ててしまう。
「あの子、スゲーかわいくね?」
「あ、俺も知ってるぞ。カワイイよなー」
「ああ、密かに人気ありますね」
「だろ? あの無防備な感じがたまんねーの。俺、ねらっちまおっかなー」
俺は机に向かったまま、ひよりの事を言い出したヤツに声を掛けた。
「たかはしぃ~、お前明日のランニング10キロ追加な」
「は!? マジで!?」
高橋の方に振り返った俺を見た。
ひよりをそういう目で見るヤツは、おにーさんが許しません。
「まじ。お前ピッチャーだろ。走っとけ」
もっともらしい理由は付けておく。
「なんだよー、ひらたっちにそう言われちゃぁな……」
「あと1つ言わせてもらうが。監督と呼べ」
*
子供のままの〝大好き〟を全力でぶつけてくれるひよが、可愛くてたまらない。
境界線はどこだ? なんて迷いとか戸惑いとか、背徳感とか。全部吹っ飛ばして、〝キス〟を教えてしまった訳だが。
小さな顔を両手で包んで、キスをする。舌を絡めて吸い上げると、おずおずしながらも、返してくれる。
俺の膝の上で目を瞑るひよの、長い睫毛が見えた。白い頬が微かに紅潮していて、不覚にもドキリとさせられて、俺も目を閉じた。
ヤバイ方向一歩手前という自覚はある。
俺はロリじゃねぇ、とか。
ああもう、何言ってんだ、俺は。
『ひよりはりょうちゃんのおよめさんになるの!』
そう言って、小さな頃から俺にくっついて来たひよりが可愛くて可愛くて、よく「チューしよう」なんてやってたら、それが習慣になってしまった。
〝なかよしタイム〟なんて、一歩間違えれば如何わしい名前を冠してスキンシップの時間を作ったのは俺。
大学生の時に、ひまりさんにお願いされて中1だったひよりの家庭教師を引き受けた。
男ってさ、こんなもんなんだよ。独占欲、みたいな?
まだまだガキンチョと思っていたのに、時折見せる仕草にちょっと不安になった。
ずーっと守ってきたひよりに一番最初に他の男が触れるのは許さん、みたいな気持ちになってしまった。
『俺たち、キスは挨拶みたいなもんだろ? だからこのキスの延長も仲良しの挨拶になるんだよ』
――んなわけねーだろっ! と心の中で1人ツッコミを入れながら、ひよりに話すと。
『大好きな遼ちゃんと〝なかよし〟のごあいさつが増えるの? うれしいっ!』
天然ど級の素直と言おうか、ただのおばかさん、と言おうか。
これだけは言える。
罪悪感は、あった。
何の言い訳にもなんねーけどな。
いつか、本当の恋を憶えて、男と付き合う日が来た時、このキスの意味を知るんだろうな。
俺はなんだか、とても大事なタイミングを逃してしまったような……。最近、そんな気がしてならないんだよ、ひよ。
「なあ、ひよ」
唇を離した後、柔らかな身体が気持ちよくて、そっと抱きしめて、小さく呼んだ。
「ん?」
腕の中で可愛い声が返ってくる。
「学校は、楽しいか?」
「うん、楽しいよ!」
日課になったこの質問は、生存確認みたいな大事な意味を持っていた。
短いやり取りだけど、ひよのこの返事を確認するのが、俺の役目。
「よし!」
ひよの頭をクシャクシャッと撫でると、くすぐったそうにキャッキャと笑った。
これでよし!
「ひよ」
甘える瞳を真っ直ぐに見て、優しく呼ぶとひよは愛らしい笑みで返す。
前髪をそっと手で避けて額にキスをしてから、もう一度、濃厚なキスを。
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