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零れる涙はどうして?
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「平田センセ――――!!」
「カッコイイ――――!!」
秋の体育祭、です。
うちの高校は、生徒チーム対先生チーム、というリレー競技がある。これが、凄く盛り上がるの。午後の最終競技になってるくらい。
あたしは、運動苦手だから専ら応援。それだけでもけっこう楽しい。
小さな頃から遼ちゃんの野球の試合、おばさんに連れられて観に行ってたから、スポーツ観戦は好きだから。
でも、ハチマキをした遼ちゃんがこうして真剣にトラックを、バトン持って走る姿を観たのは初めてで。
遼ちゃんと同じ学校で過ごせるなんて、夢みたい。もし年が近くたって、ムリだったもん。遼ちゃんの行った高校は、都内の名門大学付属で、あたしがどんなに必死に頑張ったって、どんなに背伸びしたって、到底手の届かない学校だったもん。
遼ちゃんが、走る。
どんどん、抜いてく。
最後は学内で一番早いといわれてる2年生の先輩となデッドヒート!
胸の前で祈るように手を組んで、瞬きも忘れて、心臓がひっくり返ってしまうくらいドキドキして。周りの歓声、あたしの耳には入らなかった。
遼ちゃん――――!
最後にゴールテープを切ったのは――ほんの一瞬、遼ちゃんが先。
遼ちゃん、ドキドキが止まんないの。笑う遼ちゃん顔に、胸がギュッとなって……。
なんだろう、小学生の時に、甲子園で遼ちゃんのホームラン観たときだって興奮したけど、こんなに胸が痛くなったりはしなかったよ。
ねぇ、どうして?
「平田センセ、めっちゃカッコ良かったー!」
「もー! マジで惚れちゃう、どうしよう!」
「大人でカッコいいもんね~。同じクラスの男子がガキに見えて仕方ないよー」
体育祭が終わった後の更衣室は、遼ちゃんの話で持ちきりだったけど、あたしの胸に広がる不安がみんなの話に入っていく事を躊躇わせた。
あたしが遼ちゃんと幼なじみという事は、誰も知らない。仲良しの茉奈ちゃんも。
遼ちゃんがこんなに人気があること、入学してから知ったよ。遼ちゃん、何も言わないんだもの。
「ねぇ、ひより」
体操着を脱いで俯いていたあたしに、茉奈ちゃんが話しかけた。
「ひよりは好きな人とか、いないの?」
「え、好きな、人?」
茉奈ちゃんがあたしの顔を覗き込む。
「だって、ひより、いくらお子ちゃまでも好きな人くらい、ねぇ?」
あたしは、Tシャツを脱ぎ掛けたまま固まって、うーん、って考えこんでしまった。
「どんなのが好きって言うのかなぁ?」
「え~っ! ひよりーっ」
茉奈ちゃん、両手でお顔挟んで、有名絵画でお馴染みの叫びの表情をする。
「ま、茉奈ちゃん、大げさ」
あたしが慌てて両手で抑えようとしたら。
「え~、なになに~? また可愛い可愛いお子ちゃまひよちゃんネタ~?」
茉奈ちゃんのすっとんきょうな声に、さっきまで遼ちゃんの話で盛り上がっていた子達まであたしの周りに集まって来ちゃった。
「そうなの! ひよりは〝コイバナ〟も出来ないの!」
こいばな……。
困った顔をするあたしに、クラスでも大人びてて有名な香織ちゃんが優しく笑いながら話してくれた。
「ひより、好きな人っていうのはね」
お化粧した綺麗なお顔をあたしは見上げた。香織ちゃんはゆっくりと話し始めた。
「自分にとって特別な人。その人を想うだけで胸が苦しくなったり切なくなったり、気付くと目で追っていたり、目が合ったりでもしたらそれこそもう心臓壊れちゃうくらいドキドキしちゃうような、そんな気持ちにさせてくれる人」
その人を想うだけで――?
その時、何故か遼ちゃんの姿があたしの中に浮かんだ。
遼ちゃん? さっきのドキドキは?
遼ちゃんの事はずっと好きだったよ。でもあたし、遼ちゃんを想ってこんなにドキドキしたことは、なかった、よ?
「ドキドキ、するひと?」
「そう、それ! いるの、ひより?」
「あの、ね」
口を開きかけた時、「あ――――っ!」という声が香織ちゃんの後ろから上がった。
声がした方にみんなの視線が集中した。
「香織!背中にキスマーク!」
えーっ! とみんなが、スカートは着ていたのに上はブラだけだった香織ちゃんの背中に注目した。香織ちゃん本人は、やだぁー、と言って自分の背中を肩越しに見た。
「わぁ、こんなにー!」
「あ、よく見たら胸にもー!」
きゃあきゃあと盛り上がる更衣室であたし1人だけついていってない。
きすまーくって?
ポカンとするあたしに、茉奈ちゃんがこっそり話してくれた。
「キスマークってね、口で肌に、直に付けられるんだよ」
口で?
お肌に?
直に?
目を丸くするあたしに茉奈ちゃんはニコニコ顔で頷く。
「吸っちゃう感じ、かな~?」
「すっちゃう……」
すっちゃうの……。
えと、つまり、つまり。
色々想像してみたけれど、あたしの頭では追いつかない。
それがなんでみんなが騒ぐのかよく分かんないよ?
眉間に縦じわ作って考えているあたしに茉奈ちゃんは、肩を竦めた。あたしの眉間の縦じわを指で伸ばしながら話してくれた。
「つまりね、キスマークの意味は、香織は彼とは全てを見せ合う関係って事」
全てを見せ合う。
あたしはボンヤリと、香織ちゃんの柔らかそうな、あたしとは全然違う、大人っぽくて色っぽくて大きい胸に付いた赤い跡を見ていた。
そっか。あの胸に、香織ちゃんは彼さんはキスをするっていうことなんだ。
キスを。
何故かこの時、フッと遼ちゃんが浮かんで胸がドキンと大きな音を立てて跳ねた。
その日、遼ちゃんは夜遅くなっても帰って来なかった。体育祭が無事終わって先生達は打ち上げがあったみたいです。
あたしは、窓を開けて外灯が灯る道の先をずーっと見詰めてた。今日は遼ちゃんに凄く会いたかったから。
やっぱり、遼ちゃんは昔みたいにずっとずっとあたしの傍にいてくれる遼ちゃんではなくなっちゃったのかな。遼ちゃんが凄く遠くなっていくような気がして、なんだか悲しくなって。
あれ、なんで? ポロポロと涙がこぼれてきた。
遼ちゃん。ねえ遼ちゃん。〝大好き〟は変わんないの。でもね、今までの大好きとは違うみたいだよ。
「カッコイイ――――!!」
秋の体育祭、です。
うちの高校は、生徒チーム対先生チーム、というリレー競技がある。これが、凄く盛り上がるの。午後の最終競技になってるくらい。
あたしは、運動苦手だから専ら応援。それだけでもけっこう楽しい。
小さな頃から遼ちゃんの野球の試合、おばさんに連れられて観に行ってたから、スポーツ観戦は好きだから。
でも、ハチマキをした遼ちゃんがこうして真剣にトラックを、バトン持って走る姿を観たのは初めてで。
遼ちゃんと同じ学校で過ごせるなんて、夢みたい。もし年が近くたって、ムリだったもん。遼ちゃんの行った高校は、都内の名門大学付属で、あたしがどんなに必死に頑張ったって、どんなに背伸びしたって、到底手の届かない学校だったもん。
遼ちゃんが、走る。
どんどん、抜いてく。
最後は学内で一番早いといわれてる2年生の先輩となデッドヒート!
胸の前で祈るように手を組んで、瞬きも忘れて、心臓がひっくり返ってしまうくらいドキドキして。周りの歓声、あたしの耳には入らなかった。
遼ちゃん――――!
最後にゴールテープを切ったのは――ほんの一瞬、遼ちゃんが先。
遼ちゃん、ドキドキが止まんないの。笑う遼ちゃん顔に、胸がギュッとなって……。
なんだろう、小学生の時に、甲子園で遼ちゃんのホームラン観たときだって興奮したけど、こんなに胸が痛くなったりはしなかったよ。
ねぇ、どうして?
「平田センセ、めっちゃカッコ良かったー!」
「もー! マジで惚れちゃう、どうしよう!」
「大人でカッコいいもんね~。同じクラスの男子がガキに見えて仕方ないよー」
体育祭が終わった後の更衣室は、遼ちゃんの話で持ちきりだったけど、あたしの胸に広がる不安がみんなの話に入っていく事を躊躇わせた。
あたしが遼ちゃんと幼なじみという事は、誰も知らない。仲良しの茉奈ちゃんも。
遼ちゃんがこんなに人気があること、入学してから知ったよ。遼ちゃん、何も言わないんだもの。
「ねぇ、ひより」
体操着を脱いで俯いていたあたしに、茉奈ちゃんが話しかけた。
「ひよりは好きな人とか、いないの?」
「え、好きな、人?」
茉奈ちゃんがあたしの顔を覗き込む。
「だって、ひより、いくらお子ちゃまでも好きな人くらい、ねぇ?」
あたしは、Tシャツを脱ぎ掛けたまま固まって、うーん、って考えこんでしまった。
「どんなのが好きって言うのかなぁ?」
「え~っ! ひよりーっ」
茉奈ちゃん、両手でお顔挟んで、有名絵画でお馴染みの叫びの表情をする。
「ま、茉奈ちゃん、大げさ」
あたしが慌てて両手で抑えようとしたら。
「え~、なになに~? また可愛い可愛いお子ちゃまひよちゃんネタ~?」
茉奈ちゃんのすっとんきょうな声に、さっきまで遼ちゃんの話で盛り上がっていた子達まであたしの周りに集まって来ちゃった。
「そうなの! ひよりは〝コイバナ〟も出来ないの!」
こいばな……。
困った顔をするあたしに、クラスでも大人びてて有名な香織ちゃんが優しく笑いながら話してくれた。
「ひより、好きな人っていうのはね」
お化粧した綺麗なお顔をあたしは見上げた。香織ちゃんはゆっくりと話し始めた。
「自分にとって特別な人。その人を想うだけで胸が苦しくなったり切なくなったり、気付くと目で追っていたり、目が合ったりでもしたらそれこそもう心臓壊れちゃうくらいドキドキしちゃうような、そんな気持ちにさせてくれる人」
その人を想うだけで――?
その時、何故か遼ちゃんの姿があたしの中に浮かんだ。
遼ちゃん? さっきのドキドキは?
遼ちゃんの事はずっと好きだったよ。でもあたし、遼ちゃんを想ってこんなにドキドキしたことは、なかった、よ?
「ドキドキ、するひと?」
「そう、それ! いるの、ひより?」
「あの、ね」
口を開きかけた時、「あ――――っ!」という声が香織ちゃんの後ろから上がった。
声がした方にみんなの視線が集中した。
「香織!背中にキスマーク!」
えーっ! とみんなが、スカートは着ていたのに上はブラだけだった香織ちゃんの背中に注目した。香織ちゃん本人は、やだぁー、と言って自分の背中を肩越しに見た。
「わぁ、こんなにー!」
「あ、よく見たら胸にもー!」
きゃあきゃあと盛り上がる更衣室であたし1人だけついていってない。
きすまーくって?
ポカンとするあたしに、茉奈ちゃんがこっそり話してくれた。
「キスマークってね、口で肌に、直に付けられるんだよ」
口で?
お肌に?
直に?
目を丸くするあたしに茉奈ちゃんはニコニコ顔で頷く。
「吸っちゃう感じ、かな~?」
「すっちゃう……」
すっちゃうの……。
えと、つまり、つまり。
色々想像してみたけれど、あたしの頭では追いつかない。
それがなんでみんなが騒ぐのかよく分かんないよ?
眉間に縦じわ作って考えているあたしに茉奈ちゃんは、肩を竦めた。あたしの眉間の縦じわを指で伸ばしながら話してくれた。
「つまりね、キスマークの意味は、香織は彼とは全てを見せ合う関係って事」
全てを見せ合う。
あたしはボンヤリと、香織ちゃんの柔らかそうな、あたしとは全然違う、大人っぽくて色っぽくて大きい胸に付いた赤い跡を見ていた。
そっか。あの胸に、香織ちゃんは彼さんはキスをするっていうことなんだ。
キスを。
何故かこの時、フッと遼ちゃんが浮かんで胸がドキンと大きな音を立てて跳ねた。
その日、遼ちゃんは夜遅くなっても帰って来なかった。体育祭が無事終わって先生達は打ち上げがあったみたいです。
あたしは、窓を開けて外灯が灯る道の先をずーっと見詰めてた。今日は遼ちゃんに凄く会いたかったから。
やっぱり、遼ちゃんは昔みたいにずっとずっとあたしの傍にいてくれる遼ちゃんではなくなっちゃったのかな。遼ちゃんが凄く遠くなっていくような気がして、なんだか悲しくなって。
あれ、なんで? ポロポロと涙がこぼれてきた。
遼ちゃん。ねえ遼ちゃん。〝大好き〟は変わんないの。でもね、今までの大好きとは違うみたいだよ。
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